放課後教室

Kokonuca.

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後輩

9

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 何度目かのコール音の時に、威が携帯を忘れたと言っていたことを思い出す。 
「……どうしろって言うんだよ、千明の奴…」 

 手の中のチケットを見つめ、仕方なしに剣道場へと向かった。 


 あと10分で予鈴が鳴り始めるのを、携帯画面で確認しながら剣道場の扉を開ける。 
 ギィ…と小さな音が響く。 

「…もう、いないか?」 

 ガランとした剣道場を見渡し、誰もいないことにほっとする反面、どこか残念な気持ちも沸き起こる。 
 ひんやりとした空気が気持ちよくて、葉人は一歩剣道場の中へと足を踏み入れた。 
 体育で使わない限り、入ることのないその場所は、剣道の道具や辺りに染み込んだ汗等のせいか、独特の臭いがする。 

「……」 

 すん…と鼻を鳴らす。 

 男と言うよりはむしろ雄の臭いだ。 

 光彦や司郎から臭いたつ、情事の最中に臭ってくるどこか酸い臭い… 
 肺に一杯吸い込むと、体の奥がじん…と痺れる。 



「───」 
「──」 
「────」 

 微かな会話に、閉じといた目を開ける。 
 奥にある空手道部のロッカー室からのようだった。 
「────」 
「──」 

 キシ…と、思いの外音の響く床に戸惑いながら、ロッカー室へと向かう。 

 声は次第に大きくなり、微かに開いた扉の前に立った時、葉人ははっと息を飲んだ。 

「──は…っせ、んぱいっ…も…」 
「まだだ」 
「だ…って…ぁっ、授業…んっ…」 

 わずかに開いた隙間から、ロッカーに押し付けられて喘ぐ悠哉の、紅潮した顔が見える。 

 何をしているか、一瞬で理解出来る悠哉の恥態に、葉人の身体中の血の気が引いた。 

「や…んっ激し…ああぁ!」 
「…悠哉っ外に聞こえるっ」 

 赤く艶やかに唾液で光る唇を、後ろから伸びた手が塞いだ。 
 ゴツゴツとした、男らしい少し大きめの手… 

「…っ」 

 思わず上げそうになった声を、口を押さえることでなんとかこらえた葉人は、ふらりと一歩後ずさった。


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