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第11章 新たな戦い
11.6章 ニューギニア島近海3
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索敵任務でニューギニア島の北側に向かったのは「伊26」だけではなかった。
中川大尉が艦長の稲葉中佐のところにやってきた。
「傍受した電文の解読が終わりました」
「それにしても便利なものだな。理解不能な暗号文も計算機を通せば、あっと言う間に普通の電文にすることができる。これだけの分量を人間が解読したら、1時間はかかるぞ」
「伊6」艦長の稲葉中佐は、電文が印字された紙を大尉から受け取ると、内容をゆっくりと確認した。
「第一潜水戦隊司令部に向けての『伊26』からの電文だ。英艦隊の位置と方位が通知されている。航海長、我々も英艦隊を攻撃するぞ。会敵するための航路を割り出してくれ」
航海長の中川大尉は少し考えて、自分の案を説明した。
「このまま、海上を南下しても英艦隊を後方から追いかけることになります。想定海域に接近すれば潜る必要があります。潜水すれば移動速度は数ノットです。その間に英艦隊がすり抜ける可能性があります。むしろニューギニアの沖を、本艦の水上速度を生かして全速で東南東に進み、英艦隊を追い抜いてから、南下して海中で待ち受ける案を提案します」
「なるほど、20ノットを超える最大速度を生かして海上を進んでから、海中で待つということか。この艦は潜航に時間を要するから、あらかじめ潜ってから海中で待つ方が好都合だな。航海長の案を採用しよう」
稲葉中佐は、最大船速で進んでも英艦隊を追い抜くというよりも、どんどん差が広がってしまうのを防ぐ程度の効果しかないだろうと考えていた。それでも、単純に南下する航路よりも会敵の機会は大きいだろう。
「伊6」が全速航行後に海中で待ち構えていると、期待通り英艦隊が西からやってきた。稲葉中佐は潜望鏡を上げて、巡洋艦と戦艦、駆逐艦が3列縦隊になっていることを確認した。可能であれば中央を航行している縦列の戦艦を狙いたいが、手前の北側を航行している巡洋艦の列と重なっている。そもそも戦艦までは距離がありすぎる。
「北側を航行している巡洋艦群を狙う。全門で雷撃する。艦首を北側に回頭させて、艦尾からも雷撃するぞ」
「伊6」は艦首の4門の発射艦から雷撃すると、すぐに艦首を北に回して艦尾を英艦隊に向けた。艦を安定させると艦尾の2門から魚雷を発射した。すぐに北に向けて、艦首を下げながら深度を増すように潜ってゆく。
しかし、潜望鏡を上げて雷撃を行った潜水艦を、上空から発見した機体があった。レーダーを装備したアルバコアは、潜望鏡の電波反射を見逃さなかった。英海軍のASVレーダーは、大西洋の戦いの経験から、近距離であれば潜水艦の潜望鏡も発見できるように改良されていた。探知した地点に爆雷を搭載したアルバコアを呼び寄せた。
全くの偶然だったが、「伊6」が雷撃した時には、北側の縦列には「コーンウォール」と「ドーセットシャー」が、南方の戦艦を遮る様に前後に並んで航行していた。必然的に魚雷はこの2隻の重巡洋艦に向かうことになった。
最初に「コーンウォール」の左舷側の船体中央部に魚雷が直撃した。続いて、重巡の航跡を探知した魚雷が、右舷後部に命中する。やや遅れて、潜水艦の後部発射艦からの2本の魚雷が「ドーセットシャー」の艦尾に相次いで命中した
「コーンウォール」の船体規模では、魚雷に対する防御力に限界があった。舷側は、二重隔壁の外側に防御区画を追加した構造となっていたが、九五式魚雷の弾頭により簡単に打ち破られた。大きな破口から機関室への浸水が発生すると共に、艦尾の舵機室の周囲にも浸水が始まった。船尾からどんどん喫水が増していって、誰の目にもこの重巡を救う方法がないのは明らかになった。
船体構造に大差のない「ドーセットシャー」についても状況は同様だった。船体後部には、2つの破孔がつながった楕円形の巨大な開口部が生じていた。開口部からの大量の海水は、すぐにこの艦が海上に浮かんでいられる限界値を超えた。
「伊6」も無事では済まなかった。爆雷を装備したアルバコアに攻撃されたのだ。450ポンド(204kg)のMarkⅦ空中投下爆雷を両翼下に2発搭載した3機の艦攻が飛来してきた。レーダーで潜望鏡を見つけた機体が探知位置に発煙弾を投下した。海上の印を目指して3機が次々と爆雷を投下した。
短時間で飛来してきた航空機の攻撃に「伊6」は十分に深く潜航することもできなかった。周囲で連続した爆発が発生した。至近での爆発により、艦内の配管から数カ所で漏水が発生した。
2時間、海中を逃げ回って「伊6」はやっとのことで浮上した。艦橋に上がった航海長が船体の後方を指さした。
「艦長、あのレールを見てください」
稲葉中佐が見ると、艦の後方に備えられた航空機発射用のカタパルトのレールがねじ曲がって船体から浮き上がっていた。
「基地に帰って修理するぞ。むしろ、この程度で済んで良かった。これ以上、しつこく攻撃されたら、命はなかったぞ」
……
「わが艦隊の被害は、これで『レゾリューション』と『コンウォール』『ドーセットシャー』の3隻となりました」
被害を報告してきたパリサー少将に、フィリップス大将は短くうなずいた。
「計画を変更することはない。航路を多少変更しても良いが、米海軍の艦隊との作戦は変えられないぞ。空母部隊のボイド少将に艦隊周囲の哨戒機をもっと増やすように伝えてくれ」
「明日になって、ビスマルク海に入れば、ポートモレスビー基地に駐留している航空機の哨戒範囲に入ります」
「ぜひとも、哨戒機の飛行を要請してくれ。日本の潜水艦に見つかってしまったので、無線封鎖は意味がなくなっているからな。我々がビスマルク諸島の間の海峡を通過するまでは、空からの支援をお願いしたい」
中川大尉が艦長の稲葉中佐のところにやってきた。
「傍受した電文の解読が終わりました」
「それにしても便利なものだな。理解不能な暗号文も計算機を通せば、あっと言う間に普通の電文にすることができる。これだけの分量を人間が解読したら、1時間はかかるぞ」
「伊6」艦長の稲葉中佐は、電文が印字された紙を大尉から受け取ると、内容をゆっくりと確認した。
「第一潜水戦隊司令部に向けての『伊26』からの電文だ。英艦隊の位置と方位が通知されている。航海長、我々も英艦隊を攻撃するぞ。会敵するための航路を割り出してくれ」
航海長の中川大尉は少し考えて、自分の案を説明した。
「このまま、海上を南下しても英艦隊を後方から追いかけることになります。想定海域に接近すれば潜る必要があります。潜水すれば移動速度は数ノットです。その間に英艦隊がすり抜ける可能性があります。むしろニューギニアの沖を、本艦の水上速度を生かして全速で東南東に進み、英艦隊を追い抜いてから、南下して海中で待ち受ける案を提案します」
「なるほど、20ノットを超える最大速度を生かして海上を進んでから、海中で待つということか。この艦は潜航に時間を要するから、あらかじめ潜ってから海中で待つ方が好都合だな。航海長の案を採用しよう」
稲葉中佐は、最大船速で進んでも英艦隊を追い抜くというよりも、どんどん差が広がってしまうのを防ぐ程度の効果しかないだろうと考えていた。それでも、単純に南下する航路よりも会敵の機会は大きいだろう。
「伊6」が全速航行後に海中で待ち構えていると、期待通り英艦隊が西からやってきた。稲葉中佐は潜望鏡を上げて、巡洋艦と戦艦、駆逐艦が3列縦隊になっていることを確認した。可能であれば中央を航行している縦列の戦艦を狙いたいが、手前の北側を航行している巡洋艦の列と重なっている。そもそも戦艦までは距離がありすぎる。
「北側を航行している巡洋艦群を狙う。全門で雷撃する。艦首を北側に回頭させて、艦尾からも雷撃するぞ」
「伊6」は艦首の4門の発射艦から雷撃すると、すぐに艦首を北に回して艦尾を英艦隊に向けた。艦を安定させると艦尾の2門から魚雷を発射した。すぐに北に向けて、艦首を下げながら深度を増すように潜ってゆく。
しかし、潜望鏡を上げて雷撃を行った潜水艦を、上空から発見した機体があった。レーダーを装備したアルバコアは、潜望鏡の電波反射を見逃さなかった。英海軍のASVレーダーは、大西洋の戦いの経験から、近距離であれば潜水艦の潜望鏡も発見できるように改良されていた。探知した地点に爆雷を搭載したアルバコアを呼び寄せた。
全くの偶然だったが、「伊6」が雷撃した時には、北側の縦列には「コーンウォール」と「ドーセットシャー」が、南方の戦艦を遮る様に前後に並んで航行していた。必然的に魚雷はこの2隻の重巡洋艦に向かうことになった。
最初に「コーンウォール」の左舷側の船体中央部に魚雷が直撃した。続いて、重巡の航跡を探知した魚雷が、右舷後部に命中する。やや遅れて、潜水艦の後部発射艦からの2本の魚雷が「ドーセットシャー」の艦尾に相次いで命中した
「コーンウォール」の船体規模では、魚雷に対する防御力に限界があった。舷側は、二重隔壁の外側に防御区画を追加した構造となっていたが、九五式魚雷の弾頭により簡単に打ち破られた。大きな破口から機関室への浸水が発生すると共に、艦尾の舵機室の周囲にも浸水が始まった。船尾からどんどん喫水が増していって、誰の目にもこの重巡を救う方法がないのは明らかになった。
船体構造に大差のない「ドーセットシャー」についても状況は同様だった。船体後部には、2つの破孔がつながった楕円形の巨大な開口部が生じていた。開口部からの大量の海水は、すぐにこの艦が海上に浮かんでいられる限界値を超えた。
「伊6」も無事では済まなかった。爆雷を装備したアルバコアに攻撃されたのだ。450ポンド(204kg)のMarkⅦ空中投下爆雷を両翼下に2発搭載した3機の艦攻が飛来してきた。レーダーで潜望鏡を見つけた機体が探知位置に発煙弾を投下した。海上の印を目指して3機が次々と爆雷を投下した。
短時間で飛来してきた航空機の攻撃に「伊6」は十分に深く潜航することもできなかった。周囲で連続した爆発が発生した。至近での爆発により、艦内の配管から数カ所で漏水が発生した。
2時間、海中を逃げ回って「伊6」はやっとのことで浮上した。艦橋に上がった航海長が船体の後方を指さした。
「艦長、あのレールを見てください」
稲葉中佐が見ると、艦の後方に備えられた航空機発射用のカタパルトのレールがねじ曲がって船体から浮き上がっていた。
「基地に帰って修理するぞ。むしろ、この程度で済んで良かった。これ以上、しつこく攻撃されたら、命はなかったぞ」
……
「わが艦隊の被害は、これで『レゾリューション』と『コンウォール』『ドーセットシャー』の3隻となりました」
被害を報告してきたパリサー少将に、フィリップス大将は短くうなずいた。
「計画を変更することはない。航路を多少変更しても良いが、米海軍の艦隊との作戦は変えられないぞ。空母部隊のボイド少将に艦隊周囲の哨戒機をもっと増やすように伝えてくれ」
「明日になって、ビスマルク海に入れば、ポートモレスビー基地に駐留している航空機の哨戒範囲に入ります」
「ぜひとも、哨戒機の飛行を要請してくれ。日本の潜水艦に見つかってしまったので、無線封鎖は意味がなくなっているからな。我々がビスマルク諸島の間の海峡を通過するまでは、空からの支援をお願いしたい」
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