電子の帝国

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第13章 東太平洋の戦い

13.8章 夜間迎撃戦2

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 6機の夜戦型烈風は、高空を飛行していたB-17を6機撃墜した。中高度の編隊を攻撃した烈風は5機のB-25を撃墜していた。爆撃編隊の南西方向に抜けて高度を上げようとしていた植村機に母艦から緊急連絡が入ってきた。

「間もなく対空誘導弾による対空射撃が始まる。上空の機体は艦隊の南側に退避しろ。繰り返す。南あるいは南東に全速で退避しろ。3分後には射撃が始まるぞ」

 艦隊の前面に出ていた「愛宕」と「足柄」は一時的に米軍機から、電波妨害を受けたが周波数を切り替えて、電探の機能を復活させていた。米軍の攻撃隊は、妨害電波に加えて金属箔も散布して電探を妨害しようとした。しかし、日本側の艦載電探は珊瑚海の戦いから既に金属箔への対策を済ませていた。ドップラー効果による周波数遷移を利用して空中で静止している目標からの電波反射を除外する機能だ。

 何事もなかったかのように、「愛宕」と「足柄」の電探は、北東方向から接近してくる編隊の正確な位置を捉えていた。「愛宕」が東南に向けて面舵をとった。「足柄」もそれに従って回頭した。艦尾側に備えた誘導弾発射器の射界を広くとるためだ。

 接近してくる米編隊の位置を確認してから、「愛宕」艦長の中岡大佐が命令した。
「二式対空誘導弾の準備はできているか? 同時に2機発射するぞ。その後は連続発射だ」

 通信長の春日少佐が答えた。
「敵編隊を電探で探知しています。異なる2目標に向けて電波照射を開始しました。反射電波を受信中」

「愛宕」の艦橋上の2基のアンテナはそれぞれ異なる周波数で別の目標に向けて電波を照射していた。目標が多数機の編隊なので、目標を外す可能性を承知で同時に別々の2機を狙ったのだ。

 砲術長の西村少佐が続けた。
「対空誘導弾、2発装填済み。後部甲板上から人員の退避完了。発射準備完了」

 間髪を置かずに中岡艦長が大声で命令した。
「発射。テーッツ」

 砲術長が、声を重ねるように、艦長と同じ言葉で発射を射手に命令した。

「愛宕」は、後部両舷の発射機から北東に向けて、60度ほどの仰角で誘導弾を発射した。一瞬、艦尾が大量の白煙に包まれた。2発の誘導弾の後部から、明るい噴射炎が伸びてゆく。10秒ほど上昇すると後方の噴射炎がオレンジ色から青白い炎に変わった。固体薬推進の加速用ロケットが燃焼を終えたのだ。それでもタービンロケットの推力でどんどん上昇してゆく。

 上昇しながら、亜音速に達した誘導弾は、1分間で10km以上を飛翔することができた。あっという間に高度7,000mの編隊まで上昇すると爆撃機に接近した。目標の10m以内を通過すると、電磁気を利用した近接信管が作動した。

 爆発の炎に照らされた爆撃機が艦上からも見えた。主翼の四分の一を失ったB-17が墜ちてゆく。次の瞬間、その後方でももう1発の誘導弾が爆発した。B-17の胴体付近に閃光が発生した。爆発により、前部胴体がへの字に折れ曲がった4発機が墜落していった。ガソリンに引火した爆撃機は、炎の尾を引きながら落下していった。海面に激突して機体が爆発すると、海上に赤い炎が花火の様に広がった。

 艦長の中岡大佐は全ての機体を撃ち落とすつもりだった。
「続けて撃て。空中目標を全て撃墜せよ」

 米軍機にとって不幸だったのは、270ノット(500km/h)程度で高空を直線飛行する大型機は電波に向かってゆく誘導弾にとって、演習のような狙いやすい目標だったことだ。

「愛宕」は、誘導弾の発射直後に戦艦の主砲によく似た機構を用いて、次発装填を開始していた。自動化された揚弾器が噴進弾を弾庫から引き出して、ラマーがカタパルト上へと押し出す。再装填が完了するまでには約30秒を要した。次の爆撃機への電波照射を確認して第2射を撃つことができたのは約50秒後だった。2発の誘導弾を発射して、今度は1機の爆撃機を撃墜した。

 8分間の射撃で「愛宕」は誘導弾を10斉射していた。20発の誘導弾を発射して、12機のB-17を撃墜した。高空を飛んでいたB-17は3機だけになった。

「足柄」艦長の一宮大佐は、中高度から接近しつつある目標への射撃を命じた。事前に「愛宕」と目標が重ならないように割り振った結果だ。

 B-17が撃墜されている頃、「足柄」も対空誘導弾を発射していた。目標は高度を下げてきた双発爆撃機の編隊だった。電探の探知からは、中高度の目標は3つの編隊に分かれているのがわかった。爆撃機からは照明弾が投下された。さすがに米軍機でも最終段階では、爆撃や雷撃のためには目視照準が必要だった。夜空にいくつも照明弾が浮かぶと、米軍の編隊も良く見えるようになった。

 光に浮かび上がった爆撃機の編隊は想定以上の数だった。その機数に中岡大佐も内心驚いたが、砲術長には冷静に命令した。
「相手は多いが、慌てるな。前方の目標から狙って数を減らして行けばよい」

 艦長の言葉通り、「足柄」は前方のやや高いところを飛行しているB-25の編隊から狙っていった。前方の6機が誘導弾により連続して撃墜された。後方の編隊は、B-26だった。前方で誘導弾の爆発を認めると、高度を下げながら金属箔を散布して回避しようとした。その途中で4機が誘導弾で撃墜されたが、残った爆撃機は降下して加速しながら接近してきた。しかも、B-26の後方に隠れて米海軍の9機のPBYカタリナが降下してきた。

 照準を変更した「愛宕」が低空に降りつつある目標に向けて発射したが、誘導弾では2機のB-26と3機のPBYを撃墜しただけだった。さすがに低空になると誘導弾の命中率は悪くなる。

 米爆撃機が視界に入ってきたとき、「足柄」の北西側には、「秋月」が航行していた。「愛宕」の北西側には「照月」が進み出ていた。

 飛行してくるB-25を認めると、2隻の駆逐艦は10cm高角砲の射撃を最大連射速度で開始した。10cm高角砲は1分間で10回以上の射撃を行った。2隻合わせて16門の高角砲が150発以上の砲弾を撃ったことになる。電磁誘導を利用した近接信管が低空の爆撃機の近くで爆発して、たちまち3機のB-25と2機のB-26、3機のPBYが次々と撃墜された。金属の電磁誘導で爆発する近接信管は、電波による信管と違って海面に接近しても誤爆しないのが利点だ。

 4機のB-25と7機のB-26は被害に耐えかねて、攻撃目標を直近の「足柄」に変えて降下してきた。双発爆撃機は、海面近くに降りて反跳爆撃をするつもりだった。3機のPBYもそれに続いた。カタリナは低空に降りてから雷撃態勢に入る。

「足柄」艦長の一宮大佐は林砲術長と事前に相談して、爆撃機が接近してきたら三式弾を射撃すると決めていた。

 双発爆撃機の編隊が降下してきたのを見て、艦長はまだ一度も射撃をしていない艦首部の主砲に射撃を命じた。20cm連装砲塔3基が左舷を向いて、低高度の双発機に向けて射撃した。

 砲術長は主砲弾がある程度広い範囲に散らばるように、砲の方位と仰角を僅かずつ変えていた。水平に近い仰角で撃ち出された6発のうちの2発は編隊内を通過する時に電磁式の近接信管を作動させた。改良型の三式弾は近接信管を装備していたのだ。

 空中で爆発した砲弾から弾子が漏斗状に飛び散った。20cmの三式焼霰弾には198個の焼夷弾子が内蔵されていた。4機のB-26に焼夷弾が命中し、火災が発生する。双発機は主翼から炎を噴き出しながら墜ちていった。

 降下してくる爆撃機に対して、「足柄」舷側の連装4基の8.8cm高射砲に加えて、4基の37mm四連装機銃が猛然と射撃した。2機のB-25が高射砲弾の至近爆発により、エンジンや主翼を吹き飛ばされて、海上に墜ちていった。海面近くに降下した3機のPBYには電探測距により計算機が管制する四連装37mm機銃がすぐに照準を合わせた。1機には37mm弾が機首に直撃して、操縦席から前が無くなると海上に墜ちていった。残りの機体にも37mmが命中した。主翼や胴体に巨大な破孔ができると、そのまま海上に激突した。1機のB-26が反跳爆撃のために投弾したが、遠距離から投下した爆弾は艦尾からはるかに離れたところを通過した。

 残った3機のPBYは北西の「秋月」を攻撃しようとした。「秋月」の10cm高角砲と37mm機関銃が降下してきたB-26を射撃した。10cm高角砲がマイクロ波電探と計算機の組み合わせで照準を合わせると、1機のPBYは空中でバラバラになった。残った1機が遠方から雷撃を行ったが、30ノット以上の速度で航行していた「秋月」は回頭してかわした。

 その頃、上空に誘導弾の攻撃を免れた3機のB-17が飛来してきた。「照月」の電探がそれを捉えると、10cm高角砲がほぼ真上を向いて射撃を開始した。あっという間に2機が撃墜された。
 1機のB-17は、上空から「愛宕」を狙って爆弾を投下したが、面舵で回頭している巡洋艦には、近弾にもならなかった。

 ……

 夜間迎撃戦の結果を聞いて、さすがに山口少将も驚いていた。
「まともに敵機が攻撃を開始する前に次々と撃墜するとは、本当に対空誘導弾の威力はすごいな。誘導弾は、敵機が視界に入ってくる前に墜としたんだろう。空母にはかすりもしなかった。日本に戻ったら、誘導弾装備の防空艦をもっと多数そろえるように艦政本部に上奏するぞ」

 伊東中佐も同様の意見だった。
「誘導弾攻撃から残った機体は、近接信管の高角砲と四連装機銃が次々と撃墜しています。夜間戦闘機と4隻の防空艦がほとんどの爆撃機を撃墜しました。私も全艦への新型の対空兵器の装備を急ぐべきだと思います」
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