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ガンガンいこう
しおりを挟む旦那さまに言質を頂いてから2週間ーー。
その、2週間の間に王宮医者とローベルハイム公爵家の医者の診察を受けましたよ。
公爵家医師は記憶喪失は旦那さまとの閨が精神的に苦痛だったから起きたと、やたらと旦那さまを責め実家の公爵家に帰るように言い渡して、偉そうで感じ悪っ!だった。
それに対し王宮医者は記憶喪失と閨の因果関係を証明できないので、現状維持で様子をみるように進言してくれた。
最終的には私が、旦那さまと離れたくないと訴えたので、現状維持になりましたよ。旦那さまは私の発言にぎょっとしてたけど。
良かった!旦那さまの近くに居られるーっ!!
この2週間毎日、私はお仕事前の旦那さまとシリウスくんと朝食を一緒に食べると玄関まで旦那さまのお見送りをしました。
本当は定番の行ってきますのバグとか、チューとかしたい!
でも、旦那さまに隙がない。私が一歩近づくと旦那さまはあからさまに2歩下がる。シリウスくんには時折笑顔さえ見せるのに、私には眉間の皺しか見せてくれない!
仕事帰りの旦那さまを「お帰りなさい」とお迎えし、夕食をともにする。旦那さまは食後直ぐにお風呂に入りそのまま自室に引き籠ってしまう。書類仕事があるんだってさ。
眼鏡姿を拝見したいと部屋に押し掛けたら「何しに来たんですか?」と、けんもほろろに断られた。 知的な眼鏡姿、チラッとだけでも見れたからよしとしようか。眼福!眼福っ!
でもっ、切ないぞ~。糖分が足りないぞ~。
冷たい顔もぞくぞくするほど素敵だけど、そろそろ塩辛せんべいじゃなくて泥甘な綿菓子も食べたいんですよ…はい。
そう、2週間経つども私と旦那さまの仲は全く進展しない。
進展したのはシリウスくんとの仲と貴族のご婦人としてのお勉強である。
中身、私こと風花なんで貴族の嗜みとか、所作とか、全くわからないし出来ませんよ~。
私が記憶と一緒に知識もマルっと忘れていると把握したときの、シャーリングさんの絶望した瞳の色は忘れられない。
家庭教師をつけられ、このグランシア国の歴史、文化、産業、立ち位置とか領地経営の基礎とか日々座学をしつつ、ダンスの練習、テーブルマナー、刺繍、お茶会の作法等々をビシバシ教わってる。
お姉さん闇魔法を使えるから魔法の授業もあるかと期待したけど旦那さまからの許可が必要だそうで、残念~。
高価な国管理の魔封じの装飾品もあるけど、それだと外からの魔力も受け付けない。つまり子種に含まれる僅かな魔力も駄目なんだって。旦那さまと子を成して欲しい国王からの使用許可が下りることはなくて。
お姉さんが闇魔法を勝手に使用すると結婚指輪代わりの魔道具の魔石の色が変わり、旦那さまに使用した場所が通達されるように対策したんだって。悲しいかな、お姉さん悪役令嬢断罪後だしね。
シリウスくんは勉強する私と日がな1日一緒で、膝の上が定位置になった。
初めのうちは私がシリウスくんに危害を加えないか心配し、隣でぴったり監視していたミミさんも後方に控えるようになったよ。
さすが二人きりにはさせてもらえないので、一緒なのは夕食まで。シリウスくんはその後、ミミさんにお風呂入れてもらい自室で就寝する。
はあっ、勉強苦手………学校より詰め込み教育ですが?ゆ、ゆとりを私に下さい。
それより甘いモノを……。
「はあ……足りないのです……旦那さまのデレが…、夜這いするしかないのかな?でも、私……処女だし…襲うのハードル高いし……ん?お姉さんの体でエッチしてるから……処女じゃないのかなぁ?」
膝で熟睡するシリウスくんを撫でつつ、愚痴をこぼす。柔らかい毛並みが指に絡む。ふふ、癒されるな~。
「奥さま、また変なこと言ってんな」
家庭教師の都合でぽっかり空いた長い休憩時間に、スージーさんが私に微妙な手付きで紅茶を入れてくれた。
お礼を言い、その渋味の多い紅茶をすすりつつ、愚痴が止まらない。うん、行儀悪いよね。
「はあー。第一、旦那さまに朝と夜のちょっとの時間しか会えないし!騎士団お休みの日は書類仕事してるし、会える時間が少なすぎだよーっ……これじゃあ『私と仕事どっちが大事なの?』って尋ねるうざい系奥さんになっちゃいそうっ」
「ははっ、即座に仕事って切り捨てられんな」
辛口スージーさんは容赦がない。
「ううっ、スージーさん酷い!わかってるから言わなくていいです。旦那さま成分が足りないの、もっと一緒にいたいのっ!いや、居られなくてもせめてご尊顔を今直ぐにでも拝見したいっ!」
「拝見したいって今、仕事中で騎士団砦だぜ」
「今!お出かけしたい。騎士団砦に行きたいです。そうだっ、シャーリングさんに騎士団にご用がないか聞いて来ますー!」
お膝のシリウスくんをミミさんに託し、私は意気揚々とシャーリングさんのもとに向かう。
シャーリングさんは髭を撫でつつ、暫く熟考したのち旦那さまに届けて欲しい書類とその場で書いた手紙を旦那さまに渡してくれた。
町の正門に隣接する獣人騎士団砦に石畳を揺られ、馬車で向かいます。
さすが城下町、綺麗に整備されてる。小窓に張り付き外を観光する私に、苦笑するスージーさん。侍女兼護衛の彼女も一緒。
正門近くにあるのは有事の際、直ちに対応出来るようになんだって。獣人騎士団は少人数ながら強いので、別名王国の楯と呼ばれている。国内の治安維持より城の外の魔物退治が主な役割だそうです。
見目麗しく強い騎士団員は命令があれば王族の護衛もする。国王お気に入りの旦那さまは他国の来賓があると護衛に王城に出向して、そうすると泊まり込みの勤務になるそうで、下手をすると一週間は帰って来ないとか。
一週間なんて!旦那さま成分の枯渇により寂し死ぬかもしれないーっ!
騎士団はスージーさんにとっては勝手知ったる古巣。スージーさんは門番をしていた知り合いの犬獣人に話かけた。
「カンタ、ご苦労様!シオン団長にマクガイヤ家より届け物だ、通してくれ」
「あれ?スージー先輩お久しぶりワンっ!シオン団長の家からワンか?……確認するから待ってワン」
スージーさんは印章入り書類をカンタさんの鼻っ面に突きつけると、「遅いと、シオン団長に怒られるんだ」と、確認を待たずにスタスタと中に入ってしまった。私もその後を追う。
「待ってワンっ!この時間は鍛錬中だわんよ!」
カンタさんも付いてきた。あれ?門番はいいの?
増築を繰り返した広い迷路のような建物を進む、暫くすると中庭にある広い鍛錬場に着いた。
ちょうど休憩中だったようで、上半身裸でタオルで汗を拭く旦那さまが居た。同じく休憩中の団員と談笑中。
はうっ!鍛えあげた肩の三角筋とか、浮き出た腕の血管とか!六つに割れた腹筋とか!ステキ過ぎて、ヨダレが出そうっ!
その腹筋を添うように流れる汗に私はなりたいーっ!!
ダメなら汗ふきタオルくれますか?
じーっと妄想しつつ焦げるような視線を送ると、水を飲もうとした旦那さまと目が合った。
「旦那さまーっ!!会いに来ちゃいました」
ブンブンと大きく手を振ると、「ぶはあっ」と、飲もうとした水を吐き、盛大にむせた。
「ごほんっ、がはっ、ごふ。な、なぜ?ヴ、ヴィヴィアン嬢が?」
「大丈夫ですか?旦那さま」
私は駆け寄るとむせる旦那さまの背中を擦った。旦那さまは苦しいのか私を振り払おうとしない。チャンスとばかりに広背筋の感触を味わう、固くて厚いし熱いっ!
「はうっ!旦那さまの筋肉っ、凄くステキです!もっとたくさん触りたいっ!」
感極まって声に出てしまった。旦那さまは、はっとした顔をして私から距離を取った。
あー、残念。心の声が駄々漏れだったよ。私のお馬鹿ーっ!!お触りチャンス終わっちゃったよ。
「それで、何で貴女がここに?」
「旦那さまにどーしても会いたくなったので、シャーリングさんに頼んでお仕事をもらいました。それでこの書類を届けに来ました!」
私はスージーさんに預けていた書類を受けとると、そそくさと旦那さまに手渡した。
「……急ぎの書類は終わらせたはずですが」
ぶつくさ言っていた旦那さまはシャーリングさんからの手紙を読むと顔を顰める。
「ふうっ、わかりました。
私の仕事中なら有事、緊急時を除いて貴女が騎士団に訪問することを許可します……ただし短時間にしてください。貴女には勉強もある、それに騎士団は暇ではないんです」
これ見よがしに特大のため息を吐くと私に言った。
それってーっ!!
「昼間も旦那さまと一緒に居られるんですねーっ!!しかも、騎士団の凛々しい制服姿かムキムキ筋肉姿見られるんですねーっ!!ばんざーい!!」
嬉しさのあまり、旦那さまに引っ付く私。
「ヴ、ヴィヴィアン嬢、離れて下さい」
他の騎士団員は焦って引き離そうとする旦那さまと離れない私を目を真ん丸にして見ていた。
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