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11 感謝祭
しおりを挟むようやく一カ月の謹慎が解けたが、ジオーネルは部屋の外に行く気がしなかった。
食事もなるべく他の人間に合わない様に時間をずらすかジェセーゼ兄上と共にした。
感謝祭が近付き金の蝶がヒラヒラと鼻に止まった。
あまり行く気にはなれなかったが、金の精霊王の呼び出し時は他の人間に会う事がない。
誰にも合わないなら構わないかと外に出た。
精霊殿の裏から入り、招霊門の部屋の扉を開く。
いつもは誰もいない広間には、金の髪を地から階段に金の波の様に垂らす金の精霊王がいた。
今日はテーブルに椅子ではなく、大きなクッションにもたれ掛かり、寝そべっている。
どんな格好をしていても人外の美しい王だ。
「久しぶりじゃなぁ。人とはやはり悪意あってのものなのか。悪意に触れれば半精霊は引きずられるのか。」
精霊王は全てを見通している。
知らぬ事など無いのかも知れない。
呼び出しはいつも金の精霊王で他の精霊王には滅多にお目に掛かれないが、他の精霊王もこんななのだろうか。
「人の悪意とは翼の事でしょうか。半精霊とは天霊花綾の住人に協力者がいると判断して宜しいのでしょうか?」
「我が全てを知っていると理解していても、其方は何も聞かんので、ほんの少し話してやろう。黒の巫女はここに呼べばいろんな事を聞いていくぞ?」
翼が呼ばれている可能性はあると思っていたが、まさか金の精霊王に対して普通人に対する様に喋り掛けているのか。
「其方の正体については話しておらん。約束したからな。」
「有難うございます。」
「ふむ、いつもの様に歌を。」
久しぶりの召喚だ。
頭を下げ敬意を表す。
手を胸の前で組み、今日も愛の歌を捧げる。
歌は心。
貴方に愛を。
貴方に感謝を。
兄に親愛を。
精霊王に敬意を。
精霊達に慈愛を。
深い森が現れ光のカーテンが射している。精霊達は樹に寄りかかりジオーネルの歌を聴き入った。
私を信じて下さい。
この世界が好きなんです。
私をはじき飛ばさないで。
「相変わらずの素晴らしさじゃが、必死さが窺えるのぉ~。」
「誰のせいですかっ。」
おっと思わず本音が。
金の精霊王は面白そうに笑った。
精霊は楽しい事が好き。
それは精霊王もだった。
「銀の精霊王を復活させる為じゃったが、思わぬ余興になっておる。」
精霊は楽しければ人の心は二の次三の次。
招霊門の向こうへ戻されるかも知れない自分にとっては人生を左右する事案なのに、金の精霊王にとったは石が転がる程度の些末時なのだろう。
「感謝祭は銀玲が歌え。」
えっ!?
これは多分最後に披露する者の事だろう。
創世祭と同じ様に精霊力順にやるのは分かる。
でもゲームでは黒の巫女が最後のトリを務めるのだ。
感謝祭はゲームの中盤。
中盤で黒の巫女の精霊力はかなり上がっていて、ジオーネルの嫉妬は深まる。
銀玲でいいのだろうか……?
いや、ゲームを覆し翼に帰ってもらう為には必要な事かも知れない。
「謹んでお受け致します。」
ここ一ヶ月碌な修練が積めなかったので黒の巫女がトリなると思っていたが、金の精霊王には実力が認められているのだろうと思うと嬉しかった。
明日は感謝祭という日、金の泰子に会う事が出来た。
落ちた体力を戻したくて外の鍛錬場で体力作りに励んでいた帰りだ。
陽は落ちかけ、風がひんやりとする。
なるべく翼や泰子達に会いたくなくて、人を避ける様に過ごしていた。
金の泰子には誤解を解きたい。
そうは思っても以前の様に直接ぶち当たる勇気も出ない。
弓弦の記憶は思慮深さを増してくれたが、臆病な心も付け加えてきた。
「明日は貴様も出るのだな?」
本日名簿が配られた。
白の巫女が三十名と黒の巫女が一名。
ジオーネルが誰かは分からなくとも、人数で分かったのだろう。
伏目がちで頷くジオーネルへ、金の泰子は明日の感謝祭での行動を警告しにきた。
「白家と緑家が動いたからこの程度の処罰で済んだが、次はないぞ。」
金の泰子は霊薬紫の腐花を盛ったのは私だと信じている。
そうだろうとは思っていても、現実に突きつけられると悲しかった。
「…………霊薬を入れたのは私ではありません。」
信じて欲しい。
気持ちを込めて見つめる。
金の泰子も見つめ返してくれるが、眼差しで心を語るなど、難しい事だと思い知らされる。
睨みつける強い眼差しに悲しさが増すだけだった。
「他の巫女達に迷惑をかけたと思わないのか?銀玲の回復も長くかかった。黒の巫女にしてもそうだが、なくてはならない重要な巫女を欠席させるつもりだったのか?」
銀玲は自分だ。
そう言いたくても、銀玲が誰なのかは制約で言葉に出来ない。
金の泰子が今言った様に、何気ない会話には言えるのに、身元を晒す発言は全て消されてしまう。
上手く言葉を変えて言おうとしても、その意思が有るだけで取り消される。
なんとも不思議な精霊王の力だった。
その昔、銀の眼を持つ巫女ばかりを娶った銀泰家に反発した銀の泰子が、態と平民の殆ど精霊力の無い灰色人と番った。
銀の髪も銀の瞳も失われて、途絶えてしまった銀泰家。
怒った銀の精霊王は銀泰家の者達を全て招霊門から落とした。
敬う家を失った銀の精霊王は今は愁寧湖に眠る。
それを憂えた金の精霊王は白の巫女の目の色を隠して、泰子は白の巫女としか番えない様にした。
同色の方が強い精霊力を持つが、色が少し混ざってもちゃんとその家の色を継いで産まれてくるからだ。
だから番う時しか眼の色は明かせない。眼の色を知るという事は伴侶となる事。
緑の泰子がジェセーゼ兄上の眼の色を確認したのは、アレは娶る前提でやったんだろう。
完全に手に入れる為にやったのだ。
怖い。怖すぎる。
金の泰子が自分に手を出すことは無い。
こんなに睨まれているのに、選んでもらえるとは思えなかった。
青の泰子も赤の泰子も今や翼の取り巻き化している。
泰子は全部全滅だ。
しょぼしょぼと俯くジオーネルへ金の泰子は更に追い討ちを掛けてくる。
「翼に未だに招霊門へ帰るよう言っているそうだな。」
一度も言ったことはない。
ああ、大学でもこうやって有る事無い事言われていたのだろうか。
「次に何かやらかせば、落とされるのはジオーネル、貴様だ。」
強く言い放たれた言葉に、返事を返す事も出来なかった。
感謝祭は街中の一番大きい広場で行われる。
巨大な櫓を組んで、その上で歌ったり踊ったりして日頃の平安を精霊達に感謝して披露する。
天霊花綾の住人達も大勢集まり、櫓の正面に詰めかけて精霊達と一緒に楽しむのだ。
あちこちに巻かれた薄布が風にふわふわと揺れ、緑の泰子が緑家の威信に掛けて飾られた花や樹が風光明媚さを際立たせていた。
白の巫女は皆一様に白巫女装束で顔を隠す。翼だけは同じ服を着ていても黒髪のせいでバレていた。一人だけ黒髪が透けるのだ。
その翼は今巨大な櫓の上で、銀玲の前座のように歌を歌っていた。
ゲームではジオーネルがその立場だった。
剣舞を怒りに任せて踊ると精霊達が騒ぎ出し、金の炎が櫓を飾る薄布を燃やす。黒の巫女は己の歌舞音曲とメイン攻略対象者と一緒にその火を消すのだ。
金の泰子なら手を取り合い見つめ合って歌う。幸せな歌は金の炎を弱め、弾けて光の粒子となって辺りを照らすのだ。
金チケットだとその後の夜という別シナリオが開く。
上手くいくと際どいとこまで服を脱いで絡み合っているとか?
そーいえば黒の巫女は課金コースとは言え、キスしたり際どいとこまでしたりしてるのに、ジェセーゼ兄上の様に番一直線にはならないのだなと不思議に思う。
白の巫女じゃないから?眼の色変わらないから?
なんとも黒の巫女とはあやふやな存在だ。
翼の歌は現代の向こうの歌だ。
伸びやかに響く聴きなれない歌に精霊達は大はしゃぎしている。
輝く花びらが櫓の周りを周り、見に来ている人々の手に乗って消えていく。
攻略を進めつつ精霊力も上げてきたのだろう。
そーいうとこは凄いが、敵にしたくなかった。
歌い終わり翼が戻るのを確認してから階段を目指す。
シャラシャラと長いベールの裾が流れて音を立てる。
いつも思うけど、登場する時一気に静まり返るのが緊張する。
今まで騒ついていたのに、銀玲が歩き出すと皆静まり返る。
階段の前には泰子達が立っている。
金の泰子が手を差し出すのはいつもの通り。
白手袋を着けた手をそっと添えると、握り返して階段の上へ導いてくれる。
いつもの通り。
昨日、招霊門から落ちるのはお前だと言われたのが嘘のように優しい手。
当たり前だ。
今は銀玲なのだから。
昨日警告した人間と、今から歌う人間が同じだと金の泰子は知らない。
そっと名残惜しそうに手を離された。
帰りにも自分の手を引いて降りてくれるだろう。
感謝祭だけ精霊殿の外で歌う事ができる。
もうこれで三度目だ。
初めて歌った時、金の泰子は『綺麗な歌声だ。』と言ってくれた。
このベールを取って顔を晒しても言ってくれるだろうか………。
手を胸の前で組み、銀玲は息を吸った。
空に鳥の大群が現れた。素晴らしい速さで旋回し櫓の前の僅かな地面へと飛び込んでいく。音もなく吸い込まれ、飛び込む鳥の数だけ泡立ち波が上がり、光の水面が登っていく。
人々を飲み込み銀玲を通り越し、空へと上がり、あっという間に水底へと姿を変える。
巨大な海魚が悠然と泳ぎ、銀色の小魚の群れが渦を描いて踊り出す。
空には揺れる光の太陽。
現れては消える魚の影に、人々は息を詰めて見入っていた。
声が遠くまで運ばれる。
精霊達が銀玲の思いを届ける為に、力の及ぶ限り歌と幻視を運んでいく。
金の泰子は頬を染めて銀玲の後ろ姿を見つめていた。
とても美しく、とても悲しい歌。
いつもの愛の歌なのに、無音で泳ぐ海魚から寂しさが漂っていた。
ただ銀玲の歌だけが響く空間に、悲しさを感じるのは自分だけだろうか。
銀玲も霊薬で苦しんだはずだ。
まだ体調が思わしくないのかもしれない……。
ジオーネルにもう少しキツく言っておくべきだったと眉根を寄せた。
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