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媚薬事件の余熱③
しおりを挟む「ヴィヴィアン嬢、貴女は、王妃様に誉められるほど完璧に王太子教育をこなしていたはずですが……裁縫もお忘れでしょうか?」
イヤミたっぷりに旦那さまに責められても言い返せない。ああ、自分の不器用さが悲しい~。
「すいません、裁縫もダンスも貴族の嗜み的なのは丸っと解りません~。
うわわ~ごめんなさい~っ!!前の私ならきっと簡単にシリウスくんにファーストシューズを作れたのに~!中身が私に変わったばっかりに……」
嘆いていると、ペロリとシリウスくんが頬を舐めて慰めてくれた。ああ、優しい息子でママ泣きそう。
そして、威嚇するように旦那さまを見て「シャーッ!!」と、鳴いた。
「くっ、シリウス…苛めるつもりは。………こほんっ。
わかっています。前の貴女ならシリウスにファーストシューズを作ろうなんて思いもしなかったはずです。たとえ死ぬほど不器用でも努力は認めます」
え?旦那さまが努力を認めてくれるって、嘘みたい。嬉しくて簡単に嘆きが引っ込んだよ。
「それと……無茶をしてあまり怪我をしないように……シリウスが心配します」
「シリウス様じゃなくて、シオン隊長がだろう?勘違いでアタシを怒鳴るほど心配してんじゃん!ひゃーっ、凍らせられるかと思ったぜ」
スージーさんが旦那さまを揶揄る。
「……それはスージーの勘違います。心配などしていません。わ、私は着替えに自室に戻ります」
旦那さまは脱兎のごとく部屋を出ていってしまった。
「着替えもしないで直帰で奥さまの様子を見に来たてのに、心配してねえもないよな~。奥さま良かったな少しは脈あるぜ!」
本当に脈があるなら嬉しいな~。旦那さまに中身が変わって良かったと思われるぐらい頑張らないと!
その後、夕べのように私の部屋で家族三人で夕食を食べた。直後私と離れたがらないシリウスくんは暴れながらもミミさんがお風呂に。
ベッド上安静の私は、リンスさんに体を拭いてもらった。お風呂から上がったシリウスくんは体拭きの途中なのに、逃走。私の部屋に戻って来てしまった。
結果………昨夜と同じように三人で寝ることに。まあ、旦那さまはソファーですけども。同じ空間に居られるだけで幸せです。
ちらりと胸元の筋肉を見てますけどダメですかね?………はあっ、触りたいけど我慢。
ゴロゴロと幸せそうに喉を鳴らすシリウスくんの毛並みを櫛でとかし、撫でていると安らかな寝息が聞こえ始めて……どうやら就寝した様子。
寝ついたことを確認すると気になっていたことを旦那さまに尋ねた。
旦那さまに媚薬を盛った聖女さまの待遇。そして、私を連れ出そうとしたマルセルさんが今どうして居るのか、ローベルハイム公爵も処罰を受けるのかどうか………。
旦那さまは私の質問に丁寧に答えてくれた。
聖女さまはマタタビ媚薬を盛ったのは侍女が勝手にしたことで、自分は旦那さまを癒しの術で助けようとしただけだと主張した。
侍女も「独断で自分がしました」と自供。初犯と言うことと聖女の嘆願もあり貴族だった侍女は厳しい戒律の修道院に行かされることに。
王太子妃である聖女の日頃の行いは目に余ると王さまから厳重注意を受けた。
マルセルさんは現在王宮の地下にある牢屋に収容されている。本当に隣国ヘラルドのムカラナ公爵子息かどうか確認中とのこと。隣国ヘラルドは、お姉さんの母親の産まれ育った国。ヘラルド国はお姉さんと旦那さまの嘆願書作りに口出ししてきた獣人に対して偏見の強く。そこそこの国力と古くから存在し、他国に影響力を持つ少々厄介な国。グランシア国王として表だって敵に回したくない。
マルセルさんが本当にムカラナ公爵子息だった場合は、ムカラナ家は前々王妹が降下し嫁いだ名家。
国際取引しヘラルド国に一つ貸しとして、マルセルさんに二度とグランシアに立ち入らないと制約させたのち、ヘラルド国に送還することになりそうとのこと。
「実質おとがめなしです。あのまま、心臓まで凍りつかせておけばよかったです。いや、今から牢屋に押し入っても遅くないかもしれませんね」
旦那さまは黒い笑顔を浮かべた。目が笑っていない、もしかして本気ですか?冗談でも笑えないよ。
「それより、ローベルハイム公爵はおとがめなしですか?」
ローベルハイム公爵は、聖女の部屋に入って行く旦那さまをを見かけて無理やり王命で嫁がされ、記憶を失くした私が不憫で頭が真っ白になった。
そこで、たまたま隣国から遊びに来ていたマルセルさんに相談した。
彼が契約書を破棄した旦那さまが悪い!離縁させるなら、自分が結婚して幸せにすると、誓ってくれたので一人娘可愛さで、ついつい私兵を貸してしまったと旦那さまに反省の弁を表した。
王も無理やり嫁がさせた負い目もある。平身低頭して許しを乞うローベルハイム公爵は同情の余地がある。王より厳重注意を受けマクガイヤ家に慰謝料を支払うよう命じられた。
「えーと、たまたまマルセルさんが来ていたなんて、都合良すぎませんかね~?」
「そうですね……都合の良すぎる偶然です。おそらくローベルハイム公爵は、聖女が私に媚薬を盛ることを事前に知っていたのでしょう。
そして私が王宮に出掛けたタイミングでムカラナ公爵子息に屋敷に押し掛けさせた。自分の手を使いたがらないあの人らしいやり方です」
心底嫌そうに旦那さまは吐き捨てた。
会ったことないお姉さんのパパさんはどうやらラスボス的存在らしい。
夜中……旦那さまが寝ついことを確認すると、ミミさんに自主練したいとお借りした小降りの裁縫箱をこっそり出す。薄暗いランプの下、血塗れの雑巾もといパッチワークの練習をしようした。
……が。
「……何をしようとしているのですか?」
「ひえぇ??だ、旦那さま!寝たはずでは」
ギギギっとランプに浮かび上がった恐ろしく美しい顔。
ひえぇ、怒られるっ!
「ち、違いますよ!針とハサミ持ってますけど、旦那さまを暗殺とかじゃなくて、練習しないとシリウスくんの誕生日にファーストシューズが間に合わないので!」
「……わかっていますが、怪我も無理もしないで下さい……今夜はもう寝なさい」
旦那さまは怒っていなかった……ただ呆れたように首を竦めた。獣耳が同調するようにへたりと下がる。か、かわいい、触りたい。もふもふをもふもふしたい!
「……旦那さま、今夜は眠れそうにないので昨日約束した、お礼の猫耳を触らせてもらえないでしょうか?」
「………触りたいのですが?貴女は包帯だらけで怪我をしているのに?傷が痛むでしょう。他に何かありませんか?」
あ、そうか!包帯だらけの手で触ったら、旦那さまは気持ちよくないのかも。耳って毛が薄いし敏感だものね。
他……他かぁ?
旦那さまにしたいこと……。
………っ!あ、あった。
「ちゅうしたいです!」
「は?ちゅう?」
「毎朝、いってらっしゃいのちゅうがしたい!口にと贅沢は言いません!頬っぺたで我慢しますから、お願いします。ダメですか~?」
上目遣いで見上げる。旦那さまは私の言葉の意味を上手く理解出来ないみたい。
「…………毎朝……いってらっしゃいの……ちゅう?」
咀嚼するみたいに何度か反芻した。
「………ちゅう……
………く、口づけ…っ!!」
意味がわかったのか、はっと私を見つめた。少し目蓋が赤いのは照れているからかな?
「フンッ!結婚式で誓いの口づけを拒否した貴女が今さらですね」
え??拒否したの?お姉さん、とことん旦那さまにトラウマ与えている。
私の大好きな旦那さまをたくさん傷つけてきてっ。殴ってやりたいお姉さんの顔をって!今の私の顔だけど。
「前の私がごめんなさい、今の私は旦那さまが嫌じゃなかったら、しなかった分も含めてた~くさんしたいです!」
にこりと精一杯の笑顔で笑う。旦那さまは私の笑顔を見つめたまま沈黙してしまった。
「……やっぱり今さら嫌ですよね」
ふうっと息を吐く、残念だけど旦那さまの意思を尊重したい。
「……いいですよ」
「へ?」
「貴女の大嫌いな獣人と口づけ出来るならね……ほら、証明してみせてください」
旦那さまは私のベッドに腰掛けると体を近づけ両腕を掴んだ。
「え?今直ぐしろと?」
「止めますか?」
挑むように睨む瞳のなかに僅かに瞬く期待と不安。
こくりと息を飲むと手を伸ばし旦那さまの頬に触れた。心臓がドキドキし過ぎて破裂しそう。
びくりと動く冷たくて極めの細かい白肌。ゆっくり輪郭をなぞりと形の良い唇にそっと触れた。
唇は酷く冷たく乾いて、そして少し震えていた。
「……大好きです」
思いが伝わりますように。
熱を与えて分けあって乾きが震えが治まるように、私は旦那さまに口づけをした。
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