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しおりを挟む細長く、頼りないように見えるのに執拗に追いかけて絡みついてくるために、幾ら払っても払っても意味がない。せめて切り落とすことのできる刃物でも持っていれば と思うものの、何も持っていないのは小枝を振り回している時にわかっていることだ。
「くる なっ!」
そう叫んでみたが相手に聞こえているのか、そもそも言葉が通じるのかすらわからず、逆にオレの声でびっくりしたのかもぞもぞと動き出していた腕の中のヒロが小さく声を上げた。
一瞬、触手がその声に反応したのが見てとれて……
「やっ ヒロ、ヒロに手は 出っ 」
体が酷く揺さぶられて驚いたのか、小さい体からは考えられないほど大きな泣き声が響き渡る。
力強いそれは応援してくれているような、そんな雰囲気を持っていて、ぐっと奥歯を噛み締めてヒロに伸ばされようとしていた触手の一本を掴み上げる。
払うのではなく引っ張ってみたらどうだろう と、魔が差した。
肉が溶けてぐずぐずの死体なのだから、引っ張れば千切れるかもしれない と。
その感触の形容をオレは知らない。
今まで感じたことのない手触りが触手を掴んだ辺りから広がって、何かを引き抜くのとも引き剥がすのとも違うぶちぶちとした湿っぽい感覚がして、一瞬で体中が総毛立った。
釣られたのか辛うじてリスの形を留めていた皮が崩れて、黒い触手の塊が流れ出す。
「────ひ 」
溶けたクラゲのような、じゅるじゅると音を立てて動くモノが、皮が破れたことに何の頓着もなく更に覆い被さろうとしてくる。
頼りない布の上着だったけれど、ヒロに被せてあったそれを掴んで触手の塊を包むと、出来る限りの力で遠くへ投げつけた つもりだった。
パキパキ と触手から音が響く、腕に絡まった触手は離れようとはせず、投げるのに失敗したオレは体勢を崩して沢の縁に倒れ込んでしまった。
かろうじてヒロを下敷きにすることは避けられたけれど、すぐ傍らにあの鈍色のナニかを見つけて「ひぃ 」と声が漏れる。
オレの傍らに伏したままのソレは、人の形を取ってはいたが、おとぎ話に出てくる鬼のように額に幾つかの突起と、何でも切り裂けそうな爪、そして触手の塊と同じような黒い髪をしていた。
その顔が、ひくりと小さく歪んだ……
「……っ」
この小さな触手でさえどうにもできなかったのに、死んでいるんだと思っていたソレが動き出してしまったら。
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