2 / 9
愛されない貴妃の、想定外の後宮譚
第二話
しおりを挟む
「呪いですと……? 陛下が、何者かに呪われているということですか?」
「そうでございます。太医にも薬師にも勿論診て頂きました。が、陛下のご様子を診るに、これは何者かが陛下にかけた呪いに間違いないとのことでございます……!」
何ということでしょうか。
陛下がここ数日臥せって房から外に出られなくなった原因が、何者かの呪いだと言うのですか。
陛下が帝位に就くまでの間、確かにこの国は荒れました。
前の皇帝の崩御の後、皇太子とその兄弟たちの後継争いは、血で血を洗う激しいものでございました。
相討ちとなってしまった兄弟たちをすり抜けて、私の幼馴染である劉嘉逸に、突然のように皇帝の座が舞い込んできたのが三年前。
それをいまだに何者かが恨み、呪っているというのでしょうか。
後宮に数多いるの妃の中の一人に過ぎない私が陛下のお役に立てるとは、勿論思っておりません。しかし、幼少の頃より多くの時間を共に過ごした皇帝陛下が呪われているとあっては、知らぬふりはできないのでございます。
「陛下の元に参ります。他の者は、私が呼ぶまで誰も房に入って来ぬように」
「はい、承知いたしました!」
◇
陛下の休んでいるであろう房の戸を静かに開き、私はそうっと中に入りました。
陛下のために国内外から美姫ばかりが集められた後宮。一体何人の妃がこの敷居を跨いだのだろうかと思うと、私の胸は締め付けられ、頭の先まで悲しみが巡ります。
幼き頃の初恋の君。
まさか貴方が帝位に就くなど、想像だにしなかったあの懐かしき日々。
突然手の届かないところに行ってしまった幼馴染の寝顔を、私は静かに、息を殺して眺めます。
(嘉逸……。こんなにやつれて……)
眉間に深い皺を寄せた幼馴染の顔は青白く、頬はこけ、即位したあの日の凛々しい姿の面影は消え去っていました。
誰が陛下に呪いをかけたのか、恨めしい気持ちと腹立たしい気持ちとで私の心は張り裂けんばかり。震える手で、陛下の顔にかかった髪をそっと耳にかけます。
「陛下。貴方は一体、どのような呪いをかけられたのでしょうか」
「…………そなた、春麗か」
目を閉じたまま、額に汗を浮かべた陛下が、私の名を呼びます。春麗とは、また懐かしい呼び名で読んで下さったものです。後宮に入った三年前より、誰しもが私のことを曹貴妃と呼ぶにも関わらず。
「陛下、お目覚めでしょうか。春麗にございます。陛下が私と顔を合わせたくなかったことは存じ上げておりますが、陛下のお体を心配するがあまり、無理を言ってここまで入らせて頂きました。他にも寵姫は数多おられましょうに、申し訳ございません」
「寵姫など、おらぬ。何を言っているのか」
顔の側に置いた私の手を取り、陛下は上半身をもたげます。苦しそうな表情に胸が痛み、私も体を起こすのを手伝いました。
「陛下が何者かに呪いをかけられていると聞きました」
「……そうだ。だからそなたに会いたくなかったのだ」
「私に会いたくないという気持ちは分かります。ですが、陛下はこの国を統べる御方。後宮に住まう妃の一人として、この状況を看過することはできません。私で何かお役に立てることがあれば、お申し付け下さいませ」
寝台の上に体を起こした陛下は私の手を放そうとはなさらず、じっとこちらを見つめています。こんな近くで嘉逸のお顔を見たのは、いつぶりでしょうか。
「私にかけられた呪いは……」
「呪いは?」
「……頭で考えていることが、全て言葉に出てしまうという呪いなのだ」
「そうでございます。太医にも薬師にも勿論診て頂きました。が、陛下のご様子を診るに、これは何者かが陛下にかけた呪いに間違いないとのことでございます……!」
何ということでしょうか。
陛下がここ数日臥せって房から外に出られなくなった原因が、何者かの呪いだと言うのですか。
陛下が帝位に就くまでの間、確かにこの国は荒れました。
前の皇帝の崩御の後、皇太子とその兄弟たちの後継争いは、血で血を洗う激しいものでございました。
相討ちとなってしまった兄弟たちをすり抜けて、私の幼馴染である劉嘉逸に、突然のように皇帝の座が舞い込んできたのが三年前。
それをいまだに何者かが恨み、呪っているというのでしょうか。
後宮に数多いるの妃の中の一人に過ぎない私が陛下のお役に立てるとは、勿論思っておりません。しかし、幼少の頃より多くの時間を共に過ごした皇帝陛下が呪われているとあっては、知らぬふりはできないのでございます。
「陛下の元に参ります。他の者は、私が呼ぶまで誰も房に入って来ぬように」
「はい、承知いたしました!」
◇
陛下の休んでいるであろう房の戸を静かに開き、私はそうっと中に入りました。
陛下のために国内外から美姫ばかりが集められた後宮。一体何人の妃がこの敷居を跨いだのだろうかと思うと、私の胸は締め付けられ、頭の先まで悲しみが巡ります。
幼き頃の初恋の君。
まさか貴方が帝位に就くなど、想像だにしなかったあの懐かしき日々。
突然手の届かないところに行ってしまった幼馴染の寝顔を、私は静かに、息を殺して眺めます。
(嘉逸……。こんなにやつれて……)
眉間に深い皺を寄せた幼馴染の顔は青白く、頬はこけ、即位したあの日の凛々しい姿の面影は消え去っていました。
誰が陛下に呪いをかけたのか、恨めしい気持ちと腹立たしい気持ちとで私の心は張り裂けんばかり。震える手で、陛下の顔にかかった髪をそっと耳にかけます。
「陛下。貴方は一体、どのような呪いをかけられたのでしょうか」
「…………そなた、春麗か」
目を閉じたまま、額に汗を浮かべた陛下が、私の名を呼びます。春麗とは、また懐かしい呼び名で読んで下さったものです。後宮に入った三年前より、誰しもが私のことを曹貴妃と呼ぶにも関わらず。
「陛下、お目覚めでしょうか。春麗にございます。陛下が私と顔を合わせたくなかったことは存じ上げておりますが、陛下のお体を心配するがあまり、無理を言ってここまで入らせて頂きました。他にも寵姫は数多おられましょうに、申し訳ございません」
「寵姫など、おらぬ。何を言っているのか」
顔の側に置いた私の手を取り、陛下は上半身をもたげます。苦しそうな表情に胸が痛み、私も体を起こすのを手伝いました。
「陛下が何者かに呪いをかけられていると聞きました」
「……そうだ。だからそなたに会いたくなかったのだ」
「私に会いたくないという気持ちは分かります。ですが、陛下はこの国を統べる御方。後宮に住まう妃の一人として、この状況を看過することはできません。私で何かお役に立てることがあれば、お申し付け下さいませ」
寝台の上に体を起こした陛下は私の手を放そうとはなさらず、じっとこちらを見つめています。こんな近くで嘉逸のお顔を見たのは、いつぶりでしょうか。
「私にかけられた呪いは……」
「呪いは?」
「……頭で考えていることが、全て言葉に出てしまうという呪いなのだ」
0
あなたにおすすめの小説
ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…
ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。
一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。
そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。
読んでいただけると嬉しいです。
で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?
Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。
簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。
一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。
ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。
そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。
オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。
オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。
「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」
「はい?」
ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。
*--*--*
覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾
★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。
★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓
このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。
第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」
第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」
第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」
どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ
もしよかったら宜しくお願いしますね!
妖狐の嫁入り
山田あとり
恋愛
「――おまえを祓うなどできない。あきらめて、俺と生きてくれ」
稲荷神社の娘・遥香(はるか)は、妖狐の血をひくために狐憑きとさげすまれ、ひっそり生きてきた。
ある日、村八分となっている遥香を探して来たのは怨霊や魔物を祓う軍人・彰良(あきら)。
彼は陰陽師の名門・芳川家の男だった。
帝国陸軍で共に任務にあたることになった二人だったが、実は彰良にもある秘密が――。
自己評価は低いが芯に強さを秘める女が、理解者を得て才能を開花させる!
&
苦しみを抱え屈折した男が、真っ直ぐな優しさに触れ愛を知る!
明治中期風の横浜と帝都を駆ける、あやかし異能ロマンス譚です。
可愛い妖怪・豆腐小僧も戦うよ!
※この作品は、カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
花も実も
白井はやて
恋愛
町で道場を営む武家の三男朝陽には最近、会うと心が暖かくなり癒される女性がいる。
跡取り問題で自宅に滞在したくない彼は癒しの彼女に会いたくて、彼女が家族と営む団子屋へ彼は足しげく熱心に通っているのだが、男と接客している様子を見ると謎の苛立ちを抱えていた。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
王太子は妃に二度逃げられる
たまこ
恋愛
デリンラード国の王太子アーネストは、幼い頃から非常に優秀で偉大な国王になることを期待されていた。
初恋を拗らせ、七年も相手に執着していたアーネストが漸く初恋に蹴りを付けたところで……。
恋愛方面にはポンコツな王太子とそんな彼をずっと支えていた公爵令嬢がすれ違っていくお話。
※『拗らせ王子と意地悪な婚約者』『先に求めたのは、』に出てくるアーネストのお話ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。
雨降る夜道……
Masa&G
恋愛
雨の夜、同じバス停で白いレインコートの女性が毎晩、誰かを待っている。
帰ってこないと分かっていても、
それでも待つ理由がある――
想いが叶うとき――
奇跡が起きる――
円満離婚に持ち込むはずが。~『冷酷皇帝の最愛妃』
みこと。
恋愛
「あなたと子を作るつもりはない」
皇帝シュテファンに嫁いだエリザは、初夜に夫から宣言されて首をかしげる。
(これは"愛することのない"の亜種?)
前世を思い出したばかりの彼女は、ここが小説『冷酷皇帝の最愛妃』の中だと気づき、冷静に状況を分析していた。
エリザの役どころは、公爵家が皇帝に押し付けた花嫁で、彼の恋路の邪魔をするモブ皇妃。小説のシュテファンは、最終的には運命の恋人アンネと結ばれる。
それは確かに、子どもが出来たら困るだろう。
速やかな"円満離婚"を前提にシュテファンと契約を結んだエリザだったが、とあるキッカケで彼の子を身ごもることになってしまい──?
シュテファンとの契約違反におののき、思わず逃走したエリザに「やっと見つけた」と追いすがる夫。
どうやら彼はエリザ一筋だったらしく。あれ? あなたの恋人アンネはどうしたの?
※小説家になろう様でも掲載しています
※表紙イラスト:あさぎかな先生にコラージュアートをいただきました
※毎朝7時に更新していく予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる