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第27話 妥協
しおりを挟む「セレフィアは、夜会に参加するの?」
「もうそんな時期でしたか……。はい、わたしも参加しますよ」
シルヴァード様に突然話を振られるのにも、もう慣れた。結婚したいと言われた時と比べたら、どんなことでも対応できる気がする。そう思って微笑んでいると、彼もにこにこ笑みを浮かべてわたしの手を握った。
「僕がドレスを贈るから、それを着て一緒に参加しよう」
「…………はい?」
不思議な言葉が聞こえた気がして、首を傾げる。シルヴァード様も同じように首を傾げながら、わたしの髪に触れる。
「君に、赤色のリボンがついたドレスを贈るよ。青いドレスに赤色のリボンは、少し目立ってしまうかな」
ドレスとリボンの色というものは、夜会においてかなり大きな意味を成す。婚約者がいる場合、自分の瞳の色をドレスの色に、婚約者の瞳の色をリボンの色にするのが主流だ。婚約者がいない場合は、ドレスの色とリボンの色を変えることはない。
(シルヴァード様は……このことを、ご存じないのでしょうか。それにしては、やけに的確ですね……)
もしわたしが、赤色のリボンがついた青色のドレスを着て夜会に参加したら。たくさんの女性たちに、鋭い嫉妬の目で見られることは簡単に予想できる。わたしがそのような目で見られることには耐えられるけど、シルヴァード様の名声などに影響があっては大変だ。
「とても嬉しいのですけど、あなたは夜会でもお忙しいのではありませんか?」
「……夜会なんて、参加したくないよ。僕が夜会に参加しようと思ったきっかけは、セレフィアが参加すると聞いたからなんだ」
まっすぐと目を見つめながら彼にそう言われて、頬が熱くなる。シルヴァード様の紅い瞳はいつも宝石のように綺麗だと、思わず見惚れてしまう。
「僕、夜会に参加する女性達の香水の匂いが大嫌いなんだ。吐き気がしてくる。勝手に僕に触れてくるのがいたら、反射的に腕を切り落としてしまいそうになる」
「それは……大変ですね」
「そうでしょ? もし僕が、夜会で暴れだしちゃったら、きっとセレフィアしか抑えられないよ。僕、君の声を聞くだけで、安心できるようになったんだ」
にこにこと、シルヴァード様は微笑んでいる。彼の紅い瞳には相変わらず感情が籠っていないが、彼の微笑みを見ているとわたしの心も温まるのだ。
彼の治療を始めてから約二か月。わたしはちゃんと彼の心に寄り添えていると思えるような彼の言葉に、とても嬉しくなった。しかし同時に、彼がわたしという治療師に依存しかけているのではないかという不安もある。
わたしがすぐに返事をせずに渋っているからか、シルヴァード様は不満そうに口を尖らせた。
「……セレフィアは、僕と夜会に参加するのは嫌?」
「いいえ! そういうわけではありません。ただわたしは、その……本来シルヴァード様の隣に立てるような身分でもありませんし、治療師であるわたしがあなたの傍にいると、様々な憶測が立てられてしまうかもしれませんよ」
わたしは、貴族令嬢としては珍しく、治療師として仕事に当たっている。他の令嬢達は基本、夫の仕事を支えたり子育てを行ったりと、家のことを優先することが多い。わたしみたいに働いている方が珍しいのだ。それもあって、社交界でのわたしに関する噂は良いものが多いとはお世辞でも言えない。
そんなわたしが、英雄のシルヴァード様と懇意な関係であると思われたら。彼が隠している治療のことも、悟られてしまう危険性がある。
「セレフィアとの関係を誤解されるなら、むしろ嬉しい。お願い、セレフィア。僕、セレフィアが僕の傍にいてくれなかったら、夜会なんか参加しないから。殿下に何を言われようとも、僕は参加しない」
「……わかりました。ですが、ドレスは自分で選ばせてください!」
最後はわたしが折れてしまった。着るドレスは自分が選ぶという条件をなんとか取り付けることができてよかった。シルヴァード様は最後まで引こうとしなかったのだけれど。
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