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第12章 珊瑚海海戦
12.15章 米艦隊海上戦闘2
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全速で南下していた「大和」を中心とする第一艦隊と「最上」型巡洋艦から構成される第七戦隊は、艦載機の攻撃を受けて速度を落とした米艦隊に急速に接近しつつあった。一航艦の司令部から、艦偵が探知した米艦隊の最新の位置が送られていたので迷うことなく、目標に近づくことができた。深夜になって、「大和」に座乗した第一艦隊司令長官の高須中将のところに報告が上がってきた。
メモを持って、参謀長の小林大佐がやって来た。
「司令、米艦隊を電探が探知しました。方位200度、距離はおよそ40海里(74km)です。なお、逆探が米軍の電波を探知していますので、我が艦隊も探知されているでしょう」
「わかった。まずは15海里(28km)程度まで寄せてくれ。20海里(37km)を切ったら、艦長の判断で適宜砲撃を開始してかまわん」
すぐに高須中将の命令は艦隊の各艦に通知された。中将の指示により、第一戦隊はわずかに変針して、艦首を西南西に向けた。西南に向けて航行している米艦隊と同航戦に持ち込むためだ。高須長官は「大和」型の性能ならば、同航戦で米戦艦と撃ち合っても十分勝てると考えていた。しかも相手は、航空攻撃により手負いだ。日本軍の優勢はますます拡大しているはずだ。
戦艦が接近してきた時、米艦隊は約40マイル(64km)の距離で発見していた。戦艦が搭載したレーダーは日本軍機の爆撃により、破壊されたり不調になっていたが、攻撃を免れていた重巡「ニューオーリンズ」がレーダーで探知したのだ。
米艦隊は先頭が、重巡「ニューオーリンズ」、次に戦艦「サウスダコタ」「マサチューセッツ」やや離れて、「インディアナ」と爆弾により上部構造が激しく損傷した「ウェスト・ヴァージニア」が航行していた。ほとんどの艦が機関に被害を受けていたために、部隊の速度は15ノット程度だった。
スプルーアンス少将は北東からやって来る日本の戦艦が、優位な速度を生かして自分たちの艦隊を追い抜きながら、戦艦対戦艦の主砲戦を挑んでくるものと想定していた。日本艦隊にはあの巨大な新型戦艦が2隻含まれているのだ。傷ついた4隻の米戦艦に対して攻撃を躊躇する理由などないはずだ。
「サウスダコタ」艦長のガッチ大佐が横にやって来ると、スプルーアンス少将は、前を見たまま話しかけた。
「目撃情報によれば、あの新型の巨大戦艦はこの『サウスダコタ』よりも、かなり大きい。従って、攻撃力も防御力も間違いなく優れているはずだ。しかも我々は航空機からの攻撃で既に損傷を受けていて完全な能力は発揮できない。これは、厳しい戦いになるぞ」
「状況が良くないのは心得ています。それでも我々は与えられた条件で最善を尽くすだけです。20マイル(32km)を切った時点で砲撃を開始したいと思います。よろしいですね」
戦艦の性能を考慮した結論として、日米の指揮官はほとんど同じ距離で射撃を開始することを決断していた。高須長官は最新の電探を頼りに夜間砲撃しようと考えていたが、電探が被害を受けた場合は光学照準が必要になることも考えて、零観から吊光弾も投下させた。米海軍は、光学照準を容易にするために、戦艦の左舷側を航行していた「フィラデルフィア」と「ブルックリン」が星弾を打ち上げた。
……
「大和」「武蔵」「長門」「陸奥」の順番で縦列になった戦艦群は、前後に第十一駆逐隊と第十九駆逐隊の8隻の駆逐艦を引き連れて、西南西に向けて航行している米艦隊の北側から接近していった。
高須中将の方針に従って、「大和」は、17海里(31km)になってから射撃を開始した。続いている戦艦群も、旗艦の射撃を見て一斉に撃ち始めた。射撃法は、セオリー通り交互撃ちだ。
この時、「大和」は「サウスダコタ」を狙っていた。後方の「武蔵」は「マサチューセッツ」に照準を合わせていた。同様に「長門」は「インディアナ」を狙って、「陸奥」は「ウェスト・ヴァージニア」を砲撃していた。
日本戦艦が射撃を開始すると、ほぼ同時に西南西の海上にもチカチカとオレンジ糸の光がいくつも輝くのが見えた。米戦艦も発砲を開始したのだ。50秒もしないうちに砲弾が飛んでくるに違いない。日米双方の砲撃は、遠距離でしかも夜間だったために、初弾は全て外れた。それでも、3射目で「大和」の射撃は至近弾を得た。「武蔵」と「長門」もそれに続く。
日本の戦艦が万全の装備で射撃しているのに比べて、米軍の戦艦は大部分が爆撃や魚雷で被害を受けていた。そのために、精密機器であるレーダーや光学測距器は100%の性能を発揮できる状態ではなかった。しかも、「サイスダコタ」は50番爆弾の衝撃により第3砲塔の装填機構が不調となって射撃ができなかった。「ウェスト・ヴァージニア」は、爆撃により上甲板で火災が発生して何とか消火したものの、精密な照準による統制射撃が不可能になっていた。
日本側の射撃の開始時に西南西の米軍の艦隊とは関係ない南を見ていた石塚参謀が、叫んだ。
「前方から友軍の水雷戦隊が接近中です。見えてきました」
第七戦隊の「最上」「三隈」「鈴谷」「熊野」と少し離れて、軽巡「由良」に率いられた第四水雷戦隊の第二駆逐隊、第四駆逐隊、第九駆逐隊の12隻の駆逐艦群が32ノット以上の最大速度で北上してきた。これらの艦隊は、米艦隊から30海里(56km)ほど離れたところを一旦全速で南下してから、主砲の射程外で180度方向転換して、日米の戦艦群に逆行するように南方から東北東に進んできた。ほぼ並行して航行していた米軍と日本軍の戦艦群とすれ違いながら、間に割って入ってくることになった。
第七戦隊の旗艦である「最上」の艦橋では専任参謀の鈴木中佐が、司令官の西村少将に報告していた。
「米戦艦群、本艦の10時方向、距離約13海里(26km)、魚雷発射の準備は完了しています」
「逆航しているので、距離がどんどん詰まっているな。8海里(15km)で魚雷発射せよ」
4隻の重巡は8海里(15km)の距離でやや斜め前方に見える戦艦に向けて魚雷を発射した。「最上」型は、3連装の発射管を4基備えていた。そのうち、左舷から攻撃できるのは、4隻合計で24射線になった。24本の魚雷が米艦隊に向かって航走していった。
しばらくして軽巡「由良」を先頭にして、第四水雷戦隊の駆逐艦が32ノットを超える速度で北上してきた。戦艦部隊を直衛している駆逐隊を除いて、第二駆逐隊と第四駆逐隊の8隻が続いていた。「由良」が4本の魚雷を発射すると、後続の駆逐艦も次々と魚雷を発射した。各駆逐艦が8門の発射管を有するので、68本の魚雷が米戦艦に向かっていった。
魚雷発射とほぼ同時に、日本戦艦の射撃が米戦艦に命中していた。水雷戦隊が接近した時には、「大和」の射撃は既に「サウスダコタ」を夾叉していた。その後に、一斉打方に移行して最初の射撃で命中弾を得た。船体の舷側に命中した46cm砲弾は、この距離ならば、450mm以上の垂直装甲を貫通できる威力があった。そのため、米戦艦の12.2インチ(310mm)の垂直装甲とその内側の1.75インチ(44mm)の傾斜装甲も破って、缶室に侵入して爆発した。
ほぼ同時に「武蔵」の砲弾が「マサチューセッツ」の第2砲塔に命中した。砲塔下部に命中した砲弾は1.5インチ(38mm)の上甲板の装甲を破って砲塔下のバーベットに斜めに命中した。17.3インチ(439mm)の装甲がかろうじて貫通を防いで弾薬庫の誘爆を防いだ。しかし、バーベットに亀裂が発生して第2砲塔の射撃が不可能になった。
被弾する前に「マサチューセッツ」が放った砲弾は、大部分が「武蔵」の右舷側に近弾となって落下した。しかし、1弾が船体後部の喫水線直下の舷側に命中した。16インチ弾は舷側のバルジを突き破ると、410mmの傾斜装甲の下端あたりに命中した。分厚い舷側装甲は砲弾の命中に耐えたために、16インチ弾は舷側外部で爆発した。船体後部の水雷防御を兼ねたバルジには浸水が発生したが、装甲板で守られた防御区画内部の被害は発生しなかった。
「インディアナ」と撃ち合っていた「長門」は、双方が16インチ砲でありそこまで有利な戦いを展開できなかった。魚雷の命中により機関に損害を生じていた「インディアナ」は速度が大きく低下して、喫水も増加していたが、爆弾の被害を免れた上部構造の被害は比較的少なかった。そのため、Mark38方位盤の上に搭載されたばかりのMark8レーダーも活用して、射撃を続けられた。
まず、「長門」が「インディアナ」に1弾を命中させた。舷側に斜めに命中した16インチ弾は、「インディアナ」の12.2インチ(310mm)の垂直装甲を貫通したが、内側の1.75インチ(44mm)装甲の上面で爆発した。
一方、「長門」には2発の16インチ砲弾が命中した。最初の1弾は第1砲塔の天蓋に命中して230mmの天蓋を貫通すると砲塔内で爆発した。砲塔から黒煙が立ち上って、砲塔の天井が陥没した。砲身の先端が甲板上に垂れ下がって、第1砲塔は射撃が不可能になった。更に、1弾が後部艦橋の後方に命中した。70mmと25mmを張り合わせた最上甲板の水平装甲を貫通すると、上甲板の50mm装甲と下甲板の50mm装甲も突破した。16インチ砲弾が機関室内で爆発した。内軸の2軸の推進器が停止した「長門」は、すぐに隊列から遅れ始めた。
既に、正確な砲撃ができなくなっていた「ウェスト・ヴァージニア」には「陸奥」が2発を命中させていた。船体中央部の後部煙突の前後に相次いで命中した2弾は、装甲甲板の3インチ(76mm)装甲を破って、下甲板の1.5インチ(38mm)装甲も貫通した。缶室で爆発した砲弾によりボイラーが破壊された。缶の損傷により低下していた速度が更に落ちてゆくと共に、亀裂による缶室への浸水が始まった。
……
戦艦の砲撃中にも、日本軍の発射した魚雷は米艦隊に向かっていた。米戦艦の縦列の東側を護衛していた軽巡「ブルックリン」の後方には、「ハムマン」「グウィン」「アンダーソン」などの6隻の駆逐艦が1列になって続いていた。同様に、「フィラデルフィア」は後方に「フェルプス」「ウォーデン」など4隻の駆逐艦が距離を空けて縦列で続いていた。前方から巡洋艦隊が逆行してくるのを認めて、日本艦隊に向けて進んでいった。
「ブルックリン」と「フィラデルフィア」は、司令部からの指示に従って速度を落として接近してくる巡洋艦と駆逐艦を注意深く観察していた。照明弾に照らされた駆逐艦から魚雷が発射される様子を望遠鏡で見ていた。しかも、砲戦が始まると海中の音はかなり聞きづらくなったが、海面への弾着の合間に、魚雷の航走音を聴くことができた。さすがに、100本近くの魚雷の海中騒音はかなりの大きさになったので、水上戦闘中でも魚雷が接近してくるのをかろうじて聴き取れた。
「艦長、日本の巡洋艦と駆逐艦が魚雷を発射したようです。視認と聴音で確認しています。雷数は数十以上、数えられないほどの多数です」
「ブルックリン」艦長のコンプトン大佐はすぐに応答した。彼は、スプルーアンスの司令部から、考案したばかりの魚雷対策を既に教えられていた。
「日本海軍は明らかに誘導魚雷を使用してくるぞ。あらかじめ指示したとおり、駆逐艦は爆雷の投下と魚雷発射の準備をせよ。投下のタイミングが重要だ」
メモを持って、参謀長の小林大佐がやって来た。
「司令、米艦隊を電探が探知しました。方位200度、距離はおよそ40海里(74km)です。なお、逆探が米軍の電波を探知していますので、我が艦隊も探知されているでしょう」
「わかった。まずは15海里(28km)程度まで寄せてくれ。20海里(37km)を切ったら、艦長の判断で適宜砲撃を開始してかまわん」
すぐに高須中将の命令は艦隊の各艦に通知された。中将の指示により、第一戦隊はわずかに変針して、艦首を西南西に向けた。西南に向けて航行している米艦隊と同航戦に持ち込むためだ。高須長官は「大和」型の性能ならば、同航戦で米戦艦と撃ち合っても十分勝てると考えていた。しかも相手は、航空攻撃により手負いだ。日本軍の優勢はますます拡大しているはずだ。
戦艦が接近してきた時、米艦隊は約40マイル(64km)の距離で発見していた。戦艦が搭載したレーダーは日本軍機の爆撃により、破壊されたり不調になっていたが、攻撃を免れていた重巡「ニューオーリンズ」がレーダーで探知したのだ。
米艦隊は先頭が、重巡「ニューオーリンズ」、次に戦艦「サウスダコタ」「マサチューセッツ」やや離れて、「インディアナ」と爆弾により上部構造が激しく損傷した「ウェスト・ヴァージニア」が航行していた。ほとんどの艦が機関に被害を受けていたために、部隊の速度は15ノット程度だった。
スプルーアンス少将は北東からやって来る日本の戦艦が、優位な速度を生かして自分たちの艦隊を追い抜きながら、戦艦対戦艦の主砲戦を挑んでくるものと想定していた。日本艦隊にはあの巨大な新型戦艦が2隻含まれているのだ。傷ついた4隻の米戦艦に対して攻撃を躊躇する理由などないはずだ。
「サウスダコタ」艦長のガッチ大佐が横にやって来ると、スプルーアンス少将は、前を見たまま話しかけた。
「目撃情報によれば、あの新型の巨大戦艦はこの『サウスダコタ』よりも、かなり大きい。従って、攻撃力も防御力も間違いなく優れているはずだ。しかも我々は航空機からの攻撃で既に損傷を受けていて完全な能力は発揮できない。これは、厳しい戦いになるぞ」
「状況が良くないのは心得ています。それでも我々は与えられた条件で最善を尽くすだけです。20マイル(32km)を切った時点で砲撃を開始したいと思います。よろしいですね」
戦艦の性能を考慮した結論として、日米の指揮官はほとんど同じ距離で射撃を開始することを決断していた。高須長官は最新の電探を頼りに夜間砲撃しようと考えていたが、電探が被害を受けた場合は光学照準が必要になることも考えて、零観から吊光弾も投下させた。米海軍は、光学照準を容易にするために、戦艦の左舷側を航行していた「フィラデルフィア」と「ブルックリン」が星弾を打ち上げた。
……
「大和」「武蔵」「長門」「陸奥」の順番で縦列になった戦艦群は、前後に第十一駆逐隊と第十九駆逐隊の8隻の駆逐艦を引き連れて、西南西に向けて航行している米艦隊の北側から接近していった。
高須中将の方針に従って、「大和」は、17海里(31km)になってから射撃を開始した。続いている戦艦群も、旗艦の射撃を見て一斉に撃ち始めた。射撃法は、セオリー通り交互撃ちだ。
この時、「大和」は「サウスダコタ」を狙っていた。後方の「武蔵」は「マサチューセッツ」に照準を合わせていた。同様に「長門」は「インディアナ」を狙って、「陸奥」は「ウェスト・ヴァージニア」を砲撃していた。
日本戦艦が射撃を開始すると、ほぼ同時に西南西の海上にもチカチカとオレンジ糸の光がいくつも輝くのが見えた。米戦艦も発砲を開始したのだ。50秒もしないうちに砲弾が飛んでくるに違いない。日米双方の砲撃は、遠距離でしかも夜間だったために、初弾は全て外れた。それでも、3射目で「大和」の射撃は至近弾を得た。「武蔵」と「長門」もそれに続く。
日本の戦艦が万全の装備で射撃しているのに比べて、米軍の戦艦は大部分が爆撃や魚雷で被害を受けていた。そのために、精密機器であるレーダーや光学測距器は100%の性能を発揮できる状態ではなかった。しかも、「サイスダコタ」は50番爆弾の衝撃により第3砲塔の装填機構が不調となって射撃ができなかった。「ウェスト・ヴァージニア」は、爆撃により上甲板で火災が発生して何とか消火したものの、精密な照準による統制射撃が不可能になっていた。
日本側の射撃の開始時に西南西の米軍の艦隊とは関係ない南を見ていた石塚参謀が、叫んだ。
「前方から友軍の水雷戦隊が接近中です。見えてきました」
第七戦隊の「最上」「三隈」「鈴谷」「熊野」と少し離れて、軽巡「由良」に率いられた第四水雷戦隊の第二駆逐隊、第四駆逐隊、第九駆逐隊の12隻の駆逐艦群が32ノット以上の最大速度で北上してきた。これらの艦隊は、米艦隊から30海里(56km)ほど離れたところを一旦全速で南下してから、主砲の射程外で180度方向転換して、日米の戦艦群に逆行するように南方から東北東に進んできた。ほぼ並行して航行していた米軍と日本軍の戦艦群とすれ違いながら、間に割って入ってくることになった。
第七戦隊の旗艦である「最上」の艦橋では専任参謀の鈴木中佐が、司令官の西村少将に報告していた。
「米戦艦群、本艦の10時方向、距離約13海里(26km)、魚雷発射の準備は完了しています」
「逆航しているので、距離がどんどん詰まっているな。8海里(15km)で魚雷発射せよ」
4隻の重巡は8海里(15km)の距離でやや斜め前方に見える戦艦に向けて魚雷を発射した。「最上」型は、3連装の発射管を4基備えていた。そのうち、左舷から攻撃できるのは、4隻合計で24射線になった。24本の魚雷が米艦隊に向かって航走していった。
しばらくして軽巡「由良」を先頭にして、第四水雷戦隊の駆逐艦が32ノットを超える速度で北上してきた。戦艦部隊を直衛している駆逐隊を除いて、第二駆逐隊と第四駆逐隊の8隻が続いていた。「由良」が4本の魚雷を発射すると、後続の駆逐艦も次々と魚雷を発射した。各駆逐艦が8門の発射管を有するので、68本の魚雷が米戦艦に向かっていった。
魚雷発射とほぼ同時に、日本戦艦の射撃が米戦艦に命中していた。水雷戦隊が接近した時には、「大和」の射撃は既に「サウスダコタ」を夾叉していた。その後に、一斉打方に移行して最初の射撃で命中弾を得た。船体の舷側に命中した46cm砲弾は、この距離ならば、450mm以上の垂直装甲を貫通できる威力があった。そのため、米戦艦の12.2インチ(310mm)の垂直装甲とその内側の1.75インチ(44mm)の傾斜装甲も破って、缶室に侵入して爆発した。
ほぼ同時に「武蔵」の砲弾が「マサチューセッツ」の第2砲塔に命中した。砲塔下部に命中した砲弾は1.5インチ(38mm)の上甲板の装甲を破って砲塔下のバーベットに斜めに命中した。17.3インチ(439mm)の装甲がかろうじて貫通を防いで弾薬庫の誘爆を防いだ。しかし、バーベットに亀裂が発生して第2砲塔の射撃が不可能になった。
被弾する前に「マサチューセッツ」が放った砲弾は、大部分が「武蔵」の右舷側に近弾となって落下した。しかし、1弾が船体後部の喫水線直下の舷側に命中した。16インチ弾は舷側のバルジを突き破ると、410mmの傾斜装甲の下端あたりに命中した。分厚い舷側装甲は砲弾の命中に耐えたために、16インチ弾は舷側外部で爆発した。船体後部の水雷防御を兼ねたバルジには浸水が発生したが、装甲板で守られた防御区画内部の被害は発生しなかった。
「インディアナ」と撃ち合っていた「長門」は、双方が16インチ砲でありそこまで有利な戦いを展開できなかった。魚雷の命中により機関に損害を生じていた「インディアナ」は速度が大きく低下して、喫水も増加していたが、爆弾の被害を免れた上部構造の被害は比較的少なかった。そのため、Mark38方位盤の上に搭載されたばかりのMark8レーダーも活用して、射撃を続けられた。
まず、「長門」が「インディアナ」に1弾を命中させた。舷側に斜めに命中した16インチ弾は、「インディアナ」の12.2インチ(310mm)の垂直装甲を貫通したが、内側の1.75インチ(44mm)装甲の上面で爆発した。
一方、「長門」には2発の16インチ砲弾が命中した。最初の1弾は第1砲塔の天蓋に命中して230mmの天蓋を貫通すると砲塔内で爆発した。砲塔から黒煙が立ち上って、砲塔の天井が陥没した。砲身の先端が甲板上に垂れ下がって、第1砲塔は射撃が不可能になった。更に、1弾が後部艦橋の後方に命中した。70mmと25mmを張り合わせた最上甲板の水平装甲を貫通すると、上甲板の50mm装甲と下甲板の50mm装甲も突破した。16インチ砲弾が機関室内で爆発した。内軸の2軸の推進器が停止した「長門」は、すぐに隊列から遅れ始めた。
既に、正確な砲撃ができなくなっていた「ウェスト・ヴァージニア」には「陸奥」が2発を命中させていた。船体中央部の後部煙突の前後に相次いで命中した2弾は、装甲甲板の3インチ(76mm)装甲を破って、下甲板の1.5インチ(38mm)装甲も貫通した。缶室で爆発した砲弾によりボイラーが破壊された。缶の損傷により低下していた速度が更に落ちてゆくと共に、亀裂による缶室への浸水が始まった。
……
戦艦の砲撃中にも、日本軍の発射した魚雷は米艦隊に向かっていた。米戦艦の縦列の東側を護衛していた軽巡「ブルックリン」の後方には、「ハムマン」「グウィン」「アンダーソン」などの6隻の駆逐艦が1列になって続いていた。同様に、「フィラデルフィア」は後方に「フェルプス」「ウォーデン」など4隻の駆逐艦が距離を空けて縦列で続いていた。前方から巡洋艦隊が逆行してくるのを認めて、日本艦隊に向けて進んでいった。
「ブルックリン」と「フィラデルフィア」は、司令部からの指示に従って速度を落として接近してくる巡洋艦と駆逐艦を注意深く観察していた。照明弾に照らされた駆逐艦から魚雷が発射される様子を望遠鏡で見ていた。しかも、砲戦が始まると海中の音はかなり聞きづらくなったが、海面への弾着の合間に、魚雷の航走音を聴くことができた。さすがに、100本近くの魚雷の海中騒音はかなりの大きさになったので、水上戦闘中でも魚雷が接近してくるのをかろうじて聴き取れた。
「艦長、日本の巡洋艦と駆逐艦が魚雷を発射したようです。視認と聴音で確認しています。雷数は数十以上、数えられないほどの多数です」
「ブルックリン」艦長のコンプトン大佐はすぐに応答した。彼は、スプルーアンスの司令部から、考案したばかりの魚雷対策を既に教えられていた。
「日本海軍は明らかに誘導魚雷を使用してくるぞ。あらかじめ指示したとおり、駆逐艦は爆雷の投下と魚雷発射の準備をせよ。投下のタイミングが重要だ」
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