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第9章 小笠原沖追撃戦
9.2章 小笠原沖追撃戦2
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呉鎮守府とその周囲の基地は、時間の経過とともに空襲を受けた混乱から徐々に回復しつつあった。
鎮守府長官の豊田大将は、航空参謀の江口少佐を呼んで、鎮守府配下の航空基地の状況を確認していた。
「呉と岩国の攻撃隊の準備はどのようになっているか? 今までは防空戦闘で精一杯だったが、このまま敵の艦艇を帰すわけにはいかない。我々の基地からも米艦隊に反撃するぞ」
「九七艦攻12機と彗星艦爆9機の出撃準備ができています。米戦闘機は壊滅状態だと思いますが、念のために零戦6機を護衛につけます。片道300海里(556km)以上の距離になりますが、艦載の偵察機と陸攻の攻撃隊から正確な位置情報が届いていますので、直行可能です」
「それでよい、すぐに発進させてくれ。今から出撃しても大型艦は残っているのだろうな?」
「少し前の攻撃隊の報告からの推定ですが、航行しているのは空母1ないし2、戦艦2、巡洋艦10弱のはずです。鹿屋の陸攻隊が攻撃のために接近中ですので、到着時には残艦艇の数は更に減ると思います」
豊田長官の命令により呉と岩国から攻撃隊が発進した。
呉攻撃隊:零戦6機、彗星艦爆9機、九七艦攻12機
…
呉と岩国に配備されていたものの今までの迎撃戦に参加しなかった九七式艦攻と彗星が零戦に護衛されて、四航戦の「隼鷹」東方の上空を通過していた。
角田少将は、艦橋から東方海上を見上げていた。
「豊田さんのところの攻撃隊だな。残った艦艇に対しても徹底的に攻撃するという判断だ。私も、その方針について異論はない。直ちに攻撃隊を発進させるぞ。それにしても軍令部はうまい策を考えたな。攻撃圏外の北九州からの機体を我々の艦隊で補給することで、艦載機のいなくなった空母から攻撃隊を再び出撃させるとはな」
「我々の艦隊から発艦した第一次攻撃隊が、間もなく帰投してくるはずです。その前に九州からのお客さんを発艦させます。我々の艦隊は空母が減少していますので、残った空母だけでは、格納庫から機体があふれる可能性があります。帰投してきた部隊で、遠方まで飛べる機体は、四国の基地まで飛行させます。佐世保と宇佐の飛行隊も帰りは呉の周辺基地まで戻ってもらう予定です」
呉の攻撃隊を追いかけて、佐世保と宇佐から飛来した艦載機が、「隼鷹」を発艦していった。
佐世保と宇佐攻撃隊:彗星15機、九七式艦攻12機
編隊が発艦してしばらくすると、一式陸攻の状況が四航戦司令部経由で攻撃隊に入ってきた。
彗星隊の佐藤飛曹長が操縦員の松中飛曹長に話しかける。
「どうやら最後まで残っていた空母は、鹿屋の陸攻隊が沈めたようだ。戦艦は2隻が残っているが、1隻は大破もしくは中破との報告が司令部から入った」
「そうだろうな。空母は優先して攻撃されるに決まっている。まだ戦艦と巡洋艦が残っているはずだ。我が国本土を攻撃したらどのような目に合うのか、思い知ってもらうために残った艦艇を攻撃するだけだ」
……
萩原大尉の偵察型天山は、米艦隊の南方を飛行していた。艦隊の状況を観察しながら、同時に日本軍機への誘導電波を発信していた。そのおかげで、呉を発進した攻撃隊は、回り道をすることなく米艦隊に接近できた。
攻撃隊は、駆逐艦に付き添われて10ノット程度で東に航行する1隻の戦艦を発見した。
「これは被害を受けた戦艦のようだな。まだ東側に別の艦隊がいるはずだ。攻撃隊を分離する」
呉を出発した攻撃隊が接近してくると、「ノースカロライナ」と軽巡「ジュノー」、駆逐艦「ラッセル」が5インチ砲の射撃を開始した。既に被害を受けていた戦艦の対空砲火はまばらだ。軽巡と駆逐艦の5インチ砲が有効な対空弾幕を展開していた。
縦列の北方から、9機の彗星が一斉に急降下を開始した。高角砲により1機が撃墜された。
4機の彗星が対空砲火が弱まった「ノースカロライナ」を狙った。全機が爆弾を投下して、2発を命中させた。激しい対空砲火を放っていた「ジュノー」も彗星に狙われた。降下の途中で1機が撃墜されたが、3発を投下して1発を命中させた。船体中央部で爆発した50番により、機関の半数が破壊された。
「ノースカロライナ」のフォート艦長は艦橋から、8機のケイト(九七式艦攻)が右舷側に降下してくるのを眺めていた。駆逐艦の高角砲により、低空に降下するまでに1機が火だるまになった。
7本の魚雷が「ノースカロライナ」めがけて投下された。大佐は、魚雷に艦尾を向けようとした。
「おもかーじ。全速だ」
艦長は、叫びながらも、低速な戦艦では何本かは被雷するだろうと覚悟した。
「魚雷の命中に備えよ。左右どちらにも被雷の可能性があるぞ」
戦艦の後方を航行していた「ラッセル」も自身を守るために、速度を上げながら左舷に転舵した。駆逐艦は戦艦の左舷側を北方に向けて増速していった。
しかし、残っていた推進器を全力運転させて艦尾を魚雷に向けた戦艦は、航跡追尾魚雷にとっては、追いかけやすい目標だった。たちまち「ノースカロライナ」の左舷後部に4本の魚雷が次々と命中した。
続いて、1本の魚雷が「ラッセル」の航跡を探知した。駆逐艦の艦尾に命中した。艦尾が吹き飛ばされた駆逐艦は、荒波を破口にまともに受けてたちまち沈み始めた。
「ノースカロライナ」は、もう少し長く浮いていたが、以前の戦いで被雷した魚雷と合わせて7本の命中には耐えられなかった。喫水がどんどん増加して行くと急速に沈んでいった。
4機の九七式艦攻は、爆弾が命中して煙を上げている「ジュノー」に向かった。速度が落ちながらも回頭して回避しようとした軽巡洋艦に2本を命中させた。爆弾と魚雷の命中により、「ジュノー」は艦尾から沈み始めた。
……
呉の編隊は「ノースカロライナ」型の戦艦を攻撃したが、その前方の東方を航行してゆく戦艦とその護衛艦艇も発見していた。「隼鷹」を中継基地として使った佐世保と宇佐の攻撃隊は、先行した呉の攻撃隊から戦艦と巡洋艦の部隊が東方に航行しているとの連絡を受けていた。進路をやや東寄りに変更して、しばらく飛行して行くと米艦隊を発見した。新型戦艦が、数隻の巡洋艦に前後を護衛されて、縦列になって東に向けて航行していた。数隻の駆逐艦も並行して航行している。
迎撃してくる戦闘機もいないので、攻撃隊は直ちに散開して攻撃を開始する。
7機の彗星が「ワシントン」を攻撃した。2機が撃墜されたが、2発の50番爆弾を命中させた。急降下爆撃とほぼ同時に8機の九七式艦攻が、南北から「ワシントン」を挟撃した。「ワシントン」は2機を撃墜したが、残った九七式艦攻は2本の魚雷を右舷に、1本を左舷に命中させた。
南方から接近していった4機の九七式艦攻が速度を落とした「ワシントン」の右舷に接近した。2本が右舷に命中すると、「ワシントン」は急速に右舷に傾斜を始めた。そのまま横転すると海中に沈んでいった。
残った8機の彗星は、戦艦の前方を航行していた巡洋艦を狙った。「セントルイス」が2発被弾して、すぐに傾き始めた。「ナッシュビル」には3発が命中して、あっという間に沈んでゆく。
……
第二航空戦隊は、宣戦布告を通知された時点で、連合艦隊司令部からの命令で関西の方向を目指した。
西へと進みながら、山口多聞司令は、今後の行動について参謀たちと検討を始めた。
「四航戦と五航戦が攻撃を開始するようだ。本土の陸攻隊も米空母を攻撃することになった。我々の位置からすると、急いでも彼らの攻撃よりもかなり遅れるだろうな。この状況で、我々にできることは何かあるか?」
想定範囲の質問なので、すぐに参謀の伊藤中佐が答えた。
「これからの戦いの推移はわかりませんが、米艦隊にとって絶対に避けられないことはハワイに戻ることです。間違いなく、帰投するために東進するはずです。それを前提とすれば、我々の位置から、帰投する艦隊を迎え撃つことができます。想定位置はこのあたりになります」
伊藤中佐は、海図の上に人差し指でぐるっと円形を描いた。その場所は八丈島と小笠原諸島の中間の海域だった。
「私も同じ意見だ。西方へ向かうよりも、むしろハワイに退避する米艦隊を捕捉するために、南に向けて航行することにしたい。但し、米艦隊が小笠原の南を迂回して、ウェーク方面を目指してからハワイに向かう可能性も考えられる。その場合には、我々も全速で南に進出するが、すり抜けてゆく米艦隊を見逃す可能性がある。現時点での予測は確実ではないが、今はそれに賭けるしかないだろう」
二航戦は司令官の決断により、航路を南南東に変えた。変針により、八丈島の西方を目指すことになった。
南方に航行している間に山口少将は、あることに気がついた。
「四航戦と五航戦の米軍攻撃や鹿屋からの陸攻隊の出撃など、今日は我が軍の行動について早く情報が伝えられてくるが、全て連合艦隊司令部を経由した情報なのか?」
通信参謀の石黒少佐がすぐに答える。
「戦況を送ってきているのは、軍令部が芝に建設した情報研究所です。軍令部の研究所は、大型計算機に加えて各種の通信機器を備えています。最近は新型計算機の数も増やして、作戦の分析をしているようです。そのため、基地や鎮守府、艦隊の情報を集めて、分析した結果を送ってきているのです」
「情報研究所については、聞いたことがあるぞ。最近になって、いろいろな機器が増えているので、まるで電子の城だといわれているようだ。情報を分析しているのであれば、その結果を研究所からもっと仕入れてくれ。こちらから問い合わせてもかまわん。勝つためには必要なことだと言ってやれ」
……
しばらくして、二航戦参謀の石黒少佐が報告に来た。
「軍令部の情報研究所からの情報です。四航戦と五航戦、陸攻隊からの攻撃により5隻の空母は全滅しました。呉と北九州の部隊が2隻の新型戦艦を攻撃しています。最終的な確認はとれていませんが、どうやら、2隻とも沈めたようです。残った巡洋艦を中心とする艦隊は東に退避しています。被害を受けた艦艇はそれより遅れて輸送船のような速度で航行しています。なお、本土からの攻撃隊でまだ太平洋上を行動している部隊が存在するとのことです」
「まずは先行している巡洋艦主体の艦隊を攻撃したいが、航路の予測はどうなっているか? 何か想定できる情報はあるかね?」
「芝の計算機は直線的にハワイに帰ると予想しています。退避の時間を優先するだろうとの推定に基づいています。今まで何度も攻撃を受けているので、被害を受けた艦艇を含む米艦隊は時間のかかる回り道は選択しないだろうという読みです」
「あまり積極的な理由ではないな。まあ、機械の考えた予想と我々の選択が一致しているならば、それでよい」
山口少将は主席参謀の方に向き直った。
「伊藤中佐、偵察計画はできているか? そろそろ偵察機を発進させてもいい頃合いだ」
「はい。軍令部からの情報によると、東方に航行している部隊は巡洋艦と駆逐艦が中心で、しばらくは高速で航行していると思われます。後続の被害を受けた艦艇は、十数ノット程度で航行していると考えられます。その前提で南南西から南南東の海域を偵察します。偵察装備の九七式艦攻を出しますが、彗星も偵察に飛ばすことになります」
「蒼龍」と「飛龍」は、それぞれが4機の対艦電探を装備した九七式艦攻を搭載していた。8機の電探装備機に加えて、被疑海域が広いことから彗星も追加して確実に発見することを目指した。
「それでよい。初手は、確実に発見したい」
……
「偵察型九七式艦攻から連絡がありました。南南東の方向、210海里(389km)の地点です。想定よりも北寄りの航路をとっていますが、小笠原諸島の北側を通過するとみられます。南に迂回したわけではありません。艦隊編制は重巡8以上、駆逐艦多数が2列縦隊になって航行してます」
「250海里(463km)を切っているのか、想定より近いな。全力攻撃をためらう必要はない。直ちに攻撃隊を発進させる」
二航戦第一次攻撃隊:零戦18機、彗星15機、九七式艦攻20機
一次攻撃隊が次々に発艦して、飛行甲板が空になると、エレベータが格納庫に残っていた艦載機を載せてくる。飛行甲板に並べられた機体は、飛行甲板下の格納庫で既に魚雷や爆弾が搭載されていた。
30分ほど遅れて、第二次攻撃隊の発艦が始まった。
二航戦第二次攻撃隊:零戦9機、彗星18機、九七式艦攻18機
……
巡洋艦から編制された艦隊を発見した偵察型九七式艦攻は、周囲に留まって二航戦の攻撃隊を誘導していた。偵察機から情報を得て、二航戦の攻撃隊は米艦隊に北方から接近していった。
米艦隊は4隻の重巡洋艦から構成される縦列が2列になっていた。全体で8隻の重巡がハワイに向けて航行していたことになる。高速発揮が可能な軽巡と駆逐艦も縦列で巡洋艦隊に並んで航行していた。
2列のうちの南側の縦列に15機の彗星が攻撃を仕掛けた。縦列の先頭から3隻の巡洋艦に対して、3つの編隊に分かれて彗星が急降下していった。すぐに巡洋艦から上空に向けて、猛烈な対空砲の射撃が始まる。
これらの巡洋艦はいずれも25口径の5インチ(12.5cm)高角砲と4基の28mm4連装機銃を備えていた。しかし、いずれも既に米海軍では旧式化していて、新型の機材への更新が進められている機材だ。高速で接近してくる彗星に対しては、なかなか有効弾を得られない。それでも2機の彗星が撃墜された。
先頭の「サンフランシスコ」には、4機が50番を投下して、2発を命中させた。2番艦の「ミネアポリス」には、5機の彗星が投下した爆弾のうちの2発が命中した。3番艦の「シカゴ」は、4機の彗星が投弾して2発を命中させた。
20機の九七式艦攻は、横陣に広がって、南方から西から東に航行する縦列隊に接近した。それぞれの艦攻が4隻の巡洋艦を狙って魚雷を投下したが、爆撃を受けた巡洋艦には接近して魚雷を投下できた。それに対して縦列の後方の巡洋艦は、全力で対空砲を撃ってきたために、2機の九七式艦攻が撃墜された。
「サンフランシスコ」には2本の魚雷が命中した。「ミネアポリス」には航跡を探知した魚雷も含めて3本が命中した。「シカゴ」も3本の魚雷を被雷した。「ポートランド」には1本が命中した。
複数の爆弾と魚雷が命中した「サンフランシスコ」と「ミネアポリス」「シカゴ」はあっという間に沈み始めた。
「ポートランド」は浸水を止めるために速度を落としたが、右舷にやや傾斜しつつも数ノットで航行していた。
やや遅れて戦場に到着した第二次攻撃隊は、北側の縦列を狙った。18機の彗星は西方から巡洋艦に接近してから、急降下していった。対空射撃により2機が撃墜された、
先頭の「ヴィンセンス」には4機の彗星が投弾して2発を命中させた。2番艦の「ペンサコーラ」にも5機が爆弾を投下して2発を命中させた。3番艦の「アストリア」には5機の彗星が投下して3発を命中させた。4番艦の「ノーザンプトン」には2機が投弾して1発を命中させた。
18機の九七式艦攻は北側に回り込んで縦列の側面から雷撃した。2機の九七式艦攻が対空砲で撃墜された。
爆撃により火災が発生した「ヴィンセンス」には5機が雷撃して2本が命中した。「ペンサコーラ」には4機が雷撃して2本を命中させた。「アストリア」には5機が雷撃して3本が命中した。「ノーザンプトン」には2機が雷撃して1本を命中させた。
「ヴィンセンス」と「アストリア」は短時間のうちに沈んでいった。「ペンサコーラ」は左舷に傾きながら海上に停止していたが、しばらくして沈み始めた。「ノーザンプトン」は、機関に損害を受けて10ノット程度に速度が低下したものの東へと航行を続けていた。
……
二航戦に第一次攻撃隊が帰還してきた。
「山口長官、攻撃隊が帰還してきました。対空砲火による、被害は出ましたが戦果は大きいようです」
「アメリカ軍の大型艦はほぼ片づけたのだな?」
「無線連絡によると、巡洋艦以上の艦艇は撃沈もしくは大破したとの報告です。四航戦や五航戦、陸攻隊の戦果も情報が入ってきていますが、合計すれば米軍は壊滅的です」
そこまで聞いて、山口少将が言い放った。
「第三次攻撃隊を出撃させる。我が国本土を攻撃した以上、無事に帰すわけにはいかない」
「この際、徹底的に叩くということですか?」
「アメリカが一方的に宣戦布告を行って攻撃してきたのだ。痛い目にあってもらう。しかも米海軍の戦力が緒戦で損耗すれば、彼らが矛を収める時期は早くなるだろう」
山口少将は攻撃の継続を決断した。帰投してきた第一次攻撃隊と第二次攻撃隊の機体から第三次攻撃隊の編制を命じた。
かろうじて沈没を免れた「ポートランド」と「ノーザンプトン」は自力でハワイに戻ろうと、駆逐艦群に遅れて低速で航行していたが、第三次攻撃隊から雷撃を受けた。それぞれ致命傷になる魚雷が命中すると、ダメージコントロールも不可能となってすぐに沈んでいった。
小笠原のやや北方の海域では、日本軍からの攻撃を生き残った「フェニックス」と「シムス」級駆逐艦、「ポーター」級駆逐艦が、全速で東に退避していた。全体で10隻余りの艦がそれぞれバラバラになってハワイの方向に向かっていた。これらの艦も第三次攻撃隊から攻撃を受けた。運悪く発見された4隻の駆逐艦が撃沈された。
鎮守府長官の豊田大将は、航空参謀の江口少佐を呼んで、鎮守府配下の航空基地の状況を確認していた。
「呉と岩国の攻撃隊の準備はどのようになっているか? 今までは防空戦闘で精一杯だったが、このまま敵の艦艇を帰すわけにはいかない。我々の基地からも米艦隊に反撃するぞ」
「九七艦攻12機と彗星艦爆9機の出撃準備ができています。米戦闘機は壊滅状態だと思いますが、念のために零戦6機を護衛につけます。片道300海里(556km)以上の距離になりますが、艦載の偵察機と陸攻の攻撃隊から正確な位置情報が届いていますので、直行可能です」
「それでよい、すぐに発進させてくれ。今から出撃しても大型艦は残っているのだろうな?」
「少し前の攻撃隊の報告からの推定ですが、航行しているのは空母1ないし2、戦艦2、巡洋艦10弱のはずです。鹿屋の陸攻隊が攻撃のために接近中ですので、到着時には残艦艇の数は更に減ると思います」
豊田長官の命令により呉と岩国から攻撃隊が発進した。
呉攻撃隊:零戦6機、彗星艦爆9機、九七艦攻12機
…
呉と岩国に配備されていたものの今までの迎撃戦に参加しなかった九七式艦攻と彗星が零戦に護衛されて、四航戦の「隼鷹」東方の上空を通過していた。
角田少将は、艦橋から東方海上を見上げていた。
「豊田さんのところの攻撃隊だな。残った艦艇に対しても徹底的に攻撃するという判断だ。私も、その方針について異論はない。直ちに攻撃隊を発進させるぞ。それにしても軍令部はうまい策を考えたな。攻撃圏外の北九州からの機体を我々の艦隊で補給することで、艦載機のいなくなった空母から攻撃隊を再び出撃させるとはな」
「我々の艦隊から発艦した第一次攻撃隊が、間もなく帰投してくるはずです。その前に九州からのお客さんを発艦させます。我々の艦隊は空母が減少していますので、残った空母だけでは、格納庫から機体があふれる可能性があります。帰投してきた部隊で、遠方まで飛べる機体は、四国の基地まで飛行させます。佐世保と宇佐の飛行隊も帰りは呉の周辺基地まで戻ってもらう予定です」
呉の攻撃隊を追いかけて、佐世保と宇佐から飛来した艦載機が、「隼鷹」を発艦していった。
佐世保と宇佐攻撃隊:彗星15機、九七式艦攻12機
編隊が発艦してしばらくすると、一式陸攻の状況が四航戦司令部経由で攻撃隊に入ってきた。
彗星隊の佐藤飛曹長が操縦員の松中飛曹長に話しかける。
「どうやら最後まで残っていた空母は、鹿屋の陸攻隊が沈めたようだ。戦艦は2隻が残っているが、1隻は大破もしくは中破との報告が司令部から入った」
「そうだろうな。空母は優先して攻撃されるに決まっている。まだ戦艦と巡洋艦が残っているはずだ。我が国本土を攻撃したらどのような目に合うのか、思い知ってもらうために残った艦艇を攻撃するだけだ」
……
萩原大尉の偵察型天山は、米艦隊の南方を飛行していた。艦隊の状況を観察しながら、同時に日本軍機への誘導電波を発信していた。そのおかげで、呉を発進した攻撃隊は、回り道をすることなく米艦隊に接近できた。
攻撃隊は、駆逐艦に付き添われて10ノット程度で東に航行する1隻の戦艦を発見した。
「これは被害を受けた戦艦のようだな。まだ東側に別の艦隊がいるはずだ。攻撃隊を分離する」
呉を出発した攻撃隊が接近してくると、「ノースカロライナ」と軽巡「ジュノー」、駆逐艦「ラッセル」が5インチ砲の射撃を開始した。既に被害を受けていた戦艦の対空砲火はまばらだ。軽巡と駆逐艦の5インチ砲が有効な対空弾幕を展開していた。
縦列の北方から、9機の彗星が一斉に急降下を開始した。高角砲により1機が撃墜された。
4機の彗星が対空砲火が弱まった「ノースカロライナ」を狙った。全機が爆弾を投下して、2発を命中させた。激しい対空砲火を放っていた「ジュノー」も彗星に狙われた。降下の途中で1機が撃墜されたが、3発を投下して1発を命中させた。船体中央部で爆発した50番により、機関の半数が破壊された。
「ノースカロライナ」のフォート艦長は艦橋から、8機のケイト(九七式艦攻)が右舷側に降下してくるのを眺めていた。駆逐艦の高角砲により、低空に降下するまでに1機が火だるまになった。
7本の魚雷が「ノースカロライナ」めがけて投下された。大佐は、魚雷に艦尾を向けようとした。
「おもかーじ。全速だ」
艦長は、叫びながらも、低速な戦艦では何本かは被雷するだろうと覚悟した。
「魚雷の命中に備えよ。左右どちらにも被雷の可能性があるぞ」
戦艦の後方を航行していた「ラッセル」も自身を守るために、速度を上げながら左舷に転舵した。駆逐艦は戦艦の左舷側を北方に向けて増速していった。
しかし、残っていた推進器を全力運転させて艦尾を魚雷に向けた戦艦は、航跡追尾魚雷にとっては、追いかけやすい目標だった。たちまち「ノースカロライナ」の左舷後部に4本の魚雷が次々と命中した。
続いて、1本の魚雷が「ラッセル」の航跡を探知した。駆逐艦の艦尾に命中した。艦尾が吹き飛ばされた駆逐艦は、荒波を破口にまともに受けてたちまち沈み始めた。
「ノースカロライナ」は、もう少し長く浮いていたが、以前の戦いで被雷した魚雷と合わせて7本の命中には耐えられなかった。喫水がどんどん増加して行くと急速に沈んでいった。
4機の九七式艦攻は、爆弾が命中して煙を上げている「ジュノー」に向かった。速度が落ちながらも回頭して回避しようとした軽巡洋艦に2本を命中させた。爆弾と魚雷の命中により、「ジュノー」は艦尾から沈み始めた。
……
呉の編隊は「ノースカロライナ」型の戦艦を攻撃したが、その前方の東方を航行してゆく戦艦とその護衛艦艇も発見していた。「隼鷹」を中継基地として使った佐世保と宇佐の攻撃隊は、先行した呉の攻撃隊から戦艦と巡洋艦の部隊が東方に航行しているとの連絡を受けていた。進路をやや東寄りに変更して、しばらく飛行して行くと米艦隊を発見した。新型戦艦が、数隻の巡洋艦に前後を護衛されて、縦列になって東に向けて航行していた。数隻の駆逐艦も並行して航行している。
迎撃してくる戦闘機もいないので、攻撃隊は直ちに散開して攻撃を開始する。
7機の彗星が「ワシントン」を攻撃した。2機が撃墜されたが、2発の50番爆弾を命中させた。急降下爆撃とほぼ同時に8機の九七式艦攻が、南北から「ワシントン」を挟撃した。「ワシントン」は2機を撃墜したが、残った九七式艦攻は2本の魚雷を右舷に、1本を左舷に命中させた。
南方から接近していった4機の九七式艦攻が速度を落とした「ワシントン」の右舷に接近した。2本が右舷に命中すると、「ワシントン」は急速に右舷に傾斜を始めた。そのまま横転すると海中に沈んでいった。
残った8機の彗星は、戦艦の前方を航行していた巡洋艦を狙った。「セントルイス」が2発被弾して、すぐに傾き始めた。「ナッシュビル」には3発が命中して、あっという間に沈んでゆく。
……
第二航空戦隊は、宣戦布告を通知された時点で、連合艦隊司令部からの命令で関西の方向を目指した。
西へと進みながら、山口多聞司令は、今後の行動について参謀たちと検討を始めた。
「四航戦と五航戦が攻撃を開始するようだ。本土の陸攻隊も米空母を攻撃することになった。我々の位置からすると、急いでも彼らの攻撃よりもかなり遅れるだろうな。この状況で、我々にできることは何かあるか?」
想定範囲の質問なので、すぐに参謀の伊藤中佐が答えた。
「これからの戦いの推移はわかりませんが、米艦隊にとって絶対に避けられないことはハワイに戻ることです。間違いなく、帰投するために東進するはずです。それを前提とすれば、我々の位置から、帰投する艦隊を迎え撃つことができます。想定位置はこのあたりになります」
伊藤中佐は、海図の上に人差し指でぐるっと円形を描いた。その場所は八丈島と小笠原諸島の中間の海域だった。
「私も同じ意見だ。西方へ向かうよりも、むしろハワイに退避する米艦隊を捕捉するために、南に向けて航行することにしたい。但し、米艦隊が小笠原の南を迂回して、ウェーク方面を目指してからハワイに向かう可能性も考えられる。その場合には、我々も全速で南に進出するが、すり抜けてゆく米艦隊を見逃す可能性がある。現時点での予測は確実ではないが、今はそれに賭けるしかないだろう」
二航戦は司令官の決断により、航路を南南東に変えた。変針により、八丈島の西方を目指すことになった。
南方に航行している間に山口少将は、あることに気がついた。
「四航戦と五航戦の米軍攻撃や鹿屋からの陸攻隊の出撃など、今日は我が軍の行動について早く情報が伝えられてくるが、全て連合艦隊司令部を経由した情報なのか?」
通信参謀の石黒少佐がすぐに答える。
「戦況を送ってきているのは、軍令部が芝に建設した情報研究所です。軍令部の研究所は、大型計算機に加えて各種の通信機器を備えています。最近は新型計算機の数も増やして、作戦の分析をしているようです。そのため、基地や鎮守府、艦隊の情報を集めて、分析した結果を送ってきているのです」
「情報研究所については、聞いたことがあるぞ。最近になって、いろいろな機器が増えているので、まるで電子の城だといわれているようだ。情報を分析しているのであれば、その結果を研究所からもっと仕入れてくれ。こちらから問い合わせてもかまわん。勝つためには必要なことだと言ってやれ」
……
しばらくして、二航戦参謀の石黒少佐が報告に来た。
「軍令部の情報研究所からの情報です。四航戦と五航戦、陸攻隊からの攻撃により5隻の空母は全滅しました。呉と北九州の部隊が2隻の新型戦艦を攻撃しています。最終的な確認はとれていませんが、どうやら、2隻とも沈めたようです。残った巡洋艦を中心とする艦隊は東に退避しています。被害を受けた艦艇はそれより遅れて輸送船のような速度で航行しています。なお、本土からの攻撃隊でまだ太平洋上を行動している部隊が存在するとのことです」
「まずは先行している巡洋艦主体の艦隊を攻撃したいが、航路の予測はどうなっているか? 何か想定できる情報はあるかね?」
「芝の計算機は直線的にハワイに帰ると予想しています。退避の時間を優先するだろうとの推定に基づいています。今まで何度も攻撃を受けているので、被害を受けた艦艇を含む米艦隊は時間のかかる回り道は選択しないだろうという読みです」
「あまり積極的な理由ではないな。まあ、機械の考えた予想と我々の選択が一致しているならば、それでよい」
山口少将は主席参謀の方に向き直った。
「伊藤中佐、偵察計画はできているか? そろそろ偵察機を発進させてもいい頃合いだ」
「はい。軍令部からの情報によると、東方に航行している部隊は巡洋艦と駆逐艦が中心で、しばらくは高速で航行していると思われます。後続の被害を受けた艦艇は、十数ノット程度で航行していると考えられます。その前提で南南西から南南東の海域を偵察します。偵察装備の九七式艦攻を出しますが、彗星も偵察に飛ばすことになります」
「蒼龍」と「飛龍」は、それぞれが4機の対艦電探を装備した九七式艦攻を搭載していた。8機の電探装備機に加えて、被疑海域が広いことから彗星も追加して確実に発見することを目指した。
「それでよい。初手は、確実に発見したい」
……
「偵察型九七式艦攻から連絡がありました。南南東の方向、210海里(389km)の地点です。想定よりも北寄りの航路をとっていますが、小笠原諸島の北側を通過するとみられます。南に迂回したわけではありません。艦隊編制は重巡8以上、駆逐艦多数が2列縦隊になって航行してます」
「250海里(463km)を切っているのか、想定より近いな。全力攻撃をためらう必要はない。直ちに攻撃隊を発進させる」
二航戦第一次攻撃隊:零戦18機、彗星15機、九七式艦攻20機
一次攻撃隊が次々に発艦して、飛行甲板が空になると、エレベータが格納庫に残っていた艦載機を載せてくる。飛行甲板に並べられた機体は、飛行甲板下の格納庫で既に魚雷や爆弾が搭載されていた。
30分ほど遅れて、第二次攻撃隊の発艦が始まった。
二航戦第二次攻撃隊:零戦9機、彗星18機、九七式艦攻18機
……
巡洋艦から編制された艦隊を発見した偵察型九七式艦攻は、周囲に留まって二航戦の攻撃隊を誘導していた。偵察機から情報を得て、二航戦の攻撃隊は米艦隊に北方から接近していった。
米艦隊は4隻の重巡洋艦から構成される縦列が2列になっていた。全体で8隻の重巡がハワイに向けて航行していたことになる。高速発揮が可能な軽巡と駆逐艦も縦列で巡洋艦隊に並んで航行していた。
2列のうちの南側の縦列に15機の彗星が攻撃を仕掛けた。縦列の先頭から3隻の巡洋艦に対して、3つの編隊に分かれて彗星が急降下していった。すぐに巡洋艦から上空に向けて、猛烈な対空砲の射撃が始まる。
これらの巡洋艦はいずれも25口径の5インチ(12.5cm)高角砲と4基の28mm4連装機銃を備えていた。しかし、いずれも既に米海軍では旧式化していて、新型の機材への更新が進められている機材だ。高速で接近してくる彗星に対しては、なかなか有効弾を得られない。それでも2機の彗星が撃墜された。
先頭の「サンフランシスコ」には、4機が50番を投下して、2発を命中させた。2番艦の「ミネアポリス」には、5機の彗星が投下した爆弾のうちの2発が命中した。3番艦の「シカゴ」は、4機の彗星が投弾して2発を命中させた。
20機の九七式艦攻は、横陣に広がって、南方から西から東に航行する縦列隊に接近した。それぞれの艦攻が4隻の巡洋艦を狙って魚雷を投下したが、爆撃を受けた巡洋艦には接近して魚雷を投下できた。それに対して縦列の後方の巡洋艦は、全力で対空砲を撃ってきたために、2機の九七式艦攻が撃墜された。
「サンフランシスコ」には2本の魚雷が命中した。「ミネアポリス」には航跡を探知した魚雷も含めて3本が命中した。「シカゴ」も3本の魚雷を被雷した。「ポートランド」には1本が命中した。
複数の爆弾と魚雷が命中した「サンフランシスコ」と「ミネアポリス」「シカゴ」はあっという間に沈み始めた。
「ポートランド」は浸水を止めるために速度を落としたが、右舷にやや傾斜しつつも数ノットで航行していた。
やや遅れて戦場に到着した第二次攻撃隊は、北側の縦列を狙った。18機の彗星は西方から巡洋艦に接近してから、急降下していった。対空射撃により2機が撃墜された、
先頭の「ヴィンセンス」には4機の彗星が投弾して2発を命中させた。2番艦の「ペンサコーラ」にも5機が爆弾を投下して2発を命中させた。3番艦の「アストリア」には5機の彗星が投下して3発を命中させた。4番艦の「ノーザンプトン」には2機が投弾して1発を命中させた。
18機の九七式艦攻は北側に回り込んで縦列の側面から雷撃した。2機の九七式艦攻が対空砲で撃墜された。
爆撃により火災が発生した「ヴィンセンス」には5機が雷撃して2本が命中した。「ペンサコーラ」には4機が雷撃して2本を命中させた。「アストリア」には5機が雷撃して3本が命中した。「ノーザンプトン」には2機が雷撃して1本を命中させた。
「ヴィンセンス」と「アストリア」は短時間のうちに沈んでいった。「ペンサコーラ」は左舷に傾きながら海上に停止していたが、しばらくして沈み始めた。「ノーザンプトン」は、機関に損害を受けて10ノット程度に速度が低下したものの東へと航行を続けていた。
……
二航戦に第一次攻撃隊が帰還してきた。
「山口長官、攻撃隊が帰還してきました。対空砲火による、被害は出ましたが戦果は大きいようです」
「アメリカ軍の大型艦はほぼ片づけたのだな?」
「無線連絡によると、巡洋艦以上の艦艇は撃沈もしくは大破したとの報告です。四航戦や五航戦、陸攻隊の戦果も情報が入ってきていますが、合計すれば米軍は壊滅的です」
そこまで聞いて、山口少将が言い放った。
「第三次攻撃隊を出撃させる。我が国本土を攻撃した以上、無事に帰すわけにはいかない」
「この際、徹底的に叩くということですか?」
「アメリカが一方的に宣戦布告を行って攻撃してきたのだ。痛い目にあってもらう。しかも米海軍の戦力が緒戦で損耗すれば、彼らが矛を収める時期は早くなるだろう」
山口少将は攻撃の継続を決断した。帰投してきた第一次攻撃隊と第二次攻撃隊の機体から第三次攻撃隊の編制を命じた。
かろうじて沈没を免れた「ポートランド」と「ノーザンプトン」は自力でハワイに戻ろうと、駆逐艦群に遅れて低速で航行していたが、第三次攻撃隊から雷撃を受けた。それぞれ致命傷になる魚雷が命中すると、ダメージコントロールも不可能となってすぐに沈んでいった。
小笠原のやや北方の海域では、日本軍からの攻撃を生き残った「フェニックス」と「シムス」級駆逐艦、「ポーター」級駆逐艦が、全速で東に退避していた。全体で10隻余りの艦がそれぞれバラバラになってハワイの方向に向かっていた。これらの艦も第三次攻撃隊から攻撃を受けた。運悪く発見された4隻の駆逐艦が撃沈された。
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