【短編集・中華後宮】愛されない貴妃の、想定外の後宮譚 ほか

秦朱音|はたあかね

文字の大きさ
6 / 9
梅折りかざし、君を恋ふ 〜後宮の妃は皇子に叶わぬ恋をする〜

第二話

しおりを挟む
 翌年の春。
 琳伽りんかは十六歳、逞峻ていしゅんは十歳。
 その年も逞峻ていしゅんは梅の花には背が届かず、嫌がる逞峻ていしゅん琳伽りんかが抱きかかえ、梅の花のついた枝を折る羽目になった。


 更に翌年。
 琳伽りんかは十七歳、逞峻ていしゅんは十一歳。
 梅の花に手が届くか届かないかという瀬戸際であったが、結局逞峻ていしゅんは自分で梅の枝を折ることはできなかった。
 琳伽りんか逞峻ていしゅんを抱き上げようと伸ばした手を見て見ぬふりをして、「来年は必ず自分で折るから、今年は琳伽りんかが自分で折りなさい」と言い、拗ねて殿舎へ引っ込んでしまった。


 琳伽りんか十八歳、逞峻ていしゅん十二歳。
 ようや逞峻ていしゅんは自分で梅の花に手が届くようになり、折った梅を琳伽りんかに渡し、照れくさそうにその場を去った。


 そしてその翌年。
 琳伽りんかは十九歳、逞峻ていしゅん十三歳。
逞峻ていしゅん様、いつの間にか私の背丈を超えましたね」
「……男とはそういうものだ。琳伽りんか、梅の花はすぐにしおれてしまうから、次は梅の花をかたどった本物のかんざしを贈ろう」


 十三歳の少年の言葉に、琳伽りんかはしばし息を飲む。


 簪を贈るという行為には、「自分の伴侶になって欲しい」という意味がある。
 逞峻ていしゅんがその意味を知った上で、簪を贈ると言っているのかどうかは分からない。
 しかしいずれにしても、皇帝の妃である自分が皇子である逞峻ていしゅんから簪を贈られることを是とすることはできない。


 これまでだって梅の枝を簪に見立て、毎年のように逞峻ていしゅんから贈られていたと言うのに。
 いざ本物の簪を贈ると言った逞峻ていしゅんの言葉に、琳伽りんかは心乱されるのであった。



 琳伽りんかは二十歳になった。
 逞峻ていしゅんは、十四歳となったはずだ。

 この年は皇帝に四番目の皇子が誕生した祝いとして、梅見の宴が催された。
 皇帝と皇后が座る横には、久しぶりに見る逞峻ていしゅんの姿。
 上の二人の皇子が早世し、逞峻ていしゅんは皇太子となっていた。当たり前のようにいつも傍にいた逞峻ていしゅんは東宮へと移り、この半年は一度も顔を合わせていない。

 皇帝、皇后、そして逞峻ていしゅん
 その三人の左右には、美しい装いに身を包んだ四夫人に、皇帝の寵を得た妃たちが並ぶ。

 琳伽りんかのような下っ端の妃嬪は、余興として舞を披露することになっている。雅楽に合わせて薄絹の被帛ひはくを揺らめかせながら、琳伽りんかは舞の振りに合わせて逞峻ていしゅんへ視線を送った。

 この半年で随分と精悍な顔立ちに変わった。
 上敷うわじきをかけた長几ながづくえに隠れて全身は見えないが、琳伽りんかを少し越す程度だった背は、きっと随分と伸びていることだろう。


『次は梅の花をかたどった本物のかんざしを贈ろう』


 昨春の逞峻ていしゅんの言葉に心乱され、次の春が来るのが怖いような待ち遠しいような複雑な気持ちで迎えた夏の終わり、突然訪れた二人の別れ。
 仮にも皇帝の妃という立場で、逞峻ていしゅんの言葉をどう受け止めれば良いのか。そんな気持ちも、今となっては杞憂に過ぎない。

 皇帝の後宮妃と、皇子。
 六つの歳の差。

 色んな障壁を口実にして、琳伽りんかは自分の気持ちから目を逸らしていた。
 もし自分が皇帝の後宮妃でなければ。
 もう少し歳が近ければ。

 逞峻ていしゅんが簪を贈ろうと言った申し出を、素直に受け止めることができたのに。


(せめて皇太子となられた言祝ぎの代わりとして……)


 琳伽りんか逞峻ていしゅんに向かって、叶わぬ想いを込めて精一杯舞った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?

Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。 簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。 一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。 ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。 そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。 オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。 オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。 「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」 「はい?」 ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。 *--*--* 覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾ ★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。 ★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓ このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。 第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」 第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」 どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ もしよかったら宜しくお願いしますね!

妖狐の嫁入り

山田あとり
恋愛
「――おまえを祓うなどできない。あきらめて、俺と生きてくれ」 稲荷神社の娘・遥香(はるか)は、妖狐の血をひくために狐憑きとさげすまれ、ひっそり生きてきた。 ある日、村八分となっている遥香を探して来たのは怨霊や魔物を祓う軍人・彰良(あきら)。 彼は陰陽師の名門・芳川家の男だった。 帝国陸軍で共に任務にあたることになった二人だったが、実は彰良にもある秘密が――。 自己評価は低いが芯に強さを秘める女が、理解者を得て才能を開花させる!   & 苦しみを抱え屈折した男が、真っ直ぐな優しさに触れ愛を知る! 明治中期風の横浜と帝都を駆ける、あやかし異能ロマンス譚です。 可愛い妖怪・豆腐小僧も戦うよ! ※この作品は、カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

花も実も

白井はやて
恋愛
町で道場を営む武家の三男朝陽には最近、会うと心が暖かくなり癒される女性がいる。 跡取り問題で自宅に滞在したくない彼は癒しの彼女に会いたくて、彼女が家族と営む団子屋へ彼は足しげく熱心に通っているのだが、男と接客している様子を見ると謎の苛立ちを抱えていた。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

王太子は妃に二度逃げられる

たまこ
恋愛
 デリンラード国の王太子アーネストは、幼い頃から非常に優秀で偉大な国王になることを期待されていた。 初恋を拗らせ、七年も相手に執着していたアーネストが漸く初恋に蹴りを付けたところで……。 恋愛方面にはポンコツな王太子とそんな彼をずっと支えていた公爵令嬢がすれ違っていくお話。 ※『拗らせ王子と意地悪な婚約者』『先に求めたのは、』に出てくるアーネストのお話ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。

雨降る夜道……

Masa&G
恋愛
雨の夜、同じバス停で白いレインコートの女性が毎晩、誰かを待っている。 帰ってこないと分かっていても、 それでも待つ理由がある―― 想いが叶うとき―― 奇跡が起きる――

円満離婚に持ち込むはずが。~『冷酷皇帝の最愛妃』

みこと。
恋愛
「あなたと子を作るつもりはない」 皇帝シュテファンに嫁いだエリザは、初夜に夫から宣言されて首をかしげる。 (これは"愛することのない"の亜種?) 前世を思い出したばかりの彼女は、ここが小説『冷酷皇帝の最愛妃』の中だと気づき、冷静に状況を分析していた。 エリザの役どころは、公爵家が皇帝に押し付けた花嫁で、彼の恋路の邪魔をするモブ皇妃。小説のシュテファンは、最終的には運命の恋人アンネと結ばれる。 それは確かに、子どもが出来たら困るだろう。 速やかな"円満離婚"を前提にシュテファンと契約を結んだエリザだったが、とあるキッカケで彼の子を身ごもることになってしまい──? シュテファンとの契約違反におののき、思わず逃走したエリザに「やっと見つけた」と追いすがる夫。 どうやら彼はエリザ一筋だったらしく。あれ? あなたの恋人アンネはどうしたの? ※小説家になろう様でも掲載しています ※表紙イラスト:あさぎかな先生にコラージュアートをいただきました ※毎朝7時に更新していく予定です

処理中です...