電子の帝国

Flight_kj

文字の大きさ
62 / 173
第12章 珊瑚海海戦

12.3章 英軍攻撃隊

しおりを挟む
 イギリス艦隊は、ニューギニア島とニューブリテン島の間のビシャズ海峡を抜けた。上空には空母を発艦したアルバコアに混じってポートモレスビーから飛来したブレニムが飛びまわっている。その効果もあって、日本軍の潜水艦は攻撃してこなかった。
「海峡突破は我々が最も脆弱になる瞬間だが、日本軍の攻撃はなかったな。やはり、航空機による哨戒が有効ということか」

「その効果も否定できませんが、そもそも日本軍はまだこの海域に到着していないのだと思います。日本からやって来るのには一定の時間がかかるはずです。逆に、時間が経過すれば、これから先の航路ではヤマモトの艦隊がやってくる可能性があります。油断ができませんよ」

「そうだな。むしろこれからが本番だ」

 英艦隊は、海峡を抜けるとソロモン海のほぼ中央部を東南東に抜けていった。ニューギニア島の東端に続くルイジアート諸島の東側をオーストラリアに向けて南に変針した。既に、英艦隊は、日本艦隊の南下を予測して、空母から哨戒機を多数飛ばしていた。

「長官、日本艦隊を偵察機が発見しました。ソロモン諸島中央部の南側です。我々の東北東、約300マイル(483km)の地点に、巡洋艦と駆逐艦の艦隊を発見しました。おそらく、前衛艦隊です。後方には、空母や戦艦が航行していると判断します」

「それにしても、ソロモン諸島中央部の南なのか」

「おそらく、ガダルカナル島の北側の海峡を突っ切って南下してきたのでしょう。やや強引な航路ですが、我々を捕捉する意図があると考えれば不思議ではありません」

「空母から攻撃隊を出すぞ。『インドミタブル』のボイス少将に命令、日本艦隊を攻撃せよ」

 ボイス少将は言われなくても、日本艦隊を想定して攻撃隊の準備をしていた。偵察機からの報告を受けて、フィリップス大将は3隻の空母と護衛の艦艇を変針させた。「インドミタブル」と「フォーミダブル」、「ハーミーズ」が「プリンス・オブ・ウェールズ」や護衛艦艇と共に北東に向けて回頭した。攻撃隊を発進させるには、まだ遠いと思ったのだ。

「インドミタブル」のトラウブリッジ艦長が偵察結果を空母部隊指揮官のボイド少将に報告した。
「日本艦隊は南西に向けて航行中です。前方に2隻の『コンゴウ』級戦艦及び駆逐艦、その後方に2隻の空母を視認しました。日本艦隊の主力と考えます」

 ボイド少将にも異論はない。
「我々に向かってくるならば急速に距離が縮まるな。日本艦隊からも攻撃隊が来るぞ。艦隊上空に戦闘機を上げろ。日本空母との距離が280マイル(451km)を切ったら発進だ」

 そこまで話したところで、通信士官がやってきて艦長に耳打ちした。
「レーダーが北方の航空機を探知しました。日本軍の偵察機です。我々も発見されました」

「そもそも潜水艦からの報告により、我々の行動は日本軍に知られているはずだ。我が艦隊が見つかるのは想定内だ。しかし、攻撃については我々が先手をとるぞ」

 英海軍の空母は、飛行甲板を重防御とした代わりに搭載する機数が米国や日本ほど多くない。空母3隻をあわせても搭載機の合計は117機だった。

 そのうち艦隊上空の防空戦闘機と偵察機を除いて、2群の攻撃隊を次々と発進させた。
 第一群攻撃隊:マートレット18機、フェアリー・アルバコア27機
 ちなみに、マートレットは英軍が採用したグラマンF4Fワイルドキャットの英軍側の名称だ。

 20分ほど遅れて、第二群の攻撃隊が発艦した。
 第二群攻撃隊:マートレット12機、フェアリー・アルバコア24機

 ……

 今回の戦いに出撃するにあたって、連合艦隊は新たな航空艦隊を編制していた。四航戦と五航戦を合わせて、第二航空艦隊を創設した。司令長官には本土防空と四国沖海戦で功績のあった角田少将が推挙されるとともに、中将へと昇格した。

 旗艦の「瑞鶴」艦橋に角田長官が立っていると、石森参謀が後ろから話しかけてきた。
「偵察型天山からの報告です。英軍の空母部隊が南東に向けて変針しました。我が艦隊に向かってきます」

 横で聞いていた大橋参謀が補った。
「攻撃隊を発進させるために距離を縮めています。おそらく250海里(463km)あたりで、攻撃隊を発艦させるでしょう」

「うむ、問題ない。我々も計画通りに行動を開始する。英軍の偵察機はまだ飛んでいるのか?」

「英艦隊から飛んできた偵察機は『霧島』の電探が捉えています。逆探の探知電波から、機上電探を使っているのは判明しています」

「我が艦隊の情報が伝わっているのは間違いないな。しかし、これ以上、我々の行動を報告させるつもりはないぞ。英偵察機の撃墜せよ。次に艦載機の発艦を命令する」

 航空参謀の三重野少佐が答える。
「了解です。上空の護衛戦闘機に偵察機を撃墜させます。艦載機の発進ですが、米艦隊の詳細位置がまだ判明していませんが良いのですね?」

 代わりに大橋参謀長が答えた。
「問題ない。作戦通りに行動する。それに、米艦隊が珊瑚海に侵入してくる時間が遅くなれば、それだけ英艦隊が単独で耐える時間が長くなるだけだ。我々にとって不利になることはない」

「但し、一航艦はしばらく米軍に発見されずに、我々が先に米艦隊から攻撃を受けるという前提で作戦を進める。我々を発見したら、アメリカ海軍の指揮官は英艦隊を見捨てるようなことは、さすがにしないと信じているぞ」

「霧島」の南方を飛行していた烈風が、防空指揮官の誘導で英艦攻の上空から接近した。英軍機の搭乗員が、上空から降下する戦闘機を発見した時には手遅れだった。

 350ノット(648km/h)以上の速度で降下してきた烈風に対して、アルバコアは140ノット(259km/h)が最大速度だった。どうあがいても逃げられずに、20mmの一撃で撃墜された。

 第二航空艦隊の空母からは、発艦が継続していた。そこに石森少佐があわててやってきた。
「南東方向に放った偵察型天山が米艦隊を発見しました。エスピリットサント島の北側の海域です。我々からは、おおむね方位120度、380海里(704km)の海域から東に向けて航行してきます。想定範囲内ですが、空母2、戦艦6と報告されています」

 角田中将は、大橋中佐の方を振り向くと、大きくうなずいた。
「『コロラド』型は3隻だろうから、『サウスダコタ』型が3隻ということか。それとも想定外の戦艦が1隻加わったということなのか。まあ、大差ないだろう。大佐、米海軍の位置を直ちに連合艦隊司令部に伝えてくれ。これから、米艦隊は全速で北西の我々の方向に進んでくるはずだ」

 それから、安堵したようにつぶやいた。
「現在の一航艦の想定位置からすると、米艦隊への距離は我々よりも少しばかり遠いだろう。もう少し距離を詰めれば、攻撃隊の手が届くはずだ。一航艦の刀が届く距離まで近づくことができれば、まさに作戦通りだな」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

藤本喜久雄の海軍

ypaaaaaaa
歴史・時代
海軍の至宝とも言われた藤本喜久雄造船官。彼は斬新的かつ革新的な技術を積極的に取り入れ、ダメージコントロールなどに関しては当時の造船官の中で最も優れていた。そんな藤本は早くして脳溢血で亡くなってしまったが、もし”亡くなっていなければ”日本海軍はどうなっていたのだろうか。

If太平洋戦争        日本が懸命な判断をしていたら

みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら? 国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。 真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…分水嶺で下された「if」の決断。 破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦を描く架空戦記。 現在1945年中盤まで執筆

異聞対ソ世界大戦

みにみ
歴史・時代
ソ連がフランス侵攻中のナチスドイツを背後からの奇襲で滅ぼし、そのままフランスまで蹂躪する。日本は米英と組んで対ソ、対共産戦争へと突入していくことになる

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

戦神の星・武神の翼 ~ もしも日本に2000馬力エンジンが最初からあったなら

もろこし
歴史・時代
架空戦記ファンが一生に一度は思うこと。 『もし日本に最初から2000馬力エンジンがあったなら……』 よろしい。ならば作りましょう! 史実では中途半端な馬力だった『火星エンジン』を太平洋戦争前に2000馬力エンジンとして登場させます。そのために達成すべき課題を一つ一つ潰していく開発ストーリーをお送りします。 そして火星エンジンと言えば、皆さんもうお分かりですね。はい『一式陸攻』の運命も大きく変わります。 しかも史実より遙かに強力になって、さらに1年早く登場します。それは戦争そのものにも大きな影響を与えていきます。 え?火星エンジンなら『雷電』だろうって?そんなヒコーキ知りませんw お楽しみください。

札束艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 生まれついての勝負師。  あるいは、根っからのギャンブラー。  札田場敏太(さつたば・びんた)はそんな自身の本能に引きずられるようにして魑魅魍魎が跋扈する、世界のマーケットにその身を投じる。  時は流れ、世界はその混沌の度を増していく。  そのような中、敏太は将来の日米関係に危惧を抱くようになる。  亡国を回避すべく、彼は金の力で帝国海軍の強化に乗り出す。  戦艦の高速化、ついでに出来の悪い四姉妹は四一センチ砲搭載戦艦に改装。  マル三計画で「翔鶴」型空母三番艦それに四番艦の追加建造。  マル四計画では戦時急造型空母を三隻新造。  高オクタン価ガソリン製造プラントもまるごと買い取り。  科学技術の低さもそれに工業力の貧弱さも、金さえあればどうにか出来る!

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

超量産艦隊

ypaaaaaaa
歴史・時代
海軍内では八八艦隊の議論が熱を帯びていた頃、ある一人の天才によって地味ではあるが大きく日本の未来を変えるシステムが考案された。そのシステムとは、軍艦を一種の”箱”と捉えそこに何を詰めるかによって艦種を変えるという物である。海軍首脳部は直ちにこのシステムの有用性を認め次から建造される軍艦からこのシステムを導入することとした。 そうして、日本海軍は他国を圧倒する量産性を確保し戦雲渦巻く世界に漕ぎ出していく… こういうの書く予定がある…程度に考えてもらうと幸いです!

処理中です...