蒼穹の裏方

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第4章 インド洋の戦い

4.4章 日英攻撃隊発進

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 4月1日の空が明るくなった。両翼下に2つの増槽を抱いた彗星が赤城のカタパルトから離艦すると、編隊を組むこともなくどんどん上昇してゆく。

 草鹿参謀長と山口長官が、まだ何も見えない水平線をにらんでいた。
「それにしても新鋭機の二式艦偵は便利だな。雲があって視界が悪くても、電探で艦船を発見することができる。しかも巡航速度が速いので、同じ時間で今までの艦偵に比べて広い範囲を偵察できる」

 草鹿参謀長が続けるように発言した。
「伊七号潜水艦の偵察により、アッズ環礁には複数の戦艦と空母が停泊していることを確認していますが、これは1週間ほど前の情報なので現状では注意が必要です。更に、英国の艦艇がアッズ環礁の周りの海域を警戒していることも考えられます。環礁の空爆中に他の方面から攻撃を受けたらたまりませんので、まずは、我々の周囲に敵の艦船がいないか否かを確認します」

 そのような会話を交わしてから2時間後に、西北西方面を偵察していた艦偵が、驚くべき情報を報告してきた。

 通信参謀の小野少佐が駆け足で山口長官に電文を持ってくる。
「山口長官、空母と戦艦を含む部隊が、アッズ環礁から東方に向けて航行中とのことです。我々の偽電に誘われたのか、それとも偶然なのか判然としませんが、想定よりも早く環礁から出撃してきたようです。敵艦隊までの距離はおそらく、400浬(741km)程度です。敵艦隊への攻撃を進言します」

 その言葉に反応して山口長官が命令を出す。
「敵艦隊が出撃した理由の詮索は後でよい。真珠湾のように奇襲というわけにはいかないかも知れないが、全力で敵を叩くぞ。現状では先に発見した我々が先手をとっている。一航戦、二航戦、五航戦に命令、第一攻撃隊の発艦準備。攻撃隊の発艦後は艦隊上空の直衛戦闘機を増やせ。航空参謀、攻撃隊の編制はあらかじめ決めていたが、変更は必要か? 通信参謀、偵察機から敵艦隊の正確な位置を入手せよ」

 源田参謀が待ってましたとばかりに答える。
「環礁内の艦艇を攻撃するつもりで、第一次攻撃隊は艦艇攻撃の準備をしてきました。それに変更はありません。また攻撃の優先順位も空母、高速戦艦としていましたので変更の要はありません。第一次攻撃隊は、敵の護衛戦闘機との空戦も考慮して戦闘機を多めに編制しています。墳進弾は約半数の戦闘機に装備しています」

 艦隊発見からしばらくして、無線を傍受した近くの偵察機が加わって、2機の偵察機から位置情報や艦隊の構成など、続報が入ってきた。増槽を落とせば敵に追われても逃げ切れると考えているので、艦隊の周りをいまだにしつこく飛行して偵察情報を送ってくる。
「敵の位置はアッズ環礁からおよそ東に30浬(56km)の海上です。敵艦隊の詳細な編制が入ってきました。大型の正規空母2隻と中型空母1隻、戦艦2隻、巡洋艦3隻、護衛の駆逐艦多数。空母を中心とした部隊と戦艦を中心とした部隊の2群に分かれています。この艦隊以外は我々の周辺には艦艇はいません」

 航海参謀と話していた大石主席参謀が報告に来る。
「敵艦隊もこちらに向かってきていますので、どんどん距離が縮まっています。今から発艦を開始しても、完了するまでに敵艦隊との距離は250浬(463km)以下になっているはずです」

「うむ、先手を打ちたい。第一次攻撃隊はすぐに発艦させよ。航海参謀、敵との距離は100浬以下に接近することは避けたい。戦艦に懐に入られたくはないからな。艦隊の航路を調整してくれ。航空参謀、第二次攻撃隊も続けて発艦させるぞ。まずは目の前の敵機動部隊を殲滅する。平行してアッズ環礁の偵察を行わせてくれ。戦艦が逃げていなければ、そこにいるはずだ。とり逃したくない」

 一航艦は、6隻の空母から第一次攻撃隊の発艦を直ちに開始した。攻撃隊の指揮官は赤城艦攻隊の村田少佐だ。

 第一次攻撃隊は、戦闘隊57機、急降下爆撃隊39機、雷撃隊51機だった。

 戦闘機隊は大多数が零戦だが、配備が始まったばかりの烈風も12機を含んでいた。一方、艦爆隊は、一航艦全体としては99式艦爆がまだ残っていたが、第一次攻撃隊については全て彗星で編制することができた。雷撃隊については、まだ雷撃可能な新型の彗星が配備前なので、全て97式艦攻による構成だ。

 第一次攻撃隊が発艦していたころ、最も西方を進んでいた比叡と霧島、赤城、加賀からなる艦隊を英軍の偵察機が発見した。まるで旅客機のようなこの戦場には不釣り合いな4発の飛行艇は毎日、環礁の周囲を飛行していたが、その努力が報われた。アッズ環礁に配備された4機のサンダーランドのうちの東南方向の哨戒線を飛行していた偵察機の機上レーダーが艦隊の反応を検出したのだ。

 無線士が大声で探知を報告した。
「レーダーが水上艦をとらえました。距離40マイル(64km)、真東です。反射波増大中。大型艦を含む艦隊です」

「位置から考えて友軍ではない。その方角からやって来る艦船は日本軍以外にはいないぞ。直ちに基地に敵艦隊発見を報告しろ。本機は敵の艦隊編制を確認するためにもっと接近する」

 しかし、日本艦隊もこの英軍機を見逃すことはなかった。電探よりも先に赤城が搭載していた逆探に反応が出たのだ。
「西方に電波源を検出しました。周波数から電探の電波と推定。我が軍の周波数とは一致しません。間違いなく敵の哨戒機です。」

 探知報告が一航艦司令部へと伝えられている間に、電探も飛行艇をとらえた。
「西方、35浬(65km)で未確認機を探知。おそらく機数1、高度は不明」

 源田参謀から指示が出る。
「間違いなく敵の偵察機だ。西方を飛行している直衛隊に指示して、迎撃させろ」

 赤城戦闘機隊の田中一飛曹は小隊を率いて、西方へと飛行した。遠方からでも大型の飛行艇とわかるシルエットが見えてきた。
「後方から攻撃する。続け」

 田中小隊の零戦は一列になって、飛行艇よりも高度を下げて接近する。飛行艇の底部ならば、反撃する機銃が少ないと考えたのだ。それでも垂直尾翼の下の尾部銃座がチカチカと光り出して、発砲をしてきたことがわかる。思わず左足を踏み込んで、機体をわずかに左に滑らせた。その効果があったのかわからないが、敵弾が命中することはなかった。

 田中一飛曹は斜め下から接近すると、敵機の翼幅が照準器の反射ガラスいっぱいになったところでスロットルの発射把手を握りしめた。オレンジ色の13.2mmの射弾が飛行艇の尾部から後部胴体にかけて飛んでいくのが見える。弾着により、飛行艇の尾部と後部胴体からキラキラと輝きながら破片がばらばらと飛び散る。さかんに撃ってきていた尾部の機銃も沈黙した。

 尾部の反撃がなくなったおかげで、後続の2番機は落ち着いて射撃できた。接近して中央胴体から右翼に射撃を集中した。右翼のエンジン1基があっという間にどす黒い煙を噴き出して停止すると共に、エンジン付近の翼から炎が噴き出す。3番機が射撃を開始するころには、サンダーランドは既に右翼を下げて傾いていた。少し遠い距離から射撃を開始した3番機は機銃を打ちっぱなしで突っ込んでゆく。それでも、さすがに距離が詰まると胴体中央部から右翼にかけて命中し始める。飛行艇は右翼付け根からも炎を噴き出すと、機首をぐらりと落として、海面に落ちていった。

 3番機が射撃するのを見下ろしながら、田中一飛曹がつぶやいた。
「射撃が少し遠いな。帰ったら指導が必要だ」

 続けて無線のスイッチを入れた。
「こちら赤城戦闘隊、田中だ。4発飛行艇を撃墜。敵機数1。艦隊の西方海上」

 報告が山口長官に上がる。
「敵の4発飛行艇が偵察機として飛んできました。電探で接近を探知して零戦が撃墜しましたが、既に英艦隊に報告しているでしょう」

 横で聞いていた草鹿少将が注意を促した。
「今後は敵に発見されている前提での行動となります。敵空母との距離から考えて2時間から3時間後には敵編隊がやってくる可能性があります。航空参謀に聞くが、英軍の空母搭載機の情報は何かあるか?」

 源田参謀が早口でメモを見ながら答える。
「英国の艦上機については、複座の艦上戦闘機でフェアリー社のフルマーという機体が知られています。かなり大柄な戦闘機ですが発動機はスピットファイアと同じロールスロイスを搭載しているとのことです。大きい機体なので速度が遅く空戦性能は悪いでしょう。雷撃機はアルバコアという複葉の機体をまだ使っています。我々から見れば1世代前の機体です。複葉のソードフィッシュも搭載しているようですが、これは更に古い機体と言っていいでしょう。一方、二式艦偵のように電探を機体に搭載しているとの情報があります。これには注意が必要です」

 源田中佐は、いささか細かなことかなと思ったが、聞かれたことなので、一息ついてから残った情報を話し続けた。
「英空軍で広く使われているハリケーン戦闘機を艦載機とした機体を搭載した情報もありますが、これは航続距離が短いので艦隊の防空専用になります。速度がある程度出て、空戦もそれなりにできるので、我々の零戦とはいい勝負になると思われます。また、単座の戦闘機が不足していることから、米軍からグラマン戦闘機を導入したとの情報があります。まあ、我々にとってはグラマンは既に知っている相手ですが油断は禁物です。速度と空戦性能は零戦より若干劣りますが、零戦でも奇襲されれば落とされる可能性があります。ましてや艦爆と艦攻にとっては警戒すべき相手です。英国製の機体については、今まで戦ったことはありませんが、米軍の艦載機より若干劣る性能と考えています」

 司令部で会話をしている間に、攻撃隊の発艦が完了した。発艦した後は、朝から上空に護衛の戦闘機を飛ばしているので、順次収容して補給を実施する。燃料を満載するとすぐに戦闘機は発艦してゆく。こんな時にカタパルトを搭載した大型空母は、斜め飛行甲板と艦首カタパルトから2機連続発艦などということができる。あっという間に20機の戦闘機が空中に上がった。

 山口長官から第二次攻撃隊の発艦の命令が出る。
「敵艦隊を殲滅する。第二次攻撃隊を発艦させよ」

 各艦とも第一次攻撃隊に続いて第二次攻撃隊の準備をしていたので、山口司令の命令が発せられると、直ちに攻撃隊の発艦が始まる。

 第二次攻撃隊は、瑞鶴艦攻隊の嶋崎中佐を指揮官として、戦闘隊42機、急降下爆撃隊40機、雷撃隊51機で編制されていた。第一次攻撃隊に新型機を優先した結果、こちらの攻撃隊には新型機として、9機の彗星が含まれているだけだった。

……

 一方、英軍にも日本の機動部隊発見の報告がもたらされていた。アッズ環礁から飛んでいたサンダーランド飛行艇の電文は、環礁の海軍基地と東洋艦隊の双方に受信されていた。撃墜される直前に発した飛行艇からの報告により、環礁から300浬(556km)東方の地点で航行する日本の機動部隊の位置が判明した。

 通信士官が早口で偵察機からの内容をフィリップス司令官に伝えた。
「索敵機が日本海軍の空母部隊を発見しました。視界内に4隻の空母が航行していることを視認しました。我々から250マイル(402km)の位置を我々の艦隊に向かって航行しています。目的地はアッズ環礁で間違いありません」

 フィリップス中将は平静な口調で、副官のパリサー少将に指示する。
「敵艦隊は目的地をコロンボではなくアッズ礁に変えたようだ。ここで我々が逃げれば、アッズ基地が攻撃されるぞ。そうなれば環礁内で回避もできない戦艦や巡洋艦は敵の餌食だ。作戦変更だ。我々も全力で敵艦隊を攻撃しなければならない。すぐに敵艦隊への攻撃隊が出発できるように準備してくれ。」

 続いて、通信士官がもう一つの電文をフィリップス中将に持ってくると黙って読んだ。
「プリンス・オブ・ウェールズのレーダーが我々の艦隊周囲で飛行する機体をとらえた。機数は2機とのことだ。日本軍の偵察機だ。どうやらしばらく前から我々は監視されていたようだな」

 パリサー少将が答える。
「直ちに敵艦隊への攻撃隊を発艦させます。敵航空機の空襲が想定されますので、上空の戦闘機の数を増やします。攻撃隊の護衛戦闘機よりも艦隊防御の直衛機を優先しますがよろしいですね?」

「うむ、やむを得ないだろう。敵機の方が数は多いはずだ。敵の攻撃機から我々の艦隊を守ることを優先する。アッズ基地にもこれから日本軍と戦うことを報告してくれ」

 この時点で、英軍指揮官は彼我の戦闘機の実力差については認識できていない。

 東洋艦隊は日本海軍から1時間ほど遅れて攻撃隊の発艦を開始した。

 東洋艦隊から発艦した攻撃隊は、3群の編隊に分かれて飛行することになった。

 第一群はインドミタブルから発艦した、フルマー戦闘爆撃機6機、アルバコア雷撃隊24機から構成されていた。

 第二群はフォーミダブルから発艦したマートレット戦闘機9機、アルバコア雷撃隊21機から構成されていた。

 第三群は、ハーミーズから発艦したソードフィッシュ雷撃機12機だ。速度が遅いため自然に第三群となって後方を飛行することになった。

 艦隊の上空にはフルマー戦闘機6機とマートレット戦闘機が18機、シーハリケーン戦闘機が9機滞空して日本軍を待ち構えていた。シーハリケーンは航続距離が短いので攻撃には参加せず、艦隊の護衛に割り当てられていた。

 英艦隊の上空で直衛の戦闘機が隊形を整えていたころ、一航艦の第一次攻撃隊は、英国艦隊に近づいていた。
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