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出国編
ウィル視点 二人の演技と一人の兵士
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「姉様。ちょっとストップ」
後ろに続いてる姉様にストップをかけて、辺りを見回す。計画通り隠れ家を出た後、転移を繰り返して、ようやく国境近くの森まで辿り着いた。
しかし、嫌な予想は当たってしまったようだ。強い魔力を感じる——魔力検知網が張られている。姉様は魔力がないし、僕も常時放出分は抑える訓練をしているから、これで見つかることはないとはいえ、ここからは転移魔法を使えなさそうだった。
「魔力検知されてるみたいだ。ここからは徒歩だけど……」
大丈夫?と聞くと、姉様は問題ないと答えてくれた。だけど、その表情は不安げだった。なぜ、魔力検知されるほど大事になっているのか、ということだろう。
姉様は知らない。僕があいつらを殺したことを。
隠れながら出国するのはどちらにせよ変わりなかった。なら、脅威となりうるあいつらを先に殺しておきたい。それに、あいつらに復讐したい……そう思って奴らを殺したのは僕の我が儘だ。
(それにしても、ここまで本気で来るとは)
高レベルな魔力検知網に、先ほどから視界に映る特殊な鎧を纏った兵士達——魔法と剣術双方に長け、かつ殺害任務などもこなす実力派揃いの精鋭部隊だ。
なるべく見つからないよう、姉様の手を引きながらゆっくり歩く。大丈夫、変装はしてあるし、万が一見つかったときの演技も考えてある。
最悪の場合は戦闘も考えてるけど……それは最終手段だ。
なるべく見つからないように、でも万が一見つかっても、怪しくない自然さで。二人で黙って、少しずつ進む。
多くの兵が見回ってる地帯を越え、そろそろ国境を越えられる……と思った時だった。
「誰だ」
声がした。明らかに、こちらに向かって訊いている声だ。姉様と繋いでいる手から、姉様が手にぎゅっと力を込めたのが分かった。
僕は努めて笑顔を作り、声がした方を振り向く。
思った通り、そこにはあの精鋭部隊の兵士が立っていた。——たった一人で。
(一人……? さっきまで見かけてた奴らはペアかトリオ以上で行動してたはずだけど)
不審に思いながらも、考えてた演技を滞りなく演じる。
「えっと……僕たちのことですか?」
「そうだ」
まだ二十代前半だろうか、年若そうなその兵士が頷く。まだ大丈夫、か?経験が浅い兵士なら、騙し切れるかもしれない。
「私たち、行商をやっているんです。今はムスハイム王国へ行く途中で」
今の僕たちは行商人という設定。そのような服装を着ているし、一応鞄には商品ということでこの国の特産品を詰めてある。出国後、適切な場所で売れば路銀にもなるものだ。髪色だって、僕も姉様も平民に多い茶に染めている。
流石に十数年の貴族生活で培った所作や身なりの綺麗さを完全に隠すことはできない。しかし、ある程度の地位を有する商人と言えばまだ不自然ではないし、この辺鄙な森を通り抜けるのも一部のケチな商人が実際にやっていることだ。
「こちらの関所は、森が迷いやすく危険で、近年はほとんど使われることのない場所と聞いていたんですが……僕はこういうところに来るのが好きで」
実際は関所は使わず、国境のギリギリまでいけた後は最大出力の魔法で逃げ切る予定だけど……。とりあえず関所は閉じられてない。別にいても文句ないだろ? そういう感じで繋げる。
「あぁ……まぁ、確かに、そういうこともあるかもなぁ……」
兵士はぼんやりと返事をする。これは、もう行ってもいいだろうか? しかし、相手が相手だし、一般の商人含む平民は貴族や兵士を過剰に恐れる傾向にある。あまり足早に去るのも問題か……?
「では、私たちはこれで。兵士様、見回りお疲れ様です」
姉様の手が若干震えているのが分かる。おそらく姉様も兵士の胸に付いている紋章の意味を知っているのだ。けれど、商人はそんなこと当然知らないだろうから、鎧だけ見て見回りの兵士だと思いましたよ、という振る舞い……。
姉様が一礼するのに合わせて礼をして、その場を去ろうとしたときだった。
「まぁ、お前らは違うけどな……」
「……!」
若くて、少し気の抜けてそうな兵士だと思っていたのに。急に強い殺気を放ち始めた兵士に、その判断は間違っていたと思い知らされた。
(こいつ、もしかして最初から気付いて……?!)
こんな立地の悪いところで、恐らくかなり強力な兵士を、姉様の前だから殺さず無力化……。かなりの難題が降って湧いた瞬間だった。
後ろに続いてる姉様にストップをかけて、辺りを見回す。計画通り隠れ家を出た後、転移を繰り返して、ようやく国境近くの森まで辿り着いた。
しかし、嫌な予想は当たってしまったようだ。強い魔力を感じる——魔力検知網が張られている。姉様は魔力がないし、僕も常時放出分は抑える訓練をしているから、これで見つかることはないとはいえ、ここからは転移魔法を使えなさそうだった。
「魔力検知されてるみたいだ。ここからは徒歩だけど……」
大丈夫?と聞くと、姉様は問題ないと答えてくれた。だけど、その表情は不安げだった。なぜ、魔力検知されるほど大事になっているのか、ということだろう。
姉様は知らない。僕があいつらを殺したことを。
隠れながら出国するのはどちらにせよ変わりなかった。なら、脅威となりうるあいつらを先に殺しておきたい。それに、あいつらに復讐したい……そう思って奴らを殺したのは僕の我が儘だ。
(それにしても、ここまで本気で来るとは)
高レベルな魔力検知網に、先ほどから視界に映る特殊な鎧を纏った兵士達——魔法と剣術双方に長け、かつ殺害任務などもこなす実力派揃いの精鋭部隊だ。
なるべく見つからないよう、姉様の手を引きながらゆっくり歩く。大丈夫、変装はしてあるし、万が一見つかったときの演技も考えてある。
最悪の場合は戦闘も考えてるけど……それは最終手段だ。
なるべく見つからないように、でも万が一見つかっても、怪しくない自然さで。二人で黙って、少しずつ進む。
多くの兵が見回ってる地帯を越え、そろそろ国境を越えられる……と思った時だった。
「誰だ」
声がした。明らかに、こちらに向かって訊いている声だ。姉様と繋いでいる手から、姉様が手にぎゅっと力を込めたのが分かった。
僕は努めて笑顔を作り、声がした方を振り向く。
思った通り、そこにはあの精鋭部隊の兵士が立っていた。——たった一人で。
(一人……? さっきまで見かけてた奴らはペアかトリオ以上で行動してたはずだけど)
不審に思いながらも、考えてた演技を滞りなく演じる。
「えっと……僕たちのことですか?」
「そうだ」
まだ二十代前半だろうか、年若そうなその兵士が頷く。まだ大丈夫、か?経験が浅い兵士なら、騙し切れるかもしれない。
「私たち、行商をやっているんです。今はムスハイム王国へ行く途中で」
今の僕たちは行商人という設定。そのような服装を着ているし、一応鞄には商品ということでこの国の特産品を詰めてある。出国後、適切な場所で売れば路銀にもなるものだ。髪色だって、僕も姉様も平民に多い茶に染めている。
流石に十数年の貴族生活で培った所作や身なりの綺麗さを完全に隠すことはできない。しかし、ある程度の地位を有する商人と言えばまだ不自然ではないし、この辺鄙な森を通り抜けるのも一部のケチな商人が実際にやっていることだ。
「こちらの関所は、森が迷いやすく危険で、近年はほとんど使われることのない場所と聞いていたんですが……僕はこういうところに来るのが好きで」
実際は関所は使わず、国境のギリギリまでいけた後は最大出力の魔法で逃げ切る予定だけど……。とりあえず関所は閉じられてない。別にいても文句ないだろ? そういう感じで繋げる。
「あぁ……まぁ、確かに、そういうこともあるかもなぁ……」
兵士はぼんやりと返事をする。これは、もう行ってもいいだろうか? しかし、相手が相手だし、一般の商人含む平民は貴族や兵士を過剰に恐れる傾向にある。あまり足早に去るのも問題か……?
「では、私たちはこれで。兵士様、見回りお疲れ様です」
姉様の手が若干震えているのが分かる。おそらく姉様も兵士の胸に付いている紋章の意味を知っているのだ。けれど、商人はそんなこと当然知らないだろうから、鎧だけ見て見回りの兵士だと思いましたよ、という振る舞い……。
姉様が一礼するのに合わせて礼をして、その場を去ろうとしたときだった。
「まぁ、お前らは違うけどな……」
「……!」
若くて、少し気の抜けてそうな兵士だと思っていたのに。急に強い殺気を放ち始めた兵士に、その判断は間違っていたと思い知らされた。
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