蒼穹の裏方

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第1章 ハワイの戦い

1.6章 エンタープライズ発見

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 第三次攻撃隊がオアフ島に向かって飛行している間に、赤城に偵察機からの報告が届いた。

 南西方向の捜索線を飛行していた零式艦偵から、敵空母発見の報告がもたらされたのだ。
「空母1を中心とした部隊をみとむ。巡洋艦らしきもの3。駆逐艦多数。ヨークタウン級空母と推定」

 草鹿参謀長が通信士官からメモを受けとってから南雲長官に説明する。
「艦偵の報告位置からすると、敵の空母部隊は、ハワイの西方およそ170浬(315km)の地点です。我が艦隊からは、南西の方向、260浬(482km)の地点となります。空母はヨークタウン級との情報が入っています。太平洋艦隊に所属していることを勘案すると、ハワイ近海で行動していたエンタープライズと推定します」

 すぐに、南雲長官が命令を発した。
「空母は優先すべき目標だ。対艦攻撃の準備していた攻撃隊をすぐにも発艦させよ。いや、我々の位置をもう少し敵艦に近づけた方がいいだろうな。艦隊を敵艦隊に向けて南下させてくれ」

 源田中佐は、二航戦と五航戦に攻撃隊の発艦準備を命令した。敵艦隊の出現を想定して、第三次攻撃隊に参加せず、対艦装備で待機していた機体により攻撃隊は編制された。草鹿少将は艦隊の南下を命令した。

 飛龍の加来艦長は、空技廠に立ち寄った時のことを思い出していた。彼は真珠湾攻撃の直前に古巣の空技廠を訪問した際に、兵器部でやっていた実験状況を確認すると、50番爆弾も25番に続いて反跳爆撃の試験が終了していることを聞きつけた。戦いの進展によっては50番反跳爆弾の出番があると思えた。十数発の実弾を準備するように兵器部に依頼して、飛龍に戻ってきた。要求した爆弾は、横須賀で加賀に積み込まれ単冠湾で飛龍へと積み替えられた。その爆弾を空母の攻撃に使用してみようと考えたのだ。6機の97式艦攻に50番の反跳爆弾が搭載された。

 南下を開始して、30分後には発艦準備が整っていた攻撃隊が、二航戦の飛龍と蒼龍から発艦してゆく。同時にはるかかなたで、瑞鶴と翔鶴からも攻撃隊が発艦してゆく。

 二航戦と五航戦を発艦した対艦装備の攻撃隊は、以下のような編制となった。
戦闘機隊:零戦27機
雷撃隊:九七式艦攻42機(反跳爆撃隊を含む)
急降下爆撃隊:九九式艦爆33機

 攻撃隊長は、まだ艦隊に残っていた瑞鶴の嶋崎少佐だ。彼は出撃の直前に艦爆中隊の指揮官に、自分が考えた攻撃法を伝授していた。上空で編隊を組むと、攻撃隊は直ちに南方へと飛んでいく。攻撃隊を護衛する零戦の数が少ないのは、艦隊の防空に機体を割り当ててしまったからだ。

……

 オアフ島のカネオヘ飛行艇基地では、日本軍の攻撃が開始される前に艦隊司令部から指示を受けて、なんとか6機のPBYカタリナを発進させていた。この基地の隊長は偵察機が出て行ってから、日本機を最初に発見したのはオアフ島北端のレーダーだということを聞いていた。

 その結果、日本編隊は北側からやってきたようだという情報を、索敵機に無線で連絡することができた。基地からの通報を受けて、6機のPBYはオアフ島北方の扇型の海域を西側から東側に6分割して偵察することとした。

 約2時間後、中央よりやや西側のエリアを哨戒線とした偵察機から連絡が入る。
「敵空母部隊を発見。空母2隻より構成される部隊。オアフ島北方310浬(574km)の地点」

 5分後に続報が入る。
「第一の部隊の西北方向に、更に空母2隻の部隊を発見」

 この時点で、やや離れて雲の下を航行していた五航戦は米海軍に発見されていなかった。直ちに太平洋艦隊司令部に空母4隻の日本艦隊発見が通知される。この情報は直ぐに第8任務艦隊のハルゼーにも転電された。

 エンタープライズの艦橋で大声の命令が鳴り響く。
「すぐに攻撃隊を準備させろ。上空警戒の戦闘機以外は全部攻撃隊だ」
 参謀長のブローニング大佐が反論する。

「我々は、偵察機を出したり、先行してオアフ島に艦載機を帰投させて搭載機が減少しています。一方、相手は4隻の空母です。ここは一度引き下がって、オアフ島基地の部隊と共同作戦ができるまでは兵力を温存しても、非難されることはありません。正面からぶつかれば、我々の部隊は全滅する可能性があります」

 ハルゼー中将は激怒した。
「貴様はこの俺に逃げろと言うのか。真珠湾の司令部からの報告によると、現在もジャップから激しい攻撃を受けているとのことだ。つまり、敵の航空隊はオアフ島の攻撃に出かけているということだ。時間がたてば、オアフ島から攻撃隊が帰ってきて、我々を攻撃する準備をするだろう。帰った攻撃隊が我々に向けて発進してくれば、我々は袋叩きだ。今が我々の唯一のチャンスということだ。敵の艦隊で留守番をしている機体さえ。攻撃隊の帰りを待つ必要がなくなれば、艦隊は自由に退避することができるからな」

 ブローニング大佐は、敵の艦上機には予備兵力がまだあるはずだ、と言いかけたが口をつぐんだ。我々と敵との距離から考えて、既に双方の艦隊は攻撃可能な間合いに入っているはずだ。ここで逃げても同じような速度で日本艦隊は追ってくるであろう。ましてや、日本軍の艦載攻撃隊の網からは逃れられないだろうと気がついたのだ。ハルゼー中将も口には出して言わないが、気がついている。我々は逃げるには既に踏み込み過ぎている。ここで逃げようとしても、背中をバッサリとやられるだけだ。

 エンタープライズで攻撃隊の準備をしている間に新たな報告があった。
「我が艦隊の北方に、敵味方不明機1。恐らく日本の偵察機と推定」

 遠方からエンタープライズを偵察していた零式艦偵が、艦隊構成を確認しようと接近したところを発見されたのだ。零戦としての速度を生かして、F4Fが接近する前に雲の中に逃げてゆく。
「ついに我々も発見されたぞ。ブローニング君、何か意見はあるか?」

「はい、司令部が通知してきた日本艦隊の位置情報が正しければ、2時間程度で北東から飛来するはずです。しかし、敵空母は我々の4倍ですが、オアフ島を空襲しているので残りの機体により部隊を編制しても、比較的少数機による攻撃となるでしょう。もう一つの可能性は、オアフ島を攻撃していた部隊の帰還後に攻撃隊を編制する方法です。これならばかなり大部隊になるでしょう。大規模部隊の編制が終われば、3ないし4時間後に攻撃を受ける可能性があります。いずれにしても、空母1隻の我々を発見して逃げる理由は敵にはありません。時間がたてば、我々は必ず攻撃されます」

 ハルゼー中将は大佐の発言にうなずいた。
「必ず攻撃されるという意見には全面的に賛成だ。だから、速やかに我々も攻撃しなければならん。それにしても、艦爆隊を早めにオアフ島に飛ばさなかったのは幸運だったな。そんなことをしていれば、攻撃隊の数が大きく減るところだった」

 もともとエンタープライズからは一足早く航空機を帰投させるために、18機のSBDドーントレスをフォード島に向けて発艦させる予定だった。しかし、理由は不明だが、日本機が真珠湾を奇襲する前に、艦隊司令部からの連絡でそのまましばらく、エンタープライズに留め置くように命令が来たのだ。

「発艦を急がせろ。できるだけ早く攻撃隊を発艦させたい。その後は、艦隊を南下させて敵との距離をとる。どうやら、敵は湾に停泊した戦艦には魚雷や爆弾を命中させたようだな。さて、動くこの艦に、どれだけ命中させられるかな。F4Fは半数を攻撃隊につけろ。残った戦闘機で艦隊を防衛する」

 エンタープライズから発艦した日本艦隊への攻撃隊は、以下のような編制となった。

戦闘機隊:F4Fワイルドキャット10機
雷撃隊:TBDデバステイター18機
急降下爆撃隊:SBDドーントレス26機

「そうだ、あの機体をオアフ島に戻さんといかんな。我が軍にとって貴重な試験機だ。今のうちに帰ってもらおう」

 エレベータに乗って飛行甲板に上げられてきたのは、奇妙な形の単座機だった。巨大な3枚のプロペラに、発動機の直径ぎりぎりの細い胴体。胴体から斜め下方に突き出した主翼が途中で上向きに折れ曲がって、翼端へと伸びている。いわゆる逆ガルと言われる形態だ。胴体上の風防の位置から、胴体のかなり後方に操縦席があるのがわかる。長い機首が邪魔をして頭を上げた時の視界は、かなり悪そうだ。但し、プロペラやエンジン、胴体が、いかにも高速を出しそうな雰囲気を醸し出している。

 ヴォート社が開発したこの機体はF4Uコルセアと呼ばれている。空母での運用を確認したいという理由で、昨日になって急遽エンタープライズにフォード基地から飛来したのだ。まだ試験中で、貴重な増加試作機だと説明を受けていた。ハルゼー中将はこの機体が、昨年初飛行した時に「時速400マイル(644km/h)越えの戦闘機」ともてはやされたのを記憶していた。

 パイロットのウォルシュ大尉が艦橋に上がってきて敬礼する。答礼しながらハルゼー長官が口を開いた。

「君も見ていたと思うが、攻撃隊を発進させた。これから、我が艦隊は日本空母との戦闘に突入する。君の機体を傷つけるわけにはいかんから、速やかにオアフ島に戻ってくれ。その機体はまだ試作機で、貴重だからな」

「随分戦闘機が少ない攻撃隊に見えましたが、大丈夫でしょうか。ここは1機でも護衛の戦闘機を増やすべきだと考えます。幸いこの機体には、50口径機銃が6挺備えられています。私も攻撃隊の護衛に参加したいのですが、許可願います。敵機に性能が大きく勝るこの機体が参加すれば、1機でも効果があるはずです。F4Uは昨年中旬に初飛行をしてから、いろいろな試験を行って、少なからず改修をしてきています。その結果、まだ荒削りですが戦闘にも使える機体となっています。プラットアンドホイットニーの2,000馬力エンジンも初期はいろいろトラブルがありましたが、1年半以上試験してきて、実戦で使えるレベルに改善していますよ。私を信じてください」

 ハルゼー中将はしばらく黙っていたが、やがて意を決したようだ。
「君は試験パイロットであって、厳密には私の指揮下にはない。従って、君がどの様な飛行ルートでオアフ島に帰投するかは、自分の判断で決めてくれ。この機体ならば、今から発艦しても直ぐに攻撃隊に追いつけるはずだ。いいか、危ないと思ったらすぐに逃げるのだ。こいつは、とんでもなく高速が出せると聞いているぞ。君が逃げると決断すれば、敵機からは容易に逃げ切れるだろう。絶対に機体を傷つけるんじゃない。間違いなく、我々にとって大きな損失になる」

 ウォルシュ大尉のF4Uは、ダブルワスプと呼ばれる2,000馬力エンジンの豪快な爆音を発して離艦していった。

 この時点でハルゼー中将は、オアフ島の偵察機からの情報を信じて、日本艦隊が4隻の空母から編制されると考えていた。しかし、日本艦隊は6隻の空母から構成されており、オアフ島を空襲しても、エンタープライズの攻撃隊を編制できるだけの機体を残すことが可能だった。日本機に発見されてから既に40分以上が経過していた。エンタープライズと日本艦隊の双方が、全速で近づいたため艦隊の間の距離は220浬(407km)にまで縮まっていた。この時期、日本海軍で推奨されていた空母の攻撃距離は200浬だった。
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