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十五話 Side:エルンスト
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「エルンスト様には——」
まただ。また、エレアノールは僕のことをエルと呼んでくれない。
不満が顔に出てしまったのか、彼女は慌てて言葉を正してくれた。良かった。これ以上彼女を怯えさせたくない。
「エ、エル様には、何も嫌う点はございません。エル様は、いつもかっこよくてお美しいです」
…………?
今の言葉は幻聴かな? エレアノールが僕のことを、かっこよくて美しいと言ってくれた気がする。エレアノールは気にした様子を見せていないので、僕だけが気になっているのだろうか。そうだとしても、とても嬉しい。エレアノールにかっこいいと言ってもらえるのが一番嬉しいのだ。
しばらく嬉しさの余韻に浸っていたかったが、それよりも先に聞くべきことがある。何故、彼女は婚約破棄をしたいのか。ちゃんとした理由がないと納得できないし、あったとしても納得はしない。
「わたくし、エル様以外に好きな方が」
と言われかけた時には、流石に許容できなかった。多分、僕からはエレアノールが耐えられないほどの殺気と冷気が漏れていただろう。危ない、本能を抑えないと。兄上に怒られてしまう。
僕以外に好きな奴がいないことを確認して、本当の理由を問い詰める。
……まてよ。僕以外に、ということは、エレアノールは僕のことを好きだと思ってもいいのだろうか? 考えすぎかな。もしこれで違ったら、辛くなるだけだ。
「先日、エル様が他の女性と仲良くしていらっしゃる姿を見てしまったのです」
エレアノールは目を伏せながらそう言った。その顔からは悲しさがにじみ出ている。彼女にそんな顔をさせた奴を絞めてしまいたい。いや、話の流れ的にそれは僕のことか。なら、僕を絞めたい。
ただ、心当たりがない。僕はエレアノール以外の女性に興味がないし、何なら彼女以外の顔の見分けがつかないくらいだ。自分自身、酷い男だとは思っている。
僕の反応が不満だったのか、エレアノールはむっと怒った顔を見せた。とても可愛らしい。泣かせたい。
「わたくし、エル様が別の方を好いているのに、エル様の婚約者であり続けたくないのです」
…………は? 僕が他の者を好いている?
この時、僕は彼女が大きな勘違いをしていることを知った。きっと彼女は、僕が別の女性と話している姿を見て、僕がその人を好きだと勘違いしたのだろう。勘違いも甚だしい。僕はその相手の姿すら思い浮かばないのに。
これは、エレアノールにちゃんと分からせる必要がありそうだ。僕は立ち上がって、彼女の隣に立った。そのまま彼女の柔らかく滑らかな頬を撫でる。彼女に触れていることに対する喜びで、このまま彼女に口づけてしまいたい。
直接彼女の髪に触れるのもいいのだけど、刺激しないようにリボンから触れることにした。僕の瞳と同じ、赤いリボン。まるで、僕がエレアノールを支配しているみたいだ。気分がいい。
「あの、エル様」
エレアノールが天使よりも美しい声で僕を呼ぶ。話が逸れたことを気にしているのだろう。初めから結果は決まっている。僕が彼女との婚約を破棄するわけがない。
一応、相応の建前を並べて説明しておいた。婚約破棄の手続きは本当に面倒だし、全て事実なことである。
諦めろ、と目で訴えていると、エレアノールは僕の顔を見上げて口を開いた。
「エル様は、わたくしにこうやって婚約破棄を提示されて、どう思われましたか?」
この彼女の問いかけで、大まかに理解した。
きっと、エレアノールは僕の気持ちを確かめるために、婚約破棄を言い出したのだと。本気で婚約破棄がしたいのなら、まず彼女の父親に話を通しておくべきだし、理由ももっと確実なものを用意しておくはずである。
まあ、全て無駄なことだ。僕は、絶対に君を逃がさないし、絶対に婚約は破棄しないのだから。
「僕は、君だけを愛している」「本当に申し訳ありません!」
…………ん?
初めてちゃんと口にした僕の告白が、エレアノールの謝罪に消されてしまった。
彼女は目を瞬かせて僕を見上げる。彼女はちゃんと聞いていなかったようだ。何だか悔しいような、虚しいような、そんな気分になる。もう一度言い直す気にはなれなかった。
まとめてエレアノールに確かめてみると、やはりそうだった。今までちゃんと愛を伝えてこなかった僕も悪いけど、こうやって疑われると悲しいものなんだな。
僕は彼女の赤いリボンに口づけて、彼女に微笑みかけた。顔を赤くする彼女を見ていると、今にも襲い掛かりたくなる。だめだ、流石に抑えないと。
「絶対に、婚約破棄はしない。逃がすものか」
エレアノールの薄い金色の髪を指に巻き付ける。僕は口元を歪めて、彼女が僕のものになるその日を思い描いた。
まただ。また、エレアノールは僕のことをエルと呼んでくれない。
不満が顔に出てしまったのか、彼女は慌てて言葉を正してくれた。良かった。これ以上彼女を怯えさせたくない。
「エ、エル様には、何も嫌う点はございません。エル様は、いつもかっこよくてお美しいです」
…………?
今の言葉は幻聴かな? エレアノールが僕のことを、かっこよくて美しいと言ってくれた気がする。エレアノールは気にした様子を見せていないので、僕だけが気になっているのだろうか。そうだとしても、とても嬉しい。エレアノールにかっこいいと言ってもらえるのが一番嬉しいのだ。
しばらく嬉しさの余韻に浸っていたかったが、それよりも先に聞くべきことがある。何故、彼女は婚約破棄をしたいのか。ちゃんとした理由がないと納得できないし、あったとしても納得はしない。
「わたくし、エル様以外に好きな方が」
と言われかけた時には、流石に許容できなかった。多分、僕からはエレアノールが耐えられないほどの殺気と冷気が漏れていただろう。危ない、本能を抑えないと。兄上に怒られてしまう。
僕以外に好きな奴がいないことを確認して、本当の理由を問い詰める。
……まてよ。僕以外に、ということは、エレアノールは僕のことを好きだと思ってもいいのだろうか? 考えすぎかな。もしこれで違ったら、辛くなるだけだ。
「先日、エル様が他の女性と仲良くしていらっしゃる姿を見てしまったのです」
エレアノールは目を伏せながらそう言った。その顔からは悲しさがにじみ出ている。彼女にそんな顔をさせた奴を絞めてしまいたい。いや、話の流れ的にそれは僕のことか。なら、僕を絞めたい。
ただ、心当たりがない。僕はエレアノール以外の女性に興味がないし、何なら彼女以外の顔の見分けがつかないくらいだ。自分自身、酷い男だとは思っている。
僕の反応が不満だったのか、エレアノールはむっと怒った顔を見せた。とても可愛らしい。泣かせたい。
「わたくし、エル様が別の方を好いているのに、エル様の婚約者であり続けたくないのです」
…………は? 僕が他の者を好いている?
この時、僕は彼女が大きな勘違いをしていることを知った。きっと彼女は、僕が別の女性と話している姿を見て、僕がその人を好きだと勘違いしたのだろう。勘違いも甚だしい。僕はその相手の姿すら思い浮かばないのに。
これは、エレアノールにちゃんと分からせる必要がありそうだ。僕は立ち上がって、彼女の隣に立った。そのまま彼女の柔らかく滑らかな頬を撫でる。彼女に触れていることに対する喜びで、このまま彼女に口づけてしまいたい。
直接彼女の髪に触れるのもいいのだけど、刺激しないようにリボンから触れることにした。僕の瞳と同じ、赤いリボン。まるで、僕がエレアノールを支配しているみたいだ。気分がいい。
「あの、エル様」
エレアノールが天使よりも美しい声で僕を呼ぶ。話が逸れたことを気にしているのだろう。初めから結果は決まっている。僕が彼女との婚約を破棄するわけがない。
一応、相応の建前を並べて説明しておいた。婚約破棄の手続きは本当に面倒だし、全て事実なことである。
諦めろ、と目で訴えていると、エレアノールは僕の顔を見上げて口を開いた。
「エル様は、わたくしにこうやって婚約破棄を提示されて、どう思われましたか?」
この彼女の問いかけで、大まかに理解した。
きっと、エレアノールは僕の気持ちを確かめるために、婚約破棄を言い出したのだと。本気で婚約破棄がしたいのなら、まず彼女の父親に話を通しておくべきだし、理由ももっと確実なものを用意しておくはずである。
まあ、全て無駄なことだ。僕は、絶対に君を逃がさないし、絶対に婚約は破棄しないのだから。
「僕は、君だけを愛している」「本当に申し訳ありません!」
…………ん?
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まとめてエレアノールに確かめてみると、やはりそうだった。今までちゃんと愛を伝えてこなかった僕も悪いけど、こうやって疑われると悲しいものなんだな。
僕は彼女の赤いリボンに口づけて、彼女に微笑みかけた。顔を赤くする彼女を見ていると、今にも襲い掛かりたくなる。だめだ、流石に抑えないと。
「絶対に、婚約破棄はしない。逃がすものか」
エレアノールの薄い金色の髪を指に巻き付ける。僕は口元を歪めて、彼女が僕のものになるその日を思い描いた。
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