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後輩
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しおりを挟む何度目かのコール音の時に、威が携帯を忘れたと言っていたことを思い出す。
「……どうしろって言うんだよ、千明の奴…」
手の中のチケットを見つめ、仕方なしに剣道場へと向かった。
あと10分で予鈴が鳴り始めるのを、携帯画面で確認しながら剣道場の扉を開ける。
ギィ…と小さな音が響く。
「…もう、いないか?」
ガランとした剣道場を見渡し、誰もいないことにほっとする反面、どこか残念な気持ちも沸き起こる。
ひんやりとした空気が気持ちよくて、葉人は一歩剣道場の中へと足を踏み入れた。
体育で使わない限り、入ることのないその場所は、剣道の道具や辺りに染み込んだ汗等のせいか、独特の臭いがする。
「……」
すん…と鼻を鳴らす。
男と言うよりはむしろ雄の臭いだ。
光彦や司郎から臭いたつ、情事の最中に臭ってくるどこか酸い臭い…
肺に一杯吸い込むと、体の奥がじん…と痺れる。
「───」
「──」
「────」
微かな会話に、閉じといた目を開ける。
奥にある空手道部のロッカー室からのようだった。
「────」
「──」
キシ…と、思いの外音の響く床に戸惑いながら、ロッカー室へと向かう。
声は次第に大きくなり、微かに開いた扉の前に立った時、葉人ははっと息を飲んだ。
「──は…っせ、んぱいっ…も…」
「まだだ」
「だ…って…ぁっ、授業…んっ…」
わずかに開いた隙間から、ロッカーに押し付けられて喘ぐ悠哉の、紅潮した顔が見える。
何をしているか、一瞬で理解出来る悠哉の恥態に、葉人の身体中の血の気が引いた。
「や…んっ激し…ああぁ!」
「…悠哉っ外に聞こえるっ」
赤く艶やかに唾液で光る唇を、後ろから伸びた手が塞いだ。
ゴツゴツとした、男らしい少し大きめの手…
「…っ」
思わず上げそうになった声を、口を押さえることでなんとかこらえた葉人は、ふらりと一歩後ずさった。
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