狼騎士は異世界の男巫女(のおまけ)を追跡中!

Kokonuca.

文字の大きさ
150 / 303

おまけ 26

しおりを挟む



「おかしなこととは、思いません」

 侍女の姿に徹していた際の動かない表情しか知らないせいか、その微笑みにほっと胸を撫で下ろす。

「ミロク様も手ずから料理をされることもございますので」

 自分で家を建てようとする位なのだから、ミロクの行動はこちらの世界の基準としては破格なのだと思う。
 けれどそれを周りが受け入れているのは、ミロクが異世界から来た神に選ばれた男巫女であり、前国王の伴侶であり、現国王を産んだ人であるからだ。

 じゃあ、オレは?

「あ の   相応しくないと思われますか?」

 そう尋ねかけると、ロニフはヒロを抱いたまま首を傾げてこちらへと歩み寄ってくる。

「申し訳ございません、ご質問の意図をはかりかねております」
「クラド様が選んだ相手に……その、爵位もなければ肩書きもないので…………」

 王宮でぬくぬくと育った割には、自ら湯を沸かす方法を知っている なんて、貴族に準じる立場のすることではない。

 客人として、ロニフは十二分に良くしてくれるし、陛下がオレに触れてきた際には無礼を承知で割って入ってくれた。
 オレのことを邪険にしたり、そう言った雰囲気は一片すらなかったけれど、その立ち居振る舞いはあまりにも業務的で堅苦しく、突き放されたように思えてしまう。

「閣下が選ばれましたこと以外、何が必要なのでしょうか?」

 困惑を示す内容なのに、その口調はどこまでも平坦で淡々としている。

「あの  向こうでは、結婚する場合、お互いの親に挨拶をするんです」
「はい」
「そう言う、礼儀も通しませんでしたし、その……あまりよく思っていただけていないのでは と」

 言葉を選んだつもりだけれど、貴族的な言い回しなんて思いつかずに結局はあからさまな表現になってしまった。

「私が、はるひ様に不安を感じさせてしまったようでございますね」

 そう言うとロニフは椅子を示してオレを座らせ、ヒロを抱かせてくる。そして手早い動きでミルクを作ると、不安に押し潰されそうなオレにそれを手渡してきた。
 ミルクの匂いを嗅ぎつけたのか、ヒロがはっとした表情をして腕の中で暴れ出すので、大慌てで口に哺乳瓶の先端を含ませると、じゅ と勢いよく吸い込む音が響く。

「────私は、この世に意識が生まれた瞬間から独りだったのです」
「え?」
「狼獣人は普通は親族などで群れて暮らすものでございますが、私が自分の意識に気づきました時には周りに人はおらず、独りでございました」

 クラドとよく似ているしっかりと立ち上がった耳に触れ、

「この体毛のせいではないかと推測はしているのですが、正直なところ理由は私にはわかりかねております」

 漆黒の、月のない夜空のような美しい被毛だと、クラドの尾を梳きながら毎夜思っていたことだ。

 クラド以外の狼獣人を知っているわけではないけれど、普通の毛色ではないことは侍女達の噂話で知っていた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「隠れ有能主人公が勇者パーティから追放される話」(作者:オレ)の無能勇者に転生しました

湖町はの
BL
バスの事故で亡くなった高校生、赤谷蓮。 蓮は自らの理想を詰め込んだ“追放もの“の自作小説『勇者パーティーから追放された俺はチートスキル【皇帝】で全てを手に入れる〜後悔してももう遅い〜』の世界に転生していた。 だが、蓮が転生したのは自分の名前を付けた“隠れチート主人公“グレンではなく、グレンを追放する“無能勇者“ベルンハルト。 しかもなぜかグレンがベルンハルトに執着していて……。 「好きです。命に変えても貴方を守ります。だから、これから先の未来も、ずっと貴方の傍にいさせて」 ――オレが書いてたのはBLじゃないんですけど⁈ __________ 追放ものチート主人公×当て馬勇者のラブコメ 一部暗いシーンがありますが基本的には頭ゆるゆる (主人公たちの倫理観もけっこうゆるゆるです) ※R成分薄めです __________ 小説家になろう(ムーンライトノベルズ)にも掲載中です o,+:。☆.*・+。 お気に入り、ハート、エール、コメントとても嬉しいです\( ´ω` )/ ありがとうございます!! BL大賞ありがとうございましたm(_ _)m

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

侯爵様の愛人ですが、その息子にも愛されてます

muku
BL
魔術師フィアリスは、地底の迷宮から湧き続ける魔物を倒す使命を担っているリトスロード侯爵家に雇われている。 仕事は魔物の駆除と、侯爵家三男エヴァンの家庭教師。 成人したエヴァンから突然恋心を告げられたフィアリスは、大いに戸惑うことになる。 何故ならフィアリスは、エヴァンの父とただならぬ関係にあったのだった。 汚れた自分には愛される価値がないと思いこむ美しい魔術師の青年と、そんな師を一心に愛し続ける弟子の物語。

魔王の事情と贄の思惑

みぃ
BL
生まれてからずっと家族に顧みられず、虐げられていたヴィンは六才になると贄として魔族に差し出される。絶望すら感じない諦めの中で、美しい魔王に拾われたことですべてが変わった。両親からは与えられなかったものすべてを魔王とその側近たちから与えられ、魔力の多さで優秀な魔術師に育つ。どこかに、情緒を置き去りにして。 そして、本当に望むものにヴィンが気付いたとき、停滞していたものが動き出す。 とても簡単に言えば、成長した養い子に振り回される魔王の話。

男だって愛されたい!

朝顔
BL
レオンは雑貨店を営みながら、真面目にひっそりと暮らしていた。 仕事と家のことで忙しく、恋とは無縁の日々を送ってきた。 ある日父に呼び出されて、妹に王立学園への入学の誘いが届いたことを知らされる。 自分には関係のないことだと思ったのに、なぜだか、父に関係あると言われてしまう。 それには、ある事情があった。 そしてその事から、レオンが妹の代わりとなって学園に入学して、しかも貴族の男性を落として、婚約にまで持ちこまないといけないはめに。 父の言うとおりの相手を見つけようとするが、全然対象外の人に振り回されて、困りながらもなぜだか気になってしまい…。 苦労人レオンが、愛と幸せを見つけるために奮闘するお話です。

クズ令息、魔法で犬になったら恋人ができました

岩永みやび
BL
公爵家の次男ウィルは、王太子殿下の婚約者に手を出したとして犬になる魔法をかけられてしまう。好きな人とキスすれば人間に戻れるというが、犬姿に満足していたウィルはのんびり気ままな生活を送っていた。 そんなある日、ひとりのマイペースな騎士と出会って……? 「僕、犬を飼うのが夢だったんです」 『俺はおまえのペットではないからな?』 「だから今すごく嬉しいです」 『話聞いてるか? ペットではないからな?』 果たしてウィルは無事に好きな人を見つけて人間姿に戻れるのか。 ※不定期更新。主人公がクズです。女性と関係を持っていることを匂わせるような描写があります。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

処理中です...