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しおりを挟む触手の塊がはるひに圧し掛かっている時は肝が冷えるどころの心持ではなかったのを思い出し、ぶるりと体が震える。
ヒロの大きな泣き声で場所がわかったから良かったものの、ヒロが泣き出さなければ雨で匂いの途切れがちな森の中ではあれほど速やかにはるひを見つけることはできなかっただろう。
「瘴気は皮が破れていましたので、魔物として辺りを徘徊していた可能性があります。魔人に関しては不明ですが、発見時に倒れ伏していたことから辺りへの徘徊はなかったものと思います。それから 」
そう言ってどう話をしようかと言葉を選ぶ。
「はるひに触れていた瘴気が、砕けたように見えました」
見間違いではなかったはず。
ただ、瘴気を塵に還すことができるのは巫女が聖別した武器か、もしくは巫女自身だけだ。
「…………」
人間味の薄い人形のような顔はその言葉を聞いても何の変化もなく、自分自身が馬鹿らしいことを言ってしまったのだと続けて魔人の報告へ移ろうとした。
「 ────君達の思っている通りで間違いはないよ」
喋り出そうとした出鼻を挫かれ、一瞬その意味を掴み損ねてしまう。
目の前のかすがは喋ったとは思えないほど微動だにせず、そのせいか銀で作り上げた精巧な細工物のようだ。
「かすが?」
「…………ごめん、はるひが心配だし、もういいよね」
「かすが!何を……」
「瘴気がいるなら僕はどこへでも向かう、否は言わない。遠征先が決まったら教えて欲しい」
はるひのことを聞いていた時のような人間味は一切隠れ、シュル と言う衣擦れの音をさせながら部屋から出て行くかすがの姿は、すべての言葉を遮断して頑なな繭のようにも見える。
振り向きもせず部屋を出て行くかすがに、執務椅子に座っていた兄が飛び上がって後を追いかけて行く。
この国の王であり、いつもゆったりと構えているイメージのある兄がああして慌てると言うことは、何かしらあるのだろう。
「 犬も食わないと言いますしね」
ぱたんと閉まってしまった扉を見ていた俺に、エルがそう話しかけてきた。
緑の玉虫色の髪は健在だが、如何せん顔色が悪く思う。
「そうだな、俺でも腹を下しそうだ。ところで、具合がよくないのか?」
「何を言うんだか……心労が祟ったんですよ。私の周りは予想外のことばかりなさるもので」
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