蒼穹の裏方

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第5章 零式艦上戦闘機

5.3章 零式艦上戦闘機の完成

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 昭和14年3月16日になって、A6M1の1号機が完成したので海軍側で実機の完成審査が行われた。計画重量から66kgの超過が報告されたが、この程度の差異は常識的にはきわめて重量管理がうまくいっているということの証明である。

 審査に合格したので続けて整備を行って、翌月の4月1日には、三菱の志摩操縦士による初飛行が行われた。やはり飛んでみるといくつかの不具合が見つかる。これらの修正を行いつつ試験を継続したが、フラッターや水平きりもみの問題など、大きな問題は事前審査で見つけて、設計変更も行われていたため、比較的順調に試験飛行を実施できた。この時点で、操縦性と安定性に大きな問題はないことがわかった。このため4月末までに正規状態におけるエンジン全開での試験飛行が可能となった。三菱社内での試験により、最高速度は海軍の要求値を大幅に上回ることは確認できた。社内試験において、315ノット(583km/h)を記録したのだ。なお、皮肉なことに1号機では、その後に防弾鋼板や防弾ガラスなどが試験のために追加されて、自重が増したためこれを上回る速度は記録していない。

 昭和14年4月末から5月にかけて、2号機と3号機が完成した。2号機は排気管の修正や、プロペラやカウリング形状、カウルフラップの調整などを行って、主に飛行性能の確認に用いられた。3号機は初飛行後、最も早く海軍に領収され、横須賀の追浜飛行場において、13.2mm4挺の武装と無線機、クルシー無線装置などを搭載して、各種装備の試験を実施した。A6M1の試験機で最も高速を記録したのは2号機であった。2号機は、他に先駆けて、空気抵抗を削減するための細部改修と推力排気管の形状の修正を行い、プロペラ翅も航空廠の実験で改善された幅広翅に変更された。その結果、軽荷重状態で325ノット(602km/h)を記録している。非公式の記録ではあるが、日本機で初めて時速600kmを超えた機体となった。

 昭和14年6月には、試作4号機が完成して、防弾装備と武装、無線機のすべての装備を搭載した。この頃には、初期の試作機の試験で見込みがあると判断すると、複数の試作機を一気に製作して並列的に項目を消化する試験方法を海軍でも適用してゆく方向となった。A6M1でも4号機までを使用した初期試験で機体の素性を確認した結果、大掛かりな改修は必要ないことがわかってきた。このため、昭和14年5月には、12号機まで試作機をほぼ同時に制作して並行して試験を消化することが決定された。続いて、増加したエンジン馬力の吸収のためにプロペラをさらに改良したカフス付きの幅広タイプへの変更を行い、直径も3.05mから3.1mに増加した。4号機の飛行後に、12号機まで試作機の中から更に4機を抽出して、同様の改修を行った。松平技師の振動試験と実機試験の結果、A6M1の制限速度は、380ノット(704km/h)へと増加された。この速度であれば実戦でも問題ないはずだ。なお、翼のフラッター事故については、すでに設計時に指摘して急降下制限速度を設定したため、試験飛行ではフラッターによる空中分解事故は発生していない。

 堀越技師が報告のために上京してきた。空技廠でもA6M1の海軍側の関係者が集まって試験の状況報告を受けた。
「みなさん、お世話になっております。皆さんのご協力もあり、A6M1の試験は順調に進んでおります。今日はお礼も兼ねて試験の状況報告のために訪問した次第です。今までに我々が確認したA6M1の性能や留意点についてはお手元の報告書に記載されています。ご確認をお願いします」

 第4代の空技廠長に就任した花島少将が答える。
「A6M1が我々の要求を超える性能を発揮できたのは、三菱さんの優れた設計が実際の戦闘機として結実したものと認識している。感謝申し上げる。遠からず、試験も終わり本格的に生産も開始されて、前線部隊への配備も開始されるであろう。今後もおごることなく、努力を期待する。なお、私はA6M1の優れた性能の要因の一つは金星発動機の高性能にあると考えている。ここで発動機関係者の努力にも感謝していることを申し添えたい」

 うやうやしくお辞儀をして、儀式のような会議は終わった。

 川田と三木と私の三人が雑談していると、堀越技師がやってきた。
「皆さんには、本当にいろいろ勉強させてもらいました。私は皆さんのような若い技術者の協力なくしては、A6M1は完成しなかったと思っています。私が認識していなかった技術的なポイントをいろいろ指導してもらった皆さんを、本当の共同開発者として感謝しています」

 三木技師が答える。
「もうこの艦戦は開発も終盤で、次の開発が直ぐに始まりますよ。恐らく十四試で局地戦闘機が始まるはずです。相当に要求条件が高くなりそうですが、よろしくお願いします」

 私は心の中でつぶやいていた。あの難産だった十四試局戦の雷電が始まる。18気筒発動機を成功させて、絶対に未来の私の知っている歴史通りの機体にはさせないぞと誓っていた。

 私の穏やかではない内心とは裏腹に、和やかにこの集まりは解散となった。

 ……

 昭和14年11月には、零式1号1型艦上戦闘機(命名法の変更により、後に零式艦上戦闘機11型)として、金星52型搭載機の採用が決まり、海軍航空本部からの内示により、三菱重工業大江工場において量産が開始された。なお、海軍としての制式化手続きはやや遅れて、中国戦線での零戦の参戦が行われた昭和15年5月となっている。

 零式艦上戦闘機11型 昭和15年5月制式化
・機体符号:A6M1
・全幅:12.50m 外翼中央部から上方折り畳み可能
・全長:9.05m
・全高:3.53m
・翼面積:23.5㎡
・自重:1,900kg
・正規全備重量:2,900kg
・発動機:金星52型 離昇:1,600hp
・プロペラ:ハミルトン定速3翅 直径:3.10m
・最高速度:320kt(592.6km/h) 6,000mにて
・上昇力:6,000mまで6分05秒
・制限速度: 380kt(703.6km/h)
・航続距離:巡航3,500km(330L増槽あり、過荷重)/巡航2,500km(正規)
・翼内武装:13.2mm二号ベルト給弾機銃4挺(携行弾数各400発)
・爆装:30kg又は60kg爆弾2発、後に両翼に150kgまでの爆弾
・噴進弾:一式五十粍噴進弾を両翼に搭載(昭和16年後期生産型から)
・防弾装備:操縦席前面に防弾ガラス及び背面に防弾鋼板
・消火装備:翼内と胴体燃料タンクに消火装置
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