電子の帝国

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第12章 珊瑚海海戦

12.9章 米艦隊への攻撃3

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 攻撃隊を送り出してから30分後には、一航艦から米英艦隊に向けて第二次攻撃隊が発進した。

 第二次攻撃隊:烈風9機、零戦18機、彗星27機、天山12機、九七式艦攻15機、偵察型天山2機

 やがて飛行して行くと2時方向の視界ぎりぎりのところに南東から飛行してくる編隊が見えてきた。間違いなく、攻撃を終えて帰投してくる第一次攻撃隊だ。

 最新の情報を知りたいと思って、村田少佐は電信員の渡部二飛曹に指示した。
「第一次攻撃隊の無線につなげてくれ。友永隊の周波数は、知っているだろう」

 命令と同時に、機首を若干右翼側に向けた。帰還する友軍の編隊に少しでも近づくためだ。2分ほど待っていると、渡部二飛曹から返事があった。
「応答がありました」

(今までの通信機が半導体を使用した新型の無線機に変わって、随分便利になった。周波数の切り替えが簡単になって、他の部隊との間でも音声通信がすぐにできるのも新型無線機の恩恵だな)

 相手の無線員と、しばらくやり取りを繰り返すと、村田少佐は友永少佐と無線で直接会話ができた。

「こちらは、村田だ。攻撃の戦果と注意すべき点について教えてくれ」

 友永少佐は、早口で第一次攻撃隊の戦果を説明してきた。
「我々は、2隻の空母に多数の爆弾を命中させた。艦攻隊の攻撃により、それぞれの空母に数本以上の水柱が立ち上るのを確認した。まだ、正確な戦果を確認できたわけではないが、2隻共に撃沈した可能性が高い。それ以外にも数隻の巡洋艦と2隻の戦艦にも魚雷が命中したはずだ。巡洋艦は撃沈か大破だと思うが、戦艦は小破程度だろう。注意すべき点は、電波妨害しても輪形陣の対空砲火は非常に激しかった。我々も大きな被害を受けた。注意が必要だ」

 すぐに、村田少佐は友永少佐の発言の意図を理解した。
(空母が既に沈んでいる可能性が高いので、海上に見えなければ、戦艦を攻撃しろと言っているのだろう)

 更に、村田少佐は、米艦隊の詳細な位置と編制に対する情報を聞くことができた。

 ……

 日本軍から攻撃を受けてスプルーアンスの艦隊はかなり混乱したが、何とか隊列を組みなおして、南西に変針してオーストラリアを目指していた。既に多数の爆弾と魚雷が命中した「ワスプ」と「ビクトリアス」の姿は海上にはなかった。

 スプルーアンスの艦隊は、南南西に変針して、英海軍との合流を放棄して最短でオーストラリアを目指していた。前後の2群に艦隊が分離していたが、先行していた空母部隊の速度が低下したために、後方を航行していたコロラド型を中心とする戦艦部隊が追いついてきた。

 第一の艦隊は、先頭に重巡「ニューオーリンズ」、その後方に「サウスダコタ」、「マサチューセッツ」、「インディアナ」が縦列になって続いていた。東側の後方に軽巡「ホノルル」を先頭として、「コロラド」、「メリーランド」、「ウェスト・ヴァージニア」の第二の戦艦部隊が続いていた。

 スプルーアンス少将は、「サウスダコタ」の艦上から日本軍の攻撃の様子を目の当たりにしていた。参謀長のムーア大佐に同意を求めた。
「雷撃機の投下した魚雷が戻って命中するのを確かに見たぞ。我が軍の『サンファン』も『ニューカッスル』も我が国の巡洋艦は、音響探知を欺瞞する音源を曳航していたはずだ。それが全く役に立たなかった。誘導法は音響ではないと思うがどうか?」

「間違いなく、音響は関係ありません。あの魚雷は我々の未知の方法で誘導されています。この謎を解かない限り、日本海軍の誘導魚雷から逃れることはできません」

 会話をしている間に、次の攻撃隊がやってきた。さすがに、戦艦のレーダーが接近を探知した。
「東方から編隊が接近。3群に別れた大編隊」

 報告を聞いて意識を切り替えた少将は、大声で命令した。
「全艦隊に命令、対空戦闘準備。射程に入り次第、撃っていいぞ」

 ……

 一航艦の第二次攻撃隊は直線的に接近したために、北側から接近していった。距離から考えて、米艦隊には間違いなく発見されているはずだが、迎撃してくる戦闘機は存在していなかった。

 村田少佐は、彗星の小隊を先行させて米艦隊を観察させていた。被害を受けた空母が低速で航行している可能性を考えたのだ。上空から空母が既に沈没していることを確認すると、少佐は、後方の戦艦部隊の「コロラド」型戦艦を目標と定めた。

 27機の彗星編隊は3群に別れて、後方の3隻の「コロラド」型を狙った。戦艦は、それぞれ単装の25口径の5インチ砲(12.7cm)砲を8門搭載していた。戦艦を護衛していた「ブルックリン」型の軽巡洋艦も同じ25口径の5インチ高射砲を打ち上げてきた。防空巡洋艦や「サウスダコタ」型の対空砲火ほどは激しくないが、それでも3機の彗星が撃墜された。

「コロラド」には、8機の彗星が50番爆弾を投下して、4発が命中した。最上甲板の一層下の装甲甲板は1.75インチ(44mm)を2枚重ねた装甲板で3インチ(76mm)鋼板を超える防御力があったが、斜めに命中した1発を除いて3発に貫通を許した。しかし、その下の合わせ装甲の1.5インチ(38mm)が船体下部の機関部への侵入を防いだ。それでも上部構造が破壊されると共に艦橋の一部が破壊され、レーダーなどの電子機器も使用不能になった。

 同型艦の「メリーランド」と「ウェスト・ヴァージニア」についても7機と9機の彗星が急降下した。その結果それぞれ3発と5発の爆弾が命中して一部を除き装甲板を貫通したが、その下の断片防御装甲に阻止された。「ウェスト・ヴァージニア」は上部構造が破壊され、第二甲板で火災が発生した。

 ほぼ同時に、雷撃機が3隻の戦艦に攻撃を開始した。天山と九七式艦攻を合わせて27機が、縦列となっている戦艦に対して、艦爆と同様に北方から接近していった。低空への降下の途中で4機が撃墜された。

「コロラド」に迫った8機の艦攻が投下した魚雷は、3本が右舷側の中央部から後部にかけて直撃した。次の瞬間、航跡誘導により、2本が艦尾と右舷に命中した。「コロラド」は4層の多重水雷隔壁により、400ポンド(181kg)炸薬の爆発に耐えるだけの防御力を有していた。一方、改良された九一式魚雷改四は、400kgの弾頭に約300kgの炸薬を内蔵していた。

 船体中央部への2本の魚雷は、隔壁の間隔を十分に確保した4層の防御が、水雷区画よりも内側への浸水を阻止した。魚雷の弾頭は3層までは破壊したが、最後の4層目が防いだ。船体前部と後部に命中した3本の魚雷は、縦壁間の距離が狭い4層隔壁に対して爆圧が優った。最も内側の隔壁にも破孔が生じて、機関室や缶室への浸水が始まった。

「メリーランド」に対しては、9本が投下されて5本が命中した。「ウェスト・ヴァージニア」には、6本の魚雷のうちの2本が命中した。いずれの艦も大量の浸水が発生して、機関部にも被害が及んだ。「ウェスト・ヴァージニア」は喫水が増加すると共に、大幅に速度が低下した。「メリーランド」は5本の魚雷の爆発とその後の浸水により、全ての機関が破壊されて海上に停止した。しかも破孔からの大量の浸水により、左舷側への傾斜が始まった。

 スプルーアンスにも、後方部隊の戦艦群が攻撃されている様子が次々と報告されたが、今はどうすることもできない。
「やはり、日本軍は見逃してくれなかったな。間違いなく、攻撃隊はまたやってくる。その時、攻撃されるのは前方の部隊だぞ」
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