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第八話
しおりを挟む放課後。わたくしはセルナと一対一で対面していました。いつもの部屋で二人しかいないので、心が落ち着きます。
セルナがうずうずしたように目を輝かせたので、わたくしは記憶を掘り起こしながら先日の様子を彼女に語りました。わたくしが分析するよりも、心理テスト上級者である彼女が分析する方が、よりよい結果が得られるかもしれません。まあ、あの婚約破棄作戦は失敗に終わったという方が正しいのですけど。
「最高の結果ね! さあ、もっといちゃいちゃしなさい!」
わたくしの話を聞いたセルナの第一声はこれでした。
わたくしがエルンスト様といちゃいちゃ? できるわけありません! わたくしの心臓が壊れてしまいます。
「でも、まだちゃんとくっついてはいないのね? エルンスト様の反応から、彼がエレアのことを好いているのは間違いないでしょうし……。お互い奥手なのかしら。さっさと想いを伝えたらいいのに。でもまあ、段階を踏む方が面白い結果にはなるか」
ぼそぼそとセルナは何かを呟いています。あまりにも早口だったので、わたくしは全て聞き取ることができませんでした。
聞こえてきたのは、エルンスト様がわたくしのことを好いているのは間違いないという部分のみ。
「さあ。ここから第二段階よ! セルナ。貴女はまず、彼を嫉妬させるの。別の男の人と、親し気な様子を見せるだけで十分だわ。話を聞く限り、エルンスト様はかなりの重症、ヤンデレの適正あり! 面白くなってきましたわ……!」
熱が籠ったセルナの言葉に気遅れながらも、わたくしは彼女の言葉を頭の中で反芻しました。
エルンスト様は重症、ヤンデレの適正ありとはどういうことなのかよく理解できていません。恋愛小説でヤンデレという言葉を聞いたことはありますが、あれは小説の中だから人気になるものではないのでしょうか?
それに、わたくしが別の男性と仲良くしている姿を見せたら、その相手の方の命が心配です。わたくしがその方のことを好いているとエルンスト様が勘違いしてしまったら、大変なことになりそうです。
「やるのよエレアノール。『キミコイ』の作者であるこのわたくしが応援しているわ!」
ついに自称するようになりましたこの人。事実ですけど。
嫉妬させてみろと言われても、誰と話せばいいのやら。
セルナと別れたわたくしはぼんやりと中庭のベンチに腰掛けながら、空を見上げました。青く広がる空を見上げていると、わたくしという存在がとてもちっぽけで、悩んでいることがすべてどうでもよくなりそうです。
視線を下げると、現実が見えてしまってそうはいかないのですけれど。今なら詩が作れそうな気がします。
「……エレアノール嬢」
いい言葉を頭の中で探していると、誰かに声をかけられました。低音で心地よい声です。
「今、一人かい?」
「まあ、クラウス様。いかがなされましたか?」
日の光を反射した薄い金髪を輝かせたその人は、エルンスト様と同じ赤い瞳を持っています。エルンスト様と似ているこの人は、クラウス・ハイリヒ。何を隠そう彼のお兄様なのです。それならば、エルンスト様がクラウス様に似ていると言った方が適しているのかもしれません。
いつも朗らかな笑みを浮かべているクラウス様は、周りを包み込むような温かさを持っています。決してエルンスト様がそうではないと言っているわけではありません。ただ彼の笑みは、冷たさを感じるというだけです。
「ちょっと、エレアノール嬢と相談したいことがあるんだ」
わたくしの目をまっすぐ見たクラウス様の顔は、いつになく真剣でした。
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