私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰

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青天の霹靂 余裕が焦りに変わるとき

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レグール様から書簡が届いて有頂天になっていたが、お父様の言葉にハッとする。
「お前の口から レグールの話は一度も聞いたことがないし、歳も離れている。それなのに突然結婚の申し込みに来たからだよ」
「っ」
不味い。サーッと血の気が引く。
お父様の質問はまさしくその通りで、会ったのは1回きりだし、私たちのやりとりを知らないから突然のことに驚くの当たり前だ。

初対面なのにプロポーズしてきたなどと言ったら、軽薄な男と思われるかもしれない。
そしたら折角の求婚を反対されるかも・・。
会った事を今まで黙っていたことも後ろめたいし、お父様の断りなく既にプロポーズを受けたとは言えない。
でも、何と答えたら安心してくれるだろう。
困ったことになってしまった・・。
この際正直に話した方が・・・。でもどこから?どこまで話すの?迷うところだ。

「・・・」
お父様の機嫌を伺うように、そっと盗み見る。どうしよう・・。
何一つまともに答えられない自分が情けなくて、唇を噛み締める。
(ああ、もう!私の馬鹿)
浮かれすぎてた。こんな事なら子供の数の話じゃなくて、打ち合わせをしておけばよかった。
話すにしてもレグール様の許可を取ってからの方がいいだろう。
お父様達は気難しい人間ではない。
でも私の一言で、レグール様との関係が拗れるかもしれない。
それだけは、一番避けたい。

「ロアンヌ。聞いているの?」
お母様が早く返事をしろと 急かしてくるが、告白して良いものか、悪いものか、踏ん切りがつかない。
「本人が言いたくないことを無理に聞くのはいけないよ」
お父様が責めるものじゃないと、お母様の太ももを叩いて止める。
「あなた!」
お母様が甘やかしすぎだと 怒るが お父様は素知らぬ顔だ。
ロアンヌは、ありがとうとお父様に目配せする。
こんな突然の縁談話。相当面食らっただろう。それなのに、私を信じて 根掘り葉掘り聞いてこないお父様に心から感謝する。

お母様をなだめていたお父様の目が、 まっすぐ私を射竦めるかのように見る。その視線にゴクリと唾を飲み込む。私が真剣かどうか試している。
厳しい視線に目を逸らしたくなる。
けれどロアンヌは、その視線を真っ正面から正々堂々と受け止める。
後ろめたい事も 迷いもない。
すると、ふっとお父様の視線が和む。

「ところで、レグールとの結婚は本当に受けるのかい? 後悔しないね」
「もちろん。結婚するわ!」
絶対後悔しない。
これを逃したら、私に次は無い。
椅子から立ち上がって元気よく即答すると、お母様がレディー らしくないとこめかみを押さえ、お父様が笑い出した。
「分かった。分かった。ロアンヌの気持ちは充分伝わったよ」
「はい・・」
しまったと、自分のとった行動に気付いて、 慌てて着席する。恥ずかしさに顔が熱い。気合が入りすぎてる。

「縁談を受けると返事をしておくよ。でも、本当に良いんだね」
「いいわ」
念を押してくるお父様に、ロアンヌは大丈夫だと何度も頷いた。
するとお母様が、心配げに話に割り込んでくる。
「レグールは、あなたより十歳も年上なのよ」
「知っているわ?」
どうしてわざわざ確認するのかしら?そう言うお母様も、お父様と7才歳が離れている。7歳も10歳も大して変わらないと思うけど・・。
「・・気にならないの?」 
「ええ」
お母様がどうして年の差にこだわるか分からない。

小首を傾げているとお父様が仲裁に入った。
「まあいいじゃないか。結婚式まで時間があるんだから」
「あっ、待って!」
お父様の言葉に、大事なことを忘れていたこと思い出した。レグール様も早く結婚したいみたいだし・・。 
お願いしても大丈夫だろう。

「なんだ。断るのか ?」
「そうじゃなくて・・」
首を横に振って返事をする。私が言いたいのは別のことだ。言おうかどうか考える。
「ちょっとした・・お願いと言うか・・何と言うか・・」
自分のささやかな夢だけど言い出しにくい。子供っぽい理由だと怒られるかも。迷う私に、お父様が話しなさいと促す。
 「結婚は一生の事だから、言いたい事があるなら言った方が良い」
お父様の言う通り一生に一度のことだもの。我が儘のひとつくらい叶えてもバチは当たらない。

 叶えてくれるならと口にする。
「あのね・・17歳で結婚したいの。駄目・・かな?」
「「?」」
なぜ17に拘るのか分からないと、両親が揃って首をひねる。
従姉妹も知り合いの令嬢たちも12、3歳で正式な婚約をしてから、15、6歳で結婚している。私も、そうしたい。それなのに、どうして娘の気持ちに気付かないの?
そのことに苛立つ。

「だから、18歳の誕生日の前までに結婚したいの」
17歳で結婚するのと、18歳で結婚するのでは、天と地ほどの差がある。 (18歳なら、子供がいてもおかしくない年齢だ)
「どうして?」
「どうしてって・・ 十八歳は、行き遅れの響きがあるもの」
私の言ってる意味が、ピンとこない両親の鈍感さには困り果てる。
自分の娘が、行き遅れのレッテルを貼られてもいいんだろうか?
私は嫌だ。 みんなと同じように結婚したい。これ以上は譲れないと、妥協案を出す。
 「・・それが駄目なら、婚約式だけでも早くしたい」

「何だ。そんなこと。まったく、ビックリさせないで。私はてっきり他の事かと思って、心配したわ」
「そんなことって!私は大事なことよ」
お母様が、そんな反応をするのは、自分が 手順を踏んで結婚したかだ。 
17歳で婚約もしていない私の気持ちなんか想像もつかないんだ。
どれほど他の人を羨んだことか。
私にも早くそんな日が来て欲しいと思っていた。

 それなのに水を差すお母様にむっとして頬を膨らませる。
そんな私にお父様が、 微笑んで分かったと頷く。
「レグールも30近いから、早いに越した事はないだろう。先方にそう伝えるが 、スペンサー伯爵が駄目だと言ったら諦めるんだぞ。いいね」
「ええ、分かったわ」
 ロアンヌはこくりと頷く。結婚は一人だけのものじゃない事は知っている。隣で聞いていてお母さんが指折りながら考え込む。
「そうなると、あと10ヶ月・・。大丈夫かしら?時間が足りないわ」
「大丈夫。私も手伝うし、お母様しっかり者だから」
よかった。

お母様も賛成してくれたから、いよいよ結婚式に向かってスタートだ。
計画を練り出したお母様の頬に、大袈裟に派手な音を立ててキスする。
「お母様。大好き」
 「ロアンヌは、たったひとりの子供だ。どんな願いでも叶えてあげるよ」
「ああ、お父様。大好き」
お父様に抱きついて、お母様と同じく頬に派手な音を立ててキスすると、お母さんが呆れたように私の額をつつく。
「まったく、この子は」
「えへへっ」
懐かしかさに額に手をやる。子供の頃のように、はしゃいでしまたった。

お母様が笑いだしたので、つられて私も笑い出しすとお父様も笑う。
久々に3人で心から笑いあった。
こんな時間もあともう少し・・。
レグール様が式は半年後と言っていたけれど、私としてはもう少し両親と過ごす時間が欲しい。結婚すれば簡単には、顔を見れなくなく。
 だから今のうちに、いっぱい甘えよう。


弾むように部屋を出て行くロアンヌの 後ろ姿を二人は微笑んで見送る。

結婚の申し込みは来るが、全部クリスをロアンヌと勘違いしての話ばかりで、そのたびに娘が傷ついているのが不憫で仕方なかった。
だからこの話が来た時も、大して期待していなかった。
それがどうやら、そうでもないらしい。とうとうロマンスの花が咲き、良い結果を迎えられそうだ。


** 青天の霹靂 余裕は焦りに変わる**

「疲れ・・。早く休みたい」
 仕事終えて部屋に戻ってきたディーンは、ドアを開けたと同時に 何かがぶつかってきてる。
「なっ、何だ?」
下を見るとクリスが腰にしがみついている。びっくりしたが所詮クリス。
中型犬が ぶつかった程度だ。 

いきなりタックルしてくるなんて、悪ふざけが過ぎると引き離そうとするとクリスが服をつかんで離さない。
「クリス。 いい加減にしろ」
そして、クリスがしがみついたまま 一方的に捲し立てる。
「やばいよ。やばいよ。どうしてくれるんだ!」
ディーンはクリスの手を服から強引に引き剥がすと、はみ出てシャツを元に戻す。

クリスのヤバいは日常茶飯時。クリスの喋りは劇場型で、自分の感情を優先で話し出すため、こちらが脳内で補足変換しないと何を言いたいのか理解できない。 付き合いは長くても さすがにこれだけじゃ無理だ。
「何が?」
「決まってるだろう!ロアンヌに結婚の申し込みが来たからだよ。しかも、僕宛じゃなくてロアンヌ本人にだ!」
「・・・」
その話は俺も聞いてる。

今まで確かに全部クリスと勘違いしての申し込みだったけど・・。
しかし、その言い方は酷いだろう。
最後の『本人にだ』には悪意を感じる。 大好きだと言ってるくせに、なぜ騒ぐ。 素直にロアンヌ様の幸せを喜べばいいの、全く何を考えてるんだか、ついていけないと首を振る。
「いい事じゃないか。相手は伯爵だし」
 スペンサー伯爵のレグール様から結婚の申し込みが、正式にあったらしい。

「はぁ?伯爵が何だって?」
やさぐれた表情でクリスが、こっちを見据える。目がいってる。その目つきに、しまったと顔を逸らす。
クリスの地雷を踏んでしまった。
男爵家の三男なのを気にしているんだった。同じ貴族でも男爵は下級貴族だ。だから、クリスは使用人としてこの伯爵の家で働いている。

これ以上絡まれたくない。横を向いて視線を合わせないようにした。
後はクリスの機嫌が直るまで待つしかない。それまで、どんなことを言われるのかと構える。しかし、代わりに鼻をすする音が聞こえてきた。驚いて視線を向ける。
「ううっ・・」
「この世で一番ロアンヌを好きなのは僕だって知ってるくせに、どうしてレグールとの結婚を喜ぶんだよ。親友だと思ってたのに・・ううっ・・」

さっきまでと打って変わって、クリスがめそめそと泣き出した。
もういい年なのによく人前で泣けるものだ。容姿もそうだが、得意な事といい、性格といい、これほど男らしくないという言葉が無縁な男を見たことが無い。

クリスの気持ちは解るが・・
せっかくの結婚話に水を差すのはロアンヌ様が可哀想だ。スペンサーと言えば名門貴族。普通に考えれば、男爵の三男に嫁ぐより伯爵家の方が断然いい。
「・・・」
「ディーン。どうすればいいんだよ。どうすれば、ロアンヌの結婚を止められる?」

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