私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰

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事件は大抵自分の知らないところで起こっている

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混乱していた頭が少しずつ機能を取り戻す。
今すぐ大声で、プロポーズされたと言い触らしたい。でも、やっぱり慎重に行かなくちゃ。
浮かれている自分を諌めると、もう一度確かめる。
「本当に・・本気ですか?」
「ああ、 本気だよ」
 今日は一体どんな日なの?目まぐるしくて、まるで次から次へと部屋のドアを開けてるみたいだ。

ロアンヌは最後に自分の頬を思い切りつねってみた。
「痛い・・」
夢じゃない。
その痛みで現実だと実感できた。
モテない私をバカにしていたのかと思っていたけど・・。あの質問は、本当は私に想い人がいるかどうか、確かめてたんだ。

「赤くなってる」
痛そうだと私の頬を優しく撫でているレグール様のその瞳には、困惑が浮かんでいる。でも、もっと困惑しているのは私だ。にわかには信じられない。
自分の事は自分がよく知っている。
一目惚れされるようなタイプの容姿
でない事は分かっている。

 何の取り柄もないし、色気もないし、 大人のレグール様にとっては子供っぽいだろうし、実家が取り立ててお金持ちというわけでもない。
レグール様にとってこの結婚は、伯爵としても、個人としても、得がない。
それなのに何故?

それに、何よりこのタイミングが可笑しい。人違いだと分かった同じ日に、プロポーズされたと言う事が疑惑を呼ぶ。
まさか、お父様のサプライズ?もしそうなら、とんだ茶番だ。
「もしかして・・お父様に・・」
真実が知りたい。その一心で レグール様をじっと見つめる。誤魔化さないで欲しい。
ここで言いよどむなら、きっと誰かに頼まれたに違いない。 

「えっ?いや、まだ伯爵の了解は貰ってない。先ずはロアンヌの気持ちを確かめてからと思ったんだか・・まずかったか?」
「・・・」
レグール様が、順番を間違えたかと困った顔で私の顔色を伺う。
狼狽している姿は本物だ。それなのに、何でこんなに納得できないんだろう・・。そうか。レグール様の言葉を信じ切れないのは、その理由を聞いてないからだ。

「一体、私のどこが好きなんですか? 初めて会ったその場でプロポーズするなんて、いくらなんでも突然すぎます」
そう言ってレグール様に詰め寄る。
本当に私を好きなのか確かな答えが欲しい。
すると、レグール様の 表情が一変して、元の余裕のある顔になる。
「覚えてないだろうが、私と君が会うのは初めてじゃない。ロアンヌは、小さかったから忘れてるだけだ。でも私は、大人だったから覚えてる」
「・・・」
幼いころ出会った?

 確かに小さい時の記憶は、あやふやな になっている部分もある。
5歳より後なら私が忘れてても、クリスなら覚えてるかもしれない。
クリスは記憶力が良いから、私の事なら何でも覚えてる。
「何歳の頃の話ですか?」
「あれは私が15だったから、ロアンヌが5歳の春の話だ」
5歳の春・・と言う事は、クリスと会う前の出来事だ。さすがに昔すぎて思い出せない。

 レグール様と何があったんだろう?
レグール様が今でも覚えてるということは印象深い出来事だったんだろう。
でも、 あの頃の私は、小石やドングリを宝物だと言って 山ほど持ち帰ってた。両親はそんな私が可愛らしかったと言ってたけど、本人にしてみれば 黒歴史だ。自分の事なのに、想像もつかない。

レグール様が、ニヤリと笑う。その笑みを見て嫌な予感がする。
(えー、その笑いは何?)
「私は・・何を・・約束したんですか?」
「・・・」
とんでもない約束をしたのかもしれない。ロアンヌは、それとなくレグール様に話して下さいと視線を送る。
しかしレグール様は無言を貫いて、教えてくれるそうにない。

そんなレグール様に焦れて食いさがる。
「もう!教えてください」
「そうだなぁ・・」
レグール様が顎を撫でながら、私を見ている。いったい何を考えてるの?その表情を見ても気持ちが伝わってこない。きっと必死な私を面白がってるんだ。それとも子供だからと、侮られて
いるのだろうか?このままうやむやにされるのは嫌だと考えていると、顎を撫でていたレグール様が、ぱっと私を見る。
「一人目の子供が産まれたら、その時に教えてやってもいい」
「こっ、子供?一人目?」

プロポーズの返事はまだしてないのに、レグール様の突拍子もない言葉にロアンヌは目を白黒させる。何で急に子供が出てくるの?
(一人目ってことは 最低でも二人は欲しいってこと?)

それにしても、子供が生まれたらって。それじゃあ私のどこが好きなのかも、どんな約束をしたのかも秘密にしたまま結婚しようと、言ってるようなものだ。
さすがに、それまでは待てない。こっちは今すぐ教えて欲しいのに。
「レグール様。ちゃんと教えてください」
「子供は最低3人欲しい」
「・・・」
冗談で私を煙に巻く気だ。全く、その手には乗らない 。
子供が生まれてしまえば、私が理由を知っても逃げないだろうと考えてるに違いない。その証拠にレグール様は悪い微笑みを浮かべている。

「・・子供は嫌いないのか?」
返事をしないでいると、レグール様が残念だと沈んだ面持ちになる。 私だって子供は欲しい。
誤解を正そうと慌てて否定する。
「ちっ、違います。欲しいです」
「それは、良かった」
「ですから、私が聞きたいのは」
「それで、 男の子と女の子、どちらが欲しい」
 「どちらって・・私としては一人ずつ」
脳裏にレグール様そっくりの 赤ちゃんの姿が浮かぶ。
(きっと男の子でも、女の子でも、どちらでも、可愛いにちがいない)

「って・・ 違います。話を逸らすさないでください」
「私は最初は女の子で、次の男の子がいい」
(最初が女の子?・・ そうか、弟の面倒をみるお姉ちゃんが いた方が子育ては・・)
約束を聞き出そうとする私を無視して次々と質問され、レグール様のペースに巻き込まれる。

「なっ、何を言ってるんですか。誤魔化さないでください」
「じゃあ、子供の名前はどうする?」
「えっ?どっ、どうするって、そんなこと急に言われても・・」
(そんなこと考えたこともない。でも、何がいいだろう?)
「男の子だったら私は、祖父の名前を付けたい。幼い頃に亡くなったが、 勇猛果敢な騎士だったらしい」
(そういえば、我が家でも話題に上がった事があった。お父様の憧れの人物だと言っていた)

「ええ、知ってます。・・ああ、もう!レグール様。私は」
「女の子ならロアンヌは、どんな名前がいいと思う?」
「そうですね。私は・・」
目上の人の話には礼儀正しく答えるように躾けられてきたから、無意識に受け答えしてしまう。
「って、違います」
「まぁ、 子供は授かりものだから、生まれてからのお楽しみだな」
そう言ってれんグール様が、まるで妻が妊娠した夫のように、生まれてくる子が楽しみだと柔らかく私に向かって微笑む。その笑顔にロアンヌは、その通りだと頷く。
「そうですね。私は元気なら、男の子でも女の子でも構いません」
和やかな空気が流れるなか、お互いに見つめ合っていたが我に返る。

 このままでは駄目だ。何としても自分のペースにしないと。 そう思ってるのにレグール様が話しかけ続けてきて、私に付け入る隙を与えない。
「レグール様。話を」
「婚約式だが、ロアンヌの家でしようと思う」
「えっ、私の家ですか?」
突然の話題変更に戸惑いながらも自宅の広間を思い出して、何人ぐらい招待できるか計算する。
婚約式は二人が結婚するという事を 内外にお披露目するためのものだ。だから、事実上の結婚式という人もいる。その大切な婚約式を我が家でできるなら嬉しいことはない。

「その代わり、結婚式は我が家でやる」
「それは構いませんが、お父様に相談・・」
思わず自分も真剣に考えていたことに気づいてハッとする。
ロアンヌは手足をばたつかせて、話を止めさせようとする。
「いい加減」
「婚約期間は、半年でどうだ?」
「半年ですか?」
 無理ではないが、短い気もする。結婚準備に数年をかける家も珍しくない 。その一方で1月で結婚する家もある。どちらもその家の事情次第だ。我が家はどうだろう・・。

「私は1日でも早く、ロアンヌの花嫁姿が見たい」
「ううっ」
ウェディングドレスを着るのは私の夢だった。いつか自分も着たいと結婚式をみるたび思っていた。
それが着れると思うと・・。
「きっと世界一の花嫁になる」
「っ」
ああ、もう!
目を細めて、そんなことを言われたら完全にノックアウト。

きちんと説明してほしいのにレグール
様は理由をうやむや にする気だ。
それでも実際、レグール様との二人の未来が 次々と頭にそのシーンが浮かんでくると、気分が高揚する。
そんな事を想像してる自分に気づいて、小さく息を吐く。
好きな理由も約束も何一つ解決されていないのに、私はレグール様と結婚したいんだと自覚する。

だってレグール様は、クリスじゃなくて『私が』良いと言って、選んでくれたんだもの。
私にとっては十分な理由になる。
そして、私に希望を与えてくれた。

** 事件はたいてい 自分の知らないとこで起きている**

ベッドと家具がわずかにあるばかりの質素なアルフォート伯爵邸にある使用人部屋。
そこで、クリスと同室のディーンは、
ベッドに 足を投げ出して兵法の本を読んでいる。
このまま使用人として一生終わるのは嫌だ。割のいい仕事について、両親たちを楽にさせたい。
昔は、どの伯爵の家でも私兵がいた。しかし平和な今では、どの家も私兵を召し抱えていない。だから、王都の近衛兵になると決めた。実技の方が自信があるが、筆記の方は・・。

それで少しでも勉強しようと思って本を読んでいると、小さくてせっかちな足音が聞こえてくる。
おやと思って本から顔をあげる。
(クリス?)
ロアンヌ様を追いかけて山へ出かけてからまだ 3時間も経ってない。
喧嘩でもしたのか?

そう思っていると慌てた様子のクリスがドアを開けると、一直線に俺のベッドに飛び込んできた。
「どっ、どうした?」
起き上がったクリスが、四つん這いで俺に向かってくる。なぜ獣のように、こっちに来るんだ。
(なっ、なんだ?)
近寄るなと、本能で手を突き出して止めようとすると、その手を払いのけられた。しかも、 鼻がくっつくほど顔を近づけてくる。 引きつった顔が怖い。
(近い。近い)

「見逃した!」
それだけ言うとクリスが 頭を抱えてベッドに顔を押し付ける。
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