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第23章 欧州航空戦
23.1章 Uボート基地爆撃1
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1943年9月中旬になると、ドーリットル中将は再びUボート基地への爆撃を命じた。前回のB-29を主力とした攻撃作戦は、基地に被害を与えたものの戦果は必ずしも十分とは言えなかった。中将は繰り返し攻撃するつもりだったが、ドイツ軍の戦闘機と対空砲火による大きな被害が、作戦実行を躊躇させていた。
一方、アメリカ大陸では、大量の物資をヨーロッパに運び込むためにHX229とSC122から構成される大船団の出港準備が開始されていた。港湾を攻撃して、ヨーロッパ大陸から大西洋へと出撃するUボートの数を減らせば、船団を間接的に助けることになるだろう。
ドーリットル中将は、前回の作戦での被害が想定以上に大きかったことから、爆撃機と戦闘機の数が充実してからの作戦再開を考えていたが、周囲の状況がそれを許さなくなった。
本土のアーノルド大将から連絡がきたのだ。
「アメリカ本国からの通知だ。大規模船団が合衆国から出発する日程が決まった。9月29日から10月2日にかけてアメリカとカナダから出港するとのことだ。直ちにUボート基地を攻撃すれば、船団の被害を低減する効果が見込めるとのことだ。アーノルド大将がUボート基地への攻撃を指示してきている。おそらく海軍から要請されてのことだろう。まあ、アメリカ大陸を輸送船団が出発してから、Uボートがドイツやフランスから出港しても、大西洋の真ん中で攻撃するならば、間に合うからな」
ハル大佐も攻撃開始には同意した。
「私のところにも、輸送船団の被害を減らすために作戦を実行するように、航空軍司令部から圧力がかかってきました。正直、この時期にUボート基地を攻撃しても、効果は怪しいと思いますが、ここで攻撃しなければ、後々何を言われるかわかりませんよ。現状で120機程度のB-29を攻撃に参加させられます。やや少ない機数かも知れませんが、基地の破壊には十分な攻撃力を有していると判断します」
もちろん、ドーリットル中将も反対するつもりなどなかった。中将は、アーノルド大将の名前が入った電文を読んだ時点で、命令に従う以外に選択の余地はないと判断していた。ここで弱音を吐けば、左遷されるだけだ。
「前回の攻撃作戦で、被害を受けたにもかかわらず、航空戦力を回復させた部隊の兵たちには感謝しているぞ。その戦力を使う時がきたということだ。直ちに出撃の準備を始めてくれ」
……
第8航空軍が、ヴィルヘルムスハーフェンのUボート基地に向けて攻撃隊を発進させたのは、1943年9月30日だった。急遽決まった攻撃作戦なので、ドーリットルの司令部としては十分な準備ができたとは言い難い。それでも、必要とされる時期に作戦を実行するのが軍隊の役割だ。
ドーリットル司令部の基本方針は、護衛の強化によるB-29の被害削減だった。戦闘機戦力を増強すると共に、電子技術の活用による戦闘の効率化だ。もちろん新たな戦術も研究していた。
作戦時期については、中将は圧力により妥協したが、本国に要求していた新型機はしっかりと手に入れていた。早期警戒型のB-29がアメリカ本土から直接イングランドに飛んできた。改造されたB-29は、胴体の上にまるでストーンヘンジの巨石のような形状のレーダーアンテナを追加していた。機内には新型のレーダーを搭載すると主に、電子機器の操作員と友軍機を誘導する4人の通信士官が搭乗していた。
ドイツ軍の迎撃を警戒して、護衛戦闘機は当然のように強化していた。爆撃隊を護衛していたのは、68機のP-47Nと64機のP-51Dだった。もちろん、第8航空軍はもっと多数の戦闘機を装備している。しかし、新型のフォッケウルフとメッサーシュミット戦闘機に対抗できないならば出撃させても足手まといになる。一方、爆撃隊の本体は121機のB-29が離陸した。それに加えて撃隊の本体とは別に、イギリスに到着したばかりの3機の早期警戒型のB-29が随伴していた。
……
アメリカ軍の大編隊が、エセックス州からサフォーク州にかけて分散配備したアメリカ軍基地から発進した。イングランドの東海岸上で集合すると、東方に向けて飛行を開始した。この時点でエンジン不調になった11機のB-29が引き返したので、爆撃隊は110機のB-29が中心となって飛行していた。
攻撃隊が、北海をオランダの北部沖合まで飛行したところで、さっそく警戒機の有効性が証明されることになった。戦闘機隊を率いていたガブレスキー中佐に警戒型B-29から通報が入ってきたのだ。
「方位135度、50マイル(84km)に大編隊を探知。おそらく上昇中だ」
(方位から考えてドイツ軍の戦闘機に間違いない。それにしても、遠くから探知できるのだな。さすがに新型機だ)
「南東からドイツ軍戦闘機がやってくるぞ。予定通り行動する。まずは、作戦Aを実行だ」
爆撃隊から前進していた42機のP-47Nは、ドイツ軍機の方角に向けて降下しながら加速してゆくと、爆撃隊から10マイル(16km)以上距離が開いたところで、翼下面に搭載していた5インチ(127mm)ロケット弾を発射した。降下したので、爆撃隊よりも高度が1,000m程度下がっている。
P-47Nは、左右の翼下にそれぞれ5発のロケット弾を搭載していた。一斉に発射された420発のロケット弾が北東に向けて飛翔していった。やがてロケット弾に内蔵したタイマーにより少量の火薬に点火すると、弾頭外皮が割れて内部の金属箔が飛散した。
ロケット弾の弾頭には炸薬の代わりに多量の金属箔が仕込まれていた。そのため頭部が膨らんで飛翔性能は悪化したが、目標に命中させるのが目的ではないので問題ない。ロケット弾を発射して身軽になったP-47Nの編隊は全力で上昇していた。その結果、P-47Nの下方には巨大な金属箔の雲が出現していた。
やがて、ガブレスキー中佐機の下側に主翼の細長いフォッケウルフが上昇してくるのが遠方に見えてきた。ドイツ軍戦闘機隊は、P-47Nよりも下方で上昇から水平飛行に移った。
ガブレスキー中佐は、操縦席でわずかにほくそえみながら攻撃を命令した。
「作戦通りだ。ドイツ軍は我々が散布したウィンドウの雲を攻撃隊だと思って接近してくるぞ。下方のフォッケウルフに向けて突入せよ」
……
JG26のガイスハルト大尉は、ユトランド半島西側を飛行していたレーダー搭載の早期警戒型He177捉えた情報を信じて、機上からの誘導で上昇してきたが、前方に存在するはずの敵編隊が見えてこない。おかしいと思い周囲を警戒すると北西の1,000mほど高い位置に、40機余りの胴体の太い戦闘機の編隊を発見した。
(これはまずいぞ。降下してくるのは、間違いなくサンダーボルトの編隊だ。それもかなりの数だ)
しかし、大尉は、すぐに危機感を抱いた感情を押し殺して無線のスイッチを入れた。
「上空から敵機だ! 上空からサンダーボルトの編隊が攻撃してくる。全速で回避せよ」
命令を発しながら、大尉のTa152Hは背面になってから機首を真下に向けた。降下しながら、左翼側に旋回してゆく。急な機動により、主翼端から白い水蒸気の雲が発生している。こんな時に上から攻撃されたら、急降下と急旋回で回避するしかない。
しかし、後続の編隊には大尉ほど素早く反応できない経験の少ないパイロットがいた。彼らは、たちまち、8挺の12.7mm機銃の火箭にさらされた。急降下で高速になっても、びくともしない機体から安定した射撃ができるのは、P-47Nの利点の一つだ。一撃で10機以上のTa152Hが撃墜された。出鼻をくじかれて、Ta152Hの編隊はバラバラになって、B-29への組織的な攻撃は既に不可能になっていた。
操縦席の中でガイスハルト大尉は、唇をかみしめていた。
(アメリカ軍は大量の金属箔を散布して、レーダーの欺瞞反射を作り出したのだ。我々はその雲におびき寄せられた。最初から仕組まれた罠に我々は、はめられた)
しかし、残った機体を率いてアメリカの爆撃機を攻撃しなければならない。
「ガイスハルトだ。高度6,000mを北東に向けて飛行中だ。生き残った機は私の周りに集まれ。各機個別に攻撃するな。単独行動は敵の思うつぼだ」
乗機をバンクさせながら、大尉は次の作戦を考えていた。
(これから攻撃しようとすれば、待ち構えたアメリカ軍戦闘機に反撃されるだろう。かなり多数の戦闘機が護衛しているようだ。数の減った我々の部隊では大したことはできないに違いない)
このまま上昇して、やみくもに攻撃しても、全滅するだけだ。大尉はしばらく様子を見ることにした。
……
やがて、ヤーデ湾が見えてくると、B-29の編隊は北海上空から南東に変針した。同時に、北部ドイツ本土基地から発進したMe309Bの編隊が接近してきた。
ガブレスキー中佐に後続の警戒型B-29から、通報が入った。
「方位140度、20マイル(32km)で編隊を探知。レーダー反射から大編隊と推定」
中佐は、すぐさま南南東の敵編隊に向けて攻撃を命じた。まだロケット弾を発射していない26機のP-47Nが残っていた。すぐに、ウィンドウを内蔵したロケット弾を発射した。
JG2(第2戦闘航空団)のビューリゲン大尉は基地からの誘導で西北西に飛行していたが、指示された目標を視認するよりも前に、北西から友軍のTa152Hの編隊が飛行してくるのを発見した。編隊がバラバラなのは、既に一度戦ったのだろう。
再び友軍が攻撃するのを待っていたガイスハルト大尉は、南方から飛行してきたMe309Bの部隊に合流してから攻撃しようと決断した。遠方から、ロケット弾の噴射煙が無数の白い糸を引いたのが見えた。アメリカ軍はまたもや、金属箔の雲を作ってドイツ軍戦闘機を誘引しようとしているに違いない。
ガイスハルト大尉は、Me309Bの編隊に注意を呼びかけようとしていたが、部隊が違うおかげでなかなか無線が通じない。しかたないので、JG2の戦闘機を引っ張ってゆくつもりでどんどん上昇していった。P-47Nがやって来る前に高度をとらなければならない。
ビューリゲン大尉は、JG26のTa152Hが地上からの誘導よりもどんどん高いところを目指し行くのをいぶかしんでいた。こんな行動をとるのには、何らかの理由があるに違いない。Ta152H編隊の先頭機は、さかんに、バンクをしながら上昇している。ビューリゲン大尉は、ついてくるように要求していると判断した。
「前方のTa152Hに続いて上昇する。高度9,000m以上だ」
JG26の戦闘機に従って上昇してゆくと、すぐに14時方向にビヤ樽のような胴体の戦闘機がやって来るのが見えた。ビューリゲン大尉の部隊は上昇を続けたおかげで、アメリカ軍機とほとんど同じ高度になっていた。
「14時方向にアメリカ軍戦闘機だ。左に旋回して回避する」
ビューリゲン大尉は冷や汗を流していた。
(危ないところだった。あのまま地上の誘導に従って飛行していたら、上方から一方的に攻撃されるところだった)
Me309Bの編隊は、ぎりぎりのところでアメリカ軍戦闘機の急降下攻撃を回避した。しかし、爆撃機の編隊はまだ北西方向を飛行している。今度は、爆撃機の編隊前方にP-47NとP-51Dが出てきて阻止する構えをとった。やはり簡単には爆撃機に近づけてくれないらしい。
(これほど多数の戦闘機が護衛しているのか。アメリカ軍は戦闘機の使い方が贅沢だな。しかし、なんとかして護衛のアメリカ軍戦闘機を潜り抜けなければ、爆撃機を攻撃できないぞ)
一方、アメリカ大陸では、大量の物資をヨーロッパに運び込むためにHX229とSC122から構成される大船団の出港準備が開始されていた。港湾を攻撃して、ヨーロッパ大陸から大西洋へと出撃するUボートの数を減らせば、船団を間接的に助けることになるだろう。
ドーリットル中将は、前回の作戦での被害が想定以上に大きかったことから、爆撃機と戦闘機の数が充実してからの作戦再開を考えていたが、周囲の状況がそれを許さなくなった。
本土のアーノルド大将から連絡がきたのだ。
「アメリカ本国からの通知だ。大規模船団が合衆国から出発する日程が決まった。9月29日から10月2日にかけてアメリカとカナダから出港するとのことだ。直ちにUボート基地を攻撃すれば、船団の被害を低減する効果が見込めるとのことだ。アーノルド大将がUボート基地への攻撃を指示してきている。おそらく海軍から要請されてのことだろう。まあ、アメリカ大陸を輸送船団が出発してから、Uボートがドイツやフランスから出港しても、大西洋の真ん中で攻撃するならば、間に合うからな」
ハル大佐も攻撃開始には同意した。
「私のところにも、輸送船団の被害を減らすために作戦を実行するように、航空軍司令部から圧力がかかってきました。正直、この時期にUボート基地を攻撃しても、効果は怪しいと思いますが、ここで攻撃しなければ、後々何を言われるかわかりませんよ。現状で120機程度のB-29を攻撃に参加させられます。やや少ない機数かも知れませんが、基地の破壊には十分な攻撃力を有していると判断します」
もちろん、ドーリットル中将も反対するつもりなどなかった。中将は、アーノルド大将の名前が入った電文を読んだ時点で、命令に従う以外に選択の余地はないと判断していた。ここで弱音を吐けば、左遷されるだけだ。
「前回の攻撃作戦で、被害を受けたにもかかわらず、航空戦力を回復させた部隊の兵たちには感謝しているぞ。その戦力を使う時がきたということだ。直ちに出撃の準備を始めてくれ」
……
第8航空軍が、ヴィルヘルムスハーフェンのUボート基地に向けて攻撃隊を発進させたのは、1943年9月30日だった。急遽決まった攻撃作戦なので、ドーリットルの司令部としては十分な準備ができたとは言い難い。それでも、必要とされる時期に作戦を実行するのが軍隊の役割だ。
ドーリットル司令部の基本方針は、護衛の強化によるB-29の被害削減だった。戦闘機戦力を増強すると共に、電子技術の活用による戦闘の効率化だ。もちろん新たな戦術も研究していた。
作戦時期については、中将は圧力により妥協したが、本国に要求していた新型機はしっかりと手に入れていた。早期警戒型のB-29がアメリカ本土から直接イングランドに飛んできた。改造されたB-29は、胴体の上にまるでストーンヘンジの巨石のような形状のレーダーアンテナを追加していた。機内には新型のレーダーを搭載すると主に、電子機器の操作員と友軍機を誘導する4人の通信士官が搭乗していた。
ドイツ軍の迎撃を警戒して、護衛戦闘機は当然のように強化していた。爆撃隊を護衛していたのは、68機のP-47Nと64機のP-51Dだった。もちろん、第8航空軍はもっと多数の戦闘機を装備している。しかし、新型のフォッケウルフとメッサーシュミット戦闘機に対抗できないならば出撃させても足手まといになる。一方、爆撃隊の本体は121機のB-29が離陸した。それに加えて撃隊の本体とは別に、イギリスに到着したばかりの3機の早期警戒型のB-29が随伴していた。
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アメリカ軍の大編隊が、エセックス州からサフォーク州にかけて分散配備したアメリカ軍基地から発進した。イングランドの東海岸上で集合すると、東方に向けて飛行を開始した。この時点でエンジン不調になった11機のB-29が引き返したので、爆撃隊は110機のB-29が中心となって飛行していた。
攻撃隊が、北海をオランダの北部沖合まで飛行したところで、さっそく警戒機の有効性が証明されることになった。戦闘機隊を率いていたガブレスキー中佐に警戒型B-29から通報が入ってきたのだ。
「方位135度、50マイル(84km)に大編隊を探知。おそらく上昇中だ」
(方位から考えてドイツ軍の戦闘機に間違いない。それにしても、遠くから探知できるのだな。さすがに新型機だ)
「南東からドイツ軍戦闘機がやってくるぞ。予定通り行動する。まずは、作戦Aを実行だ」
爆撃隊から前進していた42機のP-47Nは、ドイツ軍機の方角に向けて降下しながら加速してゆくと、爆撃隊から10マイル(16km)以上距離が開いたところで、翼下面に搭載していた5インチ(127mm)ロケット弾を発射した。降下したので、爆撃隊よりも高度が1,000m程度下がっている。
P-47Nは、左右の翼下にそれぞれ5発のロケット弾を搭載していた。一斉に発射された420発のロケット弾が北東に向けて飛翔していった。やがてロケット弾に内蔵したタイマーにより少量の火薬に点火すると、弾頭外皮が割れて内部の金属箔が飛散した。
ロケット弾の弾頭には炸薬の代わりに多量の金属箔が仕込まれていた。そのため頭部が膨らんで飛翔性能は悪化したが、目標に命中させるのが目的ではないので問題ない。ロケット弾を発射して身軽になったP-47Nの編隊は全力で上昇していた。その結果、P-47Nの下方には巨大な金属箔の雲が出現していた。
やがて、ガブレスキー中佐機の下側に主翼の細長いフォッケウルフが上昇してくるのが遠方に見えてきた。ドイツ軍戦闘機隊は、P-47Nよりも下方で上昇から水平飛行に移った。
ガブレスキー中佐は、操縦席でわずかにほくそえみながら攻撃を命令した。
「作戦通りだ。ドイツ軍は我々が散布したウィンドウの雲を攻撃隊だと思って接近してくるぞ。下方のフォッケウルフに向けて突入せよ」
……
JG26のガイスハルト大尉は、ユトランド半島西側を飛行していたレーダー搭載の早期警戒型He177捉えた情報を信じて、機上からの誘導で上昇してきたが、前方に存在するはずの敵編隊が見えてこない。おかしいと思い周囲を警戒すると北西の1,000mほど高い位置に、40機余りの胴体の太い戦闘機の編隊を発見した。
(これはまずいぞ。降下してくるのは、間違いなくサンダーボルトの編隊だ。それもかなりの数だ)
しかし、大尉は、すぐに危機感を抱いた感情を押し殺して無線のスイッチを入れた。
「上空から敵機だ! 上空からサンダーボルトの編隊が攻撃してくる。全速で回避せよ」
命令を発しながら、大尉のTa152Hは背面になってから機首を真下に向けた。降下しながら、左翼側に旋回してゆく。急な機動により、主翼端から白い水蒸気の雲が発生している。こんな時に上から攻撃されたら、急降下と急旋回で回避するしかない。
しかし、後続の編隊には大尉ほど素早く反応できない経験の少ないパイロットがいた。彼らは、たちまち、8挺の12.7mm機銃の火箭にさらされた。急降下で高速になっても、びくともしない機体から安定した射撃ができるのは、P-47Nの利点の一つだ。一撃で10機以上のTa152Hが撃墜された。出鼻をくじかれて、Ta152Hの編隊はバラバラになって、B-29への組織的な攻撃は既に不可能になっていた。
操縦席の中でガイスハルト大尉は、唇をかみしめていた。
(アメリカ軍は大量の金属箔を散布して、レーダーの欺瞞反射を作り出したのだ。我々はその雲におびき寄せられた。最初から仕組まれた罠に我々は、はめられた)
しかし、残った機体を率いてアメリカの爆撃機を攻撃しなければならない。
「ガイスハルトだ。高度6,000mを北東に向けて飛行中だ。生き残った機は私の周りに集まれ。各機個別に攻撃するな。単独行動は敵の思うつぼだ」
乗機をバンクさせながら、大尉は次の作戦を考えていた。
(これから攻撃しようとすれば、待ち構えたアメリカ軍戦闘機に反撃されるだろう。かなり多数の戦闘機が護衛しているようだ。数の減った我々の部隊では大したことはできないに違いない)
このまま上昇して、やみくもに攻撃しても、全滅するだけだ。大尉はしばらく様子を見ることにした。
……
やがて、ヤーデ湾が見えてくると、B-29の編隊は北海上空から南東に変針した。同時に、北部ドイツ本土基地から発進したMe309Bの編隊が接近してきた。
ガブレスキー中佐に後続の警戒型B-29から、通報が入った。
「方位140度、20マイル(32km)で編隊を探知。レーダー反射から大編隊と推定」
中佐は、すぐさま南南東の敵編隊に向けて攻撃を命じた。まだロケット弾を発射していない26機のP-47Nが残っていた。すぐに、ウィンドウを内蔵したロケット弾を発射した。
JG2(第2戦闘航空団)のビューリゲン大尉は基地からの誘導で西北西に飛行していたが、指示された目標を視認するよりも前に、北西から友軍のTa152Hの編隊が飛行してくるのを発見した。編隊がバラバラなのは、既に一度戦ったのだろう。
再び友軍が攻撃するのを待っていたガイスハルト大尉は、南方から飛行してきたMe309Bの部隊に合流してから攻撃しようと決断した。遠方から、ロケット弾の噴射煙が無数の白い糸を引いたのが見えた。アメリカ軍はまたもや、金属箔の雲を作ってドイツ軍戦闘機を誘引しようとしているに違いない。
ガイスハルト大尉は、Me309Bの編隊に注意を呼びかけようとしていたが、部隊が違うおかげでなかなか無線が通じない。しかたないので、JG2の戦闘機を引っ張ってゆくつもりでどんどん上昇していった。P-47Nがやって来る前に高度をとらなければならない。
ビューリゲン大尉は、JG26のTa152Hが地上からの誘導よりもどんどん高いところを目指し行くのをいぶかしんでいた。こんな行動をとるのには、何らかの理由があるに違いない。Ta152H編隊の先頭機は、さかんに、バンクをしながら上昇している。ビューリゲン大尉は、ついてくるように要求していると判断した。
「前方のTa152Hに続いて上昇する。高度9,000m以上だ」
JG26の戦闘機に従って上昇してゆくと、すぐに14時方向にビヤ樽のような胴体の戦闘機がやって来るのが見えた。ビューリゲン大尉の部隊は上昇を続けたおかげで、アメリカ軍機とほとんど同じ高度になっていた。
「14時方向にアメリカ軍戦闘機だ。左に旋回して回避する」
ビューリゲン大尉は冷や汗を流していた。
(危ないところだった。あのまま地上の誘導に従って飛行していたら、上方から一方的に攻撃されるところだった)
Me309Bの編隊は、ぎりぎりのところでアメリカ軍戦闘機の急降下攻撃を回避した。しかし、爆撃機の編隊はまだ北西方向を飛行している。今度は、爆撃機の編隊前方にP-47NとP-51Dが出てきて阻止する構えをとった。やはり簡単には爆撃機に近づけてくれないらしい。
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