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第5章 零式艦上戦闘機
5.1章 十二試艦戦の木型審査
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昭和13年4月、十二試艦戦の官民合同研究会に出席してしばらくすると、川田技師と永野大尉と共に部長に呼ばれた。
「来週、十二試艦戦の木型審査が行われる。エンジンとしては、金星を搭載することになったようだ。モックアップ審査では、金星が搭載された状態で、発動機の艤装も含めて問題の有無を審査する必要がある。君たちで発動機に関係するところを審査してきてくれ。なお機体や空力などの審査のために他部門からも技術者が出席する予定だ」
自分の席に戻ると、三木技師がやってきた。
「鈴木君も十二試艦戦の木型審査に参加するそうだね。私と北野技師も参加することになったからよろしく」
翌日、飛行機部の三木技師と科学部の北野技師とも待ち合わせして、我々5名は列車で名古屋航空機製作所に向かった。航空機製作所に到着すると、さっそく、木型のあるフロアに案内された。入ってゆくと既に三菱と海軍の多くの関係者が木製の機体を確認していた。5名共に、木型審査は初めてなので、きょろきょろしていると右横に置かれた机の前の中年男性がおいでおいでをしている。呼ばれて、我々がまず自己紹介すると、ガリ版刷りの十二試艦戦の機体説明書を渡してくれた。
「はじめまして、設計課長の服部です。私たちが開発中の十二試艦戦の説明がこの書類に記載されていますので、よく読んでください。その後に、モックアップがどのようになっているか確認をしてください。何か問題点があれば、機体の後方に黒板があります。どうしても改善することが必要な事項は、問題点と共にそこに書いてください。後で読んでわかるように極力具体的に記載してください。なお、設計者の堀越や、曽根、東條など設計者もこの部屋にいますので、質問があれば直接聞いてください」
なるほど、黒板を見ると、発動機、操縦席、胴体、翼など分野ごとに区分されて、問題点を書けるようになっている。木製でも実物大になった機体は、紙の図面とは違い迫力がある。しかも私にとっては写真として記憶に残っている零戦の形が既に存在しているのだ。仕事よりもむしろ興味が優先して、我々は隅から隅まで見て回る。
私の記憶にある十二試艦戦とは一部が既に違っている。相違点を示しておこう。
プロペラは、3枚構成のものが既に取り付けられていた。未来の史実では1号機は2枚プロペラで初飛行したはずだ。MK3Aの飛行試験時に3枚としたとの情報が反映されている。なお、スピナーはまだついていない。
カウリングは零戦と異なる形状に見えるが、もともと十二試艦戦のモックアップではこのような形状だったのかもしれない。当然ながら、金星の搭載により、機首は若干太めだが、違和感はないようにまとめられていた。
気化器の空気取り入れ口がカウンリング上部に突き出しているが、これは十二試艦戦試作1号機の写真で見た形状と同じだ。キャノピーも後の枠の多い水滴型風防とは形状が異なる。特に風防後方の形状が違うが、ここもモックアップではそもそもこのような形状だったのかもしれない。
カウンリングから風防前部に続く部分が、カウンリングの後端を延長した単純な形状となっている。これは機首に機銃を搭載していないからだ。
機銃は全て翼内に装備されている。モックアップの右翼には7.7mmと13.2mmが搭載され左翼には7.7mmと20mmが搭載されている。
水平尾翼の位置と垂直尾翼の形状は見慣れた零戦とは異なるが、これは十二試艦戦試作1号機の写真で見た形状と同じだ。
主翼が若干大きくなっているようだ。書類を見ると翼幅が12.5mとなっていた。私が知る零戦よりも0.5m翼幅が大きい。主翼面積も拡大しているのだろう。恐らくエンジンが大きくなり燃料タンクも容量が増加したはずだ。加えて、防弾装備なども増えたため、重量増加に対応するために主翼面積を増加させたに違いない。空母に収容するために、日の丸のあたりから主翼が折りたためるようになるらしいが、折り畳み法はまだ検討中となっている。
さて、我々もそれぞれが審査する部分を集中的に観察する、発動機は私と川田技師が担当して、永野大尉はなぜか全体を見ている。エンジン部分をあれこれ見ていると堀越技師が挨拶に来る。
「今日はありがとうございます。エンジンの艤装で何か指摘はありますでしょうか?」
元々航空廠で九六式陸攻に搭載して試験飛行したときの図面と、その時の整備性などの評価情報が渡っているので、あまり指摘することもない。但し、私は訪問前に決めていたことを指摘することとした。実は、推力式排気管を採用してもらおうと簡単な絵を描いてきたのだ。しかも零戦52型などの推力式排気管ではなく、あえて、FW190の推力排気管をまねた絵を描いてきた。カウンリングにカウルフラップがあるので五式戦の推力排気管と言った方が近いかもしれない。
「各気筒からの排気管をまとめずそのままカウリング後端の胴体側面まで引き出し後方に排気を吹き出させます。これで15ノットくらいの速度の増速効果があると思われます。排気管を引き出した部分はカウリング後端と胴体側面で段差ができますが、排気流のために渦は発生せず空気抵抗にはなりません。更にカウリングと排気管の間から抜けてゆく発動機を冷却した空気は排気流に引っ張られて後方に流れますので、結果的にカウリング内の空気を胴体に沿って吸い出す効果も発生すると思います」
「それは高速流による周辺の流体の引き込み現象で、確かコアンダ効果と呼ばれているよ」
後ろからの発言に振り向くと、空力専門家の北野技師がいた。
「とても興味深い話が聴けました。私もさっそく航空廠に帰ったら実験してみますよ」
堀越技師も納得してくれる。
「単排気管を伸ばして、カウリングの後方から引き出すだけなので、排気管を一つにまとめるよりも工作も簡単ですね。それで速度が増加するなら願ったりかなったりです。この排気管を引き出す部分ですが、冷却空気の吸い出し効果があるならカウルフラップはこの部分は不要にできる可能がありますね。私も実験してみます」
更に、私の気になった滑油冷却機についてメモ帳に絵を描きながら指摘する。
「この機種の下面の潤滑油の冷却器ですが、少し開口部が小さいように思います。エンジンの性能を上げてゆくと潤滑量は増える傾向がありますので、冷却器ももう少し大きくしていただきたい。更に、冷却器に空気を取り入れる開口部ですが、この形状ではカウリングの表面に最も近い空気流の境界層を開口部から取り入れることになります。境界層は実質的にほとんど流速がないので、空気を取り入れても冷却器の一部分に、ほとんど空気が流れない部分が発生することになります。これを避けるために開口部をカウリングの表面からは離して、楕円形になるように開口して、内側で空気の通路を拡大して気流の速度を落としてラジエターで油を冷却します。熱エネルギーをもった空気の排出は通路を縮小して絞り込んだ出口から後方から噴出させます。温度が上昇した空気の噴出し口は、わずかでも推力が発生するように形状に注意します。カウリング上面の過給器への空気取り入れ口はかなり前面に開口しているので境界層の影響はないです。しかし、この開口部はもう少し抵抗を減らすように形状の工夫が必要ですね。もっとカウリングと一体化する形状にして最前面に開口させる方がいいかもしれませんね」
堀越技師は私の発言のメモに必死で返事はおろそかになっているようだ。後ろでまたも北野技師がコメントしてくれる。
「間違いなく今の形状よりも冷却性能が良くなって、空気抵抗が減りますねぇ。しかし、境界階層の部分を避けて、空気取り入れ口を開口するとは、コロンブスの卵ですね。これも持ち帰って実験する対象ですね」
我慢できずに、オタク知識で尾翼を指摘してしまう。
「尾部の形状ですが、水平尾翼が低い位置になっていて、更に垂直尾翼との位置関係が悪くなっています。迎え角がかなり大きい状況で胴体の下方から気流が流れた時に、垂直尾翼が水平尾翼の陰になってしまうのです。しかも水平尾翼より下方の胴体の側面積が小さいので胴体による方向安定の効果も期待できません。つまり水平きりもみになっても方向安定効果がないので、きりもみから脱出が困難になります」
北野技師が再びコメントする。
「そこのところは私の仕事ですから、先に言わないでください。航空廠の垂直風洞で試験すればわかりますけど、私も問題のある尾翼配置と思っています。垂直尾翼をもっと後方にずらして、それから水平尾翼をもっと上の方にずらして、尾翼より下方の側面積を増加させます。ポンチ絵で描くとこんな感じですね。水平きりもみの発生はいろいろな機体で既に問題になっていますよ」
堀越技師が同意する。
「わかりました。確かに尾翼の変更が必要ですね。そもそも三菱でも垂直風洞を準備して、実験する必要があるのに、まだ試験していないのは我々の落ち度です」
私が堀越技師と話していると、三木技師がやってきてカウリングの形状についてコメントしだした。
「機首の形状ですが、プロペラにスピナーを付けて、カウンリング前端部にもう少し丸みをつけてエンジンの開口部からつなげるようにすれば、抵抗値が若干ですが減るように思います。スピナーの装着状態でカウリング形状を変更して、再度風洞試験をお願いします」
「了解しました。推力排気管の効果もありそうなので、それも見込んで、カウリング形状の風洞試験をしてみます」
最後に永野大尉が意見を述べる。
「もう一つ依頼事項があります。主翼の折り畳み機能の追加については上方折り畳み方式で検討をお願いします。九七式艦攻でいろいろ苦労して、手動の折り畳み機構となっていますのでそれを参考にするとよいでしょう。後方折り畳みでも、海軍で指定した寸法の規定範囲内には収まっているのですが、空母上での風がかなり大きいので上方以外は折り畳みヒンジが壊れてしまうのですよ」
「わかりました。検討します」
帰り際に、堀越技師に機銃と防弾の件を聞いてみる。
「機銃は全て翼内に搭載したのですね。胴体機銃をやめた理由が何かあるのですか?」
「もともと、7.7mmは胴体上に配置する予定でした。ところが、内々で13.2mmを4挺に変更の可能性があると聞いたのです。どうも試験中の13.2mmの性能が良いみたいですね。なんでも弾道性能もよくて、炸裂弾もあるということです。それで同じ機銃が4挺ならば全て翼内に装備しようということになりました。まあ、そのおかげで胴体内の燃料タンクの容量を少し増やすことができましたが」
「防弾装備の件ですが、それなりに装備するのですよね。機体説明書にはそこは記載していませんよね。まあ、我々が研究している防弾もまだ完成していない状況ですが」
「武装と防弾については、航空本部さんと調整中で、まだ本決まりではないのですよ。それでも操縦員の防弾はすることになると思います。燃料タンクについては、翼内に消火剤噴射器の装備というところでしょうか。発泡ゴムによる燃料タンク防弾はまだ実験中でうまくいくのか効果が不確実と聞いています」
「実は、防弾装備も航空廠で実験していて、私も関係しているのですが、いくつかはもう目途が立っています。恐らく昭和13年中には防弾するための材料が出そろうでしょう」
「私も防弾装備は必要と思っています。しかし、具体的な装備内容が決まらないと重量がわかりません。とにかく早く決めてもらいたいというのが正直なところです」
「来週、十二試艦戦の木型審査が行われる。エンジンとしては、金星を搭載することになったようだ。モックアップ審査では、金星が搭載された状態で、発動機の艤装も含めて問題の有無を審査する必要がある。君たちで発動機に関係するところを審査してきてくれ。なお機体や空力などの審査のために他部門からも技術者が出席する予定だ」
自分の席に戻ると、三木技師がやってきた。
「鈴木君も十二試艦戦の木型審査に参加するそうだね。私と北野技師も参加することになったからよろしく」
翌日、飛行機部の三木技師と科学部の北野技師とも待ち合わせして、我々5名は列車で名古屋航空機製作所に向かった。航空機製作所に到着すると、さっそく、木型のあるフロアに案内された。入ってゆくと既に三菱と海軍の多くの関係者が木製の機体を確認していた。5名共に、木型審査は初めてなので、きょろきょろしていると右横に置かれた机の前の中年男性がおいでおいでをしている。呼ばれて、我々がまず自己紹介すると、ガリ版刷りの十二試艦戦の機体説明書を渡してくれた。
「はじめまして、設計課長の服部です。私たちが開発中の十二試艦戦の説明がこの書類に記載されていますので、よく読んでください。その後に、モックアップがどのようになっているか確認をしてください。何か問題点があれば、機体の後方に黒板があります。どうしても改善することが必要な事項は、問題点と共にそこに書いてください。後で読んでわかるように極力具体的に記載してください。なお、設計者の堀越や、曽根、東條など設計者もこの部屋にいますので、質問があれば直接聞いてください」
なるほど、黒板を見ると、発動機、操縦席、胴体、翼など分野ごとに区分されて、問題点を書けるようになっている。木製でも実物大になった機体は、紙の図面とは違い迫力がある。しかも私にとっては写真として記憶に残っている零戦の形が既に存在しているのだ。仕事よりもむしろ興味が優先して、我々は隅から隅まで見て回る。
私の記憶にある十二試艦戦とは一部が既に違っている。相違点を示しておこう。
プロペラは、3枚構成のものが既に取り付けられていた。未来の史実では1号機は2枚プロペラで初飛行したはずだ。MK3Aの飛行試験時に3枚としたとの情報が反映されている。なお、スピナーはまだついていない。
カウリングは零戦と異なる形状に見えるが、もともと十二試艦戦のモックアップではこのような形状だったのかもしれない。当然ながら、金星の搭載により、機首は若干太めだが、違和感はないようにまとめられていた。
気化器の空気取り入れ口がカウンリング上部に突き出しているが、これは十二試艦戦試作1号機の写真で見た形状と同じだ。キャノピーも後の枠の多い水滴型風防とは形状が異なる。特に風防後方の形状が違うが、ここもモックアップではそもそもこのような形状だったのかもしれない。
カウンリングから風防前部に続く部分が、カウンリングの後端を延長した単純な形状となっている。これは機首に機銃を搭載していないからだ。
機銃は全て翼内に装備されている。モックアップの右翼には7.7mmと13.2mmが搭載され左翼には7.7mmと20mmが搭載されている。
水平尾翼の位置と垂直尾翼の形状は見慣れた零戦とは異なるが、これは十二試艦戦試作1号機の写真で見た形状と同じだ。
主翼が若干大きくなっているようだ。書類を見ると翼幅が12.5mとなっていた。私が知る零戦よりも0.5m翼幅が大きい。主翼面積も拡大しているのだろう。恐らくエンジンが大きくなり燃料タンクも容量が増加したはずだ。加えて、防弾装備なども増えたため、重量増加に対応するために主翼面積を増加させたに違いない。空母に収容するために、日の丸のあたりから主翼が折りたためるようになるらしいが、折り畳み法はまだ検討中となっている。
さて、我々もそれぞれが審査する部分を集中的に観察する、発動機は私と川田技師が担当して、永野大尉はなぜか全体を見ている。エンジン部分をあれこれ見ていると堀越技師が挨拶に来る。
「今日はありがとうございます。エンジンの艤装で何か指摘はありますでしょうか?」
元々航空廠で九六式陸攻に搭載して試験飛行したときの図面と、その時の整備性などの評価情報が渡っているので、あまり指摘することもない。但し、私は訪問前に決めていたことを指摘することとした。実は、推力式排気管を採用してもらおうと簡単な絵を描いてきたのだ。しかも零戦52型などの推力式排気管ではなく、あえて、FW190の推力排気管をまねた絵を描いてきた。カウンリングにカウルフラップがあるので五式戦の推力排気管と言った方が近いかもしれない。
「各気筒からの排気管をまとめずそのままカウリング後端の胴体側面まで引き出し後方に排気を吹き出させます。これで15ノットくらいの速度の増速効果があると思われます。排気管を引き出した部分はカウリング後端と胴体側面で段差ができますが、排気流のために渦は発生せず空気抵抗にはなりません。更にカウリングと排気管の間から抜けてゆく発動機を冷却した空気は排気流に引っ張られて後方に流れますので、結果的にカウリング内の空気を胴体に沿って吸い出す効果も発生すると思います」
「それは高速流による周辺の流体の引き込み現象で、確かコアンダ効果と呼ばれているよ」
後ろからの発言に振り向くと、空力専門家の北野技師がいた。
「とても興味深い話が聴けました。私もさっそく航空廠に帰ったら実験してみますよ」
堀越技師も納得してくれる。
「単排気管を伸ばして、カウリングの後方から引き出すだけなので、排気管を一つにまとめるよりも工作も簡単ですね。それで速度が増加するなら願ったりかなったりです。この排気管を引き出す部分ですが、冷却空気の吸い出し効果があるならカウルフラップはこの部分は不要にできる可能がありますね。私も実験してみます」
更に、私の気になった滑油冷却機についてメモ帳に絵を描きながら指摘する。
「この機種の下面の潤滑油の冷却器ですが、少し開口部が小さいように思います。エンジンの性能を上げてゆくと潤滑量は増える傾向がありますので、冷却器ももう少し大きくしていただきたい。更に、冷却器に空気を取り入れる開口部ですが、この形状ではカウリングの表面に最も近い空気流の境界層を開口部から取り入れることになります。境界層は実質的にほとんど流速がないので、空気を取り入れても冷却器の一部分に、ほとんど空気が流れない部分が発生することになります。これを避けるために開口部をカウリングの表面からは離して、楕円形になるように開口して、内側で空気の通路を拡大して気流の速度を落としてラジエターで油を冷却します。熱エネルギーをもった空気の排出は通路を縮小して絞り込んだ出口から後方から噴出させます。温度が上昇した空気の噴出し口は、わずかでも推力が発生するように形状に注意します。カウリング上面の過給器への空気取り入れ口はかなり前面に開口しているので境界層の影響はないです。しかし、この開口部はもう少し抵抗を減らすように形状の工夫が必要ですね。もっとカウリングと一体化する形状にして最前面に開口させる方がいいかもしれませんね」
堀越技師は私の発言のメモに必死で返事はおろそかになっているようだ。後ろでまたも北野技師がコメントしてくれる。
「間違いなく今の形状よりも冷却性能が良くなって、空気抵抗が減りますねぇ。しかし、境界階層の部分を避けて、空気取り入れ口を開口するとは、コロンブスの卵ですね。これも持ち帰って実験する対象ですね」
我慢できずに、オタク知識で尾翼を指摘してしまう。
「尾部の形状ですが、水平尾翼が低い位置になっていて、更に垂直尾翼との位置関係が悪くなっています。迎え角がかなり大きい状況で胴体の下方から気流が流れた時に、垂直尾翼が水平尾翼の陰になってしまうのです。しかも水平尾翼より下方の胴体の側面積が小さいので胴体による方向安定の効果も期待できません。つまり水平きりもみになっても方向安定効果がないので、きりもみから脱出が困難になります」
北野技師が再びコメントする。
「そこのところは私の仕事ですから、先に言わないでください。航空廠の垂直風洞で試験すればわかりますけど、私も問題のある尾翼配置と思っています。垂直尾翼をもっと後方にずらして、それから水平尾翼をもっと上の方にずらして、尾翼より下方の側面積を増加させます。ポンチ絵で描くとこんな感じですね。水平きりもみの発生はいろいろな機体で既に問題になっていますよ」
堀越技師が同意する。
「わかりました。確かに尾翼の変更が必要ですね。そもそも三菱でも垂直風洞を準備して、実験する必要があるのに、まだ試験していないのは我々の落ち度です」
私が堀越技師と話していると、三木技師がやってきてカウリングの形状についてコメントしだした。
「機首の形状ですが、プロペラにスピナーを付けて、カウンリング前端部にもう少し丸みをつけてエンジンの開口部からつなげるようにすれば、抵抗値が若干ですが減るように思います。スピナーの装着状態でカウリング形状を変更して、再度風洞試験をお願いします」
「了解しました。推力排気管の効果もありそうなので、それも見込んで、カウリング形状の風洞試験をしてみます」
最後に永野大尉が意見を述べる。
「もう一つ依頼事項があります。主翼の折り畳み機能の追加については上方折り畳み方式で検討をお願いします。九七式艦攻でいろいろ苦労して、手動の折り畳み機構となっていますのでそれを参考にするとよいでしょう。後方折り畳みでも、海軍で指定した寸法の規定範囲内には収まっているのですが、空母上での風がかなり大きいので上方以外は折り畳みヒンジが壊れてしまうのですよ」
「わかりました。検討します」
帰り際に、堀越技師に機銃と防弾の件を聞いてみる。
「機銃は全て翼内に搭載したのですね。胴体機銃をやめた理由が何かあるのですか?」
「もともと、7.7mmは胴体上に配置する予定でした。ところが、内々で13.2mmを4挺に変更の可能性があると聞いたのです。どうも試験中の13.2mmの性能が良いみたいですね。なんでも弾道性能もよくて、炸裂弾もあるということです。それで同じ機銃が4挺ならば全て翼内に装備しようということになりました。まあ、そのおかげで胴体内の燃料タンクの容量を少し増やすことができましたが」
「防弾装備の件ですが、それなりに装備するのですよね。機体説明書にはそこは記載していませんよね。まあ、我々が研究している防弾もまだ完成していない状況ですが」
「武装と防弾については、航空本部さんと調整中で、まだ本決まりではないのですよ。それでも操縦員の防弾はすることになると思います。燃料タンクについては、翼内に消火剤噴射器の装備というところでしょうか。発泡ゴムによる燃料タンク防弾はまだ実験中でうまくいくのか効果が不確実と聞いています」
「実は、防弾装備も航空廠で実験していて、私も関係しているのですが、いくつかはもう目途が立っています。恐らく昭和13年中には防弾するための材料が出そろうでしょう」
「私も防弾装備は必要と思っています。しかし、具体的な装備内容が決まらないと重量がわかりません。とにかく早く決めてもらいたいというのが正直なところです」
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