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しおりを挟む轍のある道はこの雨でぬかるんで、オレの足跡を点々と残してしまうことに気が付いて、少しだけ森の中に入ってそちらを歩くようにした。道のすぐ傍なら森の奥のように木々が詰まっていないし、迷うこともないだろうから。
けれど、真っ平ではないとは言えきちんとした道と木の根が自由気ままに伸びる森の中では歩く勝手が違いすぎて、安全な場所を探しながら注意して歩くと、少し進んだだけで息が上がる始末だった。
葉が頭の上を覆っているから、町中よりは雨に打たれることはなかったけれど、その迷いすぎた町中でオレはぐっしょりになってしまっていて、薄いシャツが肌に貼り付いて震えそうなほどに寒い。
さっきまでクラドの腕の中で、熱い手からの愛撫を受けてあんなに温かかったのに……と、腕の中の温もりを縋るように抱きしめる。
幸い、ヒロはオレの上着とスリングのお陰で寒い思いをしていないようで、転びそうになっても健やかな寝息を立てていた。
「よかった……ごめんな、早く雨宿りできそうなところ見つけるからな」
乳を飲む夢でも見ているのか、ヒロは小さな口を尖らせてムニュムニュと言葉にならない言葉を漏らしている。
その幸せそうな寝顔に勇気を貰って歩き出すオレの耳に、雨の音以外の音が響いてきたのはそんな時だった、雨が葉に当たって弾ける音と自分の不規則な足音以外聞こえなかったのに、その音は突然間近で響いた。
────パキ
小さな小枝が踏まれて折れる音だ。
森には小さな枝が無数に落ちていて、ほんの少し歩いただけでも幾つも幾つも踏み折ってしまうほどだ。
なのに、それは一度だけ、小さく聞こえただけだった。
ぞわりと体中が寒気以外で粟立って、とっさに走り出していた。
足元が悪いからあれほどゆっくり歩こうとしていたのに、頭とか心じゃなくて本能が逃げろって警告する。
「 ゃ」
ナニか が、いる。
オレの足音に紛れているのか、先程のように小枝を折る音は聞こえない。
けれど、確実に気配だけは忍び寄ってくる。
おぞましい、
ナニか、
それが暗い森が見せたただの幻覚だったらどれほどよかったか。
それは明らかに質量を持っているし、明らかにこちらに向けて何らかの感情を向けている。
本能で感じる……これは、捕食される恐怖だ。
「森 もり!外に出たら……」
せめてもう少し開けた場所に出たなら、追いかけてくるナニかも諦めるかもしれないと、弾む息を飲みこみながら左手に見えていた道に戻ろうとして目を疑った。
「みち どこ 」
確かに左手に見えていたし、道に迷ってはと森には深く入らないようにしていたはずだった。
ぶる と体が震える。
逃げている間にまったく違う方向にきてしまったのか?
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