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第25章 ドイツ本国攻撃作戦
25.5章 日本陸軍の戦闘2
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樫出大尉は、ドイツ軍のフォッケウルフの編隊手前で誘導弾が爆発するのを見て、金属箔による妨害だと気づいた。そのまま正面から直進すれば、ドイツ軍機との接近戦になると考えて、あえて距離をとろうと南に向けて旋回した。
(2、3機は撃墜したが、大部分は取り逃がしたようだ。ドイツ軍が散布した金属箔が雲のように広がって有効だったのだ。近接戦になれば、飛行性能に劣る我々が不利だ)
南南東から東へと飛行していた三式双爆は、進路を真北に向けるように左翼側に急旋回した。限界に近い急旋回で、翼端から白い水蒸気の雲を引いている。
「第二中隊、第三中隊、射程に捉え次第、誘導弾を発射せよ。繰り返す。残った誘導弾を発射せよ」
樫出大尉も目標を側面から見る位置からの発射では、みなし角がどんどん変わるので、命中率は良くないとわかっていた。それでも、この機会を逃せば速度と機動力で勝る敵戦闘機は、友軍編隊の後方に取り付くことになるだろう。ドイツ軍の戦闘機も、日本軍の全翼機も急な水平旋回を続けたおかげで、それぞれの編隊が前後に長く伸び切っていた。旋回開始時間や操縦員の技量のばらつきが原因だ。
そのおかげで、三式双爆の誘導弾は一斉にはならず、個別の発射になってしまった。東から西へと飛行するドイツ軍編隊の側面に向けて飛翔していったのは、32発の噴流二型だった。
旋回により位置関係が大きく変わったために、既にドイツ軍機の金属箔の雲は効果がかなり薄れていた。しかし、側面からの電波による誘導弾の発射は、命中率を大きく低下させた。それでも3割程度の9発がフォッケウルフを捉えて爆発した。
……
クラウゼン大尉は、自分たちの編隊に向けて、再び誘導弾が発射されたのを知っていたが、急旋回を続けた。ここで旋回をやめて直線的に飛行しても、圧倒的に速いミサイルに対して絶好の目標になるだけだ。急降下で、ミサイルの射程から逃れるという策もあり得るが、今から急加速してもミサイルはTa152Cに追いついてくるだろう。
編隊の中央から後部にかけて、連続して爆発が発生した。大尉が振り返ると10機近くの戦闘機が墜落してゆく。それでも構わず、左翼側前方に見えてきた全翼機の編隊に向かって旋回を続けた。ジリジリと、左側の編隊が中央付近に近づいてくる。
「クラウゼンだ。目標の赤外線を捕捉したら、ミサイルを発射せよ。各機、ミサイル発射だ!」
大尉がX-4の赤外線センサーを有効にすると、すぐに耳元にビーという信号音が聞こえてきた。赤外線センサーが目標を捉えたという信号音だ。すかさず両翼下のX-4を発射した。2発のミサイルが、前方のやや左側を飛行してゆく全翼機に向かっていった。
……
三式双爆の編隊が水平旋回している間も、岩井伍長は後方を警戒していた。こんな時には、2方向を同時に監視できる複座機は便利だ。伍長は、ドイツ軍機の翼下で連続的に発生する白煙を見逃さなかった。
「ドイツ軍機が誘導弾を発射しました。次々と撃ってきます!」
最後まで、報告を聞かずに樫出大尉は返事をしながら、操縦席右側に追加されたノブを思い切り回した。
「わかった。欺瞞弾を投射する」
三式双爆には突貫工事で、数日前にアメリカ大陸から輸送機ではこばれてきた投射装置が取り付けられたばかりだった。推進式プロペラの外側に、なるべく空気抵抗を増さないように左右の2基の投射器が取り付けられていた。このような位置でも若干電波反射や空気抵抗が増加すると考えられたが、現地部隊では機体表面と完全に同一面になるような改修は無理だった。
樫出大尉の操作により、円筒状のペレットの底面で少量の火薬が燃焼すると、投射器に装填されていた欺瞞弾がガス圧で外部に飛び出した。胴体左右の投射器にはそれぞれ30発の欺瞞弾が装填されていた。60発の欺瞞弾は光を放ちながら、機体の両側から扇型に広がった。
X-4ミサイルは、5kmほど飛翔していったが、2発が赤外線を放射する欺瞞弾に引き付けられて飛んでいった。
「赤外線誘導弾だという情報は正しかったな。何とか回避できてほっとしたぞ」
周囲の三式双爆も欺瞞弾を投射している。まるで花火のように輝く光球が空中にばらまかれている。樫出大尉は後方ばかりを見ているわけにはいかなかったが、後部座席の岩井伍長は、どれほどの誘導弾が友軍機に命中したのか確認していた。
「我が編隊には20発程度の誘導弾が発射されたようです。私の視界内で、4発が友軍機の至近で爆発しました」
「そうか」
樫出大尉は、それ以上答えられなかった。お互いに誘導弾を撃ち尽くした現状では、空戦性能に優れたドイツ軍機が圧倒的に有利だろう。空中戦に巻き込まれれば、双発機の三式双爆の被害は更に増えるはずだ。
「誘導弾の次は機銃で攻撃してくるぞ。各機、急降下で逃げるんだ」
……
黒江大尉は、これほど急に戦闘が始まるとは想定していなかった。理由は簡単だ。友軍もドイツ軍も誘導弾を持っていたことで、接近する前から遠距離での戦闘が始まってしまった。誘導弾を撃ったならば、これからは接近戦に移行することが容易に推測できた。
接近戦になれば双発の三式双爆に勝ち目はない。そもそもが戦闘機ではなく双発爆撃機なのだ。空中戦が始まる前に全翼機の部隊を救援すべく、全力加速を開始した。
「10時方向の敵編隊を攻撃する。水メタノールを噴射せよ。全速を出さないと間に合わないぞ」
疾風のㇵ44エンジンは、水メタノール噴射のおかげで出力を2,400馬力まで増加させた。とんでもない大出力が、高度6,000mを上昇中にもかかわらず、700km/hを超える速度まで疾風を加速させた。そのおかげで、新型のフォッケウルフが誘導弾を発射した時点で、ドイツ軍機との距離をかなり詰めることができた。
黒江大尉の乗機は、下方から一気に加速すると、ドイツ軍機に向けてぐんぐん接近していった。そのまま、腹部を狙って4挺の20mm機銃を一斉に射撃した。フォッケウルフの機首から胴体中央部にかけて、機銃弾が炸裂した。すぐに黒煙を吹きながらがっくりと機首を落とすと、きりもみになって墜ちてゆく。
……
32機の疾風が接近を開始した時、クラウゼン大尉たちのTa152Cは目の前の双発全翼機への追尾を開始していた。疾風が近づいてきたのは、影になりやすい胴体後方の下側からだった。しかし、クラウゼン大尉はぎりぎりのところで、下方の戦闘機を発見した。
「4時方向、下方から空冷戦闘機だ。全機回避せよ!」
大尉が気づいて命令を発した時には、サンダーボルトをスマートにしたような空冷戦闘機は機銃の射程に捉える寸前まで接近していた。Ta152Cは射撃を回避しようと、バラバラに急旋回や急降下を開始したが、加速する前に空冷の日本軍機が下方から機銃の射程圏に捉えた。
誘導弾の攻撃によりクラウゼン大尉の後方を飛行していたTa152Cは、既に10機までに減少していたが、空冷戦闘機の攻撃により更に3機が黒煙を吐き出して降下してゆく。上昇でTa152Cよりも高度をとった空冷機は上空で鮮やかな宙返りを決めると、急降下で突進してきた。
生き残ったTa152Cは急降下で逃げようとしたが、高出力エンジンに加えて急降下で加速した日本軍機は後ろから追いつくと、今度は後方から射撃を開始した。空冷機の攻撃により、更に3機が撃墜された。
高度3,000mあたりまで降下してきたクラウゼン大尉は、友軍機の集合を命じた。
「クラウゼンだ。高度3,000mあたりを東に向けて飛行中だ。戦闘可能な機体は集まれ」
しかし、大尉の機体の周囲に向けて飛行してきたのはわずかに5機のTa152Cだった。短時間の戦闘でおよそ25機が撃墜されるか損傷を受けて逃げたことになる。しかもミサイルと金属箔ポッドを装備していたおかげで、Ta152Cは増槽を搭載していなかった。これから日本軍機を追いかけてゆけば、帰りの燃料が心配だ。何よりもそんな行動が可能な兵力が残っていない。
クラウゼン大尉は頼りない声で命令した。
「これより、基地に戻る」
……
後藤少佐は、爆撃装備の35機の三式双爆を率いていた。彼の部隊は、もともと九九式双軽を装備していたが、本土であわただしく機種変更をしてからヨーロッパへとやってきていた。
三式双爆の編隊は、ユトランド半島の付け根を西方東に横断した。海岸線に沿ってしばらく飛行すれば特徴的な形の島の東側にペーネミュンデが見えてくるはずだ。
ロストックの北側で、飛燕と疾風の護衛戦闘機は三式双爆とは分かれて、北側のバルト海を飛行していた。普通に電探に映る戦闘機隊がやや離れたところを別行動することで戦闘機や対空砲火を引き付けられると考えたのだ。
三式双爆がロストックからペーネミュンデへと接近すると対空砲の爆煙が、編隊の周囲に浮かび始めた。さすがにレーダーに映りにくい全翼機であっても音や目視で地上から発見される。レーダーを使った精密な測位は不可能でも、光学測定により高射砲は射撃できる。しかし命中率が劣るのはやむを得ない。
爆撃隊は、地上から撃たれっぱなしになったが、ここは我慢して前進するしかない。左翼後方の1機が煙を吐きながら脱落してゆく。続いて、右翼の1機も脱落してゆく。被害を受けてもなんとか基地に帰投できることを願うしかない。
……
シュトゥムプフ上級大将は、北海からユトランド半島の付け根を目指して飛行している編隊がどこに向かっているのかを考えていた。
参謀のケッセル中佐が慌ててやってきた。
「沿岸レーダーの探知情報からは、既に北海上空から半島を西から東に横断しています。」
上級大将は、中佐が指さした地図上の地点を見ていた。意識的にゆっくりと話し始める。
「落ち着け。この飛行経路だと可能性の高い目的はロストックもしくはリューベックあたりだろう」
ドイツ北部沿岸の基地から電話による報告が入ってきた。
「ロストック北側の沿岸を攻撃隊が通過しています。郊外の高射砲が射撃を開始したとのことです」
報告を聞いて、ファルケンシュタイン少将は日本軍の目的がわかった。
「バルト海を東に進めば、ペーネミュンデの新兵器試験場があります。単なる実験だけでなく新兵器の組み立て施設や評価用の風洞まで備えているかなり規模の大きな実験場です」
すぐに、シュトゥムプフ上級大将もファルケンシュタイン少将の発言の意図を理解した。
「この施設が攻撃されれば、新型機や新兵器の開発に大きな影響が出るはずだ。ペーネミュンデに警報を出せ。作業が止まっても良いから直ちに避難させるのだ」
……
ユトランド半島を越えてしばらくすると、後藤少佐自身が事前に何度も確認した施設や飛行場が2時方向に見えてきた。念のために、操縦席に持参していた航空写真と比較したが、間違いなかった。
「2時方向、攻撃目標が見えた。降下攻撃を開始する」
三式双爆は機首を下げてぐんぐん加速を始めた。その時、少佐の耳もとに大声の警告が入ってきた。右翼側を飛行している佐藤大尉だ。
「1時方向、下方から2本の白煙が昇ってくる。誘導弾と認む」
後藤少佐もすぐに、白い煙の尾を引きながら上昇してくる2基の飛翔体を発見した。
「欺瞞弾を射出せよ」
双爆の中央翼後部から60発の弾子が射出された。爆撃隊の半数は地対空誘導弾を警戒して、金属箔の弾子を搭載していた。17機が1,000発余りの弾子を放出して、空中に金属箔をばらまいた。地上から発射されたライン・トホターは偽の金属箔に向かっていった。全翼機と空中の金属箔を比較すると、圧倒的に後者の電波反射が大きい。
残りの18機は赤外線を放射する欺瞞弾を散布したが、結果的に役に立たなかった。地対空誘導弾にも赤外線誘導が採用されている可能性を考慮してのことだったが、杞憂だった。
後藤少佐は、緩降下で格納庫と組み立て工場が隣接した地域の最大の建築物に狙いをつけると、2発の500kg爆弾を投下した。少佐に続いて34機の三式双爆も実験用の建築物や誘導弾の発射施設に次々と爆弾を投下した。大型誘導弾が鉄骨塔に支えられて屋外に引き出されていたが、爆炎を浴びると真っ赤な炎を噴き出して大爆発した。内部に燃料が搭載されていたのだろう。
もちろん、少佐も広い実験場に各種施設が建設されているので、33トン程度の爆弾を投下しても実験場の施設を完全に破壊できるとは考えていなかった。それでも、大きな建築物や格納庫を破壊していくつもの黒煙が立ち上っていた。目についた施設はほとんど破壊したので、当面は何もできないはずだ。
「任務完了だ。全機、帰投するぞ」
心なしか少佐の声は弾んでいた。
(2、3機は撃墜したが、大部分は取り逃がしたようだ。ドイツ軍が散布した金属箔が雲のように広がって有効だったのだ。近接戦になれば、飛行性能に劣る我々が不利だ)
南南東から東へと飛行していた三式双爆は、進路を真北に向けるように左翼側に急旋回した。限界に近い急旋回で、翼端から白い水蒸気の雲を引いている。
「第二中隊、第三中隊、射程に捉え次第、誘導弾を発射せよ。繰り返す。残った誘導弾を発射せよ」
樫出大尉も目標を側面から見る位置からの発射では、みなし角がどんどん変わるので、命中率は良くないとわかっていた。それでも、この機会を逃せば速度と機動力で勝る敵戦闘機は、友軍編隊の後方に取り付くことになるだろう。ドイツ軍の戦闘機も、日本軍の全翼機も急な水平旋回を続けたおかげで、それぞれの編隊が前後に長く伸び切っていた。旋回開始時間や操縦員の技量のばらつきが原因だ。
そのおかげで、三式双爆の誘導弾は一斉にはならず、個別の発射になってしまった。東から西へと飛行するドイツ軍編隊の側面に向けて飛翔していったのは、32発の噴流二型だった。
旋回により位置関係が大きく変わったために、既にドイツ軍機の金属箔の雲は効果がかなり薄れていた。しかし、側面からの電波による誘導弾の発射は、命中率を大きく低下させた。それでも3割程度の9発がフォッケウルフを捉えて爆発した。
……
クラウゼン大尉は、自分たちの編隊に向けて、再び誘導弾が発射されたのを知っていたが、急旋回を続けた。ここで旋回をやめて直線的に飛行しても、圧倒的に速いミサイルに対して絶好の目標になるだけだ。急降下で、ミサイルの射程から逃れるという策もあり得るが、今から急加速してもミサイルはTa152Cに追いついてくるだろう。
編隊の中央から後部にかけて、連続して爆発が発生した。大尉が振り返ると10機近くの戦闘機が墜落してゆく。それでも構わず、左翼側前方に見えてきた全翼機の編隊に向かって旋回を続けた。ジリジリと、左側の編隊が中央付近に近づいてくる。
「クラウゼンだ。目標の赤外線を捕捉したら、ミサイルを発射せよ。各機、ミサイル発射だ!」
大尉がX-4の赤外線センサーを有効にすると、すぐに耳元にビーという信号音が聞こえてきた。赤外線センサーが目標を捉えたという信号音だ。すかさず両翼下のX-4を発射した。2発のミサイルが、前方のやや左側を飛行してゆく全翼機に向かっていった。
……
三式双爆の編隊が水平旋回している間も、岩井伍長は後方を警戒していた。こんな時には、2方向を同時に監視できる複座機は便利だ。伍長は、ドイツ軍機の翼下で連続的に発生する白煙を見逃さなかった。
「ドイツ軍機が誘導弾を発射しました。次々と撃ってきます!」
最後まで、報告を聞かずに樫出大尉は返事をしながら、操縦席右側に追加されたノブを思い切り回した。
「わかった。欺瞞弾を投射する」
三式双爆には突貫工事で、数日前にアメリカ大陸から輸送機ではこばれてきた投射装置が取り付けられたばかりだった。推進式プロペラの外側に、なるべく空気抵抗を増さないように左右の2基の投射器が取り付けられていた。このような位置でも若干電波反射や空気抵抗が増加すると考えられたが、現地部隊では機体表面と完全に同一面になるような改修は無理だった。
樫出大尉の操作により、円筒状のペレットの底面で少量の火薬が燃焼すると、投射器に装填されていた欺瞞弾がガス圧で外部に飛び出した。胴体左右の投射器にはそれぞれ30発の欺瞞弾が装填されていた。60発の欺瞞弾は光を放ちながら、機体の両側から扇型に広がった。
X-4ミサイルは、5kmほど飛翔していったが、2発が赤外線を放射する欺瞞弾に引き付けられて飛んでいった。
「赤外線誘導弾だという情報は正しかったな。何とか回避できてほっとしたぞ」
周囲の三式双爆も欺瞞弾を投射している。まるで花火のように輝く光球が空中にばらまかれている。樫出大尉は後方ばかりを見ているわけにはいかなかったが、後部座席の岩井伍長は、どれほどの誘導弾が友軍機に命中したのか確認していた。
「我が編隊には20発程度の誘導弾が発射されたようです。私の視界内で、4発が友軍機の至近で爆発しました」
「そうか」
樫出大尉は、それ以上答えられなかった。お互いに誘導弾を撃ち尽くした現状では、空戦性能に優れたドイツ軍機が圧倒的に有利だろう。空中戦に巻き込まれれば、双発機の三式双爆の被害は更に増えるはずだ。
「誘導弾の次は機銃で攻撃してくるぞ。各機、急降下で逃げるんだ」
……
黒江大尉は、これほど急に戦闘が始まるとは想定していなかった。理由は簡単だ。友軍もドイツ軍も誘導弾を持っていたことで、接近する前から遠距離での戦闘が始まってしまった。誘導弾を撃ったならば、これからは接近戦に移行することが容易に推測できた。
接近戦になれば双発の三式双爆に勝ち目はない。そもそもが戦闘機ではなく双発爆撃機なのだ。空中戦が始まる前に全翼機の部隊を救援すべく、全力加速を開始した。
「10時方向の敵編隊を攻撃する。水メタノールを噴射せよ。全速を出さないと間に合わないぞ」
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黒江大尉の乗機は、下方から一気に加速すると、ドイツ軍機に向けてぐんぐん接近していった。そのまま、腹部を狙って4挺の20mm機銃を一斉に射撃した。フォッケウルフの機首から胴体中央部にかけて、機銃弾が炸裂した。すぐに黒煙を吹きながらがっくりと機首を落とすと、きりもみになって墜ちてゆく。
……
32機の疾風が接近を開始した時、クラウゼン大尉たちのTa152Cは目の前の双発全翼機への追尾を開始していた。疾風が近づいてきたのは、影になりやすい胴体後方の下側からだった。しかし、クラウゼン大尉はぎりぎりのところで、下方の戦闘機を発見した。
「4時方向、下方から空冷戦闘機だ。全機回避せよ!」
大尉が気づいて命令を発した時には、サンダーボルトをスマートにしたような空冷戦闘機は機銃の射程に捉える寸前まで接近していた。Ta152Cは射撃を回避しようと、バラバラに急旋回や急降下を開始したが、加速する前に空冷の日本軍機が下方から機銃の射程圏に捉えた。
誘導弾の攻撃によりクラウゼン大尉の後方を飛行していたTa152Cは、既に10機までに減少していたが、空冷戦闘機の攻撃により更に3機が黒煙を吐き出して降下してゆく。上昇でTa152Cよりも高度をとった空冷機は上空で鮮やかな宙返りを決めると、急降下で突進してきた。
生き残ったTa152Cは急降下で逃げようとしたが、高出力エンジンに加えて急降下で加速した日本軍機は後ろから追いつくと、今度は後方から射撃を開始した。空冷機の攻撃により、更に3機が撃墜された。
高度3,000mあたりまで降下してきたクラウゼン大尉は、友軍機の集合を命じた。
「クラウゼンだ。高度3,000mあたりを東に向けて飛行中だ。戦闘可能な機体は集まれ」
しかし、大尉の機体の周囲に向けて飛行してきたのはわずかに5機のTa152Cだった。短時間の戦闘でおよそ25機が撃墜されるか損傷を受けて逃げたことになる。しかもミサイルと金属箔ポッドを装備していたおかげで、Ta152Cは増槽を搭載していなかった。これから日本軍機を追いかけてゆけば、帰りの燃料が心配だ。何よりもそんな行動が可能な兵力が残っていない。
クラウゼン大尉は頼りない声で命令した。
「これより、基地に戻る」
……
後藤少佐は、爆撃装備の35機の三式双爆を率いていた。彼の部隊は、もともと九九式双軽を装備していたが、本土であわただしく機種変更をしてからヨーロッパへとやってきていた。
三式双爆の編隊は、ユトランド半島の付け根を西方東に横断した。海岸線に沿ってしばらく飛行すれば特徴的な形の島の東側にペーネミュンデが見えてくるはずだ。
ロストックの北側で、飛燕と疾風の護衛戦闘機は三式双爆とは分かれて、北側のバルト海を飛行していた。普通に電探に映る戦闘機隊がやや離れたところを別行動することで戦闘機や対空砲火を引き付けられると考えたのだ。
三式双爆がロストックからペーネミュンデへと接近すると対空砲の爆煙が、編隊の周囲に浮かび始めた。さすがにレーダーに映りにくい全翼機であっても音や目視で地上から発見される。レーダーを使った精密な測位は不可能でも、光学測定により高射砲は射撃できる。しかし命中率が劣るのはやむを得ない。
爆撃隊は、地上から撃たれっぱなしになったが、ここは我慢して前進するしかない。左翼後方の1機が煙を吐きながら脱落してゆく。続いて、右翼の1機も脱落してゆく。被害を受けてもなんとか基地に帰投できることを願うしかない。
……
シュトゥムプフ上級大将は、北海からユトランド半島の付け根を目指して飛行している編隊がどこに向かっているのかを考えていた。
参謀のケッセル中佐が慌ててやってきた。
「沿岸レーダーの探知情報からは、既に北海上空から半島を西から東に横断しています。」
上級大将は、中佐が指さした地図上の地点を見ていた。意識的にゆっくりと話し始める。
「落ち着け。この飛行経路だと可能性の高い目的はロストックもしくはリューベックあたりだろう」
ドイツ北部沿岸の基地から電話による報告が入ってきた。
「ロストック北側の沿岸を攻撃隊が通過しています。郊外の高射砲が射撃を開始したとのことです」
報告を聞いて、ファルケンシュタイン少将は日本軍の目的がわかった。
「バルト海を東に進めば、ペーネミュンデの新兵器試験場があります。単なる実験だけでなく新兵器の組み立て施設や評価用の風洞まで備えているかなり規模の大きな実験場です」
すぐに、シュトゥムプフ上級大将もファルケンシュタイン少将の発言の意図を理解した。
「この施設が攻撃されれば、新型機や新兵器の開発に大きな影響が出るはずだ。ペーネミュンデに警報を出せ。作業が止まっても良いから直ちに避難させるのだ」
……
ユトランド半島を越えてしばらくすると、後藤少佐自身が事前に何度も確認した施設や飛行場が2時方向に見えてきた。念のために、操縦席に持参していた航空写真と比較したが、間違いなかった。
「2時方向、攻撃目標が見えた。降下攻撃を開始する」
三式双爆は機首を下げてぐんぐん加速を始めた。その時、少佐の耳もとに大声の警告が入ってきた。右翼側を飛行している佐藤大尉だ。
「1時方向、下方から2本の白煙が昇ってくる。誘導弾と認む」
後藤少佐もすぐに、白い煙の尾を引きながら上昇してくる2基の飛翔体を発見した。
「欺瞞弾を射出せよ」
双爆の中央翼後部から60発の弾子が射出された。爆撃隊の半数は地対空誘導弾を警戒して、金属箔の弾子を搭載していた。17機が1,000発余りの弾子を放出して、空中に金属箔をばらまいた。地上から発射されたライン・トホターは偽の金属箔に向かっていった。全翼機と空中の金属箔を比較すると、圧倒的に後者の電波反射が大きい。
残りの18機は赤外線を放射する欺瞞弾を散布したが、結果的に役に立たなかった。地対空誘導弾にも赤外線誘導が採用されている可能性を考慮してのことだったが、杞憂だった。
後藤少佐は、緩降下で格納庫と組み立て工場が隣接した地域の最大の建築物に狙いをつけると、2発の500kg爆弾を投下した。少佐に続いて34機の三式双爆も実験用の建築物や誘導弾の発射施設に次々と爆弾を投下した。大型誘導弾が鉄骨塔に支えられて屋外に引き出されていたが、爆炎を浴びると真っ赤な炎を噴き出して大爆発した。内部に燃料が搭載されていたのだろう。
もちろん、少佐も広い実験場に各種施設が建設されているので、33トン程度の爆弾を投下しても実験場の施設を完全に破壊できるとは考えていなかった。それでも、大きな建築物や格納庫を破壊していくつもの黒煙が立ち上っていた。目についた施設はほとんど破壊したので、当面は何もできないはずだ。
「任務完了だ。全機、帰投するぞ」
心なしか少佐の声は弾んでいた。
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歴史・時代
海軍内では八八艦隊の議論が熱を帯びていた頃、ある一人の天才によって地味ではあるが大きく日本の未来を変えるシステムが考案された。そのシステムとは、軍艦を一種の”箱”と捉えそこに何を詰めるかによって艦種を変えるという物である。海軍首脳部は直ちにこのシステムの有用性を認め次から建造される軍艦からこのシステムを導入することとした。
そうして、日本海軍は他国を圧倒する量産性を確保し戦雲渦巻く世界に漕ぎ出していく…
こういうの書く予定がある…程度に考えてもらうと幸いです!
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