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第9章 外伝
9.2章 次期ジェットエンジン
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昭和16年3月になると、ネ20の空中での試験も進み、圧縮機のストール対策などの対策が効果を発揮してきて、ジェットエンジンとしての実用化の目途が立ってきた。そうなると、次のジェットエンジンについての議論が始まった。空技廠噴進班において、ジェットエンジンについて最も切実な課題は、出力の更なる増加と燃料消費量の改善だ。
私としては、次のジェットエンジンはターボファンエンジンを目指したい。未来の歴史を知る私にとって、ジェットエンジンが発展すれば、将来はターボファン型のジェットエンジンが主流となることは自明だ。前面にファンブレードを追加することで、出力を増加できる。加えて、ネ20やネ30において課題になっていた燃料消費率の大幅な改善が可能になるはずだ。
私は、未来のオタクの時に読んでいた雑誌のジェットエンジン関係の記憶に基づいて、ターボファンエンジンの概要ともいえる解説資料を作成した。エンジンの構図や動作の概要を示す図も書き加えた解説資料なのだが、ジェットエンジンに対する専門的知識が不足しているので、計算式などはほとんどない。
「資料の図に示したように、ターボファンエンジンとは、例えば現状のネ20エンジンの更に最前面に直径の大きなファンを追加して圧縮機と同様に回転させます。このファンの圧縮した空気流の一部はエンジンの圧縮機が取り込んで、エンジンの駆動に使われますが、残りのファンで圧縮された空気流はエンジンの外周を通って、そのまま後方に排出されます。もちろんファンからの空気流もジェットエンジンの一部として推力を発生することになるので空気流量が増加したエンジンとなります」
種子島中佐などのジェットエンジンをよく知っている人間にとっては、この程度の知識は論文を読んで、知っている範疇に入る。しかし、ジェットエンジンについてはあまり詳しくない三木大尉が質問した。
「大きなファンを単純に追加しても、うまく動作しないのではないか? 少なくともファンを高速で回転させるためには、タービンによる回転駆動力を増加させる必要があるだろう」
「おっしゃる通りです。このエンジンでは従来のタービン翼に加えて、後段にもタービンを追加する必要があります。追加したファンを駆動できる段数のタービンが必要になります。その分ジェットエンジンの排気からはエネルギーが減少しますが、ファンからの推力が加算されます」
「それで、燃料の消費量が、ターボファンエンジンエンジンならばなぜ改善するのだろうか?」
「例えば、ターボジェットエンジンの排気速度が1でそのガスの流量が1のジェットエンジンがあると想定します。そのエンジンの推力は速度と流量の積なので、1となります。これと同等の推力を有するターボファンエンジンを考えます。まず、ファンの駆動により排気エネルギーが減少していて、ジェットの排気速度は1/2とします。ファンの空気流量が1で、燃焼ガスの流量が1で流量の和が2のエンジンを想定します。排気速度は1/2ですが、その代わり排気ガスの流量が2なので、エンジンの推力は、ターボジェットエンジンと同じ1です。ジェットエンジンの特性として、エンジンの燃焼エネルギーはジェットの排気速度の2乗と流量との積に比例します。すると、排気の速度が1/2なので、ターボファンエンジンの燃焼エネルギーは2乗して、ファンとジェットの流量の和である2を掛けると1/2となり、ターボジェットエンジンの1/2のエネルギーで同等の推力が発生できることになります」
「推力が同じで燃料消費が理論上、半分になるなんて、都合がよすぎるように聞こえるが、理論的に正しいのだよね?」
「運動量が速度の1乗に比例する一方、運動エネルギーが速度の2乗に比例するのでこんな結果になります。ファンへの流量がもっと大きくて、排気速度が小さなエンジンを想定すれば、もっと燃料消費効率がよくなります。あるいは燃料の消費をそこまで抑えないのであれば、全体の推力を増加させることになります」
永野大尉が質問する。
「とてもうまい話に聞こえるが、海外でも研究しているのか?」
ターボファンの試作は、確かダイムラーベンツが終戦間際に行っていたはずだ。
「この形式のエンジンをドイツでは研究をしていると思いますよ。いずれジェットエンジンではこの形式が主流になります。なんと言っても燃料消費も出力も改善できるのですから」
私の説得に効果があったのか、噴進班としては、次のジェットエンジン開発はターボファンエンジンとすることになった。空技廠で方針が決まると、実際の開発着手は早かった。何しろ、今までのTJ-20とTJ-30の開発の成功から、ジェットエンジンの重要性については航空に関与するものはほとんどが認識していた。高性能エンジンの開発については、すぐに航空本部にも計画が認められた。
昭和16年3月末から、基本設計に着手した。まずは追加するファンなどについて基本的なサイズやファンへの空気流量など基本的な部分を詰めてゆく。基本検討の結果、ネ20をベースとしたターボファンエンジンについては、二つの案が出てきた。
第1案は、回転軸が1軸で圧縮機も前面のファンも回転させるシンプルな構造のエンジンである。このエンジンは名称をとりあえずYTJ-21とつけて検討を進めることになった。第2案は、回転軸を2軸として、前面のファンと低圧系の一部の圧縮機を高圧系圧縮機に比べて低い回転数とする形式である。2軸構造が複雑でネ20からの変更も多いが、性能は優れているはずだ。開発名称をYTJ-22として検討することとなった。
新規設計となるファン部については、空技廠内で空力担当の北野大尉が実験を進めると共に東北大学の圧縮機専門家の沼知教授にも分析を依頼した。また回転軸については1軸構成と2軸構成について、構造専門家の川田中尉が設計を進めた。同時にエンジン内部で回転する部分の模型を作成して、モーターで回転させることにより、松平技師が振動特性の解析を行った。
検討を進めた結果、1軸構成のYTJ-21では、高圧部の後段圧縮機に回転数を合わせると、どうやってもファンの推力が不足することがわかってきた。逆にファンの推力を重視すると、高圧側の圧縮比が不足する。結局、沼知教授の意見が決定的になった。
「ファンの効率を考えて回転数を決めると、高圧側の圧縮機の効率との両立は極めて困難だ。圧縮羽根の形状など、どのように工夫しても圧縮比が低下すると考える。これから一軸構成を検討しても、結果的にうまく行かないであろう」
構造的に複雑にはなるが、性能の確保が難しいのでは仕方がない。基本構成として2軸のYTJ-22に一本化して設計を進めることになった。基本レベルの構成が決まってくると、ネ20を生産していたメーカの参加を呼びかけた。
YTJ-22開発の主契約は三菱の発動機部門が行って、タービンと燃焼器を住友金属と日立タービンがそれぞれ分担して、詳細設計を開始した。もちろんネ20で実績のある構造や機構は、変更の必要性がない限り踏襲することが前提だ。
エンジンの基本設計としてはコアエンジンのエネルギーの約半分をファンの駆動に割り当てることにした。この結果、コアエンジンの排気ガスの速度は75%に低下するが、ファンからほぼ同じ程度の推力が発生して、4割程度燃料消費が改善することになる。これで、エンジン全体ではネ20の1.3倍の推力を目標とすることになった。
昭和16年7月になって、地上試験1号機が完成した。まだ限界までは運転できないが、推力600kgf程度まで確認して、合計2時間運転を行った。その後にバラバラに分解して内部の異常の有無を詳細に確認する。確認の結果、2重構造の軸受けの摩耗を検出した。更に追加した前面ファン部の羽根の付け根にも亀裂を見つけた。
早急に原因の追及が必要だ。種子島中佐が構造関係をやっている技術者を招集して、原因についての見解を求めた。
軸受けの摩耗を分析した川田中尉が、最初に説明した。
「ファンの回転軸を支えている玉軸受けのボールベアリングの表面状態を確認したが、うろこ状のはがれの傾向がみられる。これは繰り返し強い応力がかかっていて、疲労破壊が起こる前兆だ」
私も状況を確認した結果、同じ推論に達した。
「強い応力がファンの回転軸にかかって、軸受けに摩耗ができている。応力の原因はファン回転軸の振動現象だと思う。振動により、衝撃が発生していると考えると、ファンの羽根の付け根の亀裂も説明できる。振動計測器をつけて運転すれば、振動周期や強度が判明すると思う」
早速、振動問題の専門家の松平技師を呼んで、振動計を取り付けて測定を行った。
「やはり振動が発生していますね。周波数から軸の2次振動が大きいようですね。もっと回転軸のバランスを完璧にとれば振動は小さくなりますよ。あるいはもっと潤滑油を増やして油膜を軸受けの内部に生成することにより、一種のダンパーの働きを持たせる方法も考えられます」
コアとなっているジェットエンジンを構成する圧縮羽根とタービンの回転軸は、前方の玉軸受けと後方のコロ軸受けに加えて、高圧圧縮羽根直後の中央部にも玉軸受けを設けて、回転軸を支えている。これに対して、ファンを回転させる回転軸は二重構造の内軸側を貫通しているので、構造上、前方に玉軸受けを配置して、後方にコロ軸受けを設けることしかできない。しかもコアエンジンの回転軸に比べて、回転軸の長さは長く、軸直径は小さくなる。その内軸側に振動が発生していた。
しばらく川田中尉は、あれこれ実験していたが、2週間後には対策を決めて報告にきた。
「ファンと回転軸のバランスの改善で、振動を抑制するのは工作精度の観点からも限度があると思う。結局、潤滑油を流す流路を新たに作りこむことにより、ダンパーの効果のある油膜が生成されるようにする。軸受け周囲にシールを追加して油が途切れない構造に変えることとしたい」
川田中尉の考案した対策に従い、軸受け部分の設計変更を行った。油膜形成によるダンパーの効果が認められて、軸振動が減少した。振動問題を解決することにより、昭和16年9月から改修したエンジンをG6M2に搭載して空中試験を開始できた。問題が解消された結果、最大回転数までの運転でエンジンの推力は1,000kgfに到達した。推力ではまだTJ-30よりも劣っていたが、何よりも小型のエンジンで、しかも従来のTJ-20よりも4割以上の燃料消費が改善することを確認できた。
昭和16年11月からは、ジェットエンジン試験機の橘花を改修して、高速飛行の実験を実施した。推力が向上したことにより、飛行性能が向上したことを確認できた。橘花の最高速度は431ノット(798.1km/h)から445ノット(824km/h)に向上した。それに加えて航続時間が著しく増加していた。もともと橘花は、試験のために、約2時間程度の飛行が可能だった。それが1.5倍の3時間に増加したのだ。
橘花改に搭載すれば、同様の効果が得られることは確実なので、生産ラインから橘花改を抽出して、エンジン交換を実施した。橘花改の試験飛行の結果も433ノット(802km/h)が447ノット(828km/h)に向上して、航続距離も約1.5倍に伸びることが確認できた。実戦部隊に配備予定の橘花改も新エンジンを搭載した改良型として、配備することが決定された。
YTJ-22は、昭和17年2月になってネ22として、制式化された。
TJ-22(統合名称ネ22) 昭和17年2月
・全長: 3,500mm
・直径:750mm
・ファン:1段
・圧縮機:軸流式8段
・タービン:2段
・重量:650 kg
・燃焼器:8(キャニュラー式)
・回転数:9,000rpm
・タービン入口温度:約750℃
・推力:1,100kgf
・オーバーホールまでの運転可能時間:100時間
私としては、次のジェットエンジンはターボファンエンジンを目指したい。未来の歴史を知る私にとって、ジェットエンジンが発展すれば、将来はターボファン型のジェットエンジンが主流となることは自明だ。前面にファンブレードを追加することで、出力を増加できる。加えて、ネ20やネ30において課題になっていた燃料消費率の大幅な改善が可能になるはずだ。
私は、未来のオタクの時に読んでいた雑誌のジェットエンジン関係の記憶に基づいて、ターボファンエンジンの概要ともいえる解説資料を作成した。エンジンの構図や動作の概要を示す図も書き加えた解説資料なのだが、ジェットエンジンに対する専門的知識が不足しているので、計算式などはほとんどない。
「資料の図に示したように、ターボファンエンジンとは、例えば現状のネ20エンジンの更に最前面に直径の大きなファンを追加して圧縮機と同様に回転させます。このファンの圧縮した空気流の一部はエンジンの圧縮機が取り込んで、エンジンの駆動に使われますが、残りのファンで圧縮された空気流はエンジンの外周を通って、そのまま後方に排出されます。もちろんファンからの空気流もジェットエンジンの一部として推力を発生することになるので空気流量が増加したエンジンとなります」
種子島中佐などのジェットエンジンをよく知っている人間にとっては、この程度の知識は論文を読んで、知っている範疇に入る。しかし、ジェットエンジンについてはあまり詳しくない三木大尉が質問した。
「大きなファンを単純に追加しても、うまく動作しないのではないか? 少なくともファンを高速で回転させるためには、タービンによる回転駆動力を増加させる必要があるだろう」
「おっしゃる通りです。このエンジンでは従来のタービン翼に加えて、後段にもタービンを追加する必要があります。追加したファンを駆動できる段数のタービンが必要になります。その分ジェットエンジンの排気からはエネルギーが減少しますが、ファンからの推力が加算されます」
「それで、燃料の消費量が、ターボファンエンジンエンジンならばなぜ改善するのだろうか?」
「例えば、ターボジェットエンジンの排気速度が1でそのガスの流量が1のジェットエンジンがあると想定します。そのエンジンの推力は速度と流量の積なので、1となります。これと同等の推力を有するターボファンエンジンを考えます。まず、ファンの駆動により排気エネルギーが減少していて、ジェットの排気速度は1/2とします。ファンの空気流量が1で、燃焼ガスの流量が1で流量の和が2のエンジンを想定します。排気速度は1/2ですが、その代わり排気ガスの流量が2なので、エンジンの推力は、ターボジェットエンジンと同じ1です。ジェットエンジンの特性として、エンジンの燃焼エネルギーはジェットの排気速度の2乗と流量との積に比例します。すると、排気の速度が1/2なので、ターボファンエンジンの燃焼エネルギーは2乗して、ファンとジェットの流量の和である2を掛けると1/2となり、ターボジェットエンジンの1/2のエネルギーで同等の推力が発生できることになります」
「推力が同じで燃料消費が理論上、半分になるなんて、都合がよすぎるように聞こえるが、理論的に正しいのだよね?」
「運動量が速度の1乗に比例する一方、運動エネルギーが速度の2乗に比例するのでこんな結果になります。ファンへの流量がもっと大きくて、排気速度が小さなエンジンを想定すれば、もっと燃料消費効率がよくなります。あるいは燃料の消費をそこまで抑えないのであれば、全体の推力を増加させることになります」
永野大尉が質問する。
「とてもうまい話に聞こえるが、海外でも研究しているのか?」
ターボファンの試作は、確かダイムラーベンツが終戦間際に行っていたはずだ。
「この形式のエンジンをドイツでは研究をしていると思いますよ。いずれジェットエンジンではこの形式が主流になります。なんと言っても燃料消費も出力も改善できるのですから」
私の説得に効果があったのか、噴進班としては、次のジェットエンジン開発はターボファンエンジンとすることになった。空技廠で方針が決まると、実際の開発着手は早かった。何しろ、今までのTJ-20とTJ-30の開発の成功から、ジェットエンジンの重要性については航空に関与するものはほとんどが認識していた。高性能エンジンの開発については、すぐに航空本部にも計画が認められた。
昭和16年3月末から、基本設計に着手した。まずは追加するファンなどについて基本的なサイズやファンへの空気流量など基本的な部分を詰めてゆく。基本検討の結果、ネ20をベースとしたターボファンエンジンについては、二つの案が出てきた。
第1案は、回転軸が1軸で圧縮機も前面のファンも回転させるシンプルな構造のエンジンである。このエンジンは名称をとりあえずYTJ-21とつけて検討を進めることになった。第2案は、回転軸を2軸として、前面のファンと低圧系の一部の圧縮機を高圧系圧縮機に比べて低い回転数とする形式である。2軸構造が複雑でネ20からの変更も多いが、性能は優れているはずだ。開発名称をYTJ-22として検討することとなった。
新規設計となるファン部については、空技廠内で空力担当の北野大尉が実験を進めると共に東北大学の圧縮機専門家の沼知教授にも分析を依頼した。また回転軸については1軸構成と2軸構成について、構造専門家の川田中尉が設計を進めた。同時にエンジン内部で回転する部分の模型を作成して、モーターで回転させることにより、松平技師が振動特性の解析を行った。
検討を進めた結果、1軸構成のYTJ-21では、高圧部の後段圧縮機に回転数を合わせると、どうやってもファンの推力が不足することがわかってきた。逆にファンの推力を重視すると、高圧側の圧縮比が不足する。結局、沼知教授の意見が決定的になった。
「ファンの効率を考えて回転数を決めると、高圧側の圧縮機の効率との両立は極めて困難だ。圧縮羽根の形状など、どのように工夫しても圧縮比が低下すると考える。これから一軸構成を検討しても、結果的にうまく行かないであろう」
構造的に複雑にはなるが、性能の確保が難しいのでは仕方がない。基本構成として2軸のYTJ-22に一本化して設計を進めることになった。基本レベルの構成が決まってくると、ネ20を生産していたメーカの参加を呼びかけた。
YTJ-22開発の主契約は三菱の発動機部門が行って、タービンと燃焼器を住友金属と日立タービンがそれぞれ分担して、詳細設計を開始した。もちろんネ20で実績のある構造や機構は、変更の必要性がない限り踏襲することが前提だ。
エンジンの基本設計としてはコアエンジンのエネルギーの約半分をファンの駆動に割り当てることにした。この結果、コアエンジンの排気ガスの速度は75%に低下するが、ファンからほぼ同じ程度の推力が発生して、4割程度燃料消費が改善することになる。これで、エンジン全体ではネ20の1.3倍の推力を目標とすることになった。
昭和16年7月になって、地上試験1号機が完成した。まだ限界までは運転できないが、推力600kgf程度まで確認して、合計2時間運転を行った。その後にバラバラに分解して内部の異常の有無を詳細に確認する。確認の結果、2重構造の軸受けの摩耗を検出した。更に追加した前面ファン部の羽根の付け根にも亀裂を見つけた。
早急に原因の追及が必要だ。種子島中佐が構造関係をやっている技術者を招集して、原因についての見解を求めた。
軸受けの摩耗を分析した川田中尉が、最初に説明した。
「ファンの回転軸を支えている玉軸受けのボールベアリングの表面状態を確認したが、うろこ状のはがれの傾向がみられる。これは繰り返し強い応力がかかっていて、疲労破壊が起こる前兆だ」
私も状況を確認した結果、同じ推論に達した。
「強い応力がファンの回転軸にかかって、軸受けに摩耗ができている。応力の原因はファン回転軸の振動現象だと思う。振動により、衝撃が発生していると考えると、ファンの羽根の付け根の亀裂も説明できる。振動計測器をつけて運転すれば、振動周期や強度が判明すると思う」
早速、振動問題の専門家の松平技師を呼んで、振動計を取り付けて測定を行った。
「やはり振動が発生していますね。周波数から軸の2次振動が大きいようですね。もっと回転軸のバランスを完璧にとれば振動は小さくなりますよ。あるいはもっと潤滑油を増やして油膜を軸受けの内部に生成することにより、一種のダンパーの働きを持たせる方法も考えられます」
コアとなっているジェットエンジンを構成する圧縮羽根とタービンの回転軸は、前方の玉軸受けと後方のコロ軸受けに加えて、高圧圧縮羽根直後の中央部にも玉軸受けを設けて、回転軸を支えている。これに対して、ファンを回転させる回転軸は二重構造の内軸側を貫通しているので、構造上、前方に玉軸受けを配置して、後方にコロ軸受けを設けることしかできない。しかもコアエンジンの回転軸に比べて、回転軸の長さは長く、軸直径は小さくなる。その内軸側に振動が発生していた。
しばらく川田中尉は、あれこれ実験していたが、2週間後には対策を決めて報告にきた。
「ファンと回転軸のバランスの改善で、振動を抑制するのは工作精度の観点からも限度があると思う。結局、潤滑油を流す流路を新たに作りこむことにより、ダンパーの効果のある油膜が生成されるようにする。軸受け周囲にシールを追加して油が途切れない構造に変えることとしたい」
川田中尉の考案した対策に従い、軸受け部分の設計変更を行った。油膜形成によるダンパーの効果が認められて、軸振動が減少した。振動問題を解決することにより、昭和16年9月から改修したエンジンをG6M2に搭載して空中試験を開始できた。問題が解消された結果、最大回転数までの運転でエンジンの推力は1,000kgfに到達した。推力ではまだTJ-30よりも劣っていたが、何よりも小型のエンジンで、しかも従来のTJ-20よりも4割以上の燃料消費が改善することを確認できた。
昭和16年11月からは、ジェットエンジン試験機の橘花を改修して、高速飛行の実験を実施した。推力が向上したことにより、飛行性能が向上したことを確認できた。橘花の最高速度は431ノット(798.1km/h)から445ノット(824km/h)に向上した。それに加えて航続時間が著しく増加していた。もともと橘花は、試験のために、約2時間程度の飛行が可能だった。それが1.5倍の3時間に増加したのだ。
橘花改に搭載すれば、同様の効果が得られることは確実なので、生産ラインから橘花改を抽出して、エンジン交換を実施した。橘花改の試験飛行の結果も433ノット(802km/h)が447ノット(828km/h)に向上して、航続距離も約1.5倍に伸びることが確認できた。実戦部隊に配備予定の橘花改も新エンジンを搭載した改良型として、配備することが決定された。
YTJ-22は、昭和17年2月になってネ22として、制式化された。
TJ-22(統合名称ネ22) 昭和17年2月
・全長: 3,500mm
・直径:750mm
・ファン:1段
・圧縮機:軸流式8段
・タービン:2段
・重量:650 kg
・燃焼器:8(キャニュラー式)
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