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出国編
決意と告白
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目を覚ました直後、視界に映ったのは、泣き腫らしたウィル。私が死にかけたときとそっくりだな、なんて呑気なことを考えていたら、ウィルは大きく目を見開いた。
「姉様……生きて……?」
まるで幽霊を見るかのように驚くウィル。私を治してくれたくせに……。とりあえず私は微笑んで、
「おはよう、ウィル」
普遍的な挨拶をした。視界の端に映る空の暗さを見るに、深夜なのだけど。
そのあと、驚きのあまり硬直するウィルの目の前に手をかざしたり、ほっぺたをぷにぷにしたり(昔よりぷにぷにしてなかった……)して、ウィルが落ち着くのにはかなりの時間がかかった。
「えっと、ウィルが治してくれたんじゃないの?」
「いや、そんなはずない、んだけど……」
どことなく歯切れの悪いウィルは、「治ってるかもって、あの兵士が言ってた」と付け加える。声のトーンが下がって、目がちゃんと合わなくなるあたり、あんまり聞かないほうがいいのかな、と思う。
ウィルが治した覚えがなくて、私が死にかけたあとからずっとあの兵士と戦ってたということは、私の傷はウィル——術師との接触なく、ウィルが兵士と戦う寸前あたりで治療されたということ。負傷者に触れずに治す治癒魔術なんて、聖女クラスだ。
『変異体』
あの兵士がウィルをそう呼んでいたことを思い出す。引き取ってきたウィルの過去を全く話さず、時々化け物を見るような視線をウィルに向けていたお父様のことも。
だから、きっとこれ以上聞くべきではない……。そう結論づけた私は、次の話題に困って沈黙する。ウィルも、まだ動揺してるのか、そわそわしつつも何も話さなかった。そして、しばらく経って、ようやく私は口を開いた。
「ねぇウィル」
ウィルは、びくりと肩を震わせ、こちらを見つめる。次の言葉を言って欲しくないみたいな……? なんでだろうかと、不思議に思いながらも続ける。
「ありがとう。守ってくれて」
さっきだって、アレックス様の屋敷から逃げるときだって、お父様達のことだって全部、ウィルは私を守ってくれていた。だから、そのことにずっとお礼が言いたくて。ちら、っとウィルの顔を見て、反応を伺ってみるけど、ウィルは何やら戸惑っていた。
「姉様……僕のこと嫌いになってないの?」
私がウィルを嫌いに? そんなことない。今度は私が驚く番だった。
「どうして? 嫌いになんてなるはずないわ」
「だって、姉様は暴力が嫌いだから……」
おずおずと告げるウィルに、私は昔、ウィルを傷つけた奴らのことを考えながら、そんなようなことを言ったのを思い出した。
そっか、だから。だからウィルは私に人を殺したことを隠していたんだ。私の前で人を殺さないようにってしようとしたから、さっきの兵士相手に苦戦させてしまったんだ。
「ねぇウィル。私、ウィルが好きって言ったでしょ」
確かに私は、暴力を振るって、正義面して、ひどいことをしてくる人たちが……メアリーの信者達が嫌いだった。——ウィルに酷いことするから。なんだ、ずっと前から私は変わってなかったんだ。
「私ね、実はさっき、ちょっとだけ起きてたみたいなの。それで、見えちゃった。ウィルとあの兵士が戦ってるの」
「そんな……」
なんか勘違いしたウィルが、ネガティブな言葉を呟きそうになるのを遮る。
「嬉しいと思ったのよ、そのとき。だから謝らないで?」
「怖く、ないの?」
まだまだ信じきれない様子のウィルに、やっぱり五年間も空いていて、色々伝わってなかったこと、分かってなかったことがあったんだなってちょっと後悔する。
だから、これからはちゃんと伝えなきゃ。
「怖くないわよ……ねぇウィル。さっきの返事はくれないの?」
恥ずかしいとか、引かれるかもとか、そういう躊躇いのせいで、すれ違ってしまったのなら。これからはちゃんと話し合っていかなきゃ。だって結局、私もウィルも、死にかけるまで好きの一言すら言えなかったんだから。
「私はウィルのことが嫌いとも怖いとも言ってないでしょ? むしろ、好きって言ったのよ」
だから、ウィルも。お願い……死んだと思った私の前だけじゃなくて。生きてる私の目の前で、言って。
じっと蒼い瞳を見つめながら、ウィルが口を開くのを待つ。
「僕は、僕も……姉様が好き。姉様としてだけじゃない。ずっと一緒にいて欲しい」
ゆっくり、たどたどしく告げられた言葉に、ようやく安心して。
「えぇ」
ずっと一緒にいる。会えなかった五年なんて塗り替えるくらい、死ぬまで一緒に。そう、決意した。
「姉様……生きて……?」
まるで幽霊を見るかのように驚くウィル。私を治してくれたくせに……。とりあえず私は微笑んで、
「おはよう、ウィル」
普遍的な挨拶をした。視界の端に映る空の暗さを見るに、深夜なのだけど。
そのあと、驚きのあまり硬直するウィルの目の前に手をかざしたり、ほっぺたをぷにぷにしたり(昔よりぷにぷにしてなかった……)して、ウィルが落ち着くのにはかなりの時間がかかった。
「えっと、ウィルが治してくれたんじゃないの?」
「いや、そんなはずない、んだけど……」
どことなく歯切れの悪いウィルは、「治ってるかもって、あの兵士が言ってた」と付け加える。声のトーンが下がって、目がちゃんと合わなくなるあたり、あんまり聞かないほうがいいのかな、と思う。
ウィルが治した覚えがなくて、私が死にかけたあとからずっとあの兵士と戦ってたということは、私の傷はウィル——術師との接触なく、ウィルが兵士と戦う寸前あたりで治療されたということ。負傷者に触れずに治す治癒魔術なんて、聖女クラスだ。
『変異体』
あの兵士がウィルをそう呼んでいたことを思い出す。引き取ってきたウィルの過去を全く話さず、時々化け物を見るような視線をウィルに向けていたお父様のことも。
だから、きっとこれ以上聞くべきではない……。そう結論づけた私は、次の話題に困って沈黙する。ウィルも、まだ動揺してるのか、そわそわしつつも何も話さなかった。そして、しばらく経って、ようやく私は口を開いた。
「ねぇウィル」
ウィルは、びくりと肩を震わせ、こちらを見つめる。次の言葉を言って欲しくないみたいな……? なんでだろうかと、不思議に思いながらも続ける。
「ありがとう。守ってくれて」
さっきだって、アレックス様の屋敷から逃げるときだって、お父様達のことだって全部、ウィルは私を守ってくれていた。だから、そのことにずっとお礼が言いたくて。ちら、っとウィルの顔を見て、反応を伺ってみるけど、ウィルは何やら戸惑っていた。
「姉様……僕のこと嫌いになってないの?」
私がウィルを嫌いに? そんなことない。今度は私が驚く番だった。
「どうして? 嫌いになんてなるはずないわ」
「だって、姉様は暴力が嫌いだから……」
おずおずと告げるウィルに、私は昔、ウィルを傷つけた奴らのことを考えながら、そんなようなことを言ったのを思い出した。
そっか、だから。だからウィルは私に人を殺したことを隠していたんだ。私の前で人を殺さないようにってしようとしたから、さっきの兵士相手に苦戦させてしまったんだ。
「ねぇウィル。私、ウィルが好きって言ったでしょ」
確かに私は、暴力を振るって、正義面して、ひどいことをしてくる人たちが……メアリーの信者達が嫌いだった。——ウィルに酷いことするから。なんだ、ずっと前から私は変わってなかったんだ。
「私ね、実はさっき、ちょっとだけ起きてたみたいなの。それで、見えちゃった。ウィルとあの兵士が戦ってるの」
「そんな……」
なんか勘違いしたウィルが、ネガティブな言葉を呟きそうになるのを遮る。
「嬉しいと思ったのよ、そのとき。だから謝らないで?」
「怖く、ないの?」
まだまだ信じきれない様子のウィルに、やっぱり五年間も空いていて、色々伝わってなかったこと、分かってなかったことがあったんだなってちょっと後悔する。
だから、これからはちゃんと伝えなきゃ。
「怖くないわよ……ねぇウィル。さっきの返事はくれないの?」
恥ずかしいとか、引かれるかもとか、そういう躊躇いのせいで、すれ違ってしまったのなら。これからはちゃんと話し合っていかなきゃ。だって結局、私もウィルも、死にかけるまで好きの一言すら言えなかったんだから。
「私はウィルのことが嫌いとも怖いとも言ってないでしょ? むしろ、好きって言ったのよ」
だから、ウィルも。お願い……死んだと思った私の前だけじゃなくて。生きてる私の目の前で、言って。
じっと蒼い瞳を見つめながら、ウィルが口を開くのを待つ。
「僕は、僕も……姉様が好き。姉様としてだけじゃない。ずっと一緒にいて欲しい」
ゆっくり、たどたどしく告げられた言葉に、ようやく安心して。
「えぇ」
ずっと一緒にいる。会えなかった五年なんて塗り替えるくらい、死ぬまで一緒に。そう、決意した。
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