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リベンジ
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次の日には本当に勉強が始まった。この前のカードが並べられ、一音ずつ発音を真似しろと強要して来る。父親の言う事は絶対なのか! そう言いたくなるくらい真面目に取り組んでいる。
サボろうと部屋を あちこちに逃げても必ず連れ戻された。
飽きたと目を閉じれば、その度起こされる。
ザブマギウムだと言っているけど所詮猫だよ。何でそこまでするの?熱心にカードを使ったりしてレクチャーしてくるマーカスに聞きたいものだ。
まとめるとこの国の平仮名に該当する。文字数は30字。
実際、声を出してみたが、どの言葉も『にゃ』で、全く音に変化がない。母音さえ発音できないなら可能性は無い。早々匙を投げた私と違って マーカスのヤル気は続いている。それから逃げる私と、マーカスの追いかけっこが始まった。そんな事が日常になってしまっている。マーカスは子供のくせに粘り強く私に文字を教える。
今日も捕まってしまった。
「はぁ~」
溜め息を重ねたら家が一軒建ちそうだ。半分寝ながら話を聞い
ると、コツコツとご主人様の足音に耳をピクピクさせる。
やった休憩だ。
ご主人様が来てくれることが、これほど 待ち遠しいとは、犬や猫の気持ちが解る。お出迎えしようとパッと床に降りる。
「あっ、待って」
脱走しようとしてると考えたマーカスが私を掴まえようとする前にドアの前に着いた。
脚を揃えて待つ。
ガチャ
ドアが開いてご主人様が入って来た。
『にゃ、にゃおん~』(ご主人様。会いたかったよ~)
すりすりとその足に体を擦り付けると、ひょいと抱きかかえられる。
「お出迎えありがとう。頑張ってるね」
頭を撫でてもらいながら もっとと、自分から頭を押し付ける。
人に触ってもらうのが嬉しくて堪らない。こう言うのは猫独特の気持ちなのかもしれない。
「どう 上手く行っているかい」
「はい。上手く行っています」
『にゃー、にゃあ、にゃ』(えー、何を根拠に)
自信満々に答えるマーカスに向かって文句を言う。すると、ご主人様が目を三日月にして私を見る。笑っていると、ころを見ると予想はついているみたいだ。喋れたら良いとは思う。だけど正直そこまで必要性を感じてない。
だって、目に見えて成果を感じられないものをやり続けるのは、苦痛でしかないから。
クスリと笑ったご主人様が楽しそうに私の顎の下を指で、こちょ、こちょと、動かす。
(もしかして……機嫌をとろうとしてるの?)
そう思っていたが、ご主人様が私を机に置く。
えっ? 勉強の続きをしろって事? えっ? ええー!
縋り付くようにご主人様の手を掴む。
確かに、多少の成果があった。
音として「あ」とか「い」とか母音は出せるようになった。
だけど、子音を混ぜると自分ではちゃんと発音していても聞きとってもらえない。
「か」も「さ」も「あ」にしか聞こえない。人間の喉と作りが違う。それが原因だと思う。音は出せても言葉を声を出すのと言うことは難しい。 それが私の出した結論だ。ご主人様も私が喋れると思っているようだが……。
正直自分的には無理だと思う。
前肢を体の前で合わせるとご主人様をウルウルした眼で見上げる。
『にゃにゃ、にゃあにゃ?』(可愛いだけじゃ、駄目ですか?)
猫として最上級の可愛い表情で首を傾げる。しかし、期待に満ちた目が私を見返す。まったく通じてない。チッと舌打ちするとガックリと肩を落とした。スパルタ部活に入った気分だ。
何かしらの結果を出さないと駄目なパターンだ。嫌がったら捨てられるかも。この家の暮らしになれた今では他に家になんか行きたくない。
となると……二人の内、どちらかが無理だと判断しない限り続く。
チラリと二人を見ると同じような顔で私を見ている。
「はぁ~」
諦めの溜め息をつく。
リチャードは噴出しそうになるのを必死に我慢した。仕草が もはや猫じゃない。人間だ。本気でガッカリしている。全身で表現している姿が可愛い。
***
ドミニクは連日の失敗の報告にゲイルを睨み付けながら、イライラと机の前を歩きまわる。
何度も何度も、ありとあらゆる手段を講じてザブマギウムか確かめろと言った。ただタぺタムがあるかどうか調べるだけなのに一度も成功しない。
そればかりだけでない。
この前は手下の一人が足に怪我して帰って来た。言葉ではなく行動で警告とは。全くあの小僧は食えない奴だ。だが、小僧が外部の人間を警戒するのは昔からだった。
それもこれも全て元嫁のエリザベートのせいだ。
でなければ今頃はとっくに分かっていた。
息子に虐待した事がバレて離婚させられたのに、今更母親面するとは愚か者にも程がある。
(どうにかしなくては……)
ゲイルたちは役に立たないし、今のところ他に方法もない。
諦めるか? ……否駄目だ。絶対諦めない。小僧に負けてなるものか!
力任せに机をドンと叩く。すると、その音にゲイルがビクリと身を縮ませた。無駄飯食らいが! 子供の頃から変わらない。何時まで経っても役に立たない。鼻たれ小僧のままだ。結婚もしていないのに、子守りなどうんざりだ。
子供……? そうだ。もうすぐ小僧の子どもの誕生日だったはず。
そのチャンスを利用しよう。脳裏に嫌そうな顔で私を見る小僧の顔が浮かぶ。
アイツは頭が良い。
使用人たちは警戒心が強い。その上、少数精鋭だ。もし計画が失敗しても首謀者がエリザベートだと思わせれば、たいして調べもしないで終結させるだろう。
それが命取りになるとも知らずに。ニヤリと笑うと素早く頭の中小僧を騙す計画を立てる。
「はっ、はっ、はっ」
自分の計画が完璧過ぎて恐ろしいほどだ。
「子供が喜びそうな包装紙を買って来い」
「はっ? 包装紙ですか?」
「いいから買って来い!」
聞き返して来るゲイルにムッとしてサッサと行けと手で払う。
何でお前に説明する必要がある。小心者は言われたことだけしてればいいんだ。しかし、それだけでは物足りないと考えてゲイルを呼び止める。
「待て」
***
マーカスに追いかけられて お疲れのリサを匿うことにした。
半分は私のせいでもある。
膝の上で丸まって すやすやと寝ている。その姿を見ているだけで満たされる。執務室に入ってきたニックが膝の上にいるリサを見て小さく首を振る。
仕事をサボってるとか、服に毛がつくとか、そんなことを考えているんだろう。だけど、このぬくもりが、重さが、柔らかさが、私を虜にする。
ここに住まわせたのも、よく知りたいと 人間の姿にするのも 私のエゴだ。何故だろう。何故そんなことをする?
(………)
撫でていた手が止る。変化が起きようとしている。
そんな予感がする。
そんなもの 望んでいないのに……。
『にゃあ!?』
どうしたの と 小首をかしげてみる 彼女に 何でもないと 首を振る。
「はぁ~」
困ったことになりそうだ。
***
今日はマーカスが前回(私と会ったことで)失敗したテストにリベンジするため お供としてテフィーナの森へ出発。
テストの内容はザランドルと言う薬草を採って帰る事。
(このザランドルは切り傷に効くらしい)
しかし、七歳の男の子を一人で森に行かせるなんて厳し過ぎると思うけど。バンドール家は森の守護者で、これも後継者としての修業の一環らしい。一緒に行くと言うとご主人様が、毛が汚れないようにと胴体に布を巻いてくれた。
こうすると完全にペットだ。汚れるよりはましだろうと受け入れた。
久々に森に入ったが、こうして緑に囲まれていると気がまぎれる。このところ勉強の方も上手く行ってなくてちょっと挫折していたから。母音が出るんだから、ある日突然喋れるようになるかもしれないと言うけれど……。
スポーツならそんな事もあるだろうけど……自信が無い。
そのなのに、覚えろと単語を書いた紙を色んな所にベタベタと貼られて息が詰まっていた。まるで受験生のようだ。受験勉強など、もう二度とやりたく無かったのに。
過ぎ去ったからこそ懐かしめるものだ。それが戻って来た。当時を思い出して辟易する。
せっかくの外出だ。首を振って嫌な事を振り払う。
「リサー!」
名前を呼ばれて顔を上げる。
マーカスが森の入り口で手を振っている。気づけば先を越されていた。トッ、トッ、トッと、リズミカルに走って後をおう。
マーカスの前を行ったり後ろを行ったりと、気ままに歩きながら一緒に森を進んでいるとマーカスが急に道をそれて何処かへ行ってしまった。何をしているのかと傍に行くと、そこには……。
サボろうと部屋を あちこちに逃げても必ず連れ戻された。
飽きたと目を閉じれば、その度起こされる。
ザブマギウムだと言っているけど所詮猫だよ。何でそこまでするの?熱心にカードを使ったりしてレクチャーしてくるマーカスに聞きたいものだ。
まとめるとこの国の平仮名に該当する。文字数は30字。
実際、声を出してみたが、どの言葉も『にゃ』で、全く音に変化がない。母音さえ発音できないなら可能性は無い。早々匙を投げた私と違って マーカスのヤル気は続いている。それから逃げる私と、マーカスの追いかけっこが始まった。そんな事が日常になってしまっている。マーカスは子供のくせに粘り強く私に文字を教える。
今日も捕まってしまった。
「はぁ~」
溜め息を重ねたら家が一軒建ちそうだ。半分寝ながら話を聞い
ると、コツコツとご主人様の足音に耳をピクピクさせる。
やった休憩だ。
ご主人様が来てくれることが、これほど 待ち遠しいとは、犬や猫の気持ちが解る。お出迎えしようとパッと床に降りる。
「あっ、待って」
脱走しようとしてると考えたマーカスが私を掴まえようとする前にドアの前に着いた。
脚を揃えて待つ。
ガチャ
ドアが開いてご主人様が入って来た。
『にゃ、にゃおん~』(ご主人様。会いたかったよ~)
すりすりとその足に体を擦り付けると、ひょいと抱きかかえられる。
「お出迎えありがとう。頑張ってるね」
頭を撫でてもらいながら もっとと、自分から頭を押し付ける。
人に触ってもらうのが嬉しくて堪らない。こう言うのは猫独特の気持ちなのかもしれない。
「どう 上手く行っているかい」
「はい。上手く行っています」
『にゃー、にゃあ、にゃ』(えー、何を根拠に)
自信満々に答えるマーカスに向かって文句を言う。すると、ご主人様が目を三日月にして私を見る。笑っていると、ころを見ると予想はついているみたいだ。喋れたら良いとは思う。だけど正直そこまで必要性を感じてない。
だって、目に見えて成果を感じられないものをやり続けるのは、苦痛でしかないから。
クスリと笑ったご主人様が楽しそうに私の顎の下を指で、こちょ、こちょと、動かす。
(もしかして……機嫌をとろうとしてるの?)
そう思っていたが、ご主人様が私を机に置く。
えっ? 勉強の続きをしろって事? えっ? ええー!
縋り付くようにご主人様の手を掴む。
確かに、多少の成果があった。
音として「あ」とか「い」とか母音は出せるようになった。
だけど、子音を混ぜると自分ではちゃんと発音していても聞きとってもらえない。
「か」も「さ」も「あ」にしか聞こえない。人間の喉と作りが違う。それが原因だと思う。音は出せても言葉を声を出すのと言うことは難しい。 それが私の出した結論だ。ご主人様も私が喋れると思っているようだが……。
正直自分的には無理だと思う。
前肢を体の前で合わせるとご主人様をウルウルした眼で見上げる。
『にゃにゃ、にゃあにゃ?』(可愛いだけじゃ、駄目ですか?)
猫として最上級の可愛い表情で首を傾げる。しかし、期待に満ちた目が私を見返す。まったく通じてない。チッと舌打ちするとガックリと肩を落とした。スパルタ部活に入った気分だ。
何かしらの結果を出さないと駄目なパターンだ。嫌がったら捨てられるかも。この家の暮らしになれた今では他に家になんか行きたくない。
となると……二人の内、どちらかが無理だと判断しない限り続く。
チラリと二人を見ると同じような顔で私を見ている。
「はぁ~」
諦めの溜め息をつく。
リチャードは噴出しそうになるのを必死に我慢した。仕草が もはや猫じゃない。人間だ。本気でガッカリしている。全身で表現している姿が可愛い。
***
ドミニクは連日の失敗の報告にゲイルを睨み付けながら、イライラと机の前を歩きまわる。
何度も何度も、ありとあらゆる手段を講じてザブマギウムか確かめろと言った。ただタぺタムがあるかどうか調べるだけなのに一度も成功しない。
そればかりだけでない。
この前は手下の一人が足に怪我して帰って来た。言葉ではなく行動で警告とは。全くあの小僧は食えない奴だ。だが、小僧が外部の人間を警戒するのは昔からだった。
それもこれも全て元嫁のエリザベートのせいだ。
でなければ今頃はとっくに分かっていた。
息子に虐待した事がバレて離婚させられたのに、今更母親面するとは愚か者にも程がある。
(どうにかしなくては……)
ゲイルたちは役に立たないし、今のところ他に方法もない。
諦めるか? ……否駄目だ。絶対諦めない。小僧に負けてなるものか!
力任せに机をドンと叩く。すると、その音にゲイルがビクリと身を縮ませた。無駄飯食らいが! 子供の頃から変わらない。何時まで経っても役に立たない。鼻たれ小僧のままだ。結婚もしていないのに、子守りなどうんざりだ。
子供……? そうだ。もうすぐ小僧の子どもの誕生日だったはず。
そのチャンスを利用しよう。脳裏に嫌そうな顔で私を見る小僧の顔が浮かぶ。
アイツは頭が良い。
使用人たちは警戒心が強い。その上、少数精鋭だ。もし計画が失敗しても首謀者がエリザベートだと思わせれば、たいして調べもしないで終結させるだろう。
それが命取りになるとも知らずに。ニヤリと笑うと素早く頭の中小僧を騙す計画を立てる。
「はっ、はっ、はっ」
自分の計画が完璧過ぎて恐ろしいほどだ。
「子供が喜びそうな包装紙を買って来い」
「はっ? 包装紙ですか?」
「いいから買って来い!」
聞き返して来るゲイルにムッとしてサッサと行けと手で払う。
何でお前に説明する必要がある。小心者は言われたことだけしてればいいんだ。しかし、それだけでは物足りないと考えてゲイルを呼び止める。
「待て」
***
マーカスに追いかけられて お疲れのリサを匿うことにした。
半分は私のせいでもある。
膝の上で丸まって すやすやと寝ている。その姿を見ているだけで満たされる。執務室に入ってきたニックが膝の上にいるリサを見て小さく首を振る。
仕事をサボってるとか、服に毛がつくとか、そんなことを考えているんだろう。だけど、このぬくもりが、重さが、柔らかさが、私を虜にする。
ここに住まわせたのも、よく知りたいと 人間の姿にするのも 私のエゴだ。何故だろう。何故そんなことをする?
(………)
撫でていた手が止る。変化が起きようとしている。
そんな予感がする。
そんなもの 望んでいないのに……。
『にゃあ!?』
どうしたの と 小首をかしげてみる 彼女に 何でもないと 首を振る。
「はぁ~」
困ったことになりそうだ。
***
今日はマーカスが前回(私と会ったことで)失敗したテストにリベンジするため お供としてテフィーナの森へ出発。
テストの内容はザランドルと言う薬草を採って帰る事。
(このザランドルは切り傷に効くらしい)
しかし、七歳の男の子を一人で森に行かせるなんて厳し過ぎると思うけど。バンドール家は森の守護者で、これも後継者としての修業の一環らしい。一緒に行くと言うとご主人様が、毛が汚れないようにと胴体に布を巻いてくれた。
こうすると完全にペットだ。汚れるよりはましだろうと受け入れた。
久々に森に入ったが、こうして緑に囲まれていると気がまぎれる。このところ勉強の方も上手く行ってなくてちょっと挫折していたから。母音が出るんだから、ある日突然喋れるようになるかもしれないと言うけれど……。
スポーツならそんな事もあるだろうけど……自信が無い。
そのなのに、覚えろと単語を書いた紙を色んな所にベタベタと貼られて息が詰まっていた。まるで受験生のようだ。受験勉強など、もう二度とやりたく無かったのに。
過ぎ去ったからこそ懐かしめるものだ。それが戻って来た。当時を思い出して辟易する。
せっかくの外出だ。首を振って嫌な事を振り払う。
「リサー!」
名前を呼ばれて顔を上げる。
マーカスが森の入り口で手を振っている。気づけば先を越されていた。トッ、トッ、トッと、リズミカルに走って後をおう。
マーカスの前を行ったり後ろを行ったりと、気ままに歩きながら一緒に森を進んでいるとマーカスが急に道をそれて何処かへ行ってしまった。何をしているのかと傍に行くと、そこには……。
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