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梅折りかざし、君を恋ふ 〜後宮の妃は皇子に叶わぬ恋をする〜
第二話
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翌年の春。
琳伽は十六歳、逞峻は十歳。
その年も逞峻は梅の花には背が届かず、嫌がる逞峻を琳伽が抱きかかえ、梅の花のついた枝を折る羽目になった。
更に翌年。
琳伽は十七歳、逞峻は十一歳。
梅の花に手が届くか届かないかという瀬戸際であったが、結局逞峻は自分で梅の枝を折ることはできなかった。
琳伽が逞峻を抱き上げようと伸ばした手を見て見ぬふりをして、「来年は必ず自分で折るから、今年は琳伽が自分で折りなさい」と言い、拗ねて殿舎へ引っ込んでしまった。
琳伽十八歳、逞峻十二歳。
漸く逞峻は自分で梅の花に手が届くようになり、折った梅を琳伽に渡し、照れくさそうにその場を去った。
そしてその翌年。
琳伽は十九歳、逞峻十三歳。
「逞峻様、いつの間にか私の背丈を超えましたね」
「……男とはそういうものだ。琳伽、梅の花はすぐにしおれてしまうから、次は梅の花を模った本物の簪を贈ろう」
十三歳の少年の言葉に、琳伽はしばし息を飲む。
簪を贈るという行為には、「自分の伴侶になって欲しい」という意味がある。
逞峻がその意味を知った上で、簪を贈ると言っているのかどうかは分からない。
しかしいずれにしても、皇帝の妃である自分が皇子である逞峻から簪を贈られることを是とすることはできない。
これまでだって梅の枝を簪に見立て、毎年のように逞峻から贈られていたと言うのに。
いざ本物の簪を贈ると言った逞峻の言葉に、琳伽は心乱されるのであった。
◇
琳伽は二十歳になった。
逞峻は、十四歳となったはずだ。
この年は皇帝に四番目の皇子が誕生した祝いとして、梅見の宴が催された。
皇帝と皇后が座る横には、久しぶりに見る逞峻の姿。
上の二人の皇子が早世し、逞峻は皇太子となっていた。当たり前のようにいつも傍にいた逞峻は東宮へと移り、この半年は一度も顔を合わせていない。
皇帝、皇后、そして逞峻。
その三人の左右には、美しい装いに身を包んだ四夫人に、皇帝の寵を得た妃たちが並ぶ。
琳伽のような下っ端の妃嬪は、余興として舞を披露することになっている。雅楽に合わせて薄絹の被帛を揺らめかせながら、琳伽は舞の振りに合わせて逞峻へ視線を送った。
この半年で随分と精悍な顔立ちに変わった。
上敷をかけた長几に隠れて全身は見えないが、琳伽を少し越す程度だった背は、きっと随分と伸びていることだろう。
『次は梅の花を模った本物の簪を贈ろう』
昨春の逞峻の言葉に心乱され、次の春が来るのが怖いような待ち遠しいような複雑な気持ちで迎えた夏の終わり、突然訪れた二人の別れ。
仮にも皇帝の妃という立場で、逞峻の言葉をどう受け止めれば良いのか。そんな気持ちも、今となっては杞憂に過ぎない。
皇帝の後宮妃と、皇子。
六つの歳の差。
色んな障壁を口実にして、琳伽は自分の気持ちから目を逸らしていた。
もし自分が皇帝の後宮妃でなければ。
もう少し歳が近ければ。
逞峻が簪を贈ろうと言った申し出を、素直に受け止めることができたのに。
(せめて皇太子となられた言祝ぎの代わりとして……)
琳伽は逞峻に向かって、叶わぬ想いを込めて精一杯舞った。
琳伽は十六歳、逞峻は十歳。
その年も逞峻は梅の花には背が届かず、嫌がる逞峻を琳伽が抱きかかえ、梅の花のついた枝を折る羽目になった。
更に翌年。
琳伽は十七歳、逞峻は十一歳。
梅の花に手が届くか届かないかという瀬戸際であったが、結局逞峻は自分で梅の枝を折ることはできなかった。
琳伽が逞峻を抱き上げようと伸ばした手を見て見ぬふりをして、「来年は必ず自分で折るから、今年は琳伽が自分で折りなさい」と言い、拗ねて殿舎へ引っ込んでしまった。
琳伽十八歳、逞峻十二歳。
漸く逞峻は自分で梅の花に手が届くようになり、折った梅を琳伽に渡し、照れくさそうにその場を去った。
そしてその翌年。
琳伽は十九歳、逞峻十三歳。
「逞峻様、いつの間にか私の背丈を超えましたね」
「……男とはそういうものだ。琳伽、梅の花はすぐにしおれてしまうから、次は梅の花を模った本物の簪を贈ろう」
十三歳の少年の言葉に、琳伽はしばし息を飲む。
簪を贈るという行為には、「自分の伴侶になって欲しい」という意味がある。
逞峻がその意味を知った上で、簪を贈ると言っているのかどうかは分からない。
しかしいずれにしても、皇帝の妃である自分が皇子である逞峻から簪を贈られることを是とすることはできない。
これまでだって梅の枝を簪に見立て、毎年のように逞峻から贈られていたと言うのに。
いざ本物の簪を贈ると言った逞峻の言葉に、琳伽は心乱されるのであった。
◇
琳伽は二十歳になった。
逞峻は、十四歳となったはずだ。
この年は皇帝に四番目の皇子が誕生した祝いとして、梅見の宴が催された。
皇帝と皇后が座る横には、久しぶりに見る逞峻の姿。
上の二人の皇子が早世し、逞峻は皇太子となっていた。当たり前のようにいつも傍にいた逞峻は東宮へと移り、この半年は一度も顔を合わせていない。
皇帝、皇后、そして逞峻。
その三人の左右には、美しい装いに身を包んだ四夫人に、皇帝の寵を得た妃たちが並ぶ。
琳伽のような下っ端の妃嬪は、余興として舞を披露することになっている。雅楽に合わせて薄絹の被帛を揺らめかせながら、琳伽は舞の振りに合わせて逞峻へ視線を送った。
この半年で随分と精悍な顔立ちに変わった。
上敷をかけた長几に隠れて全身は見えないが、琳伽を少し越す程度だった背は、きっと随分と伸びていることだろう。
『次は梅の花を模った本物の簪を贈ろう』
昨春の逞峻の言葉に心乱され、次の春が来るのが怖いような待ち遠しいような複雑な気持ちで迎えた夏の終わり、突然訪れた二人の別れ。
仮にも皇帝の妃という立場で、逞峻の言葉をどう受け止めれば良いのか。そんな気持ちも、今となっては杞憂に過ぎない。
皇帝の後宮妃と、皇子。
六つの歳の差。
色んな障壁を口実にして、琳伽は自分の気持ちから目を逸らしていた。
もし自分が皇帝の後宮妃でなければ。
もう少し歳が近ければ。
逞峻が簪を贈ろうと言った申し出を、素直に受け止めることができたのに。
(せめて皇太子となられた言祝ぎの代わりとして……)
琳伽は逞峻に向かって、叶わぬ想いを込めて精一杯舞った。
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