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第12章 第二次ハワイ作戦
12.16章 一航戦、二航戦の戦い 米軍の攻撃
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第一航空艦隊司令部は大淀の司令部につないで、戦闘推移を報告していた。宇垣少将が攻撃隊を発進させたこと、次に南東の米攻撃隊に向けて、迎撃隊を差し向けたことを説明した。山口長官も納得したようだ。
「戦闘の状況については了解した」
北東と南東に2つの目標を探知したことは、電探警戒1号機からも報告が来ていたが、私にはあやしいと思える。
「何かが隠れている可能性があります。北東で探知した目標の周囲をもう少し、偵察してください。連山の攻撃時に我々がやったのと同じ手段を米軍が使ってきたのが、引っかかります」
「それは、どういうことかね?」
「何も知らない相手をおとりで誘引しようとするならわかりますが、最初に欺瞞作戦自身を考えた相手が引っかかると考えているのでしょうか? むしろ、我々が欺瞞作戦を見抜くことを前提とした作戦を仕掛けていると思えます。アルミ箔は電探に偽の目標を映し出しますが、同時に背後の目標を覆い隠すこともあります」
山口長官はこの意見に同意してくれた。
「なるほど、背後に何か隠れていないか、よく調べろということだな。攻撃隊が隠れているとすれば、奇襲攻撃を受けるぞ。飛行中の艦偵を使って確認してくれ。大至急だ」
……
赤城から指示により、山田大尉の三式艦偵は北東の海域に向けて飛行していた。後席の野坂一飛曹が操作する電探には反射映像が出てきた。
「前方に電波の反射が出ています。これは、大きいですね」
「それは我々の電波攪乱紙と同じ偽の像だ。攪乱紙の向こう側に行ってみる。東の方向からやって来る目標に注意してくれ」
アルミ箔の雲を飛び越えてしばらく飛行してゆくと、低空目標を電探が探知した。
「電探に感あり。低空、11時方向」
「高度を下げる」
「見えました。左下方に大編隊です」
大型の紺色に塗られた単発機の周囲を茶色と緑色の中間の色の液冷航空機が飛行している。どう見ても50機を超える大編隊だ。山田大尉は開戦時の真珠湾攻撃において、米陸軍基地を攻撃していた。そのため陸軍戦闘機を目撃したことがあった。
「あの塗装は米陸軍のものだ。米海軍の爆撃機を米陸軍の戦闘機が護衛しているぞ。敵は50機以上、2群になって艦隊に向かっている」
野坂一飛曹は双眼鏡で、米編隊を観察している。
「爆撃機には胴体の下に翼を付けた誘導弾を積んでいるのが見えます。間違いなく我々の艦隊を攻撃するつもりですよ」
山田大尉は突然、艦偵の機首を突っ込んだ。護衛のP-51が日本の偵察機を見つけて、接近してきたのだ。機首を下げながら、ジェットエンジンの回転数を増加させた。三式艦偵は、P-51を後方に置き去りにしてぐんぐん引き離してゆく。
「早く報告してくれ。友軍の戦闘機隊は、南東方向の敵編隊に向かっているはずだ。こちらの編隊を大急ぎで迎撃しないと大変なことになるぞ」
「既に、無線で一報を入れています。編隊の規模や飛行方向などの詳細をこれから通報します」
……
三式艦偵からの報告を受けて、赤城の艦橋は騒然となった。既に南東方向には護衛の戦闘機隊を差し向けて、そちらでは迎撃戦闘を開始しているのだ。そのために、艦隊の上空に残った戦闘機の数は決して多くない。
加来参謀長が草鹿中将に報告してくる。
「北東方向の敵編隊は大規模です。上空の電探警戒機も同じ位置に編隊を探知したと言ってきています。見事に裏をかかれました。陸軍機を含むとのことなので、機動部隊ではなくオアフ島から離陸してきたものと思います。上空に残っている直衛機を直ちに迎撃に向かわせます」
「手遅れにならないうちに、向かわせてくれ。それで何機が上空に残っているのだ?」
「上空の烈風は20機程度だと思われます。敵編隊の3分の1以下ですが、やるしかありません。もはや無い袖は振れません」
……
一航艦に向かう新たな攻撃部隊を発見したことは、連合艦隊司令部にも通知された。
宇垣少将が参謀達を集めた。
「さすがに報告された数の攻撃隊が、敵の第二次攻撃隊としてやって来るとなると、空母の防衛網をくぐり抜ける爆撃機もかなりの数になるのではないか。誘導弾を乱れ撃ちされたら、被害は小さくないぞ。何か良い案はないか?」
私は状況表示盤を見ていて、一つの可能性を思いついた。とにかく、時間が惜しいので早口で説明を始めた。
「北方の米機動部隊を壊滅させた三航戦が、一航戦の方向に向かっています。一航戦と合流すべく、南下しています。三航戦のジェット戦闘機をすぐにも発進させて、一航戦の上空に飛ばしましょう」
宇垣少将は、この案の欠点にすぐに気づいた。
「ジェット戦闘機が400ノット以上で高速巡行すれば、1時間ちょっとで一航戦のところまで飛行できるだろう。その点では悪くない案だが、三航戦から一航戦までは、まだ距離が450浬(833km)くらいあるぞ。上空での戦闘後に帰ってくることも考えると、ジェット機の航続力ではこの距離は厳しいだろう」
「心配無用です。友軍の空母の近くで戦うのです。いざとなったら、赤城や加賀に降りて補給すれば大丈夫です。もちろん、空母がやられたら不可能になりますが、そんなことは自分の空母の上で戦っている時も同じです」
「なるほど、それならば可能だな。すぐに角田長官に連絡しよう」
……
我々が慌てている間にも、南東方向からの米編隊が、一航戦と二航戦の艦隊に迫っていた。板谷少佐と重松中尉の戦闘機隊が次々と攻撃したので、残ったBT2D攻撃隊は20機程度にまで減少していた。しかし、ほとんどの橘花改は機銃弾を撃ち尽くして残弾がない。
重松中尉が率いる十数機の烈風改がF8Fとの戦闘を振り切って抜け出してきた。後方から、BT2Dの部隊に追いついてゆく。幸い、板谷隊が引き付けているお陰で、ジェット戦闘機が向かってくることはない。
烈風改は、BT2Dに後方から突っ込むと、機銃を連射しながら下方へと抜けていった。7機のBT2Dが落ちてゆく。水平旋回で後方に回り込んで、再度背後からBT2Dを攻撃して6機を撃墜した。残っていた数機のBT2Dは搭載していた誘導弾を投棄して急降下で逃げていった。これにより、南東から飛来したBT2D部隊は消滅した。
……
北東方向から飛来した米陸軍と海軍の混成部隊が一足遅れて日本艦隊に接近していた。
上空の電探警戒機が警報を発する。
「電探警戒機1号機だ。北東方向の編隊を迎撃してくれ。米攻撃隊は2群に分かれて飛行している。このままでは艦隊が攻撃されるぞ」
二航戦の上空に残っていた直衛の18機の烈風改が、北東に向かった。
「こちらは、蒼龍戦闘機隊の藤田だ。北東の編隊の迎撃に向かっている。但し、敵の数が圧倒的に多い。応援を求む」
藤田中尉の編隊は、前方のP-51に向けて噴進弾を発射して、2機のP-51を撃墜したが、倍以上のP-51が向かってくる。藤田中尉は、外見から液冷の戦闘機を海軍のFJムスタングとほぼ同じ機体だと見抜いた。そうであるならば、上昇力と旋回性能は烈風改の方が圧倒的に優れるはずだ。
「空戦に巻き込まれるな。上昇して振り切れ。繰り返す。敵編隊の中に突っ込むな。高度を取れ」
藤田中尉と列機の編隊は、一度上空に抜けた。しかし、機首上げが遅れた2機の烈風改がP-51に囲まれた。逃げ場のなくなったこの烈風改は撃墜された。この間、BT2Dは攻撃を受けないまま前進を続けていた。
その時、北方から橘花改の編隊が降下してきた。12機のジェット戦闘機の銃撃で一気に8機のBT2Dが撃墜された。
赤城に通話が入る。
「三航戦の志賀だ。遅くなってすまぬ。一航戦の東側で戦闘中だ」
橘花改は、BT2D編隊の下から右に旋回しながら上昇に転じると、先頭集団に向けて銃撃を開始した。航続距離を伸ばすために噴進弾は携行していない。上空から、P-51が降下してくるが追いつくことができない。爆撃機の編隊は繰り返し攻撃を受けて、更に5機のBT2Dが撃墜された。
……
米軍の攻撃隊が接近してきた時、艦隊は東の方角に航行していた。一航戦の最前面には、第十六駆逐隊の雪風、天津風、初風、時津風が航行していた。いずれも後方の砲塔を長10cm砲塔に交換して、新型の電探を搭載した防空能力強化艦となっていた。
駆逐艦の後方を榛名と金剛が航行している。更に後方は利根と筑摩が続いていた。空母の直前には、直衛として秋月と照月が航行し、空母の周囲を第九駆逐隊の朝雲、峰雲、夏雲、山雲が護衛していた。
戦闘機の攻撃をすり抜けた南東方向から飛来した9機のBT2Dが攻撃のために降下を開始した。前衛と戦艦から猛烈な対空射撃が開始される。秋月と照月も高角砲の射撃を開始した。対空砲火により1機が撃墜された。しかし、米軍機はそれ以上日本艦隊に接近せず、8発の誘導爆弾を投下すると、全速で引き返し始めた。
5発の赤外線誘導弾がロケット推進しながら飛行を開始した。低空を飛行する3発はBAT2だった。上空の3機の二式艦偵が、米爆撃機の誘導弾の投下を見て噴進弾を発射した。空中で54発の噴進弾が爆発すると電波攪乱紙の雲が空中にできた。ほぼ同時に後方の赤城と加賀の右舷からも、2基の28連装発射機から白煙が伸びていった。合計で100発以上の100mm噴進弾が発射された。時限信管で爆発すると、誘導弾と空母の間に空中に電波攪乱紙の雲ができあがった。
取舵で全速回避する赤城と加賀の右舷からは白煙が立ち上っている。煙突の排煙からの赤外線放射を減らすために、排煙冷却をしているのだ。日本空母の下向き煙突には、着艦時に立ち上った煙が障害となるのを避けるために、海水を噴霧して煙を冷却して下方に排気する機構が備わっていた。それが、赤外線対策には大いに役に立った。同時に飛行甲板上にも消火用の水をまいてゆく。火災に備えることに加えて、水による冷却で甲板やその周囲からの赤外線を減らそうと考えたのだ。
空母の前面に出てきた第九駆逐隊の4隻の駆逐艦が、煙幕を展開し始めた。前日の爆撃機で使用された無線操縦による無線誘導弾を警戒したのだ。しかし、この日はハワイ諸島の北側に高気圧が発生していた。天気は良いが、北から南に吹く風のために煙が流されて、うまく大型艦を隠すことができない。
ほぼ同時に榛名と金剛が三式弾の主砲射撃を行った。伊勢の砲撃法を見習って、4基の砲塔の射撃時間を少しづらして射撃することで、三式弾の焼夷弾子の空中浮遊時間が長引くように工夫している。同時に後方の利根と筑後も20センチ砲の三式弾を射撃した。高温の焼夷弾子が艦隊の前面に仕掛け花火のような光の列を作った。
3発の赤外線誘導弾は三式弾の焼夷弾子に惑わされて海上へと落ちていった。1発目は探知機器がそもそも正常に動作せず目標を捕捉できずに、あらぬ方向に飛び去る。最も北側を飛行していたBT2Dが投下した赤外線誘導弾は、三式弾の焼夷弾幕よりも更に北側を飛行した。
しばらく赤外線をとらえないで直線飛行していたが、前衛部隊として航行していた駆逐艦隊の中で、最も東側を航行していた時津風の煙突の赤外線放射を至近距離でとらえた。誘導弾が時津風の第一煙突の赤外線をとらえて命中した。1,000ポンド(454kg)弾頭が船体中央部で爆発すると第一煙突とマスト、艦橋の後部がそっくり吹き飛んだ。右舷側の船体にも破孔が生じて浸水が始まる。2,000トンの船体は大きな破孔の浸水に耐えられずに、そのまま右舷に横転して沈んでいった。
BAT2は、低空へと降下する過程で、後方から迫った橘花改が1機を撃墜した。1機のBATは艦載機が散布した電探攪乱紙の雲の方向に飛行していって海面に落ちた。残りの1弾は赤城の方向へと飛行していった。しかし、そこには赤城の舷側から発射された噴進弾による電探攪乱紙が上空に漂っていた。その雲に突っ込むと赤城から500m程離れた海上に突入した。
……
2群に分かれた北東の残りの攻撃隊は、一航戦の北側を航行していた二航戦を狙うことになった。藤田中尉は第二の編隊の接近を知っていたが、機数が圧倒的に少なくて取りつくことさえできない。10機以上のP-51とそれに護衛されたほぼ20機のBT2Dが二航戦に接近しつつあった。
二航戦の護衛部隊の配置は、前衛に第四駆逐隊の嵐、野分、荻風、舞風の4隻、その後方に、被害を受けていなかった第七戦隊の熊野、鈴谷が航行していた。更に後方には、被害を受けた霧島と比叡に変わって、前進してきた大和と武蔵が航行していた。戦艦の直後には、第十駆逐隊の秋雲、夕雲、巻雲、風雲が、飛龍と蒼龍を守るように周囲を航行していた。
米軍編隊で太陽の光がきらりと光ると東の上空から三航戦の紫電改が降下してきた。12機の紫電改が上空から射撃すると、斜め上方からの機銃弾を浴びて6機のBT2Dが撃破された。そのまま紫電改は降下から上昇に移ると、旋回してP-51の編隊の後方につけて射撃を行った。護衛戦闘機が混乱した間に、更に4機のBT2Dが5機の紫電改に撃墜された。
戦闘機の活躍にもかかわらず、12機のBT2Dが二航戦に接近することができた。二航戦の前面に出ていた駆逐艦と重巡からの高射砲射撃が始まって1機を撃墜した。しかし、高射砲の弾幕の中を長時間飛行することもなく、中高度から11発の誘導弾を投下した。そのうちの4発は山なりに飛行して、斜め上方から艦隊の上空に突進しようとしていた。
米軍爆撃機の接近を確認して、上空から3機の二式艦偵が降下してくると噴進弾を発射した。54発が空中で爆発して、電波攪乱紙が散布された。続いて飛龍と蒼龍の両舷から噴進弾が発射された。100発近くの噴進弾が艦隊の側面に攪乱紙の雲を作り出した。
ほぼ同時に大和と武蔵が、主砲に装着していた三式弾を左舷前方に発射した。誘導弾の前方で18発の46センチ砲が次々と爆発した。同時に、熊野と鈴谷もそれぞれ10発の20センチ三式弾を撃った。艦隊の前方に焼夷弾子による大規模なスクリーンが出現した。同時に大和と武蔵の舷側に設置した28連装の発射機から攪乱紙を弾頭とした噴進弾を発射した。空母の戦闘実績から、急降下爆撃への防御に有効だと判断されて大和級にも、噴進弾の装備が開始されていたのだ。戦艦の側面にも攪乱紙の雲ができあがった。
蒼龍と飛龍は、赤外線放射を減らすために排煙の海水冷却を動作させていた。更に、第十駆逐隊の駆逐艦は空母を隠すために煙幕を展開していた。
3発の赤外線誘導弾は、焼夷弾子の巨大な壁に向けて飛行していって、全てが目標から外れた。
一方、9発の低空を飛行していった誘導弾は、1発は発射直後に紫電改が追いかけて、撃墜した。1発は不良で目標を探知しないで海上に落下した。更に4発が電波攪乱紙の雲に惑わされて、艦艇の存在しない海上へと飛行していった。残った3発の誘導弾は、攪乱紙の雲には欺瞞されずに通り過ぎてきた。大和と武蔵からは、高角砲と機関銃が激しく打ち出されるが小さな誘導弾には命中しない。
米海軍では、飛行爆弾の誘導方式として様々な方法が実験されていたが、BATのレーダーによる誘導方式に加えて、テレビ誘導も有力な方式として試作が行われていた。テレビ誘導型の誘導弾は、TVカメラと映像の送信機が搭載されていた。送信されたTV画像は母機後席のTVに表示され、爆撃手は無線コマンドを送信して進路を修正することができた。このテレビ誘導型の少数の試作機が、オアフ島に届けられていた。試作機をためらわずに投入したのだ。低空を退避するBT2Dスカイレーダーが母機となってTVによる誘導を行っていた。そのため、電波攪乱紙や三式弾には騙されることなく、目標に向かっていった。
大和艦長の松田千秋大佐は、誘導弾の発射を見た時点で取舵を命じた。航海長の津田中佐が思わず叫ぶ。大和は飛行してくる誘導弾の方向に進もうとしている。
「艦長、それでは誘導弾の方向に向かって……」
途中で言葉が途切れた。松田大佐はわかっていると言う素振りで、片手を上げながら言葉をかぶせてきた。
「主砲射撃準備。砲術長、私が射撃を命じたら寸秒の遅れなく、主砲を発射してくれ。方位は12時方向の艦首前方、迎角15度」
「三式弾ですがいいのですか? 12時方向ならば、真正面です。第一砲塔と第二砲塔だけが射撃可能です」
「それでよい」
既に艦の前半部では甲板上の兵が、主砲射撃の警報を聞いて物陰へと退避を始めている。
会話の間にも大和は北に艦首を向けて、飛龍の前方を横切るように進んでいった。空母と誘導弾の間に南方から割り込んだことになる。舷側のシールド付きの高角砲と機銃、副砲が誘導弾に向けて射撃をしているが全く命中しない。先で低空飛行をしている1発が大和を目指してきた。それでも、松田艦長は回避を命じない。誘導弾が第二主砲塔の横あたりの船体側面に命中した。1,000ポンド弾頭が最上甲板のやや下の舷側から貫通して、中甲板の200mm水平装甲に斜めにあたって爆発した。装甲板を貫通しないので、防御区画内への被害はないが、右舷の上甲板と船体側面に破孔ができた。
残った2発の誘導弾は、空母に向けてTV誘導されていたために、大和の艦首の前方を素通りしようとした。横並びで飛行している2発の誘導弾が大和の直前を通り抜けようと接近した瞬間に、松田艦長が大声で叫んだ。
「テーッ」
艦首前方に向けて6門の46センチ主砲が発砲した。もちろん誘導弾に主砲弾が命中することはない。しかし、主砲発射時の猛烈な爆風が砲口から艦首前方に円錐形に広がっていった。側面からまともに爆風を浴びて、2発の誘導弾がくるりとひっくり返った。そのまま姿勢を回復できずに大和前方の海上に墜落していった。
……
米軍機の攻撃は、嵐のようにやってきて、突然過ぎ去った。赤城の艦橋では加来参謀長はほっとしつつも指示を出していた。
「通信参謀、艦隊上空の戦いの様子を確認してくれ。まだ米軍攻撃機は残っているのか?」
「電探の探知は、やってきた方向に戻る機体ばかりです」
すぐに見張りの状況を確認した大石参謀からも情報が入る。
「上空の敵機は、既に攻撃を終えています。これから攻撃態勢に入る機体はありません」
「雪風と、天津風に命令。時津風の乗員を救助せよ」
被害は、駆逐艦1隻の沈没と、大和の小破だったが、空母は無傷であった。誘導弾に対する対策は有効だったが、米軍は新しい誘導方式を使ってきた。しかも、電波攪乱紙による欺瞞を見抜いて逆に利用してきた。
隣にやって来た草鹿中将が、ぼそりと話しだした。
「なんとか、米軍の攻撃は凌いだな。それも三航戦の応援がなければもっと被害が拡大しただろう。我々の艦隊としては敵の攻撃部隊に対する見通しが甘かったということだな」
「北東からの攻撃隊は、オアフ島から飛来した部隊です。その追加の部隊が、電探の攪乱紙の影に隠れて攻めてくるとは想定できませんでした。しかも、大和を直撃したのは新しい種類の誘導弾です。我々の想像以上に米軍は新しい手を使ってきています。全く油断ができません」
草鹿中将も強くうなずいた。
「反省は今の戦いが一段落してからだ。過ぎたことよりも、我々の艦隊から発艦していった攻撃隊の戦果に期待しよう。必要であれば、戻った攻撃隊をもう一度出撃させる必要がある。眼の前に敵がいる限り、攻撃の手を緩めるな」
「戦闘の状況については了解した」
北東と南東に2つの目標を探知したことは、電探警戒1号機からも報告が来ていたが、私にはあやしいと思える。
「何かが隠れている可能性があります。北東で探知した目標の周囲をもう少し、偵察してください。連山の攻撃時に我々がやったのと同じ手段を米軍が使ってきたのが、引っかかります」
「それは、どういうことかね?」
「何も知らない相手をおとりで誘引しようとするならわかりますが、最初に欺瞞作戦自身を考えた相手が引っかかると考えているのでしょうか? むしろ、我々が欺瞞作戦を見抜くことを前提とした作戦を仕掛けていると思えます。アルミ箔は電探に偽の目標を映し出しますが、同時に背後の目標を覆い隠すこともあります」
山口長官はこの意見に同意してくれた。
「なるほど、背後に何か隠れていないか、よく調べろということだな。攻撃隊が隠れているとすれば、奇襲攻撃を受けるぞ。飛行中の艦偵を使って確認してくれ。大至急だ」
……
赤城から指示により、山田大尉の三式艦偵は北東の海域に向けて飛行していた。後席の野坂一飛曹が操作する電探には反射映像が出てきた。
「前方に電波の反射が出ています。これは、大きいですね」
「それは我々の電波攪乱紙と同じ偽の像だ。攪乱紙の向こう側に行ってみる。東の方向からやって来る目標に注意してくれ」
アルミ箔の雲を飛び越えてしばらく飛行してゆくと、低空目標を電探が探知した。
「電探に感あり。低空、11時方向」
「高度を下げる」
「見えました。左下方に大編隊です」
大型の紺色に塗られた単発機の周囲を茶色と緑色の中間の色の液冷航空機が飛行している。どう見ても50機を超える大編隊だ。山田大尉は開戦時の真珠湾攻撃において、米陸軍基地を攻撃していた。そのため陸軍戦闘機を目撃したことがあった。
「あの塗装は米陸軍のものだ。米海軍の爆撃機を米陸軍の戦闘機が護衛しているぞ。敵は50機以上、2群になって艦隊に向かっている」
野坂一飛曹は双眼鏡で、米編隊を観察している。
「爆撃機には胴体の下に翼を付けた誘導弾を積んでいるのが見えます。間違いなく我々の艦隊を攻撃するつもりですよ」
山田大尉は突然、艦偵の機首を突っ込んだ。護衛のP-51が日本の偵察機を見つけて、接近してきたのだ。機首を下げながら、ジェットエンジンの回転数を増加させた。三式艦偵は、P-51を後方に置き去りにしてぐんぐん引き離してゆく。
「早く報告してくれ。友軍の戦闘機隊は、南東方向の敵編隊に向かっているはずだ。こちらの編隊を大急ぎで迎撃しないと大変なことになるぞ」
「既に、無線で一報を入れています。編隊の規模や飛行方向などの詳細をこれから通報します」
……
三式艦偵からの報告を受けて、赤城の艦橋は騒然となった。既に南東方向には護衛の戦闘機隊を差し向けて、そちらでは迎撃戦闘を開始しているのだ。そのために、艦隊の上空に残った戦闘機の数は決して多くない。
加来参謀長が草鹿中将に報告してくる。
「北東方向の敵編隊は大規模です。上空の電探警戒機も同じ位置に編隊を探知したと言ってきています。見事に裏をかかれました。陸軍機を含むとのことなので、機動部隊ではなくオアフ島から離陸してきたものと思います。上空に残っている直衛機を直ちに迎撃に向かわせます」
「手遅れにならないうちに、向かわせてくれ。それで何機が上空に残っているのだ?」
「上空の烈風は20機程度だと思われます。敵編隊の3分の1以下ですが、やるしかありません。もはや無い袖は振れません」
……
一航艦に向かう新たな攻撃部隊を発見したことは、連合艦隊司令部にも通知された。
宇垣少将が参謀達を集めた。
「さすがに報告された数の攻撃隊が、敵の第二次攻撃隊としてやって来るとなると、空母の防衛網をくぐり抜ける爆撃機もかなりの数になるのではないか。誘導弾を乱れ撃ちされたら、被害は小さくないぞ。何か良い案はないか?」
私は状況表示盤を見ていて、一つの可能性を思いついた。とにかく、時間が惜しいので早口で説明を始めた。
「北方の米機動部隊を壊滅させた三航戦が、一航戦の方向に向かっています。一航戦と合流すべく、南下しています。三航戦のジェット戦闘機をすぐにも発進させて、一航戦の上空に飛ばしましょう」
宇垣少将は、この案の欠点にすぐに気づいた。
「ジェット戦闘機が400ノット以上で高速巡行すれば、1時間ちょっとで一航戦のところまで飛行できるだろう。その点では悪くない案だが、三航戦から一航戦までは、まだ距離が450浬(833km)くらいあるぞ。上空での戦闘後に帰ってくることも考えると、ジェット機の航続力ではこの距離は厳しいだろう」
「心配無用です。友軍の空母の近くで戦うのです。いざとなったら、赤城や加賀に降りて補給すれば大丈夫です。もちろん、空母がやられたら不可能になりますが、そんなことは自分の空母の上で戦っている時も同じです」
「なるほど、それならば可能だな。すぐに角田長官に連絡しよう」
……
我々が慌てている間にも、南東方向からの米編隊が、一航戦と二航戦の艦隊に迫っていた。板谷少佐と重松中尉の戦闘機隊が次々と攻撃したので、残ったBT2D攻撃隊は20機程度にまで減少していた。しかし、ほとんどの橘花改は機銃弾を撃ち尽くして残弾がない。
重松中尉が率いる十数機の烈風改がF8Fとの戦闘を振り切って抜け出してきた。後方から、BT2Dの部隊に追いついてゆく。幸い、板谷隊が引き付けているお陰で、ジェット戦闘機が向かってくることはない。
烈風改は、BT2Dに後方から突っ込むと、機銃を連射しながら下方へと抜けていった。7機のBT2Dが落ちてゆく。水平旋回で後方に回り込んで、再度背後からBT2Dを攻撃して6機を撃墜した。残っていた数機のBT2Dは搭載していた誘導弾を投棄して急降下で逃げていった。これにより、南東から飛来したBT2D部隊は消滅した。
……
北東方向から飛来した米陸軍と海軍の混成部隊が一足遅れて日本艦隊に接近していた。
上空の電探警戒機が警報を発する。
「電探警戒機1号機だ。北東方向の編隊を迎撃してくれ。米攻撃隊は2群に分かれて飛行している。このままでは艦隊が攻撃されるぞ」
二航戦の上空に残っていた直衛の18機の烈風改が、北東に向かった。
「こちらは、蒼龍戦闘機隊の藤田だ。北東の編隊の迎撃に向かっている。但し、敵の数が圧倒的に多い。応援を求む」
藤田中尉の編隊は、前方のP-51に向けて噴進弾を発射して、2機のP-51を撃墜したが、倍以上のP-51が向かってくる。藤田中尉は、外見から液冷の戦闘機を海軍のFJムスタングとほぼ同じ機体だと見抜いた。そうであるならば、上昇力と旋回性能は烈風改の方が圧倒的に優れるはずだ。
「空戦に巻き込まれるな。上昇して振り切れ。繰り返す。敵編隊の中に突っ込むな。高度を取れ」
藤田中尉と列機の編隊は、一度上空に抜けた。しかし、機首上げが遅れた2機の烈風改がP-51に囲まれた。逃げ場のなくなったこの烈風改は撃墜された。この間、BT2Dは攻撃を受けないまま前進を続けていた。
その時、北方から橘花改の編隊が降下してきた。12機のジェット戦闘機の銃撃で一気に8機のBT2Dが撃墜された。
赤城に通話が入る。
「三航戦の志賀だ。遅くなってすまぬ。一航戦の東側で戦闘中だ」
橘花改は、BT2D編隊の下から右に旋回しながら上昇に転じると、先頭集団に向けて銃撃を開始した。航続距離を伸ばすために噴進弾は携行していない。上空から、P-51が降下してくるが追いつくことができない。爆撃機の編隊は繰り返し攻撃を受けて、更に5機のBT2Dが撃墜された。
……
米軍の攻撃隊が接近してきた時、艦隊は東の方角に航行していた。一航戦の最前面には、第十六駆逐隊の雪風、天津風、初風、時津風が航行していた。いずれも後方の砲塔を長10cm砲塔に交換して、新型の電探を搭載した防空能力強化艦となっていた。
駆逐艦の後方を榛名と金剛が航行している。更に後方は利根と筑摩が続いていた。空母の直前には、直衛として秋月と照月が航行し、空母の周囲を第九駆逐隊の朝雲、峰雲、夏雲、山雲が護衛していた。
戦闘機の攻撃をすり抜けた南東方向から飛来した9機のBT2Dが攻撃のために降下を開始した。前衛と戦艦から猛烈な対空射撃が開始される。秋月と照月も高角砲の射撃を開始した。対空砲火により1機が撃墜された。しかし、米軍機はそれ以上日本艦隊に接近せず、8発の誘導爆弾を投下すると、全速で引き返し始めた。
5発の赤外線誘導弾がロケット推進しながら飛行を開始した。低空を飛行する3発はBAT2だった。上空の3機の二式艦偵が、米爆撃機の誘導弾の投下を見て噴進弾を発射した。空中で54発の噴進弾が爆発すると電波攪乱紙の雲が空中にできた。ほぼ同時に後方の赤城と加賀の右舷からも、2基の28連装発射機から白煙が伸びていった。合計で100発以上の100mm噴進弾が発射された。時限信管で爆発すると、誘導弾と空母の間に空中に電波攪乱紙の雲ができあがった。
取舵で全速回避する赤城と加賀の右舷からは白煙が立ち上っている。煙突の排煙からの赤外線放射を減らすために、排煙冷却をしているのだ。日本空母の下向き煙突には、着艦時に立ち上った煙が障害となるのを避けるために、海水を噴霧して煙を冷却して下方に排気する機構が備わっていた。それが、赤外線対策には大いに役に立った。同時に飛行甲板上にも消火用の水をまいてゆく。火災に備えることに加えて、水による冷却で甲板やその周囲からの赤外線を減らそうと考えたのだ。
空母の前面に出てきた第九駆逐隊の4隻の駆逐艦が、煙幕を展開し始めた。前日の爆撃機で使用された無線操縦による無線誘導弾を警戒したのだ。しかし、この日はハワイ諸島の北側に高気圧が発生していた。天気は良いが、北から南に吹く風のために煙が流されて、うまく大型艦を隠すことができない。
ほぼ同時に榛名と金剛が三式弾の主砲射撃を行った。伊勢の砲撃法を見習って、4基の砲塔の射撃時間を少しづらして射撃することで、三式弾の焼夷弾子の空中浮遊時間が長引くように工夫している。同時に後方の利根と筑後も20センチ砲の三式弾を射撃した。高温の焼夷弾子が艦隊の前面に仕掛け花火のような光の列を作った。
3発の赤外線誘導弾は三式弾の焼夷弾子に惑わされて海上へと落ちていった。1発目は探知機器がそもそも正常に動作せず目標を捕捉できずに、あらぬ方向に飛び去る。最も北側を飛行していたBT2Dが投下した赤外線誘導弾は、三式弾の焼夷弾幕よりも更に北側を飛行した。
しばらく赤外線をとらえないで直線飛行していたが、前衛部隊として航行していた駆逐艦隊の中で、最も東側を航行していた時津風の煙突の赤外線放射を至近距離でとらえた。誘導弾が時津風の第一煙突の赤外線をとらえて命中した。1,000ポンド(454kg)弾頭が船体中央部で爆発すると第一煙突とマスト、艦橋の後部がそっくり吹き飛んだ。右舷側の船体にも破孔が生じて浸水が始まる。2,000トンの船体は大きな破孔の浸水に耐えられずに、そのまま右舷に横転して沈んでいった。
BAT2は、低空へと降下する過程で、後方から迫った橘花改が1機を撃墜した。1機のBATは艦載機が散布した電探攪乱紙の雲の方向に飛行していって海面に落ちた。残りの1弾は赤城の方向へと飛行していった。しかし、そこには赤城の舷側から発射された噴進弾による電探攪乱紙が上空に漂っていた。その雲に突っ込むと赤城から500m程離れた海上に突入した。
……
2群に分かれた北東の残りの攻撃隊は、一航戦の北側を航行していた二航戦を狙うことになった。藤田中尉は第二の編隊の接近を知っていたが、機数が圧倒的に少なくて取りつくことさえできない。10機以上のP-51とそれに護衛されたほぼ20機のBT2Dが二航戦に接近しつつあった。
二航戦の護衛部隊の配置は、前衛に第四駆逐隊の嵐、野分、荻風、舞風の4隻、その後方に、被害を受けていなかった第七戦隊の熊野、鈴谷が航行していた。更に後方には、被害を受けた霧島と比叡に変わって、前進してきた大和と武蔵が航行していた。戦艦の直後には、第十駆逐隊の秋雲、夕雲、巻雲、風雲が、飛龍と蒼龍を守るように周囲を航行していた。
米軍編隊で太陽の光がきらりと光ると東の上空から三航戦の紫電改が降下してきた。12機の紫電改が上空から射撃すると、斜め上方からの機銃弾を浴びて6機のBT2Dが撃破された。そのまま紫電改は降下から上昇に移ると、旋回してP-51の編隊の後方につけて射撃を行った。護衛戦闘機が混乱した間に、更に4機のBT2Dが5機の紫電改に撃墜された。
戦闘機の活躍にもかかわらず、12機のBT2Dが二航戦に接近することができた。二航戦の前面に出ていた駆逐艦と重巡からの高射砲射撃が始まって1機を撃墜した。しかし、高射砲の弾幕の中を長時間飛行することもなく、中高度から11発の誘導弾を投下した。そのうちの4発は山なりに飛行して、斜め上方から艦隊の上空に突進しようとしていた。
米軍爆撃機の接近を確認して、上空から3機の二式艦偵が降下してくると噴進弾を発射した。54発が空中で爆発して、電波攪乱紙が散布された。続いて飛龍と蒼龍の両舷から噴進弾が発射された。100発近くの噴進弾が艦隊の側面に攪乱紙の雲を作り出した。
ほぼ同時に大和と武蔵が、主砲に装着していた三式弾を左舷前方に発射した。誘導弾の前方で18発の46センチ砲が次々と爆発した。同時に、熊野と鈴谷もそれぞれ10発の20センチ三式弾を撃った。艦隊の前方に焼夷弾子による大規模なスクリーンが出現した。同時に大和と武蔵の舷側に設置した28連装の発射機から攪乱紙を弾頭とした噴進弾を発射した。空母の戦闘実績から、急降下爆撃への防御に有効だと判断されて大和級にも、噴進弾の装備が開始されていたのだ。戦艦の側面にも攪乱紙の雲ができあがった。
蒼龍と飛龍は、赤外線放射を減らすために排煙の海水冷却を動作させていた。更に、第十駆逐隊の駆逐艦は空母を隠すために煙幕を展開していた。
3発の赤外線誘導弾は、焼夷弾子の巨大な壁に向けて飛行していって、全てが目標から外れた。
一方、9発の低空を飛行していった誘導弾は、1発は発射直後に紫電改が追いかけて、撃墜した。1発は不良で目標を探知しないで海上に落下した。更に4発が電波攪乱紙の雲に惑わされて、艦艇の存在しない海上へと飛行していった。残った3発の誘導弾は、攪乱紙の雲には欺瞞されずに通り過ぎてきた。大和と武蔵からは、高角砲と機関銃が激しく打ち出されるが小さな誘導弾には命中しない。
米海軍では、飛行爆弾の誘導方式として様々な方法が実験されていたが、BATのレーダーによる誘導方式に加えて、テレビ誘導も有力な方式として試作が行われていた。テレビ誘導型の誘導弾は、TVカメラと映像の送信機が搭載されていた。送信されたTV画像は母機後席のTVに表示され、爆撃手は無線コマンドを送信して進路を修正することができた。このテレビ誘導型の少数の試作機が、オアフ島に届けられていた。試作機をためらわずに投入したのだ。低空を退避するBT2Dスカイレーダーが母機となってTVによる誘導を行っていた。そのため、電波攪乱紙や三式弾には騙されることなく、目標に向かっていった。
大和艦長の松田千秋大佐は、誘導弾の発射を見た時点で取舵を命じた。航海長の津田中佐が思わず叫ぶ。大和は飛行してくる誘導弾の方向に進もうとしている。
「艦長、それでは誘導弾の方向に向かって……」
途中で言葉が途切れた。松田大佐はわかっていると言う素振りで、片手を上げながら言葉をかぶせてきた。
「主砲射撃準備。砲術長、私が射撃を命じたら寸秒の遅れなく、主砲を発射してくれ。方位は12時方向の艦首前方、迎角15度」
「三式弾ですがいいのですか? 12時方向ならば、真正面です。第一砲塔と第二砲塔だけが射撃可能です」
「それでよい」
既に艦の前半部では甲板上の兵が、主砲射撃の警報を聞いて物陰へと退避を始めている。
会話の間にも大和は北に艦首を向けて、飛龍の前方を横切るように進んでいった。空母と誘導弾の間に南方から割り込んだことになる。舷側のシールド付きの高角砲と機銃、副砲が誘導弾に向けて射撃をしているが全く命中しない。先で低空飛行をしている1発が大和を目指してきた。それでも、松田艦長は回避を命じない。誘導弾が第二主砲塔の横あたりの船体側面に命中した。1,000ポンド弾頭が最上甲板のやや下の舷側から貫通して、中甲板の200mm水平装甲に斜めにあたって爆発した。装甲板を貫通しないので、防御区画内への被害はないが、右舷の上甲板と船体側面に破孔ができた。
残った2発の誘導弾は、空母に向けてTV誘導されていたために、大和の艦首の前方を素通りしようとした。横並びで飛行している2発の誘導弾が大和の直前を通り抜けようと接近した瞬間に、松田艦長が大声で叫んだ。
「テーッ」
艦首前方に向けて6門の46センチ主砲が発砲した。もちろん誘導弾に主砲弾が命中することはない。しかし、主砲発射時の猛烈な爆風が砲口から艦首前方に円錐形に広がっていった。側面からまともに爆風を浴びて、2発の誘導弾がくるりとひっくり返った。そのまま姿勢を回復できずに大和前方の海上に墜落していった。
……
米軍機の攻撃は、嵐のようにやってきて、突然過ぎ去った。赤城の艦橋では加来参謀長はほっとしつつも指示を出していた。
「通信参謀、艦隊上空の戦いの様子を確認してくれ。まだ米軍攻撃機は残っているのか?」
「電探の探知は、やってきた方向に戻る機体ばかりです」
すぐに見張りの状況を確認した大石参謀からも情報が入る。
「上空の敵機は、既に攻撃を終えています。これから攻撃態勢に入る機体はありません」
「雪風と、天津風に命令。時津風の乗員を救助せよ」
被害は、駆逐艦1隻の沈没と、大和の小破だったが、空母は無傷であった。誘導弾に対する対策は有効だったが、米軍は新しい誘導方式を使ってきた。しかも、電波攪乱紙による欺瞞を見抜いて逆に利用してきた。
隣にやって来た草鹿中将が、ぼそりと話しだした。
「なんとか、米軍の攻撃は凌いだな。それも三航戦の応援がなければもっと被害が拡大しただろう。我々の艦隊としては敵の攻撃部隊に対する見通しが甘かったということだな」
「北東からの攻撃隊は、オアフ島から飛来した部隊です。その追加の部隊が、電探の攪乱紙の影に隠れて攻めてくるとは想定できませんでした。しかも、大和を直撃したのは新しい種類の誘導弾です。我々の想像以上に米軍は新しい手を使ってきています。全く油断ができません」
草鹿中将も強くうなずいた。
「反省は今の戦いが一段落してからだ。過ぎたことよりも、我々の艦隊から発艦していった攻撃隊の戦果に期待しよう。必要であれば、戻った攻撃隊をもう一度出撃させる必要がある。眼の前に敵がいる限り、攻撃の手を緩めるな」
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