蒼穹の裏方

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第7章 珊瑚海海戦

7.4章 珊瑚海の戦い 米軍の攻撃

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 五航戦には重巡妙高と羽黒、防空駆逐艦秋月と照月、それに第二七駆逐隊の4隻の駆逐艦が随伴していた。もっとも防空能力の高い秋月と照月が艦隊の前面に出ており、その後方を機動部隊に配備された妙高と羽黒及び五航戦の空母が続いていた。駆逐艦は空母の周囲を護衛している。五航戦の西方にやや離れて隼鷹が航行して、その周囲を第七駆逐隊の2隻の駆逐艦が護衛していた。

 隼鷹は本土防空戦で搭載していた橘花改を木更津で整備を行ったうえで、再び搭載していた。艦長の石井大佐が、是非とも自分の空母に搭載したいと直談判したのだ。橘花改は、直衛機としては最後に隼鷹を発艦して、上空で敵攻撃隊を待ち構えていた。中隊の指揮官としては、本土防空戦に引き続き空技廠飛の小福田大尉が搭乗していた。空母上空では、敵攻撃隊の飛来方向に飛行してゆく。噴進弾を装備した9機の橘花改が前に出て、それに12機の烈風が続く。16機の零戦が更にその後方を飛行していた。

 やがて、照月の電探が接近する大編隊をとらえた。もちろん友軍機ではない。規模の大きな編隊は、瑞鶴と翔鶴の電探でもすぐに捕捉された。

 電探室から報告が上がってくる。
「南南東より、敵編隊が接近。40浬(74km)。反射波より相当な大編隊と推定」

 艦橋内の人の動きが一気にあわただしくなる。
「直衛機に命令。敵編隊を迎撃。橘花改を前面に出せ」

 翔鶴艦橋の戦闘状況表示盤は、日本艦隊と偵察機により報告された敵艦隊の位置を表示して、2つの艦隊の間には発艦した攻撃隊の駒を張り付けていた。更にその右側に翔鶴を中心として、味方の艦艇と上空の航空機を張り付けた拡大した表示盤を追加していた。右側の表示盤に電探が探知した敵機を示す赤の駒を次々に追加してゆく。青い駒が赤い駒に向けて移動してゆく。味方の戦闘機が敵編隊に向かって飛行しているのだ。いつの間にか電探担当の中尉が上がってきて、電探室と通話をつなぎっぱなしにして駒の位置を変えている。上空の友軍機には、電探の電波に対して電波応答する小型の送信機を全機に追加していた。そのため、混戦になっても敵と味方が識別できるようになっていた。

 速度を生かして、真っ先に敵編隊に接近した9機編隊の橘花改は一度上昇して、編隊の中央を飛行しているSBDドーントレス編隊の上空から、背後に回り込んだ。後部の機銃を警戒して、一度沈み込んで接近してゆく。前方を飛行していたF4Uがそれを追いかけようと方向転換するが、高速のジェット戦闘機の機動についてゆけない。小福田大尉の橘花改はSBDの編隊に向けて突進して、爆撃編隊の後方からやや上方に向けて噴進弾を発射した。隊長機の発射を見て、列機も一斉に噴進弾を発射する。

 39機のSBDドーントレスは、南北に離れて2群に分かれて飛行していたため、それぞれ4機と5機に分かれた橘花改がSBDの編隊に向けて噴進弾を発射した。発射された190発以上の噴進弾に対して、編隊の中で7回の爆発が起きて7機が落ちてゆくが、1発で複数機を撃墜するような爆発は発生しない。米軍機が噴進弾攻撃を警戒して、かなり広がった編隊飛行をしていたためだ。9機の橘花改は噴進弾ポッドを落とすと、そのまま編隊に突入してSBDの後方から接近すると、広がった編隊に合わせて単機ごとに分散して攻撃を行った。8機のSBDが橘花改の一航過で落ちてゆく。SBDの編隊を斜め上に突破してから、編隊上空を再度後方にまわってから、更に7機を撃墜するとSBDの編隊の上方に抜けた。一瞬で半数以上のSBDが撃墜されていた。

 急降下爆撃機の編隊を攻撃して、そのまま橘花改は前方の戦闘機編隊に後方から突っ込んでいった。一方、F4U戦闘機の前方からは、烈風の編隊が接近していた。SBDの前方を飛行していたF4Uコルセアの編隊は、橘花改の攻撃に対処しようと急旋回する機体と、前方から接近する烈風に対応しようと直進する機体に分かれていた。小福田機は直進しているF4Uの後方から一気に近づくと一連射した。20mm弾が炸裂すると、胴体に大きな穴が開いてカウリングが飛び散った。

 一方、前方から米戦闘機編隊に接近した烈風は、6機と9機の編隊に分かれた。6機の烈風が直進するF4Uに向けて噴進弾を発射した。するとF4Uからもロケット弾が発射された。瑞鶴戦闘機隊の牧野大尉はきわどいところでF4Uのロケット弾を回避した。ロケットの飛翔する白い噴煙を見て双方が回避したので命中弾は発生しない。牧野大尉の烈風は9機のF4Uと空戦に入った。

 F4Uに搭乗したサッチ少佐は、短時間でジェット戦闘機と零戦を高性能にしたような2種類の機体を目撃することになって一瞬驚いた。しかし、ドーリットル攻撃の生還者から、米海軍は双方の機体の情報を得ていた。サッチ少佐も最新の機体識別表には、目を通している。
「ジェット戦闘機はリサ(橘花改)だ。プロペラ機はサム(烈風)だ。サムは我々と同程度の性能だ。まずはこちらを落とす。今まで訓練していた戦法でやるぞ」

 本土防空戦で登場した橘花改に、米軍はその滑らかで優雅な飛行を見てリサというコードネームをつけていた。
 サッチ少佐が率いたF4U編隊は、ハワイで訓練してきたサッチウィーブによる2機がペアとなった戦闘法で烈風に太刀打ちしようとする。烈風も急旋回でF4Uを追いかけようとするがF4Uの数が多すぎて対応できない。F4Uに背後に取りつかれた2機の烈風が機銃弾を受けて落ちてゆく。

 瑞鶴戦闘機隊第三小隊長の岩本一飛曹は、F4Uの第一撃を急降下によりかわした。そのまま降下してF4Uの下方に抜けると余力ですぐに上昇に移って、烈風隊を攻撃しようと左に水平旋回してゆくF4Uの後方に追いついた。油断している敵機の後方に接近して射撃しようとした。しかし、別のF4Uが烈風に対して、サッチウィーブ型戦闘法で後方から岩本機に機首を向けてくる。後方の敵機が接近する前に、速度をつけていた岩本機は逃げるF4Uの旋回方向を読んで、一瞬早く見越し角の大きな射撃をすると、命中するか否かも確認せずに左に機体を滑らして回避する。岩本機の20mm弾が前方に飛んでゆくと、旋回するF4Uが弾道の中に飛び込んできた。操縦席の周りに着弾して外板や風防が吹き飛ぶ。岩本機の後方に迫っていたF4Uは、空戦フラップを活用した鋭い旋回を追いかけるのに苦労していた。そのF4Uの後方に列機の伊藤二飛曹が近づくと1連射して撃墜してしまう。旋回した岩本機は既に別のF4Uを見つけて上昇を開始する。同じような急旋回によりF4Uの後方から射撃して1機を撃墜した。

 一方、隼鷹から飛び立った笹井中尉の率いた9機の烈風は、米編隊後方の雷撃機の編隊を目指した。最も艦隊にとって高い脅威が雷撃機だと判断したからだ。後方のTBFアベンジャーは初めて見る機体だったが、その太い胴体と大きな主翼から明らかに雷撃機だとわかる。編隊上空に上昇して斜め後方から降下攻撃を仕掛ける。烈風はあらかじめ示し合わせた通り、横一線に広がった。一斉に噴進弾を発射する。190発以上の噴進弾がTBF編隊とほぼ同じ範囲に広がって飛んでいった。編隊の10カ所以上で爆発が発生した。爆煙も消えないうちにまだ飛んでいるTBFに向かってゆく。TBFが後部の動力銃座から反撃するが350ノット(648km/h)を超えて降下してくる烈風には命中しない。烈風の編隊はほぼ同数のTBFに20mm弾を命中させて撃墜した。TBF編隊の後方から烈風の編隊が一航過するだけで、30機が飛んでいたTBFアベンジャーは4機に減ってしまった。烈風のうちの4機が上空でくるりと反転すると、残ったTBFの斜め上から背後にまわって撃墜した。

 直衛隊の最後方を飛行していた零戦隊は2つの編隊に分かれていた。同じように2編隊で飛行するほぼ同数のF6Fの編隊が前方に現れた。シルエットを見て、瑞鶴戦闘隊の佐藤大尉は本土攻撃時に目撃報告されていた、新型のグラマンだとすぐにわかった。彼の眼にもグラマンの機体だとわかる特徴的な外観だ。

「敵機は新型グラマンだ。油断するな」

 16機の零戦が一斉に噴進弾を発射したが、遠すぎて敵機に届く前に回避される。次の瞬間、F6Fも一斉に翼下のロケット弾を発射した。零戦は急降下で回避する。運動性の良い戦闘機に遠距離で射撃してもロケット弾はなかなか命中しない。中隊長の佐藤大尉は操縦席の中でニヤリとしていた。米戦闘機が空母の攻撃時に噴進弾を使うことをまずは阻止したかったのだ。

 しかし、空中戦では上位を取られた零戦隊が不利になった。上空からF6Fの降下攻撃を受けてたちまち3機が撃墜された。佐藤機は急旋回でかわしながら、目の前で背中を見せて降下してゆく1機のF6Fに狙いをつけて射撃をすると、煙も吹かずに落ちていった。2番機の牧野一飛曹はかろうじて上空からの攻撃を回避すると、降下するF6Fの背後につけた。右や左に旋回して回避しようとするが、落ち着いて追いかけると急降下では離されるものの、零戦とそれほど水平速度は変わらない。相手が左旋回したところを思い切り内側に回り込んで小さい半径で旋回すると、F6Fの背中はすぐ近くだ。13.2mmを連射するとエンジンに着弾して部品や破片が飛び散って煙を吹き出しながら落ちていった。

 劣勢になった零戦隊の上空から、笹井中隊の烈風が急降下してきた。零戦を追いかけていたF6Fの背後につけると一連射で撃墜する。坂井機も西沢機も上空からF6Fに狙いをつけると、あっという間に2機を撃墜した。

 半数に減ったSBDとそれを護衛する10機のF4Uと5機のF6Fが前進を続けていた。前方に空母を視認して全速で降下してゆくと、米軍攻撃隊よりも高度を上げていた3機の零戦がSBDに降下攻撃を開始した。しかし、SBDの上空を飛行していた5機のF6Fが零戦の背後に降下してあっという間に撃墜した。攻撃された零戦は、撃墜される直前に前方の6機のF4Uの両翼下に噴進弾がぶら下げられていることに気が付く。無線で翔鶴に伝える。
「敵戦闘機が噴進弾を搭載している。敵戦闘機の噴進弾に注意……」

 秋月は、右舷よりの前方から飛行してくる複数の編隊を視認できるようになった。厄介なことに最も右側の編隊に対しては味方の零戦が攻撃している。左は敵機だけのようだ。電探で確認しても左側の編隊の反射波は全て敵機だ。古賀艦長は前方左側の編隊を狙うことをすぐに決断した。

 秋月の4基の10cm高角砲塔がやや左舷を向いて、砲身を上にあげて射撃を開始する。数秒に一度の発砲で次々と高角砲弾の爆発煙が編隊の周囲で発生する。今回の戦いでも、秋月は二号四型電探を利用して射撃管制をしていた。左舷を航行していた照月も同様に全力射撃を開始する。

 3分程度の射撃で狙った編隊の2機が煙を出して落ちてゆく。その後も秋月と照月は上空を通り過ぎる米軍の編隊を狙って射撃を続けた。

 このとき、秋月と照月の後方では、瑞鶴が前方に出て、後方を翔鶴が続いていた。また、護衛として高木少将の座乗する重巡妙高は瑞鶴の前方を航行し、重巡羽黒が翔鶴の前方を航行していた。瑞鶴と翔鶴の一群の後方には、やや離れて機動部隊に編入された隼鷹と駆逐艦が続いていた。

 米軍の編隊が視認できてから、2隻の巡洋艦の12.7センチ高角砲が射撃を開始した。編隊が徐々に近づくと、後方の空母も高角砲を使用して対空射撃を開始するが、明らかに秋月ほど狙いが正確ではない。重巡も翔鶴と瑞鶴も二号四型電探を装備していたが、高角砲の照準とまだ連動できていないのだ。

 高射砲の弾幕を抜けた8機のF4Uが4機ごとの2編隊に分かれて、空母の上空から急降下を始める。完全に空母のみに攻撃目標を絞っている。空母の40mm機関砲が全力で射撃を開始した。降下した4機のF4Uに対して、瑞鶴の40mm機関砲が反撃して1機が撃墜される。

 突然、瑞鶴の両舷から白い煙が発生して、上空のF4Uに向かってどんどん伸びてゆく。トラックで工作艦の明石が運んできて追加した多連装噴進弾を発射したのだ。70mm噴進弾を基にして地上から発射しても3,000m以上の高度まで打ち上げられるように、推進剤を大幅に増加させている。弾頭には時限信管が備えられ、5秒から10秒の間の設定した時間で爆発した。28発の噴進弾が右舷から発射されると降下するF4Uに向かって伸びてゆく。

 翔鶴も同様に、28連装の噴進弾を発射した。2機のF4Uは接近する噴進弾を急旋回で回避しようとした。これにより、空母への降下コースを大きく外れてロケット弾発射が不可能になった。旋回したところを40mm機関砲で追いかけられて、攻撃をあきらめてロケット弾ポットを投下して上空に回避した。もう1機のF4Uは機首を上げて上昇してから再度攻撃をやり直そうとした。上昇に移って速度が低下したところに40mm機関砲が命中して、ばらばらになって落ちていった。

 翔鶴にも4機のF4Uが向かったが、1機が撃墜されて、3機が翔鶴に向けて降下した。多連装噴進弾の発射が早かったために、F4Uは上昇してくるロケット弾の飛行ルートを見ながら攻撃することができた。F4Uの先頭機は両翼下のポッドから合計18発の2.5インチロケット弾を発射した。約3割の6発が命中した。続いて降下していたF4Uの間近に噴進弾が迫ると、相次いで空中で爆発したが4Uには被害はない。2機のF4Uはそれに構わず降下してロケット弾を発射した。このため、36発のロケット弾のうち10発程度を命中させることができた。2基の40mm機関砲と2基の12.7センチ連装高射砲が使用不能となり、飛行甲板にも数か所に穴が開いた。

 2隊に分かれていたSBDドーントレスの最初の編隊が艦隊上空に現れた。既に日本機の攻撃により編隊はばらばらになって機数も減っていたが、それでも11機が接近してくる。秋月と照月が猛烈な高角砲の射撃を開始すると、たちまち4機が落ちてゆく。残りの機体が急降下に入る。本来2隻の空母を狙うはずだったが、先行して航行する瑞鶴が前方のスコールの雲の下に入ったため、翔鶴が集中的に狙われることになった。1機が急降下の途中で撃墜されるが、残りの機体は投弾に成功した。28連装の噴進弾も一度射撃をした後の次発装填ができていない。

 急降下で投下された6発の爆弾は、翔鶴が35ノット近くの高速で回避していたため、2発は大きく外れて、次の2発も近かったが外れた。しかし、続けて投下された2発は艦の中央部を狙って落ちてきた。翔鶴は左に急回頭して狙いを避けようとして、1発をかわすことができた。しかし、ついに1発が前方の右舷側に命中した。

 SBDドーントレスの投下した1000ポンド爆弾は、左舷前部の飛行甲板を貫通して上部格納庫も貫通して下部格納庫で爆発した。爆発で下部格納庫は破壊されて、上部格納庫にも噴き上がって前部エレベータが陥没してしまった。しかし、機関部は無傷でまだ全力発揮が可能だった。

 第一群のSBDが投弾した時には、既に第二群のSBDが急降下の態勢に入っていた。6機の機体が飛来して来て、対空砲火で2機が撃墜されたが4機が投弾した。翔鶴は取舵が効いて急速に進路を変えていたが、次々と爆弾が落ちてくる。1発が至近弾となって、左舷に水柱を上げたが命中しない。次の1弾は、右舷後部の飛行甲板に命中して格納庫で爆発した。火災が格納庫内で発生する。幸いにも喫水線より下には破口は開口していない。続いて、1発が右舷艦橋の後部の機銃座に命中して爆発した。爆発の圧力で格納庫側面の隔壁が吹き飛んだ。

 スコールの下を航行していた瑞鶴は攻撃をまぬがれたので当然無傷だった。やがてスコールの下から瑞鶴が悠々と出てきた。

 直ちに草鹿少将が命令を出す。
「隼鷹と瑞鶴に命令。帰投する攻撃隊と、降りてくる直衛機は2艦で収容せよ。隼鷹は後方から、瑞鶴が視認できるところまで、東方に進出せよ。輸送船の攻撃隊が帰還したならば、第二次攻撃隊の準備をせよ」

 草鹿少将は、大橋参謀の方に向き直った。
「できる限り航空機の数を減らしたくない。損傷の大きな機体から廃棄するように指示してくれ。但し、できれば、新型機はなるべく温存したい」
 大橋中佐は黙ってうなずいた。
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