77 / 173
第13章 東太平洋の戦い
13.2章 日本海軍の情勢分析
しおりを挟む
軍令部では、連合艦隊が日本本国に帰着する前から、今回の珊瑚海の戦闘について分析を開始していた。既に、連合艦隊の戦果については集計が終わっている。しかも、オーストラリアをはじめとして、米国や英国からも諜報により情報を集めていた。
富岡課長が情勢分析を説明していた。
「……以上説明したように、オーストラリアに向かっていた艦隊の空母と戦艦をほとんど沈めました。巡洋艦級の艦船も大部分は残っていないと思われます。当面の間、太平洋において我が艦隊に対抗できる海上戦力は消滅しました。それでも我が軍にとって課題が明らかになっています。 まずはそれから説明します」
大佐が解説した要点は以下の4項目だった。
・烈風と同程度の性能を有する新型の艦上戦闘機が登場した。速度や上昇力性能から考えて、2000馬力級エンジンを搭載していると考えられる。
・駆逐艦が発射した航跡誘導魚雷が初めて妨害された。爆雷の水中爆発により、何も存在しない場所に誘導されれば、無誘導魚雷よりも命中率が低下する可能性が考えられる。
・米艦艇の対空砲火による攻撃隊の被害が想定以上に大きい。
・我が軍の損害については、「武蔵」と「最上」「由良」及び数隻の駆逐艦が小破、「長門」「熊野」「三隈」「野分」が大破ないし中破の損害を受けた。数隻の駆逐艦が魚雷により沈没している。
伊藤次長が質問した。
「零戦では、新型機に対抗することは難しいと聞いたが、有効な対策はあるのかね?」
「対抗が可能な烈風への置き換えを加速するしかありません。幸い全備で4トン級の烈風は、九七式艦攻と同程度の重量なので、飛行甲板の大幅な強化をしなくてもほとんどの空母に配備できます。当面の間は烈風で対応することになります。但し、烈風も発動機の性能を向上させた改良型を開発中だと聞いていますので、米軍機の性能を凌ぐ艦戦が将来は配備されると思います」
「航跡追尾魚雷の回避法については、爆雷を使ったと聞いたぞ。しかし、多数の爆雷を使う限り、戦闘中に簡単に使えるわけじゃないだろう」
「いいえ、これは由々しき事態です。爆雷の水中爆発が魚雷の回避に有効であることが証明されました。その原理を利用して、新たな防御用の装備を米軍は開発するはずです。海中に複数の小型爆雷をばらまくような兵器だと想像しますが、開発が完了すれば、すぐにも多くの艦が搭載しますよ。そうなれば、誘導魚雷はかなり使いにくくなります。作戦面での工夫が必要になります」
「敵艦隊の対空砲火については、どんな評価なのか? 防空巡洋艦や戦艦の新しい対空火器は有効だったと聞いたが間違いないのだな」
「米軍の防空巡洋艦や新型戦艦は性能の良い12.7センチ砲と新しい40mm機関砲を搭載しています。英軍については、13センチクラスの高角砲を使用しているようです。強力な対空砲火に対して、何の対策もしないで接近すれば被害が増加するのは明らかです。対空火器を優先してつぶすなど、戦術面での工夫と遠方からの攻撃兵器などの双方の対策が必要です」
「それで、この度の作戦指揮については、第一部はどのような評価をしているのか?」
珊瑚海の戦いに対する作戦評価について、富岡大佐が説明したのは以下の5点だった。
・計算機の予測はおおむね妥当だった。今後も計算機を活用すべきである。
・空母搭載の戦闘機の比率を増加させたが、迎撃戦でも攻撃でも有効だった。なお、アメリカ海軍も戦闘機の有用性を認識して、同様に艦戦の数を増やしていることが判明した。
・戦艦の砲撃と水雷戦隊の魚雷攻撃の双方で米艦隊を撃滅する作戦は成功だった。これについては、海軍の従来の作戦に対する考え方と計算機が出した答えが一致していた。但し、連合軍で誘導魚雷対策が実施されれば、今後は有効性が低下するだろう。
・計算機間通信により情報を旗艦の「青葉」に集中させたのは、戦闘の進展もすぐに判明して、艦隊や航空隊指揮に非常に有効だった。艦艇間の計算機による通信の仕組みをもっと多くの艦に整備すべきである。
・一航艦は第三次攻撃隊までで攻撃を終わらせた。しかし、もっと積極的に航空攻撃を繰り返すべきであった。
「おおむね私の意見とも合致しているな。有効な対策は加速するように進言しよう。一航艦の指揮については特に表には出さない。一航艦の戦果が特段小さかったわけではないからな。軍令部の一部の担当員から出た話として、山本さんの耳に入れる程度にとどめる」
「それで、この戦いで我々は太平洋で有利になった。我が国の優位はいつまで続くと考えてよいのかね?」
これには、米大陸担当の立花課長が答えた。
「昭和18年の後半になれば、アメリカで建造中の戦艦や空母が次々と就役します。巡洋艦、駆逐艦も我が国よりもかなりの多数を建造中です。それが実現したならば、我が国の海上戦力を上回る可能性さえあります」
再び富岡大佐が意見を述べた。
「我々が優位に戦える1年という期間を生かす必要があります。その間に米国の継戦意欲を失わせるような作戦を実行しなければなりません。1年が過ぎれば、戦力的に我々が不利になってその差がどんどん拡大してゆくと考えられます」
軍令部第3部長に就任したばかりの矢野少将が意見を述べた。
「オーストラリアとニュージーランドから外務省に打診のあった件ですが、まもなく妥結するでしょう。我が国からは、これらの国家の領土内に駐留している米軍と英軍の撤退を要求しています。加えて、これらの国から米軍と英軍への軍事物資の提供を規制します。また、南洋諸島を中心とした交戦の可能性のある海域での輸送船の航行を制限します。これらの要求をオーストラリアとニュージーランドは拒否できないでしょう。この条件で我が国も手打ちをする見込みになっています」
伊藤次長が一通り意見が出たかどうかを確認するように周りを見回した。
「富岡大佐の優位な状態を生かせとの発言はもっともだ。しかし、すぐに手を打てない事情もある。帰国の途についた連合艦隊からの情報だが、艦上機に被害が出ている。撃墜された機体も無視できない数だが、帰投できた機体も損傷しているようだ。おそらく、米英軍の対空砲火の強さと反復して攻撃したことが理由だろう。大至急、空母の飛行隊の回復について手を打つ必要がある」
富岡大佐も戦力回復の必要性については同じ意見だった。
「さすがに、連続して機動部隊を投入することは無理でしょうね。まずは、潜水艦による作戦を実行します。その後は、戦力を回復した空母を使った作戦を実行します」
「潜水艦の作戦目標はどこにするのかね?」
「今までは、太平洋に広く潜水艦を配備していましたが、重点は我が国の周辺からミッドウェー、ハワイあたりまでの太平洋の西側でした。今後は、太平洋の東側へと重点を移すことを考えています」
「輸送船の航路でもわかっていない限り、行動海域をむやみに拡大すると、潜水艦の攻撃目標は逆に減ることになるぞ。効率的な配備を考えないと、かえって戦果が減ることになるのではないか?」
「実は、米国での諜報活動と電文解読から、我が軍の潜水艦の行動を警戒して、護送船団を組み始めることが判明しています。サンフランシスコ、あるいはサンディエゴから西への船団が対象になるでしょう。我々もこの船団に対抗した攻撃法に変更する必要があります。潜水艦配備を変える大きな理由はこれです」
「それと空母の戦力を回復させて作戦に使うと言ったが、機動部隊により何を攻撃させようというのかね?」
「まだ、検討中ですが、米国の輸送路を壊滅させるにはどうしたらいいのかを考えています。本当に可能なのか、確認が必要なのでまずは連合艦隊の意見を聞いてみますよ。幸いにも呉の空襲で被害を受けた戦艦を空母に改修してましたが、その作業が完了しつつあります。誘導弾を搭載した防空艦の工事も終わりつつあります。兵力を増強した艦隊が使える見込みです」
伊藤次長は、作戦内容をぼかした小ばかにしたような発言にむっとしたが、冷静に返事をした。
「現状では作戦が決まっていないということだな。そうであれば、我々に話せるようになったら教えてくれ。それまでは富岡君個人の検討事項だな」
……
山本長官は日本に戻ってくると、日をあけずに海軍省を訪問した。米内大臣に会うためだ。
米内大臣は開口一番、連合艦隊の活躍をべた褒めした。
「本当にご苦労さん。英軍と米軍の2面作戦だったにもかかわらず、見事な勝ち戦だったな。連合艦隊が活躍してくれたおかげで、太平洋の英米の大型艦はほぼ全滅だ。これで彼らはしばらく攻勢に出ることは不可能だろう」
「それでも今の状況では、まだまだ不十分です。米国の生産力は巨大なので急速に戦力は回復します。艦船や航空機が充足すれば一斉に攻勢に転じるはずです。そんなことになる前に、できる限り早く停戦に持ち込まなければなりません」
「オーストラリアもニュージーランドも我が国と戦わないことに合意した。米英との関係も、早く同様になりたいものだな」
「これに続いて上陸作戦を実行すれば効果は大きいのですが、やはり他国領土への侵攻は禁止的ですか?」
「ああ、領土を拡大するような戦いはだめだ。これは政府の意向ではない。お上の意思だ。その条件を順守したうえで、休戦に近づく次の作戦は考えているのかね?」
「アメリカが戦いをやめると言うまでには、もう一押しが必要です。それも強力な一突きでなければ米国は考えを変えないでしょう。例えば米軍の重要拠点への攻撃により、米政府に大きな影響を与えるようなことを考えています。以前は、真珠湾を候補として考えていましたが、海戦によりほとんどの空母や戦艦を沈めました。ハワイを攻撃すれば、残りの戦艦や艦艇を沈められるので、影響はあるでしょうが、それだけではまだ不十分だと思っています。もっと効果的な作戦を実行しなければなりません」
「次の作戦はどこが目標なのだ? 基本的には君の判断を応援するつもりだが、さすがに目標もわからないのではやりようがない」
「被害を受けた航空隊が回復するまでは、日本本土に残った戦力による作戦と潜水艦による通商破壊作戦が主になります。しかし、ある程度持ち直したら攻勢に出る予定です。考えている目標はここです」
世界地図上で山本長官が指さしたのは、北アメリカの西岸と南北アメリカの間の地峡が細くなった地域の双方だった。
「アメリカ大陸には有力な陸軍と海軍の航空部隊が配備されているぞ。中途半端な戦力で攻撃すれば、米軍の呉攻撃の二の舞を演じることになりかねないぞ」
「ええ、心得ています。本当に作戦を実行するならば、もちろん使える限りの艦隊を動員して攻撃しますよ。それに加えて、いくつかの新兵器も使えるようになったので、重要設備の攻撃に用いるつもりです。アメリカ本土への攻撃が成功すれば、アメリカ政府への打撃の大きさは計り知れないでしょう。そうなれば、ルーズベルト大統領も太平洋での戦闘停止を考えるはずです。絶対に実行すべき作戦だと考えています」
米内大臣は、山本長官が複数の地点を地図上で指したことに不安を抱いていた。攻撃対象をもっと絞って、戦力を集中すべきだと感じたのだ。
(早期講和を望むあまり、目の前のこの男は少しばかり焦っているのではないだろうか)
「米内さん。不安ですか?」
「結果がはっきりしてた安心できる作戦などないだろう。危険性をわかったうえで実行するというならば、何も言うことはない。お手並みを拝見させていただこうじゃないか」
「その通りです。危険性のない戦いなど存在しません。危険度と成果を天秤にかけて、得られる効果が大きいのであれば、私は躊躇しませんよ」
富岡課長が情勢分析を説明していた。
「……以上説明したように、オーストラリアに向かっていた艦隊の空母と戦艦をほとんど沈めました。巡洋艦級の艦船も大部分は残っていないと思われます。当面の間、太平洋において我が艦隊に対抗できる海上戦力は消滅しました。それでも我が軍にとって課題が明らかになっています。 まずはそれから説明します」
大佐が解説した要点は以下の4項目だった。
・烈風と同程度の性能を有する新型の艦上戦闘機が登場した。速度や上昇力性能から考えて、2000馬力級エンジンを搭載していると考えられる。
・駆逐艦が発射した航跡誘導魚雷が初めて妨害された。爆雷の水中爆発により、何も存在しない場所に誘導されれば、無誘導魚雷よりも命中率が低下する可能性が考えられる。
・米艦艇の対空砲火による攻撃隊の被害が想定以上に大きい。
・我が軍の損害については、「武蔵」と「最上」「由良」及び数隻の駆逐艦が小破、「長門」「熊野」「三隈」「野分」が大破ないし中破の損害を受けた。数隻の駆逐艦が魚雷により沈没している。
伊藤次長が質問した。
「零戦では、新型機に対抗することは難しいと聞いたが、有効な対策はあるのかね?」
「対抗が可能な烈風への置き換えを加速するしかありません。幸い全備で4トン級の烈風は、九七式艦攻と同程度の重量なので、飛行甲板の大幅な強化をしなくてもほとんどの空母に配備できます。当面の間は烈風で対応することになります。但し、烈風も発動機の性能を向上させた改良型を開発中だと聞いていますので、米軍機の性能を凌ぐ艦戦が将来は配備されると思います」
「航跡追尾魚雷の回避法については、爆雷を使ったと聞いたぞ。しかし、多数の爆雷を使う限り、戦闘中に簡単に使えるわけじゃないだろう」
「いいえ、これは由々しき事態です。爆雷の水中爆発が魚雷の回避に有効であることが証明されました。その原理を利用して、新たな防御用の装備を米軍は開発するはずです。海中に複数の小型爆雷をばらまくような兵器だと想像しますが、開発が完了すれば、すぐにも多くの艦が搭載しますよ。そうなれば、誘導魚雷はかなり使いにくくなります。作戦面での工夫が必要になります」
「敵艦隊の対空砲火については、どんな評価なのか? 防空巡洋艦や戦艦の新しい対空火器は有効だったと聞いたが間違いないのだな」
「米軍の防空巡洋艦や新型戦艦は性能の良い12.7センチ砲と新しい40mm機関砲を搭載しています。英軍については、13センチクラスの高角砲を使用しているようです。強力な対空砲火に対して、何の対策もしないで接近すれば被害が増加するのは明らかです。対空火器を優先してつぶすなど、戦術面での工夫と遠方からの攻撃兵器などの双方の対策が必要です」
「それで、この度の作戦指揮については、第一部はどのような評価をしているのか?」
珊瑚海の戦いに対する作戦評価について、富岡大佐が説明したのは以下の5点だった。
・計算機の予測はおおむね妥当だった。今後も計算機を活用すべきである。
・空母搭載の戦闘機の比率を増加させたが、迎撃戦でも攻撃でも有効だった。なお、アメリカ海軍も戦闘機の有用性を認識して、同様に艦戦の数を増やしていることが判明した。
・戦艦の砲撃と水雷戦隊の魚雷攻撃の双方で米艦隊を撃滅する作戦は成功だった。これについては、海軍の従来の作戦に対する考え方と計算機が出した答えが一致していた。但し、連合軍で誘導魚雷対策が実施されれば、今後は有効性が低下するだろう。
・計算機間通信により情報を旗艦の「青葉」に集中させたのは、戦闘の進展もすぐに判明して、艦隊や航空隊指揮に非常に有効だった。艦艇間の計算機による通信の仕組みをもっと多くの艦に整備すべきである。
・一航艦は第三次攻撃隊までで攻撃を終わらせた。しかし、もっと積極的に航空攻撃を繰り返すべきであった。
「おおむね私の意見とも合致しているな。有効な対策は加速するように進言しよう。一航艦の指揮については特に表には出さない。一航艦の戦果が特段小さかったわけではないからな。軍令部の一部の担当員から出た話として、山本さんの耳に入れる程度にとどめる」
「それで、この戦いで我々は太平洋で有利になった。我が国の優位はいつまで続くと考えてよいのかね?」
これには、米大陸担当の立花課長が答えた。
「昭和18年の後半になれば、アメリカで建造中の戦艦や空母が次々と就役します。巡洋艦、駆逐艦も我が国よりもかなりの多数を建造中です。それが実現したならば、我が国の海上戦力を上回る可能性さえあります」
再び富岡大佐が意見を述べた。
「我々が優位に戦える1年という期間を生かす必要があります。その間に米国の継戦意欲を失わせるような作戦を実行しなければなりません。1年が過ぎれば、戦力的に我々が不利になってその差がどんどん拡大してゆくと考えられます」
軍令部第3部長に就任したばかりの矢野少将が意見を述べた。
「オーストラリアとニュージーランドから外務省に打診のあった件ですが、まもなく妥結するでしょう。我が国からは、これらの国家の領土内に駐留している米軍と英軍の撤退を要求しています。加えて、これらの国から米軍と英軍への軍事物資の提供を規制します。また、南洋諸島を中心とした交戦の可能性のある海域での輸送船の航行を制限します。これらの要求をオーストラリアとニュージーランドは拒否できないでしょう。この条件で我が国も手打ちをする見込みになっています」
伊藤次長が一通り意見が出たかどうかを確認するように周りを見回した。
「富岡大佐の優位な状態を生かせとの発言はもっともだ。しかし、すぐに手を打てない事情もある。帰国の途についた連合艦隊からの情報だが、艦上機に被害が出ている。撃墜された機体も無視できない数だが、帰投できた機体も損傷しているようだ。おそらく、米英軍の対空砲火の強さと反復して攻撃したことが理由だろう。大至急、空母の飛行隊の回復について手を打つ必要がある」
富岡大佐も戦力回復の必要性については同じ意見だった。
「さすがに、連続して機動部隊を投入することは無理でしょうね。まずは、潜水艦による作戦を実行します。その後は、戦力を回復した空母を使った作戦を実行します」
「潜水艦の作戦目標はどこにするのかね?」
「今までは、太平洋に広く潜水艦を配備していましたが、重点は我が国の周辺からミッドウェー、ハワイあたりまでの太平洋の西側でした。今後は、太平洋の東側へと重点を移すことを考えています」
「輸送船の航路でもわかっていない限り、行動海域をむやみに拡大すると、潜水艦の攻撃目標は逆に減ることになるぞ。効率的な配備を考えないと、かえって戦果が減ることになるのではないか?」
「実は、米国での諜報活動と電文解読から、我が軍の潜水艦の行動を警戒して、護送船団を組み始めることが判明しています。サンフランシスコ、あるいはサンディエゴから西への船団が対象になるでしょう。我々もこの船団に対抗した攻撃法に変更する必要があります。潜水艦配備を変える大きな理由はこれです」
「それと空母の戦力を回復させて作戦に使うと言ったが、機動部隊により何を攻撃させようというのかね?」
「まだ、検討中ですが、米国の輸送路を壊滅させるにはどうしたらいいのかを考えています。本当に可能なのか、確認が必要なのでまずは連合艦隊の意見を聞いてみますよ。幸いにも呉の空襲で被害を受けた戦艦を空母に改修してましたが、その作業が完了しつつあります。誘導弾を搭載した防空艦の工事も終わりつつあります。兵力を増強した艦隊が使える見込みです」
伊藤次長は、作戦内容をぼかした小ばかにしたような発言にむっとしたが、冷静に返事をした。
「現状では作戦が決まっていないということだな。そうであれば、我々に話せるようになったら教えてくれ。それまでは富岡君個人の検討事項だな」
……
山本長官は日本に戻ってくると、日をあけずに海軍省を訪問した。米内大臣に会うためだ。
米内大臣は開口一番、連合艦隊の活躍をべた褒めした。
「本当にご苦労さん。英軍と米軍の2面作戦だったにもかかわらず、見事な勝ち戦だったな。連合艦隊が活躍してくれたおかげで、太平洋の英米の大型艦はほぼ全滅だ。これで彼らはしばらく攻勢に出ることは不可能だろう」
「それでも今の状況では、まだまだ不十分です。米国の生産力は巨大なので急速に戦力は回復します。艦船や航空機が充足すれば一斉に攻勢に転じるはずです。そんなことになる前に、できる限り早く停戦に持ち込まなければなりません」
「オーストラリアもニュージーランドも我が国と戦わないことに合意した。米英との関係も、早く同様になりたいものだな」
「これに続いて上陸作戦を実行すれば効果は大きいのですが、やはり他国領土への侵攻は禁止的ですか?」
「ああ、領土を拡大するような戦いはだめだ。これは政府の意向ではない。お上の意思だ。その条件を順守したうえで、休戦に近づく次の作戦は考えているのかね?」
「アメリカが戦いをやめると言うまでには、もう一押しが必要です。それも強力な一突きでなければ米国は考えを変えないでしょう。例えば米軍の重要拠点への攻撃により、米政府に大きな影響を与えるようなことを考えています。以前は、真珠湾を候補として考えていましたが、海戦によりほとんどの空母や戦艦を沈めました。ハワイを攻撃すれば、残りの戦艦や艦艇を沈められるので、影響はあるでしょうが、それだけではまだ不十分だと思っています。もっと効果的な作戦を実行しなければなりません」
「次の作戦はどこが目標なのだ? 基本的には君の判断を応援するつもりだが、さすがに目標もわからないのではやりようがない」
「被害を受けた航空隊が回復するまでは、日本本土に残った戦力による作戦と潜水艦による通商破壊作戦が主になります。しかし、ある程度持ち直したら攻勢に出る予定です。考えている目標はここです」
世界地図上で山本長官が指さしたのは、北アメリカの西岸と南北アメリカの間の地峡が細くなった地域の双方だった。
「アメリカ大陸には有力な陸軍と海軍の航空部隊が配備されているぞ。中途半端な戦力で攻撃すれば、米軍の呉攻撃の二の舞を演じることになりかねないぞ」
「ええ、心得ています。本当に作戦を実行するならば、もちろん使える限りの艦隊を動員して攻撃しますよ。それに加えて、いくつかの新兵器も使えるようになったので、重要設備の攻撃に用いるつもりです。アメリカ本土への攻撃が成功すれば、アメリカ政府への打撃の大きさは計り知れないでしょう。そうなれば、ルーズベルト大統領も太平洋での戦闘停止を考えるはずです。絶対に実行すべき作戦だと考えています」
米内大臣は、山本長官が複数の地点を地図上で指したことに不安を抱いていた。攻撃対象をもっと絞って、戦力を集中すべきだと感じたのだ。
(早期講和を望むあまり、目の前のこの男は少しばかり焦っているのではないだろうか)
「米内さん。不安ですか?」
「結果がはっきりしてた安心できる作戦などないだろう。危険性をわかったうえで実行するというならば、何も言うことはない。お手並みを拝見させていただこうじゃないか」
「その通りです。危険性のない戦いなど存在しません。危険度と成果を天秤にかけて、得られる効果が大きいのであれば、私は躊躇しませんよ」
54
あなたにおすすめの小説
藤本喜久雄の海軍
ypaaaaaaa
歴史・時代
海軍の至宝とも言われた藤本喜久雄造船官。彼は斬新的かつ革新的な技術を積極的に取り入れ、ダメージコントロールなどに関しては当時の造船官の中で最も優れていた。そんな藤本は早くして脳溢血で亡くなってしまったが、もし”亡くなっていなければ”日本海軍はどうなっていたのだろうか。
If太平洋戦争 日本が懸命な判断をしていたら
みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら?
国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。
真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…分水嶺で下された「if」の決断。
破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦を描く架空戦記。
現在1945年中盤まで執筆
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
戦神の星・武神の翼 ~ もしも日本に2000馬力エンジンが最初からあったなら
もろこし
歴史・時代
架空戦記ファンが一生に一度は思うこと。
『もし日本に最初から2000馬力エンジンがあったなら……』
よろしい。ならば作りましょう!
史実では中途半端な馬力だった『火星エンジン』を太平洋戦争前に2000馬力エンジンとして登場させます。そのために達成すべき課題を一つ一つ潰していく開発ストーリーをお送りします。
そして火星エンジンと言えば、皆さんもうお分かりですね。はい『一式陸攻』の運命も大きく変わります。
しかも史実より遙かに強力になって、さらに1年早く登場します。それは戦争そのものにも大きな影響を与えていきます。
え?火星エンジンなら『雷電』だろうって?そんなヒコーキ知りませんw
お楽しみください。
札束艦隊
蒼 飛雲
歴史・時代
生まれついての勝負師。
あるいは、根っからのギャンブラー。
札田場敏太(さつたば・びんた)はそんな自身の本能に引きずられるようにして魑魅魍魎が跋扈する、世界のマーケットにその身を投じる。
時は流れ、世界はその混沌の度を増していく。
そのような中、敏太は将来の日米関係に危惧を抱くようになる。
亡国を回避すべく、彼は金の力で帝国海軍の強化に乗り出す。
戦艦の高速化、ついでに出来の悪い四姉妹は四一センチ砲搭載戦艦に改装。
マル三計画で「翔鶴」型空母三番艦それに四番艦の追加建造。
マル四計画では戦時急造型空母を三隻新造。
高オクタン価ガソリン製造プラントもまるごと買い取り。
科学技術の低さもそれに工業力の貧弱さも、金さえあればどうにか出来る!
世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記
颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。
ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。
また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。
その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。
この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。
またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。
この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず…
大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。
【重要】
不定期更新。超絶不定期更新です。
超量産艦隊
ypaaaaaaa
歴史・時代
海軍内では八八艦隊の議論が熱を帯びていた頃、ある一人の天才によって地味ではあるが大きく日本の未来を変えるシステムが考案された。そのシステムとは、軍艦を一種の”箱”と捉えそこに何を詰めるかによって艦種を変えるという物である。海軍首脳部は直ちにこのシステムの有用性を認め次から建造される軍艦からこのシステムを導入することとした。
そうして、日本海軍は他国を圧倒する量産性を確保し戦雲渦巻く世界に漕ぎ出していく…
こういうの書く予定がある…程度に考えてもらうと幸いです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる