狼騎士は異世界の男巫女(のおまけ)を追跡中!

Kokonuca.

文字の大きさ
119 / 303

119

しおりを挟む



 かすがに守られるように抱き締められて、先程までの涙は引っ込んでいるようだったが、泣いていたと誰が見てもわかるほどの名残を留めた縁の赤い目でこちらを見ている。

 何がどうして、そんな誤解を与えてしまったのか……

 俺は常にはるひに好意を見せていたと思うし、かすがとは必要以上に距離を詰めたことはない。
 確かに尾を梳かせたことはあったが、あれもはるひとの婚姻に向けてのための避けられない出来事だった。

 だから、それはすべて誤解であって、俺の心は常にはるひにしか向いていない。

「俺はずっと、そう言っているだろう?」
「  い、言って  ないです」

 震えた声が小さく零れる。

「家族になりたいときちんと言った!」
「それはっ!家族になりたいって言うのは、かすが兄さんとの結婚の許しを聞きに来たんだとばかり……」

 再び泣きそうになりながら首を振るはるひをこれ以上追い詰めることができず、俺の言葉の選びが悪かったのだと素直に認めるべきだと項垂れた。

「……あの時は、はるひの中に子がいるかいないかはっきりしなかったから…………子が成していたのなら、その子への責任も取りたかった。だから家族と言ったんだが、それが悪かったんだな」

 素直に自分の非を飲み込んでしまうとますます体から力が抜けてしまうようで、もう尾を振る力も出ない気分だ。

 つまり、俺の不甲斐なさが無ければ、はるひは一年前にこの城を出なかったし、ロカシ・テリオドスの子を孕むこともなかったと言う話で……

 悔しい気はするが、それでもはるひのことは愛おしいし、こうやって抱き続けるのが苦にならないほどにはヒロに対しては特別な感情を抱いている。

 この小さな生き物は、とっくに俺の中に根を張ってしまっていて、もう枯れることはないだろう。
 口に突っ込んだ涎だらけの手で頬を張られても、気にはならないし、むしろくすぐったく思えてしまう。

 はるひ自身があの赤狐とのことを納得していて、俺のことを僅かでも憎く思っていないのであれば、俺は何をしてももう一度触れる許しが欲しい。

「お前に誤解させた俺に非がある、その謝罪を……生涯をかけて償わせてくれないか?」

 精一杯の想いを込めて言ってみたつもりだったが、はるひの反応は俺が想像していたよりもはるかに希薄で、聞いていたのかすら怪しく思えるほどだった。

 また、誤解させるような物言いだったのか?
 それとも、言葉が遠すぎたのだろうか?

 いや、むしろ直接的過ぎて呆れられたのかもしれない……


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

「隠れ有能主人公が勇者パーティから追放される話」(作者:オレ)の無能勇者に転生しました

湖町はの
BL
バスの事故で亡くなった高校生、赤谷蓮。 蓮は自らの理想を詰め込んだ“追放もの“の自作小説『勇者パーティーから追放された俺はチートスキル【皇帝】で全てを手に入れる〜後悔してももう遅い〜』の世界に転生していた。 だが、蓮が転生したのは自分の名前を付けた“隠れチート主人公“グレンではなく、グレンを追放する“無能勇者“ベルンハルト。 しかもなぜかグレンがベルンハルトに執着していて……。 「好きです。命に変えても貴方を守ります。だから、これから先の未来も、ずっと貴方の傍にいさせて」 ――オレが書いてたのはBLじゃないんですけど⁈ __________ 追放ものチート主人公×当て馬勇者のラブコメ 一部暗いシーンがありますが基本的には頭ゆるゆる (主人公たちの倫理観もけっこうゆるゆるです) ※R成分薄めです __________ 小説家になろう(ムーンライトノベルズ)にも掲載中です o,+:。☆.*・+。 お気に入り、ハート、エール、コメントとても嬉しいです\( ´ω` )/ ありがとうございます!! BL大賞ありがとうございましたm(_ _)m

【本編完結】最強S級冒険者が俺にだけ過保護すぎる!

天宮叶
BL
前世の世界で亡くなった主人公は、突然知らない世界で知らない人物、クリスの身体へと転生してしまう。クリスが眠っていた屋敷の主であるダリウスに、思い切って事情を説明した主人公。しかし事情を聞いたダリウスは突然「結婚しようか」と主人公に求婚してくる。 なんとかその求婚を断り、ダリウスと共に屋敷の外へと出た主人公は、自分が転生した世界が魔法やモンスターの存在するファンタジー世界だと気がつき冒険者を目指すことにするが____ 過保護すぎる大型犬系最強S級冒険者攻めに振り回されていると思いきや、自由奔放で強気な性格を発揮して無自覚に振り回し返す元気な受けのドタバタオメガバースラブコメディの予定 要所要所シリアスが入ります。

【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました

ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。 タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。

騎士が花嫁

Kyrie
BL
めでたい結婚式。 花婿は俺。 花嫁は敵国の騎士様。 どうなる、俺? * 他サイトにも掲載。

男だって愛されたい!

朝顔
BL
レオンは雑貨店を営みながら、真面目にひっそりと暮らしていた。 仕事と家のことで忙しく、恋とは無縁の日々を送ってきた。 ある日父に呼び出されて、妹に王立学園への入学の誘いが届いたことを知らされる。 自分には関係のないことだと思ったのに、なぜだか、父に関係あると言われてしまう。 それには、ある事情があった。 そしてその事から、レオンが妹の代わりとなって学園に入学して、しかも貴族の男性を落として、婚約にまで持ちこまないといけないはめに。 父の言うとおりの相手を見つけようとするが、全然対象外の人に振り回されて、困りながらもなぜだか気になってしまい…。 苦労人レオンが、愛と幸せを見つけるために奮闘するお話です。

素直に同棲したいって言えよ、負けず嫌いめ!ー平凡で勉強が苦手な子が王子様みたいなイケメンと恋する話ー

美絢
BL
 勉強が苦手な桜水は、王子様系ハイスペックイケメン幼馴染である理人に振られてしまう。にも関わらず、ハワイ旅行に誘われて彼の家でハウスキーパーのアルバイトをすることになった。  そこで結婚情報雑誌を見つけてしまい、ライバルの姫野と結婚することを知る。しかし理人は性的な知識に疎く、初夜の方法が分からないと告白される。  ライフイベントやすれ違いが生じる中、二人は同棲する事ができるのだろうか。【番外はじめました→ https://www.alphapolis.co.jp/novel/622597198/277961906】

処理中です...