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第10章 新兵器開発
10.1章 計算機搭載艦
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呉への攻撃と四国沖の戦いが終わるや否や、戦訓の研究が開始された。その中でも戦いの終了後にいち早くまとめられた軍令部第一部の報告は大きな影響を及ぼした。
戦訓に基づく軍令部からの要求の中から、すぐに着手されたのが、空母艦載機の編制変更だった。各空母における機種毎の搭載機は「飛行機搭載標準」により規定されていた。この標準は搭載機が新鋭機に変われば、収容できる機数も変わるので随時変更されている。まずはこの規定について、戦闘機の搭載比率を増やすように改訂が行われた。次いで基地の訓練部隊の増強により、養成する搭乗員数を大幅に増加させた。そこでも育成する戦闘機搭乗員の数を増加させた。
次に早く実現されたのが、計算機搭載艦だった。電子計算機の有効性はいくつかの場面で証明されている。作戦指導に対する有用性は、連合艦隊司令部も認めていた。司令部自身が早急に計算機の前線配備を希望したことが、計算機搭載艦の実現を加速させた。
海軍艦政本部第三部の名和少将は、軍令部からの要求に対して、重巡を改修する方向で決断した。いちいち根回しをしている時間が惜しいので、艦政本部長の岩村中将に直談判することにした。
「軍令部第一部から要求のあった、計算機搭載艦についてですが、巡洋艦を改修する方向で裁可してください。連合艦隊の旗艦も兼ねる可能性のある艦艇ですから、ある程度の大きさが必要です。改造対象艦艇は、重巡クラスが適していると判断します」
名和少将が巡洋艦を選んだのは、計算機搭載艦が艦隊と行動を共にすることを要求されたからだ。計算機を搭載できる大きさに加えて、機動部隊と同等の速力と、ある程度の攻撃に対して自力で排除できる防御力が求められた。
岩村中将も軍令部の要望は知っていた。しかも海軍内での航空主戦論の台頭で、砲撃を主体とする艦艇の価値が相対的に下がっていることも承知していた。
「いいだろう。改修要領をまとめてくれ。私は連合艦隊と交渉して、改造のための艦艇の都合をつけてもらう。重巡でなければ、改修しても効率が悪いと言うつもりだが、さすがに新型の艦は期待できないぞ」
「ありがとうございます。すぐに艦艇の改修案を提示します」
……
もともと、第三部は海軍艦艇の電気関係の装備を担務とする部門だ。従って、電子計算機搭載艦については、全面的に責任を持って設計を進めた。
既に、複数の「オモイカネ」を設置した計算機ビルは各地に建設されている。そのため、艦上に計算機室を据え付けることは、それほど大きな課題があるとは思われなかった。それでも、船の振動と揺れに対する対策と電源については処置が必要だ。
計算機搭載艦として、改造対象に選定されたのは「青葉」型巡洋艦だった。船体後部の武装を撤去して甲板を平らにした後に、計算機室と司令部要員室を追加する方針とした。計算機や電子装備を追加するための場所を確保するために後部主砲や魚雷は降ろさざるを得ないが、直接戦闘の主力となることはないため、やむなしとされた。
大型計算機の艦艇への設置については、既に計算機を搭載して通信実験を行った「瑞穂」が存在していた。「瑞穂」での運用実験を参考としたのは言うまでもない。
重巡「青葉」を横須賀の岸壁に横付けすると、横須賀海軍工廠がすぐに改修を開始した。まずは、後部甲板の2基の20センチ連装砲とカタパルトなどの水上機搭載設備、更に後部マスト、魚雷兵装を削除して後部煙突より後方の甲板を全て平らにした。その上に長さ25mあまりで幅は船体に合わせた直方体の構造物を据え付けた。内部の床はスプリングと制振ダンパーに支えられた二重の構造で、船体からの振動を遮断して、精密な電子機器の設置を可能とした。更に二重床構造を生かして、電子機器に接続する電源線と通信回線を上と下の床の間に収納した。
司令部要員の施設として、電子機器室の後方に20mあまりの長さの長方形の居住区画と会議室を収めた構造物を追加した。計算機艦が司令部の指揮用途に使われる場合には、指揮要員と電子機器の操作員が増加することになる。しかも艦隊司令部としては作戦会議を行う部屋も必要だ。
二重床構造の電子機器室には最新型の3台の「オモイカネ四型」を艦載化した計算機が設置された。更に、電探と各種の周波数帯の無線機が増設された。電子機器室の前方には電源室を設置した。旧式の巡洋艦は発電機も古いので電源は電圧の低下や瞬断が起こる可能性が高い。電子機器専用のディーゼル発電機と蓄電池を追加した。
通常の運用では、艦内の電気を使用して蓄電池を充電している。搭載された電子機器は、瞬断もなく電圧出力が一定している電池出力を利用する。もちろん艦内の電源設備に異常があっても蓄電池から電気を供給できる。船内の電気系統の異常時には、電池が放電する前にディーゼル発電機を起動して電気を供給できる構成とした。
なお、追加された上部構造物には、側面と天井に30mm装甲板が張り付けられた。大口径砲弾や爆弾の直撃には耐えられないが、断片や機銃弾には防御力を発揮する。
同時に対空砲の強化も行われた。従来の高角砲や機関銃を、全て取り外して、6基の88mm連装砲が追加された。高角砲の増備に伴って、両舷の四カ所に一式高射装置が装備された。
加えて、新型の対空機銃が「青葉」の改修に間に合った。37mm四連装機関銃だ。開発期間の長期化を避けるために、機銃そのものはドイツから技術ライセンスを購入して、国内生産した従来の37mm機銃から変更していない。それを従来の連装から四連装に増加した。照準のために小型の簡易型電探を搭載して、上部に直径50cm程度のおわん型アンテナを取り付けた。電探で測定した目標を照準するための情報は、ジャイロと一体となった計算機に送られて、機銃の左側に取り付けられた照準器に投影される。
機銃の左側の照準器は、戦闘機向けの射爆照準器と同様に下方から照準用の図形が投影される。ガラス製の反射板は戦闘機の2倍ほどの大きさに拡大された。反射板には同心円状の照準環が投影されるので、射手は両手操作の操縦輪により、円環内に目標を捉えるように操作する。その結果、照準環に同期してアンテナと機銃の向きが変わるので、電探アンテナが目標に向いて、射撃に必要な計測ができる。もちろん台座の電動機により、機銃の旋回と銃身の俯仰動作は全て機力となっている。
電探が目標を補足すると、照準器には円環とは独立して動く十字型の照準目盛りが表示される。この十字型照準は、電探が捉えた目標の距離での機銃の照準位置を表示している。照準位置は計算機による弾道計算と目標の予測位置により決定される。射手は操縦輪を操作して十字照準に目標を合わせれば、照準ができたことになる。照準が完了したら、右手の操縦輪の発射ボタンを押せば目標に向けて弾丸が発射される。すなわち、計算機の表示に正照準で目標を捉えれば、命中させられることになる。ただし、機銃の向きを急激に上下左右に動かした場合には機銃の動きを止めるために、足踏みペダルでブレーキをかけて停止できる。
なお、従来の37mm機銃は6発のクリップで弾丸を補給していたが、大型弾倉を備えて30発まで連射できるように改造されていた。30発入りの弾倉は、陸軍の十一年式軽機関銃のクリップ付き弾薬がそのまま使える装弾機構を参考にして設計された。四連装機銃を連続的に射撃をする時は、給弾しながら1基ずつ順次射撃したり、2基を交互に射撃したが、もちろん一斉に射撃することも可能だ。
この37mm四連装機銃を「青葉」は8基搭載した。
「青葉」の改造は、昭和17年(1942年)7月初旬から始まったが、構造の単純な箱型の電子機器室と要員室の追加以外は、対空火器の強化だったために早期に完了していた。並行して各種の電子機器の生産も行われていたために、船としての改造と並行して、電探と通信機、計算機の搭載も8月末には完了した。
……
電子機器の設置工事が終了に近づくと、技研にもお呼びがかかった。
望月少佐が計算機開発課の技術者を集めて指示を行う。
「連合艦隊司令部からの要求だ。次の戦いがすぐにも想定される情勢なので、一刻も早く計算機を使えるようにすることが我々の仕事だ。専門知識を生かして、工期をできる限り短縮せよとの命令だ。民間の計算機技術者にも声をかけている。いつまでも我々が引っ張り出されてはたまらんからな」
海野中尉が質問した。
「『青葉』の改修はどこまで終了しているんですか?」
「船体の改修と電子機器の設置は完了している。電源も投入して電子機器に異常がないのは確認が終わったようだ。機器の機能に関してはまだ検証の途中だろう。そもそも計算機が動き始めなければ検証できない機能もあるからな。計算機については、電源の投入が終わったところだ。かなり基本的な機能から我々が試験する必要がありそうだ。もちろん、艦隊司令部が要求するプログラムはまだ投入されていない」
我々は横須賀港の「青葉」に出向くと、まずは計算機検証用のプログラムを投入して試験を開始した。機能的に不具合があればプログラム自体が被疑箇所を見つけてくれる。
並行して技研の電子研究部の技師が電探と短波通信機の調整を行っていた。通信機の調整が終わると、目黒の計算機との間の通信回線を開通させた。目黒の設備と接続できれば、「青葉」の計算機を遠隔で操作することも可能だ。
……
私は、横須賀での作業は山場を既に越えたと考えていた。
「『青葉』の計算機に対しては、基本機能の確認も終わり、おおむね必要なプログラムは格納済みです。一方、艦隊の司令部機能を支援するための作戦予測プログラムはまだ検証中です。検証による不具合修正が完了しない限り、司令部では使えません。いっそのこと、技研の計算機を活用して、早期にプログラムを仕上げることにしませんか? プログラムの検証が終了してから、艦載の計算機に投入しても問題ないはずです。プログラム自身の検証ならば、技研の環境の方が圧倒的に効率良く作業できるはずです」
「筧大尉の言いたいことは理解した。今後のプログラムの確認とそれに伴う修正は技研で集中的に行うこととしよう。『青葉』の計算機については、外部機器と接続する試験を優先する。並行して技研でプログラムを検証して、それが完了次第、更新プログラムを『青葉』の計算機に投入する」
「『青葉』の艦上での作業は海軍の技手や民間技師に任せて、我々は早々に技研に戻りますよ。いざとなれば、目黒からでも遠隔での作業も可能なので、何か問題が起こってもほとんどは解決できるはずです」
もちろん、望月少佐も首を縦に振った。しかし、私はそれほど時間をおかずに再び「青葉」に戻ることになるとは全く想定していなかった。
戦訓に基づく軍令部からの要求の中から、すぐに着手されたのが、空母艦載機の編制変更だった。各空母における機種毎の搭載機は「飛行機搭載標準」により規定されていた。この標準は搭載機が新鋭機に変われば、収容できる機数も変わるので随時変更されている。まずはこの規定について、戦闘機の搭載比率を増やすように改訂が行われた。次いで基地の訓練部隊の増強により、養成する搭乗員数を大幅に増加させた。そこでも育成する戦闘機搭乗員の数を増加させた。
次に早く実現されたのが、計算機搭載艦だった。電子計算機の有効性はいくつかの場面で証明されている。作戦指導に対する有用性は、連合艦隊司令部も認めていた。司令部自身が早急に計算機の前線配備を希望したことが、計算機搭載艦の実現を加速させた。
海軍艦政本部第三部の名和少将は、軍令部からの要求に対して、重巡を改修する方向で決断した。いちいち根回しをしている時間が惜しいので、艦政本部長の岩村中将に直談判することにした。
「軍令部第一部から要求のあった、計算機搭載艦についてですが、巡洋艦を改修する方向で裁可してください。連合艦隊の旗艦も兼ねる可能性のある艦艇ですから、ある程度の大きさが必要です。改造対象艦艇は、重巡クラスが適していると判断します」
名和少将が巡洋艦を選んだのは、計算機搭載艦が艦隊と行動を共にすることを要求されたからだ。計算機を搭載できる大きさに加えて、機動部隊と同等の速力と、ある程度の攻撃に対して自力で排除できる防御力が求められた。
岩村中将も軍令部の要望は知っていた。しかも海軍内での航空主戦論の台頭で、砲撃を主体とする艦艇の価値が相対的に下がっていることも承知していた。
「いいだろう。改修要領をまとめてくれ。私は連合艦隊と交渉して、改造のための艦艇の都合をつけてもらう。重巡でなければ、改修しても効率が悪いと言うつもりだが、さすがに新型の艦は期待できないぞ」
「ありがとうございます。すぐに艦艇の改修案を提示します」
……
もともと、第三部は海軍艦艇の電気関係の装備を担務とする部門だ。従って、電子計算機搭載艦については、全面的に責任を持って設計を進めた。
既に、複数の「オモイカネ」を設置した計算機ビルは各地に建設されている。そのため、艦上に計算機室を据え付けることは、それほど大きな課題があるとは思われなかった。それでも、船の振動と揺れに対する対策と電源については処置が必要だ。
計算機搭載艦として、改造対象に選定されたのは「青葉」型巡洋艦だった。船体後部の武装を撤去して甲板を平らにした後に、計算機室と司令部要員室を追加する方針とした。計算機や電子装備を追加するための場所を確保するために後部主砲や魚雷は降ろさざるを得ないが、直接戦闘の主力となることはないため、やむなしとされた。
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司令部要員の施設として、電子機器室の後方に20mあまりの長さの長方形の居住区画と会議室を収めた構造物を追加した。計算機艦が司令部の指揮用途に使われる場合には、指揮要員と電子機器の操作員が増加することになる。しかも艦隊司令部としては作戦会議を行う部屋も必要だ。
二重床構造の電子機器室には最新型の3台の「オモイカネ四型」を艦載化した計算機が設置された。更に、電探と各種の周波数帯の無線機が増設された。電子機器室の前方には電源室を設置した。旧式の巡洋艦は発電機も古いので電源は電圧の低下や瞬断が起こる可能性が高い。電子機器専用のディーゼル発電機と蓄電池を追加した。
通常の運用では、艦内の電気を使用して蓄電池を充電している。搭載された電子機器は、瞬断もなく電圧出力が一定している電池出力を利用する。もちろん艦内の電源設備に異常があっても蓄電池から電気を供給できる。船内の電気系統の異常時には、電池が放電する前にディーゼル発電機を起動して電気を供給できる構成とした。
なお、追加された上部構造物には、側面と天井に30mm装甲板が張り付けられた。大口径砲弾や爆弾の直撃には耐えられないが、断片や機銃弾には防御力を発揮する。
同時に対空砲の強化も行われた。従来の高角砲や機関銃を、全て取り外して、6基の88mm連装砲が追加された。高角砲の増備に伴って、両舷の四カ所に一式高射装置が装備された。
加えて、新型の対空機銃が「青葉」の改修に間に合った。37mm四連装機関銃だ。開発期間の長期化を避けるために、機銃そのものはドイツから技術ライセンスを購入して、国内生産した従来の37mm機銃から変更していない。それを従来の連装から四連装に増加した。照準のために小型の簡易型電探を搭載して、上部に直径50cm程度のおわん型アンテナを取り付けた。電探で測定した目標を照準するための情報は、ジャイロと一体となった計算機に送られて、機銃の左側に取り付けられた照準器に投影される。
機銃の左側の照準器は、戦闘機向けの射爆照準器と同様に下方から照準用の図形が投影される。ガラス製の反射板は戦闘機の2倍ほどの大きさに拡大された。反射板には同心円状の照準環が投影されるので、射手は両手操作の操縦輪により、円環内に目標を捉えるように操作する。その結果、照準環に同期してアンテナと機銃の向きが変わるので、電探アンテナが目標に向いて、射撃に必要な計測ができる。もちろん台座の電動機により、機銃の旋回と銃身の俯仰動作は全て機力となっている。
電探が目標を補足すると、照準器には円環とは独立して動く十字型の照準目盛りが表示される。この十字型照準は、電探が捉えた目標の距離での機銃の照準位置を表示している。照準位置は計算機による弾道計算と目標の予測位置により決定される。射手は操縦輪を操作して十字照準に目標を合わせれば、照準ができたことになる。照準が完了したら、右手の操縦輪の発射ボタンを押せば目標に向けて弾丸が発射される。すなわち、計算機の表示に正照準で目標を捉えれば、命中させられることになる。ただし、機銃の向きを急激に上下左右に動かした場合には機銃の動きを止めるために、足踏みペダルでブレーキをかけて停止できる。
なお、従来の37mm機銃は6発のクリップで弾丸を補給していたが、大型弾倉を備えて30発まで連射できるように改造されていた。30発入りの弾倉は、陸軍の十一年式軽機関銃のクリップ付き弾薬がそのまま使える装弾機構を参考にして設計された。四連装機銃を連続的に射撃をする時は、給弾しながら1基ずつ順次射撃したり、2基を交互に射撃したが、もちろん一斉に射撃することも可能だ。
この37mm四連装機銃を「青葉」は8基搭載した。
「青葉」の改造は、昭和17年(1942年)7月初旬から始まったが、構造の単純な箱型の電子機器室と要員室の追加以外は、対空火器の強化だったために早期に完了していた。並行して各種の電子機器の生産も行われていたために、船としての改造と並行して、電探と通信機、計算機の搭載も8月末には完了した。
……
電子機器の設置工事が終了に近づくと、技研にもお呼びがかかった。
望月少佐が計算機開発課の技術者を集めて指示を行う。
「連合艦隊司令部からの要求だ。次の戦いがすぐにも想定される情勢なので、一刻も早く計算機を使えるようにすることが我々の仕事だ。専門知識を生かして、工期をできる限り短縮せよとの命令だ。民間の計算機技術者にも声をかけている。いつまでも我々が引っ張り出されてはたまらんからな」
海野中尉が質問した。
「『青葉』の改修はどこまで終了しているんですか?」
「船体の改修と電子機器の設置は完了している。電源も投入して電子機器に異常がないのは確認が終わったようだ。機器の機能に関してはまだ検証の途中だろう。そもそも計算機が動き始めなければ検証できない機能もあるからな。計算機については、電源の投入が終わったところだ。かなり基本的な機能から我々が試験する必要がありそうだ。もちろん、艦隊司令部が要求するプログラムはまだ投入されていない」
我々は横須賀港の「青葉」に出向くと、まずは計算機検証用のプログラムを投入して試験を開始した。機能的に不具合があればプログラム自体が被疑箇所を見つけてくれる。
並行して技研の電子研究部の技師が電探と短波通信機の調整を行っていた。通信機の調整が終わると、目黒の計算機との間の通信回線を開通させた。目黒の設備と接続できれば、「青葉」の計算機を遠隔で操作することも可能だ。
……
私は、横須賀での作業は山場を既に越えたと考えていた。
「『青葉』の計算機に対しては、基本機能の確認も終わり、おおむね必要なプログラムは格納済みです。一方、艦隊の司令部機能を支援するための作戦予測プログラムはまだ検証中です。検証による不具合修正が完了しない限り、司令部では使えません。いっそのこと、技研の計算機を活用して、早期にプログラムを仕上げることにしませんか? プログラムの検証が終了してから、艦載の計算機に投入しても問題ないはずです。プログラム自身の検証ならば、技研の環境の方が圧倒的に効率良く作業できるはずです」
「筧大尉の言いたいことは理解した。今後のプログラムの確認とそれに伴う修正は技研で集中的に行うこととしよう。『青葉』の計算機については、外部機器と接続する試験を優先する。並行して技研でプログラムを検証して、それが完了次第、更新プログラムを『青葉』の計算機に投入する」
「『青葉』の艦上での作業は海軍の技手や民間技師に任せて、我々は早々に技研に戻りますよ。いざとなれば、目黒からでも遠隔での作業も可能なので、何か問題が起こってもほとんどは解決できるはずです」
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