蒼穹の裏方

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第12章 第二次ハワイ作戦

12.10章 連山爆撃隊 突入

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 ミッドウェーから出撃した連山爆撃隊にも、連合艦隊司令部の作戦開始命令が通知された。
「こちら、755空の嘉村だ。作戦開始について了解した。我々が目標としている北方の米機動部隊の位置を詳しく教えてくれ」

 すぐに、連合艦隊司令部の通信参謀の和田中佐が答える。
「大淀の司令部だ。米機動部隊はオアフ島を中心にして10時方向、島から距離150浬(278km)の海上。正確には北緯22度45分、西経160度18分だ。最新情報は直接、電探警戒機と話してくれ。我々にもその会話は聞こえているはずだ」

 同時に無線の会話を聞いていた連山の航法士が、地図上の位置に印をつけてから、嘉村大佐に地図を示す。大佐は無線で話しながら大きくうなずいた。
「了解した。直ちに攻撃に向かう」

 私からも、連山爆撃隊に伝えるべき作戦がある。
「連合艦隊司令部の鈴木です。連絡事項があります。爆撃隊の飛行経路の先に三航戦の空母が航行中です。十数分もしたら、艦隊の近くを通過するはずです。三航戦と米艦隊との距離は、ジェット戦闘機でもぎりぎり行動範囲に入っているはずです。戦闘機を上げるように艦隊司令部からも伝えますので、米艦隊上空まで連れていってください」

「護衛の戦闘機ということだね? もちろん、護衛の戦闘機がつくのであれば大いに歓迎する。三航戦の角田長官にもうまく話を通しておいてくれ」

「連山部隊に先手をとられてちょっと悔しがるかもしれませんが、角田さんも同意してくれるはずです。敵に近づいたら、まず電波攪乱紙を散布してください。うまくすれば、迎撃機を攪乱紙に引き寄せられます」

「電波攪乱紙の活用については私も考えていた。了解だ」

 ……

 角田長官はほっとしていた。今までは、天王山となるハワイの戦いに間に合わないのではないかと心配していた。ところが、昨日は米軍からの爆撃を受けたものの、本格的な戦いは生起しなかった。恐らく、今日が戦いの正念場になるだろう。なんとかそれには間に合うことができた。

 遅刻の理由は、年末に本土での訓練中に飛鷹の機関に故障が発生したことだった。火災の発生が原因だ。幸い機関部の全損には至らなかったが、修理が必要となった。このため三航戦は他の艦隊に比べて、日本からの出発日を遅らせたが、それでも修理は完了しなかった。飛鷹不在のため、三航戦は白鷹と隼鷹の2隻による変則的な艦隊構成となってしまった。

 現在は、ドイツ客船オイローパを改修した空母白鷹を旗艦としている。特設空母といっても、改修後は全長280mの飛行甲板を有する日本最大の空母だ。しかも、不燃対策のために木製家具や調度品などを全て撤去したが、元は客船だ。船体の上部は艦載機の格納庫と飛行甲板になってしまったが、下部には多数の客室や乗客のための食堂、施設がまだ残っていた。誰もがうらやむ、他の日本軍艦とは雲泥の差を有する居住性の空母が完成していた。この艦を旗艦にしないはずがない。

 出発日を遅らせた影響で、三航戦は他の艦隊に3日遅れて、やっとのことでハワイ近海に接近していた。オアフ島に北西から接近する航路を選んでいたが、これは時間を優先して単純に最短距離の北寄りの大圏航路を航行した結果だ。

 三航戦の角田長官に連合艦隊司令部から通報が入った。鮫島首席参謀が報告に来る。
「ミッドウェーの連山爆撃隊が我々の近くを通過する予定です。山口長官からの要求です。爆撃機の護衛戦闘機を出してくれとのことです」

「最も北側の米艦隊の位置については、電探警戒機から情報が入っていたはずだな。我々はその艦隊にどれだけ接近しているか?」

「一直線に航行してきているので、かなり近づいています。少し前の情報ですが、およそ340浬(630km)と推定されます。どうも我々が敵艦隊に一番近づいているようです。一航戦や二航戦、五航戦も昨日は一時的に南西方向に退いて距離をとっていましたから、最短距離で航行してきた我々が追い抜いて一番乗りの模様です」

 通信士官がメモを持ってやってきた。
「ミッドウェーの755空から受信しました。連山が西北西からこちらに飛行中です。我が艦隊の近くを通過後は、敵艦隊に最短距離にて向かう、とのことです」

「わかった。もう少し米艦隊に近づいたら、敵戦闘機の排除のために、紫電改と橘花改を上げる。ジェット機だから、途中で連山には合流できるだろう。我々の敵艦隊への攻撃隊は、しばらく待機とする」

 ……

 連山機長の野村大尉が指揮官の嘉村大佐に話しかける。
「下の連中、ジェット戦闘機を発艦させてくれました。我々の露払いをしてくれます。このまま飛行してゆくと、10分もすれば米艦隊の電探の探知圏内に入ると思われます。敵に見つかる可能性があります。あらかじめ準備した電波攪乱紙を散布すべきところまで来ています」

「了解だ。5分後には計画通り攪乱紙を散布するぞ。対空射撃を受けた時に使用する攪乱紙は残すように各機に指示してくれ。散布したら、連合艦隊司令部からの助言の通り欺瞞行動を行う。我々は電探を避けるために、全速で降下しつつ東北東の方向に迂回する。敵艦隊の東側に回り込んでから、爆撃高度まで上昇した後に爆撃だ」

 編隊の各機が翼下面に装備した噴進弾の半数を発射した。しばらく飛行して、編隊の前面で爆発するとアルミの攪乱紙が風に流されて広がっていった。攪乱紙の雲を避けるように、連山の部隊は飛行方向を左翼側に変更した。

 ……

 連山編隊は日本側が想定したよりも早く、米艦隊のレーダーに探知されていた。第30.3任務部隊の空母ヨークタウンⅡと北東側を航行していた重巡ヒューストンのSKレーダーが既に爆撃機の編隊をとらえていた。今まで使用していたCXAMレーダーやSCレーダーを新型のSKレーダーに更新したことにより、日本軍が想定した以上にレーダーの探知性能は改善していた。

 モントゴメリー少将とハリル准将は、今後の作戦について相談していた。
「北西方向から飛行してくる目標をとらえました。明らかに攻撃を意図した日本軍の編隊です。その後、目標は二つに分かれて飛行しています。但し、艦隊の北方を東に向かった目標は電波反射が小さいようです」

「日本軍の編隊が我々の手前で大型機と小型機に分離したということなのか? 我々を挟撃しようという意図かもしれんな。ヨークタウンⅡの搭載機は北西方向の編隊を迎撃する。カウペンスの搭載機には、東に向かった日本軍を迎撃させてくれ」

「格納庫の攻撃隊を発艦させることを進言します。攻撃準備をした機体の中で、日本軍の爆弾が爆発したら大変なことになります。今ならまだ時間があります」

「発艦は許可するが、攻撃機の装備はどうなっているのか?」

「昨日の陸軍機の攻撃で、無線誘導する誘導弾は煙幕で妨害されましたが、それ以外の赤外線誘導弾と電波誘導弾は有効でした。この2種類を搭載しています」

「よかろう。すぐに発艦させよう、カウペンスにも連絡してくれ」

 司令官の決定に従って、まず上空直衛の18機のFJ-2ムスタングが、北西方向の探知目標に向かっていった。続いて、飛行甲板上で出撃準備ができていた12機のFHファントムが2基のカタパルトを使用して、次々に発艦して北西方向に上昇してゆく。一方、カウペンスの直上からは、12機のF4Uコルセアが東北方向の目標に向かっていった。戦闘機に続いて格納庫の攻撃隊が次々と発艦を始める。既に日本軍は艦艇のレーダーに映るところまで来ているのだ。

 米機動部隊の戦闘機が指示された空域に向かっている頃、連山爆撃隊は第30.3任務部隊の東方海上に回り込んでから、爆撃のために高度を上げ始めた。

 距離が詰まったのを確認して、嘉村大佐が爆撃隊に向けて突撃命令を出した。
「突撃せよ。繰り返す、突撃せよ。上空から誘導弾による爆撃を行う。ジェットエンジンを始動せよ。全速で敵艦隊上空に突っ込む。敵戦闘機がやってくるぞ」

 東から西の米艦隊に向けて全力上昇を開始した。その結果、レーダーには大きな反射として探知されることになった。爆撃隊の様子を見て、連山の後ろをついてきた紫電改と橘花改が前進してきた。米艦隊に発見されれば、すぐにも迎撃機がやってくるだろう。

 ……

 ヨークタウンⅡ艦長のディロン大佐がモントゴメリー少将に報告に来た。
「レーダーが探知した北東方向の目標ですが、反射波が増大しています。北東方向に飛行していたこの編隊が、規模の大きな攻撃部隊の可能性があります。既に、F4Uの編隊には敵の位置を通知しています」

「北西の日本編隊はどうなっているのか? 複数の方位からの挟撃を意図しているのか?」

「今のところ、北西方面に要撃に向かった戦闘機からは報告がありません」

 やり取りを聞いていたハリル准将が発言する。
「北西の編隊は敵のおとりかもしれません。東から来る編隊が攻撃隊の主隊の可能性があります」

「わかった。北西の目標を5分捜索して、何も発見できなければ、全速で東方の敵への迎撃に向かうことにする」

 日本艦隊の位置情報が太平洋艦隊司令部からもたらされたのはその時だった。通信士官がモントゴメリー少将にメモを渡した。

 メモを一読すると、司令官は准将にそれを渡した。
「ハリル准将、オアフ島から飛び立った哨戒機が3群の日本艦隊を発見したとのことだ。オアフ島の南西400マイル(644km)の地点、南南西450マイル(724km)地点、それにカウアイ島の北西側330マイル(531km)で日本軍の機動部隊を発見している」

「我々に攻撃隊を送ってきている機動部隊は、間違いなく北側の艦隊のはずです。偵察報告が転電されてくるまでの時間を考慮すると、現在はもっと我々に接近しているはずです。カウアイ島の北西の海域あたりまで、この機動部隊は進んできているでしょう。既に我々の攻撃圏内に入っていいて、攻撃隊を差し向けたと考えるとつじつまが合います」

「なんということだ。知らない間に日本艦隊の接近を許して、しかも攻撃部隊が飛来してきているということなのか。とにかく最新の敵の位置と艦隊構成を知りたい。朝から飛行させている偵察機に君の想定している位置情報を伝えてくれ。敵艦隊はカウアイ島の北西だ。発艦中の攻撃隊は、準備でき次第、想定海域に向かわせろ。詳細な情報は進撃中に伝えればよい。先手は敵がうってきた。このままだと一方的にたたかれることになるぞ」

 いきなり戦闘の最前線の戦いに突き落とされたヨークタウンⅡの艦橋は、たちまち怒声が飛び交い始めた。

 しかし、モントゴメリー少将の司令部は北東方向の目標が、四発の重爆撃機だとはまだ気づいていなかった。日本艦隊からの攻撃機が飛来してきたと考えていた。
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