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第12章 珊瑚海海戦
12.2章 スプルーアンスの艦隊
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スプルーアンス少将は、会議室に集まったスタッフを見まわした。
「諸君、作戦会議を始めよう」
ムーア大佐が引き継いで説明を始める。
「太平洋艦隊司令部からの暗号電により、イギリス艦隊の被害が通知されてきました。潜水艦攻撃により『レゾリューション』と2隻の重巡が沈んでいます。日本の潜水艦は、イギリス艦隊のシンガポールからの出撃を知って待ち構えていたと思われます。イギリス艦隊の位置も通報されたでしょう。その結果、間違いなくヤマモトの艦隊が南下してきます」
大佐がスプルーアンス少将の方に顔を向けた。
「この程度の損害では、我々の作戦は変更しない。日本軍が出てくれば全力で攻撃を加えるつもりだ。ヤマモトの艦隊の残存兵力を撃滅できれば、太平洋の戦いで我々は大いに有利に立てる。ある意味、これは日本軍を誘い出すための作戦ともいえるだろう。ところで、日本軍の戦力は分析できているか?」
「日本近海の戦いで、我々は2隻の正規空母と1隻の小型空母を沈め、1隻の大型空母を大破しています。一方、四国沖で新たな正規空母1隻と、小型空母1隻が目撃されています。加えて、もともと日本海軍は6隻の正規空母を保有していました。単純に計算すると、正規空母は7マイナス3で4隻が戦闘可能なはずです。同様に小型空母は、2マイナス1で、1隻が残ります。戦艦については2隻の『ヤマト』級と2隻の『ナガト』級が主力でしょう。3隻の14インチ(35.6cm)砲の『コンゴウ』級もやってくるはずです。呉で被害を受けた戦艦は修理中なので、出てきません」
「空母については、イギリスと我々の艦隊を合計しても、日本軍がやや有利なようだな。一方、戦艦の戦力は、我が軍がかなり有利ということか。注意すべき新たな情報はあるか?」
「魚雷に注意が必要です。四国沖海戦では誘導魚雷にやられたとの報告がありますが、イギリス艦隊を攻撃した潜水艦からの魚雷も命中率が高かったようです。それとやはり『ヤマト』級です。呉での目撃情報からは、おそらく5万トンを越える化け物のような重装甲の大型艦だと判明しています。間違いなく『サウスダコタ』よりも一回り以上大型です」
ブローニング大尉が説明を続けた。
「本国では、魚雷誘導装置の分析が始まったようですが、解析途中のようで、まだ何の連絡もありません。そこで、魚雷対策については、音響誘導という前提で対策をしています。魚雷の探知を妨害するために、護衛の巡洋艦と駆逐艦が音響を発生する装置を艦尾から引っ張ることになっています」
フォレスタル大尉が資料を取り出した。米海軍が想定した「大和」級のスペックが書かれていた。
「この資料にあるように『ヤマト』級は排水量5万トン程度、速度は25ノット以上の戦艦となります。対抗するとなると『サウスダコタ』級でも若干厳しいかもしれません。そこで水上戦となった場合は、16インチ(40.6センチ)砲艦2隻で『ヤマト』級1隻に対応します。我が艦隊だけで6隻の16インチ艦を艦隊に擁していますので、『ヤマト』級に対して4隻が立ち向かっても、残りの2隻で『ナガト』級に対抗できます。イギリスの16インチ艦が応援に駆け付けてくれれば、我々は更に優位に立てます」
スプルーアンス少将は、魚雷の誘導方法に加えて「ヤマト」級の性能については、自分たちに都合の良い想定をしているのではないかと思ったが、あえて指摘をしなかった。それを言ったところで、この場でできることは変わらないのだ。かえって士気を下げるだけだろう。
「魚雷と新型戦艦への対処法はわかった。もう一つ懸念がある。ジーク(零戦)も含めて、日本軍の航空機の性能だ。我が軍のF4Fでは劣勢であることが確実になった」
「我が艦隊には、最新の戦闘機であるF4Uコルセアを搭載しています。2,000馬力のエンジンを搭載して、毎時400マイル(644km/h)以上の速度で飛ぶことができます。失速特性が悪くて、着艦が難しいのが欠点ですが、経験を有するパイロットであれば乗りこなせます」
「ジーク(零戦)はどの程度の速度なのだ? 確実に勝てるのだろうな?」
「日本本土の戦いから、ジークの速度を毎時350マイル(563km/h)程度と推定しています。F4Uはこれより50マイル(80km/h)以上は優速なので、どの高度においても確実に優位に戦闘できます」
「よかろう。我々の作戦内容について説明してくれ」
ムーア大佐が作戦の概要を説明した。
「作戦の詳細について説明します」
大佐は以下のような作戦案を説明した。
・イギリス艦隊が先行してニューギニア側から想定海域(ソロモン海南端から珊瑚海)に進む。
・日本艦隊はイギリス艦隊がオーストラリアに向かっていることは知っているので、ソロモン諸島近辺から南下してくるだろう。
・アメリカ艦隊は、ソロモン諸島とエスピリットサント島の間を抜けて東側から珊瑚海に入ってゆく。
・イギリス艦隊が日本艦隊を発見して攻撃隊を発進させる。日本艦隊もほぼ同時にイギリス艦隊を発見するだろう。
・イギリス艦隊の攻撃隊発進とほぼ同時に、アメリカ艦隊からも航空攻撃を仕掛ける。
・日本の偵察機がアメリカ艦隊を発見しても、イギリス艦隊を攻撃中の部隊は、短時間で目標を変更することは不可能なはずだ。
・アメリカ空母部隊は日本軍から反撃を受けないという有利な態勢から攻撃する。
・日本の航空戦力を壊滅させれば、航空攻撃に加えてイギリス戦艦とアメリカ戦艦が連携して、日本戦艦を攻撃する。
スプルーアンスは口を挟まずに聞いていたが、1時間ほど前に聞いていた内容とあまり変わっていなかった。それでも、参謀たちの前で改めて作戦の流れを示しておく意味は小さくないだろう。但し、航空攻撃の連携について疑問が浮かんだ。
「日本の空母を攻撃する場合、イギリスの攻撃隊と我が軍の攻撃隊の日本艦隊上空への到着時間が同時になるというのは非現実的だろう。イギリスの攻撃隊とアメリカの部隊で、時間的にずれが生じた場合はどうなるのか?」
「日本艦隊の発見を聞いてから、我が軍も攻撃隊を発進させます。日本軍との距離の差から、目標上空に到達するのは、我が軍が若干遅れるかもしれません。それでも日本の戦闘機は西方のイギリス軍と交戦中か、もしくは交戦の直後でしょう。一方、我が軍の攻撃隊は、日本艦隊の東方から接近することになります。つまり接近する方向が全く逆なのです。逆方向の我が軍を迎え撃つには、日本戦闘機であっても一定の時間を要するはずです」
つまり、日本の戦闘機をイギリス軍が西に誘い出して、それとは逆の東の背後から米軍が日本艦隊を攻撃しようという作戦だ。
ムーア大佐は、この作戦の欠点に気がついていたが、あえて説明しなかった。緒戦で攻撃を引き付けるイギリス艦隊は、優勢な日本の航空攻撃にさらされることになる。その結果、被る損害は決して小さくないだろう。しかも、イギリスの日本への攻撃隊も日本の戦闘機を引き付ける役割だ。英軍艦載機も少なからず犠牲が出るだろう。そんなことは、スプルーアンスもわかっているという顔つきだ。大勢のスタッフの前で説明することではない。そもそもこれは英軍自らの発案なのだ。
戦闘の後半はアメリカ艦隊が日本艦隊と対峙することになるが、時間が重要だ。イギリス艦隊を攻撃した日本の航空部隊が戻る前に攻撃を開始できれば、我が軍の攻撃隊は優位に立てるはずだ。彼は消耗した日本艦隊に対して必ず勝てると信じていた。
「諸君、作戦会議を始めよう」
ムーア大佐が引き継いで説明を始める。
「太平洋艦隊司令部からの暗号電により、イギリス艦隊の被害が通知されてきました。潜水艦攻撃により『レゾリューション』と2隻の重巡が沈んでいます。日本の潜水艦は、イギリス艦隊のシンガポールからの出撃を知って待ち構えていたと思われます。イギリス艦隊の位置も通報されたでしょう。その結果、間違いなくヤマモトの艦隊が南下してきます」
大佐がスプルーアンス少将の方に顔を向けた。
「この程度の損害では、我々の作戦は変更しない。日本軍が出てくれば全力で攻撃を加えるつもりだ。ヤマモトの艦隊の残存兵力を撃滅できれば、太平洋の戦いで我々は大いに有利に立てる。ある意味、これは日本軍を誘い出すための作戦ともいえるだろう。ところで、日本軍の戦力は分析できているか?」
「日本近海の戦いで、我々は2隻の正規空母と1隻の小型空母を沈め、1隻の大型空母を大破しています。一方、四国沖で新たな正規空母1隻と、小型空母1隻が目撃されています。加えて、もともと日本海軍は6隻の正規空母を保有していました。単純に計算すると、正規空母は7マイナス3で4隻が戦闘可能なはずです。同様に小型空母は、2マイナス1で、1隻が残ります。戦艦については2隻の『ヤマト』級と2隻の『ナガト』級が主力でしょう。3隻の14インチ(35.6cm)砲の『コンゴウ』級もやってくるはずです。呉で被害を受けた戦艦は修理中なので、出てきません」
「空母については、イギリスと我々の艦隊を合計しても、日本軍がやや有利なようだな。一方、戦艦の戦力は、我が軍がかなり有利ということか。注意すべき新たな情報はあるか?」
「魚雷に注意が必要です。四国沖海戦では誘導魚雷にやられたとの報告がありますが、イギリス艦隊を攻撃した潜水艦からの魚雷も命中率が高かったようです。それとやはり『ヤマト』級です。呉での目撃情報からは、おそらく5万トンを越える化け物のような重装甲の大型艦だと判明しています。間違いなく『サウスダコタ』よりも一回り以上大型です」
ブローニング大尉が説明を続けた。
「本国では、魚雷誘導装置の分析が始まったようですが、解析途中のようで、まだ何の連絡もありません。そこで、魚雷対策については、音響誘導という前提で対策をしています。魚雷の探知を妨害するために、護衛の巡洋艦と駆逐艦が音響を発生する装置を艦尾から引っ張ることになっています」
フォレスタル大尉が資料を取り出した。米海軍が想定した「大和」級のスペックが書かれていた。
「この資料にあるように『ヤマト』級は排水量5万トン程度、速度は25ノット以上の戦艦となります。対抗するとなると『サウスダコタ』級でも若干厳しいかもしれません。そこで水上戦となった場合は、16インチ(40.6センチ)砲艦2隻で『ヤマト』級1隻に対応します。我が艦隊だけで6隻の16インチ艦を艦隊に擁していますので、『ヤマト』級に対して4隻が立ち向かっても、残りの2隻で『ナガト』級に対抗できます。イギリスの16インチ艦が応援に駆け付けてくれれば、我々は更に優位に立てます」
スプルーアンス少将は、魚雷の誘導方法に加えて「ヤマト」級の性能については、自分たちに都合の良い想定をしているのではないかと思ったが、あえて指摘をしなかった。それを言ったところで、この場でできることは変わらないのだ。かえって士気を下げるだけだろう。
「魚雷と新型戦艦への対処法はわかった。もう一つ懸念がある。ジーク(零戦)も含めて、日本軍の航空機の性能だ。我が軍のF4Fでは劣勢であることが確実になった」
「我が艦隊には、最新の戦闘機であるF4Uコルセアを搭載しています。2,000馬力のエンジンを搭載して、毎時400マイル(644km/h)以上の速度で飛ぶことができます。失速特性が悪くて、着艦が難しいのが欠点ですが、経験を有するパイロットであれば乗りこなせます」
「ジーク(零戦)はどの程度の速度なのだ? 確実に勝てるのだろうな?」
「日本本土の戦いから、ジークの速度を毎時350マイル(563km/h)程度と推定しています。F4Uはこれより50マイル(80km/h)以上は優速なので、どの高度においても確実に優位に戦闘できます」
「よかろう。我々の作戦内容について説明してくれ」
ムーア大佐が作戦の概要を説明した。
「作戦の詳細について説明します」
大佐は以下のような作戦案を説明した。
・イギリス艦隊が先行してニューギニア側から想定海域(ソロモン海南端から珊瑚海)に進む。
・日本艦隊はイギリス艦隊がオーストラリアに向かっていることは知っているので、ソロモン諸島近辺から南下してくるだろう。
・アメリカ艦隊は、ソロモン諸島とエスピリットサント島の間を抜けて東側から珊瑚海に入ってゆく。
・イギリス艦隊が日本艦隊を発見して攻撃隊を発進させる。日本艦隊もほぼ同時にイギリス艦隊を発見するだろう。
・イギリス艦隊の攻撃隊発進とほぼ同時に、アメリカ艦隊からも航空攻撃を仕掛ける。
・日本の偵察機がアメリカ艦隊を発見しても、イギリス艦隊を攻撃中の部隊は、短時間で目標を変更することは不可能なはずだ。
・アメリカ空母部隊は日本軍から反撃を受けないという有利な態勢から攻撃する。
・日本の航空戦力を壊滅させれば、航空攻撃に加えてイギリス戦艦とアメリカ戦艦が連携して、日本戦艦を攻撃する。
スプルーアンスは口を挟まずに聞いていたが、1時間ほど前に聞いていた内容とあまり変わっていなかった。それでも、参謀たちの前で改めて作戦の流れを示しておく意味は小さくないだろう。但し、航空攻撃の連携について疑問が浮かんだ。
「日本の空母を攻撃する場合、イギリスの攻撃隊と我が軍の攻撃隊の日本艦隊上空への到着時間が同時になるというのは非現実的だろう。イギリスの攻撃隊とアメリカの部隊で、時間的にずれが生じた場合はどうなるのか?」
「日本艦隊の発見を聞いてから、我が軍も攻撃隊を発進させます。日本軍との距離の差から、目標上空に到達するのは、我が軍が若干遅れるかもしれません。それでも日本の戦闘機は西方のイギリス軍と交戦中か、もしくは交戦の直後でしょう。一方、我が軍の攻撃隊は、日本艦隊の東方から接近することになります。つまり接近する方向が全く逆なのです。逆方向の我が軍を迎え撃つには、日本戦闘機であっても一定の時間を要するはずです」
つまり、日本の戦闘機をイギリス軍が西に誘い出して、それとは逆の東の背後から米軍が日本艦隊を攻撃しようという作戦だ。
ムーア大佐は、この作戦の欠点に気がついていたが、あえて説明しなかった。緒戦で攻撃を引き付けるイギリス艦隊は、優勢な日本の航空攻撃にさらされることになる。その結果、被る損害は決して小さくないだろう。しかも、イギリスの日本への攻撃隊も日本の戦闘機を引き付ける役割だ。英軍艦載機も少なからず犠牲が出るだろう。そんなことは、スプルーアンスもわかっているという顔つきだ。大勢のスタッフの前で説明することではない。そもそもこれは英軍自らの発案なのだ。
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