電子の帝国

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第25章 ドイツ本国攻撃作戦

25.7章 日本海軍攻撃隊1

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 ベルリンの航空艦隊司令部からJG26司令部には、オランダ西岸からルール地方を目標にして侵入してくる目標の情報が、ヒンメルベットシステム経由で入っていた。その位置情報に基づいてⅠ/JG26は出撃していた。

 第26戦闘航空団第Ⅰ飛行隊(Ⅰ/JG26)のロジヒカイト大尉は、JG26司令部からの命令に従って、ドイツ中央部からベルギー国境を目指していた。ベルギー国境を超えても何も見えてこないので、そのまま北西方向のブリュッセル方向へと向かった。しばらく飛行したが、やはり連合国軍の編隊は発見できない。さらにベルギーの北部からオランダ国境を越えるとロッテルダムの市街が見えてきた。

 バトル・オブ・ブリテンの頃は、出撃しても会敵できないことがしばしばあった。しかし、ヒンメルベットのレーダー基地が多数整備されてからは、そのような確率はどんどん減少していた。

 これだけ飛んでも、何も発見できないことに、疑念を感じたロジヒカイト大尉は、JG26の司令部を呼び出した。
「ロジヒカイトだ。我々はベルギー中央部からロッテルダム南方まで30分ほど飛行して捜索したが、敵編隊を発見できない。連合軍機の位置を確認してくれ」

 ロジヒカイト大尉からの報告を受けて、司令官のプリラー大佐も疑念を感じた。
(Ⅰ/JG26の飛行位置から考えて矛盾しているぞ。そうなると、ベルギーとオランダのレーダーが欺瞞されたのか、あるいはベルリンの航空艦隊司令部からの指示内容に間違いがあったのかいずれかだ)

 そこまで考えて、プリラー大佐は副官のゲッツ大尉を呼んだ。
「ベルギーからオランダの北海沿岸の基地から直接レーダーの探知情報を入手してくれ。もう一つは、ベルリンの帝国航空艦隊に確認が必要だ。我が部隊の戦闘機隊は、出撃したが敵編隊を発見できていない。最新状況をベルリンに問い合わせるのだ」

 ゲッツ大尉は、ベルギーとオランダの海岸近くに展開しているレーダー基地からは、コンピュータネットワークを利用して、探知情報を取り寄せた。それが短時間で最新情報を入手できる手段だったからだ。ベルリンに対しては、司令部の連絡要員に電話をかけて状況を確認した。
「確認ができました。ロッテルダム基地もアムステルダムも南東方向に向けて飛行する複数の敵編隊をレーダーで探知したという情報を返信してきています。なおベルリンの航空艦隊司令部も攻撃隊が南東に飛行しているとの回答です」

 大尉が状況を説明している間に、Ⅲ/JG26からも連絡が入ってきた。
「Ⅲ/JG26もマインツ上空から北部ベルギー方面までを哨戒したが、連合軍の編隊を発見できないとのことです」

「そちらも空振りだったのか。そうなると、金属箔などを使って大々的にレーダーに対して偽の目標を映し出させるための欺瞞策を実行したとも考えられるな。あるいは我々の知らない未知の手段により、偽の映像を作り出したのか」

「連合軍が、真の目標を隠すために何らかの手段により欺瞞をしている可能性は極めて高いと考えます。ベルリンの司令部は、多数の攻撃隊を探知してかなり混乱しているようです。電話をかけても、既に我々が知っている探知情報を繰り返すだけで、司令部の参謀クラスとは直接話せていません。なお、JG2やJG11からの部隊はエッセンやデュッセルドルフの上空を飛行しているようです」

「偽のレーダー反射を作り出して、迎撃戦闘機を誘引するための欺瞞作戦だと考えれば、辻褄が合いそうだ。Ⅰ/JG26にすぐに基地に戻るように伝えてくれ。連合国側の真の攻撃目標が明らかになれば、その時は、我々は正しい連合軍部隊を迎撃しなければならない。このままでは、ルール地方上空に引っ張り出されたJG2とJG11の兵力も遊軍になってしまうぞ。我々は連合軍の策にはまりつつある。再びベルリンの防空司令部の参謀に問い合わせるのだ」

 しかし、プリラー大佐が期待した回答は、なかなか返ってこなかった。帝国航空艦隊司令部には他の基地からも問い合わせが入っていたが、それにも満足に答えることができなかった。プリラー大佐が懸念した防空戦闘機隊がおとりに引き回されているという事態は、現実になろうとしていた。

 JG26の司令部が次々と入ってくる未確認編隊への対策を議論していると、さらに次の探知情報が入ってきた。
「パリ周囲を警戒しているレーダーが編隊を探知しました。この編隊はパリの東部を南東へと飛行しています。おそらくフランスとドイツの国境を西から東に超えて、南部ドイツを攻撃するつもりです。この部隊は、フランス国内を長く飛行しために、4発機の大編隊が地上から目撃されています」

 プリラー大佐は地上から大型機を目撃したという言葉に敏感に反応した。
「実際に目で見たのだな。それが事実ならば、明らかに欺瞞ではない。アウグスブルクの近郊には、メッサーシュミットの工場がいくつも存在している。あるいは、その手前のハイガーロッホの秘密研究所も攻撃目標になり得るぞ。地上で待機しているⅡ/JG26に出撃を伝達。マインツ南西のⅢ/JG26もそれほど離れていないだろう。迎撃に向かうように指示してくれ」

 ……

 ナウマン大尉の率いる一隊は、南部ドイツとフランスの国境付近を目指して南下していた。しばらく飛行すると南下してきたⅢ/JG26のガイスハルト大尉の部隊と合流することができた。

 JG26の二つの戦闘機隊から出撃可能な機体が集まったために、ドイツ軍機の編隊は23機のTa152Fと21機のTa152Hになっていた。イギリス本土攻撃で受けた被害に加えて、Ⅰ/JG26がベルギー北方の目標に向けて出撃したために、現状の手持ちの機材を合わせてもこの程度の機数にならざるを得なかった。

 それでも、良いこともあった。イギリス上空で被害を受けたTa152Hの代わりに、開発が完了して配備されたばかりのTa152Fがある程度配備されたのだ。大馬力エンジンを搭載したTa152Fは性能が向上している。連合軍戦闘機に対しても優勢に戦えるはずだ。

 新たに配備されたTa152Fと従来型のTa152Cとのもっとも大きな差異は戦前から開発が続けられてきてやっと実用化されたユンカース社のJumo222を搭載していることだ。このエンジンは、液冷の直列4気筒を放射状に6列配置した円筒型の外形を有していた。そのため、一見すると6気筒の星形エンジンを4列前後に重ねたようにも見える。従来の液冷エンジンの2倍のシリンダを有する24気筒のJumo222は、離昇で2,500馬力を発揮できる化け物だった。おかげで、今までTa152Cが搭載したDB603Lに比べて、エンジン重量が約100kg増加したが400馬力以上出力が向上していた。

 JG26の編隊が30分余り飛行すると、西から東に飛行する編隊が見えてきた。明らかに連合国の攻撃隊だ。ナウマン大尉は、Ⅲ/JG26のガイスハルト大尉を呼び出した。
「14時方向に東方に飛行中の敵編隊を発見。我々は南側を迂回して敵編隊の後方に回り込む。第Ⅲ飛行隊は東側に進んで、敵戦闘機の注意を引き付けてくれ」

 ガイスハルト大尉は、すぐに作戦を理解した。
(Ta152Fは、敵編隊の西側に回り込んで、敵の背後から赤外線ミサイルにより、攻撃するつもりだろう。我々の部隊は、敵戦闘機と正面からぶつかる役割になったわけだ)

「わかった。我々が正面から接近して、敵戦闘機を引き付ける」

 ……

 第六航空艦隊の高須中将は、今回の作戦ではイギリスに到着したばかりの新型戦闘機と爆撃機を出撃させる決心をした。ドイツ空軍がジェット機を参戦させている以上、それに対抗できる機体を戦闘に投入できなければ甚大な被害が発生するとの理由だ。結果的に、日本海軍の攻撃隊は、多種類の機体から編制されることになった。

 攻撃隊の主力は、58機と36機の編隊に分かれた深山だった。護衛部隊には、2個航空隊から抽出された65機の紫電改が飛行していた。しかも、今回の作戦から新たに参加した18機の閃電が爆撃隊を後から追いかけてゆくことになっていた。イギリス本土からフランス領内を通過して南部ドイツの目標に侵攻する今回の飛行経路は、片道でも420海里(778km)余りになると予想される。そのため、全工程をジェット戦闘機が護衛するのは不可能だったが、ドイツとフランスの国境付近までは同行可能だった。

 深山の部隊から距離を開けて45機の全翼機の銀河が飛行していた。この部隊は対空火器の無力化とハイガーロッホの洞窟攻撃を任務としていた。銀河部隊の後方には新鋭機の18機の連山が飛行していた。全翼機で後方に向けて推進式のプロペラを装備した外形は銀河とかなり類似している。しかし、連山は、銀河よりも2周りは大型の機体だった。単純にいえば、連山は双発の全翼機である銀河を一回り以上大きくして、4発の液冷エンジンを搭載した機体だ、30mを超える翼幅はB-17と同クラスの大型爆撃機と言ってよい。

 銀河と連山の編隊が深山や紫電改とはやや離れて飛行しているのは、できる限りレーダー探知を避ける目的だった。敵戦闘機が迎撃してきた場合には、従来形式の部隊に誘引しようという狙いもある

 日本海軍の3群の編隊は、パリの東方を南東に向けて飛行した後に、東へと変針して南部ドイツ国境を目指していた。イギリスから提供された逆探は、フランス上空を飛行している時から、ドイツ軍の電探の電波が届いていることを示していた。

 何も対策をしなければ、今頃は迎撃を受けている頃だが、今回は欺瞞作戦が功を奏していた。今まで攻撃されることもなく侵攻できたことに深山に搭乗していた西岡中佐はほっとしていた。
(フランス国内でもドーバ海峡やパリ周辺には、防空用の電探が多数配備されているはずだ。逆探で電波を受信できるのだから探知されて迎撃を受けても不思議ではない。それを避けられているのはやはり陸軍の誘引効果か)

 機密性の高い計算機を利用した欺瞞作戦は、限られた人員にしか知らされていない。西岡中佐もパリを過ぎても迎撃機がやってこないのは、北海上の陸軍部隊や他国の部隊が侵入した効果だと思っていた。しかし、いつまでも幸運は続かないのは戦場の常だ。

「西岡だ。30分後にはフランス東側の国境を越えて、ドイツ本土上空に入る。我々は今のところ順調に飛行してきている。しかし、パリ周辺の電探に捕捉された可能性が高い。いずれ戦闘機がやって来るはずだ。油断するな」

 中佐の予想の通り、しばらくして北方からドイツ軍戦闘機を電探搭載型深山が探知した。
「方位90度、30海里(56km)同高度に未確認機の編隊。まっすぐ我々に向かって接近してくる」

 西岡中佐はすぐに反応した。中佐は東側を飛行している前方編隊の深山編隊の護衛戦闘機に要撃を命令した。
「予想通り、未確認機がやって来るぞ。指宿大尉、11時方向だ。直ちに阻止せよ」

 複座型の紫電改に搭乗した指宿大尉は、命令された方向に飛行していった。
(わざわざ未確認機というところが、用心深い西岡中佐らしいな。まあ、今回は連合国の共同作戦なので、アメリカやイギリスの航空機がこのあたりを飛んでいる可能性は皆無ではないからな)

 多国籍軍がドイツの上空を飛行する今回の作戦では、敵と味方の識別は課題の一つだった。結局、それぞれの国の部隊がIFFの発信信号を同一に合わせることで解決していた。日本の欧州派遣軍はイギリス製のMk.ⅢIFFを調達して搭載していた。

 大尉は、わずかに蛇行しながら東方へと飛行していた。右翼に搭載した電探の捜索範囲を左右に広くとるためだ。そのおかげですぐに編隊を探知した。後席の飯田二飛曹が報告してくる。質問される前に、知りたいことを報告するくらいでないと、隊長の同乗者は務まらない。
「1時方向に電探に反応が出ました。前方の編隊は連合軍機の識別電波を送信していません。アメリカでもイギリスでもなく間違いなくドイツ軍機です」

 間もなく、指宿大尉は目視で編隊を発見した。遠方のシルエットは機種の細長い液冷単発機に見える。
「電探搭載の複座型紫電改で誘導弾攻撃する。相手は単発の戦闘機だ」

 命令を受けて、22機の複座型紫電改が前に出てきた。

 指宿大尉が誘導弾の発射を命令しようとした矢先に、西岡中佐からの警報が入ってきた。
「電波警戒機からの情報だ。後方、20時方向から別働の編隊が接近中。我々よりも高高度を飛行している。どうやらドイツ空軍は挟み撃ちをするようだ」

 指宿大尉もドイツ軍が1隊だけで攻撃してくるとは思っていなかった。必ず別働の部隊が出てくると想定していた。それでも南と北からの連携のとれた攻撃法に思わず指宿大尉も感心していた。
(複数の部隊による攻撃は、想定していたと言えども見事に時間を合わせた挟撃だな)

「誘導弾の射程に入りました」

 指宿大尉は、飯田二飛曹の報告を待っていた。即座に反応する。
「各機、誘導弾を発射せよ。各機1発発射だ」

 命令しながら、指宿大尉も翼下の三式対空誘導弾を1発発射した。これからどれだけ敵機が現れるのか定かでない。指宿大尉は全弾を一斉発射せず、手元に残す作戦を採用した。

 ……

 ガイスハルト大尉を先頭にして飛行していたのは、Ⅲ/JG26に所属する21機のTa152Hだった。
「対空ミサイルを発射する可能性がある。金属箔を散布せよ」

 Ta152Hの編隊は、胴体下に搭載されていたポッドを一斉に投下した。21基のポッドはロケット推進により、10km程度前方に飛んでゆくと時限信管により爆発して、金属箔の雲を作り出した。

 想定していた通り、すぐに敵戦闘機隊から白煙が広がるのが見えた。
「ミサイルが飛んでくるぞ。各機、回避せよ」

 10発以上の対空ミサイルが、白い尾を引いて飛んできた。ほとんどが前方の雲に捕まって爆発する。しかし、雲の端を抜けた1発が、Ta152Hを捉えて爆発した。尾翼を吹き飛ばされたドイツ軍戦闘機は、きりもみになって墜落していった。

(金属箔の雲に大多数の対空ミサイルが反応したようだな。想定以上の効果だ。これならば、ナウマンの部隊は爆撃機を攻撃できるかもしれん)

 ……

 指宿大尉にとって、想定以上に誘導弾の戦果は少なかった。誘導弾の爆炎がおさまった時点で、次の命令を発していた。
「残弾発射だ。回避しつつある敵戦闘機に向けて残弾を発射せよ」

 22機の複座型紫電改が旋回しつつある目標に向けて三式誘導弾を発射した。金属箔の雲は残っていたが、密度はかなり薄くなっていた。半数近くが雲の中で爆発したが、残りは目標の電波反射を捉えた。一呼吸遅れて、敵戦闘機の近傍でいくつもの爆発が発生した。
(どうやら、10機程度は撃墜したようだ)

 一瞬安堵した大尉の耳に無線が入ってきた。
「磯崎だ。上空から、敵編隊を攻撃する」

 磯崎大尉の率いる単座型紫電改は、誘導弾が発射されたのと時を同じくして、水メタノール噴射を開始していた。排気タービンを備えた誉32型は、高度8,000mでも1,800馬力以上を発揮した。紫電改の速度は385ノット(713km/h)を超えた。
(これほど性能が改善するとは、アメリカ産のガソリンに感謝だな)

「降下攻撃を開始。敵編隊は誘導弾攻撃により、混乱している。一気に殲滅せよ」

 磯崎大尉は知らなかったが、ドイツ軍内でも燃料事情は大きく改善されていた。コーカサスで産出する豊富な石油の効果がドイツ軍内で本格的に現れたのだ。既に前線部隊では、96オクタン超のC3燃料が主力になり、B4燃料は後方の訓練部隊や輸送隊で使用されるだけになっていた。

 ……

 ガイスハルト大尉は、対空ミサイルの爆煙が消えつつある空に、高度をとって飛行してくる日本軍の戦闘機隊を発見した。今までの日本軍との戦闘から、大尉は対空ミサイルを発射するのは、レーダーを装備した複座型の戦闘機か爆弾倉を有する全翼機だと聞いていた。それが正しければ、これからは複座型の戦闘機との空戦になるはずだ。翼下にレーダーアンテナを付けた複座型戦闘機ならば、Ta152Hは不利になることはないだろう。

 しかし、1時方向から降下攻撃を仕掛けてきたのは、スマートな単座型戦闘機だった。
「1時方向、上空から空冷戦闘機の編隊が攻撃してくる。全速で回避せよ」

 既に編隊がばらばらになったTa152Hの上から、降下してきたのは19機の紫電改だった。降下攻撃により、数機のTa152Hが撃墜された。
(こんな時に墜とされるのは、新米ばかりだな。失速やスピンを恐れて、双発機のような旋回をする連中がまず狙われる。半年もすれば一人前のパイロットになるのに、この戦場ではそこまで生き延びられるのは、わずかな数だ。欠員を埋めるために補充されるのは、訓練を終えたばかりの新兵だ)

 ……

 ナウマン大尉は、無線から聞こえてくる友軍のパイロットの声から、Ⅲ/JG26の部隊が戦闘を開始したのがわかった。遠方にミサイルが爆発するオレンジ色の炎も見える。護衛の日本軍戦闘機が東方の空戦に引っ張られている間に、自分たちは4発機を撃墜するのだ。

 やがて、11時方向に大型爆撃機の編隊が見えてきた。Jumo222エンジンを全開にして一気に接近する。
「爆撃機に接近したらX-4ミサイルを発射してよい。その後は、各機の判断で機銃により攻撃せよ」

 しかし、ナウマン大尉は命令を発している途中で、爆撃機のやや上方から接近してくる奇妙な形態の戦闘機を発見した。
(あの奇妙な形の航空機は、どうやらジェット戦闘機のようだ。そうだとしたら、あっという間に接近してくるぞ。攻撃される前に、爆撃機を攻撃する)

「やや上方、11時方向に敵戦闘機だ。日本軍のジェット戦闘機のようだ。我々は攻撃される前に、爆撃機隊を攻撃する。まずは金属箔ポッドを発射せよ」

 ナウマン大尉はミサイルを発射する前に、金属箔の散布を命令した。もちろん電波妨害のためではない。すぐに空中戦になるのだから、増槽と同じ大きさのポッドをぶら下げたままではお荷物になるだけだ。
「12時方向に向けてポッドを発射」

 23基のポッドが前方に飛んでゆくと空中で爆発して金属泊を撒き散らした。

 続いて、X-4ミサイルの赤外線センサーが目標を捕捉したブザー音が聞こえてきた。もはや一刻の猶予もない。大尉は2発のX-4ミサイルを発射した。日本軍のジェット戦闘機は、Ta152Fの編隊を狙って既に上空から降下を開始していた。

 ……

 閃電の編隊は後方のドイツ軍編隊に向かっていた。放置すれば爆撃編隊が攻撃されるのは明らかだ。

 鴛淵大尉が降下してゆく途中で、編隊先頭のドイツ軍機が2発の誘導弾を発射した。
(誘導弾だ。狙っているのは自分たちの部隊ではない。7時方向の深山の編隊だ。一斉に発射しないのは、後続の機体はまだ誘導弾の射程に深山を捉えていないのだろう。目標を捉えればすぐに誘導弾を発射するはずだ。先手を打って攻撃して敵の照準を外すのだ)

「全機射撃開始。命中しなくてもかまわん。目の前の敵機に向けて機銃を撃て」

 無線を爆撃隊向けの周波数に切り替えると大声で叫んだ。
「後方から、ドイツ軍機が誘導弾を発射しつつあり。深山隊が狙われているぞ」

 誘導弾発射を妨害するつもりで、鴛淵大尉は大声で命令した。斜め上方から20機余りのドイツ軍機に向けて一斉射撃が始まった。高速で降下してゆく閃電が発射した機銃弾は、銃弾の初速に機体の降下速度が加算されて、通常以上に直進性が良かった。たちまち、3機のドイツ軍機が機銃弾にからめとられて炎を引きながら墜落していった。

 それでも、射撃を受けるまでに、ナウマン大尉に続いて8機が誘導弾を発射できた。18発のX-4ミサイルはすぐに音速近くまで加速するとまっすぐ前方の深山の編隊に向かって飛翔してゆく。

 編隊後方の20機余りの深山の胴体後部から、花火のようにたくさんの光球が広がった。総数は数百はあるだろう。半数以上の赤外線誘導ミサイルは、深山がばらまいた欺瞞弾に引き寄せられて下方へとそれていった。それでも7発が深山のエンジンが発している赤外線を捉えた。エンジン至近の爆発により、3機が炎と黒煙を噴き出して墜落してゆく。それ以外に4機が弾頭の爆発によりエンジンを停止させて煙の尾を引きながら脱落していった。

 編隊から7機が欠けたことは西岡中佐のところにも報告があったが、どうすることもできない。爆撃隊としては直進するだけだ。

 一方、フォッケウルフ編隊の上方から攻撃した鴛淵大尉の閃電は、機銃を撃ちながら下方に抜けるまでに1機を撃墜していた。30mm弾が命中したフォッケウルフは空中で飛散した。再び上昇してきて、左翼側に旋回しようとしている敵機の後方につけると一撃で撃墜した。
(やはり、ジェット戦闘機の性能は圧倒的だな。それにこの機体は単発なので、プロペラ機に比べて旋回性能も劣っていない。どんな高性能のプロペラ機でも逃げきることはできないだろう)

 鴛淵大尉が2機目を撃墜した時には、新型のフォッケウルフはもはや飛行していなかった。全て撃墜されるか、急降下で逃げていた。この頃には、前方から攻撃を仕掛けてきた、主翼の細長いフォッケウルフも、紫電改が撃退して爆撃隊には取り付けなかった。

 ドイツ領内に侵入してしばらくすると西岡中佐に連絡が入ってきた。
「鴛淵です。燃料が厳しくなったので、引き返します」

「了解だ。気をつけて帰ってくれ」

 イギリスを出発してから既に380海里(704km)近くを飛行している。増槽を携行しているとはいえ、閃電の航続性能では最後まで護衛するのは厳しい。離陸当初から閃電は目標の手前でイギリスに戻る計画だった。

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感想 2

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みんなの感想(2件)

hikaru
2025.07.12 hikaru

誤字の修正よりも(大変そうなので)更新優先で良いと思いますが、それっぽいの見つけたので報告します。

3.1章 航空機設計
、は技研さんから、→、技研さんからは、(違ったらすいません)

パナマ運河のところまで一気読みしました。
この世界の日本の石油事情って正史と同じなんでしょうか?(こちらから宣戦布告しなかったから正史より余裕ある?)

架空戦記なので戦いメインですけど、外伝もありならコンピュータが普及した日本の民間企業や街中の様子とか知りたいです。(主人公達も働き過ぎなので休暇取らないと)

2025.08.21 Flight_kj

変針が遅くなり、申し訳ありません。

誤記修正しました。

この物語の石油(というか資源入手)については、東南アジアの植民地や豪州などとの関係が9.4章や13.1章に出てきますが、日本と貿易が続いています。

オランダ領東インドや、仏領インドシナなどから石油も買い付けていることになります。

解除
ypaaaaaaa
2025.05.11 ypaaaaaaa

並々ならぬ知識量…それに加えて論理的な話構成…学ばせていただきます

2025.05.12 Flight_kj

応援メッセージありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。

解除

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