私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰

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相手に似合う自分になる努力は 自分のため

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レグール様が私に何か教えて下さると言うので、どんな事かと 胸躍らせていたが、まさかあんな事を言ってくるとは思わなかった。


「そうだなぁ~、恋人たちの口づけとか?」
「っ」
そう言って、スッと視線を私に向ける。ロアンヌは 口づけという言葉に頬がカッと赤くなる。
ロマンス小説で キスシーンは何回も読んだが、詳しいことは知らない。結婚式の誓いのキスとは違うとメイドが言っていた。

何時か経験したいと夢見ていたけれど、いざ 現実になると恥ずかしさに目が合わせられない。
動揺して目を泳がせている私の顎をレグール様が、くいっと持ち上げられた。それと同時に顔が近づいてくる。 レグール様とは2回しか会ってない。まだ早いと思いながらも、拒むことが出来ない。心の奥底では、それを望んでいる自分がいる。
言葉でも書簡でもなく。彼の者だという証拠が欲しい。 そうすれば、レグール様の手を離さなくて済むと考える怖がりで狡い私がいる。

心の準備ができてないうちに、どんどん近づいてくる唇から目が離せない。
(どっ、どうしたらいいの?目は閉じるの? 息をどうやって吸うの?)
あんなに沢山、ロマンス小説を読んだ
のに、頭が真っ白で何も思い出せない。 レグール様が首を傾けると直ぐに
自分の唇にレグール様の唇が押し当てられる。押し当てられたレグール様の唇の柔らかさと 温かさが、唇から伝わる。唇が離れると 無意識に止めていた息を吐いた。そんな私を見てレグール様が静かに微笑んでいる。

これで終わり?緊張したけど、これなら楽しんで何回もできる。
するとまた、レグール様が 唇を重て来る。でも、さっきとは明らかに違う。
お互いに、相手の唇を自分の唇で挟んでる。上唇、下唇と 交互に重なり引っ張られる。時に優しく、時に激しく。 
気づけば自分も同じ事をしていた。 
ドクドクと心臓の音が耳元で聞こえる。息が苦しく、立っているのもやっとだ。崩れ落ちそうになった私をレグール様が 抱きとめてくれた。

レグールは自分の腕の中で、ぐったりしているロアンヌの真っ赤に染まった頬を満足気に指で撫でる。 本当はもう少し待つつもりでいた。 でも、ロアンヌの前だと理性より本能のままに行動してしまう。 私の身勝手の行動を 受け入れてくれてロアンヌが可愛くてたまらない。レグールは 衝動的に掻き抱く。
(私の可愛いいフィアンセ)

** 相手に似合う自分になる努力は 自分のため**

ロアンヌはクローゼットから、次々とドレスを出しては、『まるで家庭教師が着るみたいだ』、『これは叔母が着ていたのに似ている』と、駄目だとその場に放り投げる。
気づけば足の踏み場がなくなるほど、
ドレスが捨てられている。
デザインだけでじゃない。どれもこれも 深緑や濃紺など 地味な色ばかり。
クローゼットを見ると空っぽになっている。 1着も残ってない。
そんな 現実を目の当たりにして、その場にへたり込んだ。
(もっとこれからの事を考えていれば・・)

今朝レグール様から 近々、両親に挨拶に行くという旨の書簡を送ったと聞いて有頂天になっていたが、よそ行きのドレスとして着れるものが全然ない。
山へ着ていくドレスは トゲや岩があるから機能性重視で、地味でも問題なかったけど・・。
よく見るとほつれてすらいる有様だ。
私なにしてたの?
自分のことは後回しにして クリスの服ばかり仕立てていたから、自分のドレスはほとんど仕立てて無い。

何を着ても私よりクリスの方が似合ってた。 そんなことが度重なり、 自分はどんな服を着てもクリスに負けると諦めた。
でも本当は負けることが怖かった。
どんなに着飾っても 隣にクリスがいれば滑稽なだけ。 だから目を背けて、最初から目立たないように地味な服を着てクリスの引き立て役に徹した。
そして、クリスを自慢するように連れ回した。そうやって、みんなの視線をクリスに向けさせて自分のプライドを保っていたのだ。

クリスは人形のように美しい。 
人形に人間が敵うはずがないと 自分に言い聞かせていた。
クリスのその美しさが私を苛む。 
だけど妹のように私を慕うクリスを 遠ざけることが出来なかった。

ロアンヌは鏡に映る自分に向かってため息をつく。
「はぁ~」
 いくら髪型を変えても 化粧をしても、 鏡に映る私はちっとも綺麗にならない。どうして神様は、クリスの美しさのひと欠片でも私に 分け与えてくれなかったんだろう・・。
 レグール様がくれた自信がクリスの美しさの前にパラパラと崩れていく。
 
「どうしたらいいの?」
このままでは レグール様に愛想をつかされてしまう。鏡に映る私に向かって訪ねてみる。
「努力するだけです」
途方に暮れている私に、突然聞こえた背後からの声に驚いて振り返ると いつのまにか侍女のアンが立っていた。
「アン!」
アンがツカツカと私のところまで来ると、私の両肩を掴んで 鏡に向かわせる。鏡に映る情けない表情の私と違って、アンには強い意思がその目に宿っている。

「ロアンヌ様。美しさは努力でいくらでも手に入るのです」
「いくらアンの言葉でも信じられないわ」
 アンがそう言って諭す。
いつもなら納得できるが 、今の私にはただの気休めにしか聞こえない。
とても信じられない。
アンの視線を避けるように俯いて首を振る。努力で美しさが手に入るなら、 この世に綺麗じゃない人が一人もいなくなってしまう。 
そんな事はあり得ない。

「ロアンヌ様のすぐそばに、それを成し遂げた人がいます」
「傍・・もしかして・・お母様?」
前を向けと言うように、私の肩を掴む手にぐっと力がこもる。その力に押し上げられるように顔をあげた。
ロアンヌは鏡に映るアンに尋ねた。
「そうです」
アンが重々しく頷く。しかし、ロアンヌは信じられないと 顔をしかめる。
ロアンヌの知っているお母様は、いつも美しく気品に満ちていて、優しい笑顔を浮かべている。
髪型も服装もおしゃれだ。そのお母様が私みたいな地味な娘だったなんて、 想像もつかない。

「嘘だわ。 物心ついたときからお母様は素敵だったもの」
「ですが、事実です。この私が言うんですから」
アンがそう言って、どやと胸を張る。 
「・・・」
アンは元々お母様の侍女としてこの家にやってきた。信じられないが、そのアンが言うのだから事実なんだろう。 でも今の姿からは 微塵も感じられない。

「アンはいったいどんな魔法を使ったの?」
「髪を何百回もブラッシングしたり、 肌が白くなるよパックしたり、 ありとあらゆる事をしました。鏡に向かって、伯爵夫人として 客を迎えるための笑顔の練習もしましたね」
ブラッシングとか 美白は自分でも思いつくけど。笑顔の練習は目から鱗が落ちる。見た目だけでなく。所作にも気を使うことで・・。
 (なるほど・・)

アンが、かつてを思い出すように遠い目をする。二人三脚で立派な伯爵夫人になるための努力をしてきたのだろう。そう言えば・・お母様が 夜会に着ていくドレスのアドバイスをアンに受けていた事があった。
結婚したら夫の親戚や 知り合いたちとも上手くやっていかなくてはいけない。中には初対面の人もいる。緊張してうまく笑えないのは当然の事だ。

「ああ見えて奥様は昔から人見知りだったんですよ。旦那様と結婚したときは、 あんな大しい娘に伯爵夫人が務まるのかとかと、心配されたものです。ですが奥様は見事、陰口を叩いてた者を ぎゃふんと言わせました。ふっふっ」
「そうなんだ・・」
 アンが珍しく声に出して笑っている。
 余程腹に据えかね事件があったんだろう。自分の仕える主を悪く言われるのは、侍女のアンにとって自分の事のように腹立たしいだろう。 その時のことを思い出してるのか 目つきが怖い。
それに、あの笑顔。
何をしたんだろう。 聞くのが怖い 。

でも、それなら私にも魔法をかけてくれるかも。
(私の理想の美女といえば・・)
 「・・だったら、私もお母様・・ううん、 クリスみたいに綺麗になる?」
そう聞くとアンが、あらさまに嫌な顔をされてびっくりした。
どうして?お母様も綺麗だけど、 私の知る限り一番綺麗なのはクリスだ。
「クリスはクリス。ロアンヌ様は、ロアンヌ様です」
「・・・」
アンが両手を腰に当てて 出来の悪い子供のように 諌めてくる。

アンの言う通りだ。
元々、生まれながらに持っているものが違うんだから、 いくら磨いてもガラスがダイヤモンドにはならない。
だったら努力する意味は無い・・。
「私はクリスみたいに、綺麗にはなれないのね・・」

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