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第29話 孤児院
しおりを挟む道の途中で、人混みが多い場所を見つけた。騒ぎになっているので、何か事故か事件があったのかもしれない。怪我人がいたら大変だと思い、様子を見ていくことにする。
人混みの間から顔を覗かせて騒ぎの中心を見る。すると、遠目からでもよく見える、フードを被った騎士がいることにすぐ気が付いた。
(シルヴァード様です……。お仕事中でしょうか)
騎士の制服姿をしているシルヴァード様を見たのは、凱旋以来になる。我が国の騎士団の制服は白色が基調で、彼の黒髪ととても映えていてかっこよかった。今の彼はフードを被っているので、彼の純黒の髪と純白の騎士服の美しいコントラストを見ることはできないけど……。
事件があったようで、騎士の人たちが男の人を取り押さえている。シルヴァード様はそこから少し離れた場所に立っている。隣にはラティウス様もいらっしゃって、彼に何かを話しかけているようだ。
彼らは騎士団の中でもかなり格式高く身分も高い人たちだと把握している。彼らの主な仕事は、王族や王城近くの護衛だと思っていたけれど、このように街の治安維持も担当してくれているのだろうか。
シルヴァード様がフードを被っているからか、周囲の人たちは彼が英雄様だと気が付いていないようだ。わたしも彼のフード姿を見ていなかったら、気が付かなかっただろう。彼のローブには何か魔法がかけられているのか、認識があやふやになるようにできている。
彼はフードの下で、笑みを浮かべているのだろうか。それとも前にリーリアに聞いたように、戦場での彼のように無表情なのだろうか。それは分からなかった。
怪我人などはいないみたいなので、その場から離れる。
その時に、シルヴァード様がわたしを見ていたということは、一切知らなかった。
子どもたちにお土産を買っていこうと思い多少寄り道をしてしまったが、予定時間には孤児院にたどり着いた。建物の中に入ると、すぐにルーミさんがわたしを迎えてくれた。彼女は、子どもたちに「先生」と呼ばれている女性である。
「セレフィア様! いつもありがとうございます。子どもたちがとても楽しみに待っていて、落ち着きがないのですよ」
「こんにちは、ルーミさん。わたしも子どもたちと会いたかったです」
彼女に案内され、一つの部屋に入る。するとすぐに、わたしの周囲には子どもたちが集まってきた。
「天使さま!」「天使さま、会いたかった!」「一緒にあそぼう、天使さま!」
子どもたちの頭を撫でながら部屋の中を見回す。子どもたちの遊び場のようで、たくさんの子どもたちがそれぞれ元気に遊んでいる。小さな子に手を振っていると、以前食堂で会ったハウロ君が駆け寄ってきた。勢いのある走りで、わたしはそっと彼を抱きとめる。
「天使さま! 来てくれたんだ!」
「ハウロ君、こんにちは。お元気でしたか?」
「うん! 元気だよ!」
体を動かす遊びをしていたのか彼の髪が少し乱れていたので、軽く整える。
ハウロ君は、今ではわたしに懐いてくれているが、彼が孤児院に来たばかりの時は親からの虐待などの影響で、痛々しいくらい人間不信だった。この孤児院には優しい人たちしかいないので、段々と彼も心を落ち着かせることができるようになったのだ。わたしも、彼のトラウマを軽減できるように何度も孤児院に通って彼と話をしていた。
「そうだ。これ、お土産です。ハウロ君が好きな、ミルクキャラメルですよ」
「やった! ありがとう、天使さま!」
かばんからお菓子箱を取り出して、ハウロ君に手渡す。お土産はこれだけではない。他の子どもたちの好きなお菓子もたくさん買ってしまった。つい、子どもたちが喜ぶ姿が見たくて、いつも買いすぎてしまうのだ。
ハウロ君が嬉しそうに箱を抱きしめているのを見ると、心がぽかぽかと温かくなる。
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