31 / 32
第31話 食事の準備
しおりを挟む厨房に戻る時も、シルヴァード様はわたしについてきた。彼に荷物持ちのような扱いをさせてしまうのは申し訳がなかったが、彼がどうしてもと譲らなかったので、彼にたくさんの野菜を持たせてしまっている。
「あれ、騎士様。どうされたのですか?」
「セレフィアの見守り。君達の邪魔はしないから、安心してね」
料理長はシルヴァード様を一瞥し、すぐに料理に目を戻した。フードを被っている彼の正体は誰にも知られていないようなので、騒ぎになることはない。彼はじっとわたしの手元を見ていたが、かなりの至近距離で落ち着かなかったので、料理が完成するまでは外で待っていてくださいと何度も何度もお願いした。十回目くらいで、彼が折れてくれた。
完成した料理を食事所に運ぶ。わたしが手伝えたのは少しだけだったけれど、子どもたちはとても喜んでくれた。子どもたちが座る机より少し離れた場所で、シルヴァード様とラティウス様、そして他の騎士様たちが座っている。
「セレフィア!」
シルヴァード様はわたしの姿を見るなり立ち上がって、わたしの元へ歩み寄ってきた。とりあえず料理を子どもたちの机の上に並べて、彼に向き合う。
「シル……騎士様。これからお料理をお持ちしますね」
「セレフィアも一緒に食べよう。僕、セレフィアと一緒に食べたい。セレフィアと一緒に食べたら、初めてごはんが美味しいって思えたんだ」
彼はわたしの手をそっと持ち上げて、少し力を込める。そう言ってもらえることはとても嬉しい。しかし、わたしは料理を食べるのではなく提供するお手伝いがしたいのだけれど……。
ちらり、とラティウス様に目を向ける。わたしの視線に気が付いたのか、彼はこちらを見て、両手を合わせる仕草をした。彼の目が、「シルヴァードが迷惑をかけてすみません」と言っている気がする。
(もっと詳しい話を聞きたいですが……早く返事をしないといけませんね)
わたしは笑みを浮かべ、彼に握られている手に力を込めた。彼の手が、一瞬だけ震える。
「分かりました。一緒にごはんを食べましょう。あなたには、美味しく食事をしてもらいたいですから」
「ありがとう、セレフィア」
シルヴァード様はそう言って両手を広げた。何をされるのか予想がついたので、わたしは早めに彼から距離をとって頭を下げる。こんな、子どもたちの目がある場所で抱きしめられるのは、流石に恥ずかしい。騎士様にも見られているし、シルヴァード様にとってもあまりよくないだろう。
「ですが、まずは準備が先です。ごめんなさい、少し待っていただけますか?」
「……うん。あ、僕も手伝うよ」
彼の申し出を断ることはできなかった。
すべての料理を運び終えた時、料理長に呼び止められた。
「セレフィア様。よければこれ、騎士様とご一緒にどうぞ。家の後ろを少し進むと、景色の良い花畑があります。そちらでピクニックでもいかがですか?」
「よろしいのですか? ありがとうございます、とても嬉しいです」
料理長はとても優しい人だ。時々子どもたちに手作りお菓子を先生たちに内緒であげて、怒られているらしい。彼からお弁当箱を受け取ると、彼はにかりと明るい笑みを浮かべた。つられて笑みが零れてしまうような笑顔。
「感謝する」
わたしの隣に立っていたシルヴァード様は、小さく頭を下げた。料理長はにこにこ笑いながら、「セレフィア様と仲良くな、騎士様」と言った。これは多分、シルヴァード様がわたしの恋人かなにかと勘違いされている。訂正の必要性を感じられなかったので、曖昧に微笑むだけにしておいた。
「ラティウス様に、場所を移動することをお伝えした方がよろしいでしょうか? シルヴァード様は、お仕事中ではありませんか」
「ラティウスのことなんて気にしないで。それに、これは僕の仕事じゃないから」
(シルヴァード様のお仕事ではない……?)
疑問に感じたが、シルヴァード様が自然な流れでわたしの腰を抱き寄せたので、それ以上考えることはできなかった。
183
あなたにおすすめの小説
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。
真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。
狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。
私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。
なんとか生きてる。
でも、この世界で、私は最低辺の弱者。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
隣国のモフモフ騎士団長様、番ではない私でよろしいのですか?
こころ ゆい
恋愛
ジャスミン・リーフェント。二十歳。
歴史あるリーフェント公爵家の一人娘だが、
分厚い眼鏡に地味な装い、常に本を読んでいる変わり者。皆が自分のことをそう言っているのは知っていた。
モーリャント王国の王太子殿下、コーネル・モーリャントとの婚約が王命で決まってから十三年。王妃教育を終えても婚姻は進まず、宙ぶらりん状態。
そんな中、出席した舞踏会でいつも通り他の女性をエスコートする王太子殿下。
それだけならまだ良かったが、あろうことか王太子の連れた女性が事件を巻き起こす。その最中で言い渡された婚約破棄。
「....婚約破棄、お受けいたします」
そのあと、ジャスミンは一人旅に出てある人物と出会った。
これは、婚約破棄された女性が獣人国で知らぬうちに番と出会い、運命に翻弄されていく物語。
一夜限りの関係だったはずなのに、責任を取れと迫られてます。
甘寧
恋愛
魔女であるシャルロッテは、偉才と呼ばれる魔導師ルイースとひょんなことから身体の関係を持ってしまう。
だがそれはお互いに同意の上で一夜限りという約束だった。
それなのに、ルイースはシャルロッテの元を訪れ「責任を取ってもらう」と言い出した。
後腐れのない関係を好むシャルロッテは、何とかして逃げようと考える。しかし、逃げれば逃げるだけ愛が重くなっていくルイース…
身体から始まる恋愛模様◎
※タイトル一部変更しました。
【完結】異世界転移したら騎士団長と相思相愛になりました〜私の恋を父と兄が邪魔してくる〜
伽羅
恋愛
愛莉鈴(アリス)は幼馴染の健斗に片想いをしている。
ある朝、通学中の事故で道が塞がれた。
健斗はサボる口実が出来たと言って愛莉鈴を先に行かせる。
事故車で塞がれた道を電柱と塀の隙間から抜けようとすると妙な違和感が…。
気付いたら、まったく別の世界に佇んでいた。
そんな愛莉鈴を救ってくれた騎士団長を徐々に好きになっていくが、彼には想い人がいた。
やがて愛莉鈴には重大な秘密が判明して…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる