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第13章 東太平洋の戦い
13.10章 ダッチハーバー空襲2
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第一次攻撃隊の交戦状況が「衣笠」の艦上に届いていた。米陸軍から新型戦闘機が登場したことや被害情報も報告に含まれている。淵田少佐は、自分の考えた対策が不十分だったことを素直に認めた。
「山口司令。第一次攻撃隊では戦闘機を増強しましたが、もっと慎重に考えるべきでした。第二次攻撃隊には30機程度の護衛を考えていましたが、これでは十分でない可能性があります。第一次攻撃隊の帰投を待って戦闘機を強化することとさせて下さい」
しかめっ面をしていた山口少将は懸念を示した。
「淵田少佐の案では、第一次攻撃隊を収容してから戦闘機の準備が終わるまで、出撃準備をした第二次攻撃隊を待たせることになるぞ。それでは、空母にとっては爆弾1発で沈むような危険な状態が長時間続くことになる」
助け舟を出したのは、首席参謀の伊藤中佐だった。
「第一次攻撃隊の帰投時間が確定したら、すぐにも第二次攻撃隊を発進させましょう。その後に、第一次攻撃隊の戦闘機隊の再出撃の準備を行って発艦させます。準備に大きな問題がない限り、後追いで発進しても間に合うことは実証済みです。この案ならば、第一次攻撃隊が帰ってくるまでは待ち合わせが発生しますが、それ以上の時間延長を回避できます。多少の待ち合わせならば、たとえ攻撃されても我々の艦隊の強力な防空艦を信じましょう。少数の攻撃機ならば、艦艇だけでも防御可能だと思います」
伊藤中佐の案では、一時的に帰投した部隊の着艦と第二次攻撃隊の発艦が重なる可能性があるが、そこは飛行甲板の後方が空くまでは着艦機を空中で待たせるしかない。
山口司令もこの案に賛成した。攻撃隊の護衛戦闘機を増やすためには、他に良い方法が思いつかなかったからだ。3隻の空母でやりくりできる範囲で妥協するしかない。
……
幸いにも、六航戦の司令部は、第一次攻撃隊に随伴していた偵察型天山と連絡ができて、帰投時刻をかなり具体的に知ることができた。淵田少佐の案に伊藤中佐の発想を加えて、第二次攻撃隊の発進が始まった。着艦までには若干待つことになったが、その間に米軍から攻撃されることはなかった。夜間爆撃で壊滅的な被害を受けたことが、米爆撃機の再攻撃を躊躇させたのだろう。夜間に受けた被害だけで、この方面の爆撃機が底をついたとは考えにくい。
第二次攻撃隊:烈風 66機(後追いで30機)、彗星 24機、天山 30機、偵察型天山 4機
一方、日本の第二次攻撃隊が飛来するまでに時間があったので、日本軍を迎撃した米軍戦闘機隊も補給のために基地に降りることができた。戦闘機が離陸したフォートグレン基地は日本軍の攻撃により建物や滑走路が被害を受けていた。そのため、ダッチハーバーの170マイル(274km)北東に位置するフォートランダル基地まで飛行して着陸していた。
第二次攻撃隊がウナラスカ島の南西海上まで飛行してくると、米軍のレーダーがいち早くそれを発見した。日本軍の第一次攻撃隊により、ダッチハーバー海軍基地のレーダーは完全に破壊されていた。陸軍航空隊のフォートグレン基地のレーダーも被害を受けて使用不能になった。しかしダッチハーバーと橋で結ばれた南側のアマクナク島の陸軍地上部隊のフォートメアーズ基地は、4門の要塞砲とともにレーダーを備えていた。この高台のレーダーが南西を飛行する編隊をいち早く発見した。
補給が終わってウナラスカ島の上空で迎撃してきたのは、26機のP-47と19機のP-40だった。第一次攻撃隊の迎撃機から数が減っているのは、戦闘で被害を受けたためだ。特にP-40は、フォートグレン基地で整備中だった機体を補充しても多数が撃墜された影響でかなり減少していた。
新郷大尉は、空母で補給した後に再び護衛の戦闘機隊に加わっていた。彼は、空冷の大型戦闘機への対抗策を帰投途中から考えていた。
(あの戦闘機は速度と急降下で明らかに勝っている。急降下により逃げられれば捕捉は困難だ。逆に水平面でも垂直面でも旋回戦に持ち込めば烈風が有利なはずだ)
大尉は、攻撃隊前面の戦闘機隊を3隊に分けた。2隊は編隊前方に張り出して、上下になるように高度を変えて配置していた。残りの1隊はこれとは別に攻撃隊の直前に張り付けるように配置した。
大尉自身が率いて、高度を上げて前方に進出していた部隊が、P-47の上空から降下攻撃を開始した。大部分のP-47は急降下で一撃を避けようとしたが、水平旋回で回避しようとした数機は烈風に捕まって撃墜された。
降下して上空からの攻撃を避けたP-47には、下方で別動の烈風隊が待ち構えていた。降下してから不用意に引き起こした機体は低高度の烈風に捕まって攻撃された
この日、2度目の出撃となったカービィ少佐は低高度でもサムの編隊が飛行しているのを見て、大声で叫んでいた。
「訓練の時のような感覚で引き起こすんじゃない。下にも敵戦闘機が待ち構えているぞ。思い切って4,000フィート(1219m)以下まで降下するんだ!」
しかし、1,000mまで高度を下げると、再び攻撃隊が飛行している高度まで上昇するには時間がかかる。その間に基地や港湾が攻撃される可能性が高い。少佐は敵の策にはまったと気づいたがもう遅い。
烈風と急降下しなかったP-47は激しい空戦になった。高高度の烈風編隊が4機のP-47を撃墜した。P-47が高度を下げたところで、低高度の烈風編隊が5機を撃墜した。残りの15機のP-47を逃走させたが、烈風も7機を失った。
P-47の後方を飛行していたP-40は、攻撃隊に接近することさえできなかった。日本戦闘機の数が多いために、攻撃隊のかなり手前の空域で捕捉されてしまったのだ。烈風との空戦になればP-40は全く太刀打ちできない。急降下で逃げようとしても烈風の方が降下速度も速かった。
烈風隊の働きにより、彗星と天山の爆撃隊はウナラスカ島の南方から島が見えるところまで接近できた。
ウナラスカ島を中心として周辺を偵察していた偵察型天山は、ダッチハーバーのウナラスカ湾内に2隻の潜水艦と2隻の駆逐艦、それに加えて数隻の輸送船が停泊しているのを発見していた。輸送船はどうやら米大陸西岸の港からやってきて停泊しているようだ。さかんに積み荷を埠頭から降ろしていた。
日本攻撃隊が港湾に接近した時には、駆逐艦と潜水艦は北側のウナラスカ湾から北側出口へと脱出しようとしていた。港の北側からベーリング海に抜け出た後は、東北東に進んでウニマク海峡から北太平洋に進むつもりに違いない。
第二次攻撃隊長の岩井大尉は、彗星による艦艇の攻撃を命令した。
「あまり時間の猶予はないようだ。彗星隊が逃げようとしている艦艇を攻撃してくれ。残念ながら天山が搭載しているのは、地上攻撃用の爆弾だ。艦攻隊は予定通り東北東方向のコールドベイの米軍飛行場を攻撃する」
岩井大尉は、自身が搭乗する天山は艦艇攻撃を実施しないと判断したのだ。艦爆隊の木村大尉は、すぐに命令を了承した。
「木村です。駆逐艦と潜水艦、次に輸送船を攻撃します」
艦爆隊は小隊に分離して、湾内を北へと向かっている目標に向かった。北側に向けて進んでいたのは、駆逐艦「デール」と「モナガン」だった。更に駆逐艦の後方に潜水艦の「トライトン」と「グラニオン」が続いていた。まだ狭い湾内なので、速度を上げて自由に回避行動ができない。
港湾から移動していた駆逐艦と潜水艦を攻撃したのは、13機の彗星だった。彗星が接近すると、駆逐艦は38口径の5インチ(12.7cm)砲を激しく撃ち始めた。3機の彗星が対空砲火により撃墜された。
既に湾の出口近くに達していた駆逐艦「デール」には、4機が50番(500kg)爆弾を投弾して2発を命中させた。「モナガン」にも3機が攻撃して1発が命中した。3機が潜水艦の「トライトン」を爆撃して、1発が直撃した。最後尾の「グラニオン」には3機が投弾して2発が至近弾となった。
8機の彗星は、湾内の4隻の貨物船に攻撃を加えた。停泊して動かない貨物船に爆弾は確実に命中した。貨物船の船体内で爆発した50番は舷側に加えて、船底にも亀裂を発生させた。船体に生じた浸水から全艦が湾内に着底した。
……
彗星爆撃隊から分かれた、第二次攻撃隊の天山と半数の烈風の編隊は、残っている米軍の航空基地を攻撃するために、ウナラスカ島を左に見ながら海上をアリューシャン列島に沿って東北東に飛行していた。米航空機の活動を抑え込むためには、こちらも優先すべき目標だ。やがて、攻撃隊の北側を飛行していた、電探搭載の天山から連絡が入った。
「前方11時方向に編隊を探知。おそらく低高度を飛行している」
戦闘機との戦いの後も護衛を続けていた24機の烈風が反応した。戦闘機隊を率いていた小林中尉は、バンクで編隊の列機に注意を促した。
「一旦、前方に進んでから、降下して確認する」
烈風隊は速度を増しながら、高度を下げるために若干機首を下に向けた。
ダッチハーバーに向けて戦闘機を発進させた後も、フォートランダル基地では残った機体の発進準備を継続していた。その最中に基地のレーダーが接近してくる編隊を探知したのだ。できる限り多くの機体を離陸させることになった。
日本編隊が発見したのは、離陸した爆撃機が東へと飛行する編隊だった。ざっと20機くらいのB-25とB-17の混成編隊が高度2,000mあたりを飛行している。
「上空から攻撃するぞ。ここで見逃せば、艦隊を爆撃してくるかもしれん」
烈風が爆撃機に向けて降下を始めた。最初に狙われたのは後方を飛行していたB-25だ。3機の烈風が順次急降下攻撃を加えると海上へと墜落していった。ほぼ同時に、4機の烈風が攻撃していたB-17も機首を下げるとクルリとひっくり返って墜ちていった。
烈風の編隊は6機のB-25と5機のB-17を撃墜した。まだ飛行している爆撃機は残っていたが見逃された。機銃弾が無くなったのだ。小林中尉は気がつかなかったが、飛行していた機体は日本の機動部隊を攻撃するために準備していた機体だった。しかし、あまりに夜間爆撃の被害が大きかったので、昼間攻撃を中止してアラスカ方面に退避しようとしていた。
一方、30機の天山爆撃隊は、航空基地上空に達していた。さすがに米軍もこの基地が攻撃されることは想定しなかったらしく、対空砲火は数門の機銃だけで極めて低調だった。
天山隊の眼下に交差した2本の滑走路が見えてきた。案の定、ダッチハーバーに離接していたフォートグレン基地からこちらの飛行場に退避した機体も含めて、輸送機や爆撃機、戦闘機がまだ残っている。整備や補給中、故障などの都合で、退避が間に合わなかった機体も多数あったのだ。
天山の編隊は、各機が2発搭載した25番(250kg)爆弾を投下した。12機が24発の爆弾を滑走路や誘導路に向けて投下した。2本の滑走路の広い範囲で爆煙が発生した。
続いて、格納庫と駐機していた整備場あたりを狙って9機が爆撃した。地上の爆撃機がばらばらになる。機体内のガソリンに引火して、付近で火災が発生して激しく煙が立ち上る。残っていた9機はまだ破壊されていない建物や地上の機体を見つけて個別に爆撃した。格納庫脇の立方体の建物を爆撃すると激しく炎が立ち上った。内部に燃料タンクを格納していた建築物だったらしい。外側にも燃えさかるガソリンが漏れてきて、周囲にどんどん火災が広がってゆく。
岩井大尉は、自らが確認した結果を後席通信員の小山二飛層に指示していた。
「米軍基地の状況を旗艦に報告してくれ。退避していた米軍の十数機の爆撃機を撃墜した。更に、駐機していた約30機の航空機と滑走路に被害を与えた。しばらく2本の滑走路は使用不能になったはずだ。燃料タンクも破壊して、基地周辺では大火災が発生中だ。米軍の戦闘機や爆撃機は、当面の間はこの基地を利用できない。今後の作戦に大きな影響があると思う」
「山口司令。第一次攻撃隊では戦闘機を増強しましたが、もっと慎重に考えるべきでした。第二次攻撃隊には30機程度の護衛を考えていましたが、これでは十分でない可能性があります。第一次攻撃隊の帰投を待って戦闘機を強化することとさせて下さい」
しかめっ面をしていた山口少将は懸念を示した。
「淵田少佐の案では、第一次攻撃隊を収容してから戦闘機の準備が終わるまで、出撃準備をした第二次攻撃隊を待たせることになるぞ。それでは、空母にとっては爆弾1発で沈むような危険な状態が長時間続くことになる」
助け舟を出したのは、首席参謀の伊藤中佐だった。
「第一次攻撃隊の帰投時間が確定したら、すぐにも第二次攻撃隊を発進させましょう。その後に、第一次攻撃隊の戦闘機隊の再出撃の準備を行って発艦させます。準備に大きな問題がない限り、後追いで発進しても間に合うことは実証済みです。この案ならば、第一次攻撃隊が帰ってくるまでは待ち合わせが発生しますが、それ以上の時間延長を回避できます。多少の待ち合わせならば、たとえ攻撃されても我々の艦隊の強力な防空艦を信じましょう。少数の攻撃機ならば、艦艇だけでも防御可能だと思います」
伊藤中佐の案では、一時的に帰投した部隊の着艦と第二次攻撃隊の発艦が重なる可能性があるが、そこは飛行甲板の後方が空くまでは着艦機を空中で待たせるしかない。
山口司令もこの案に賛成した。攻撃隊の護衛戦闘機を増やすためには、他に良い方法が思いつかなかったからだ。3隻の空母でやりくりできる範囲で妥協するしかない。
……
幸いにも、六航戦の司令部は、第一次攻撃隊に随伴していた偵察型天山と連絡ができて、帰投時刻をかなり具体的に知ることができた。淵田少佐の案に伊藤中佐の発想を加えて、第二次攻撃隊の発進が始まった。着艦までには若干待つことになったが、その間に米軍から攻撃されることはなかった。夜間爆撃で壊滅的な被害を受けたことが、米爆撃機の再攻撃を躊躇させたのだろう。夜間に受けた被害だけで、この方面の爆撃機が底をついたとは考えにくい。
第二次攻撃隊:烈風 66機(後追いで30機)、彗星 24機、天山 30機、偵察型天山 4機
一方、日本の第二次攻撃隊が飛来するまでに時間があったので、日本軍を迎撃した米軍戦闘機隊も補給のために基地に降りることができた。戦闘機が離陸したフォートグレン基地は日本軍の攻撃により建物や滑走路が被害を受けていた。そのため、ダッチハーバーの170マイル(274km)北東に位置するフォートランダル基地まで飛行して着陸していた。
第二次攻撃隊がウナラスカ島の南西海上まで飛行してくると、米軍のレーダーがいち早くそれを発見した。日本軍の第一次攻撃隊により、ダッチハーバー海軍基地のレーダーは完全に破壊されていた。陸軍航空隊のフォートグレン基地のレーダーも被害を受けて使用不能になった。しかしダッチハーバーと橋で結ばれた南側のアマクナク島の陸軍地上部隊のフォートメアーズ基地は、4門の要塞砲とともにレーダーを備えていた。この高台のレーダーが南西を飛行する編隊をいち早く発見した。
補給が終わってウナラスカ島の上空で迎撃してきたのは、26機のP-47と19機のP-40だった。第一次攻撃隊の迎撃機から数が減っているのは、戦闘で被害を受けたためだ。特にP-40は、フォートグレン基地で整備中だった機体を補充しても多数が撃墜された影響でかなり減少していた。
新郷大尉は、空母で補給した後に再び護衛の戦闘機隊に加わっていた。彼は、空冷の大型戦闘機への対抗策を帰投途中から考えていた。
(あの戦闘機は速度と急降下で明らかに勝っている。急降下により逃げられれば捕捉は困難だ。逆に水平面でも垂直面でも旋回戦に持ち込めば烈風が有利なはずだ)
大尉は、攻撃隊前面の戦闘機隊を3隊に分けた。2隊は編隊前方に張り出して、上下になるように高度を変えて配置していた。残りの1隊はこれとは別に攻撃隊の直前に張り付けるように配置した。
大尉自身が率いて、高度を上げて前方に進出していた部隊が、P-47の上空から降下攻撃を開始した。大部分のP-47は急降下で一撃を避けようとしたが、水平旋回で回避しようとした数機は烈風に捕まって撃墜された。
降下して上空からの攻撃を避けたP-47には、下方で別動の烈風隊が待ち構えていた。降下してから不用意に引き起こした機体は低高度の烈風に捕まって攻撃された
この日、2度目の出撃となったカービィ少佐は低高度でもサムの編隊が飛行しているのを見て、大声で叫んでいた。
「訓練の時のような感覚で引き起こすんじゃない。下にも敵戦闘機が待ち構えているぞ。思い切って4,000フィート(1219m)以下まで降下するんだ!」
しかし、1,000mまで高度を下げると、再び攻撃隊が飛行している高度まで上昇するには時間がかかる。その間に基地や港湾が攻撃される可能性が高い。少佐は敵の策にはまったと気づいたがもう遅い。
烈風と急降下しなかったP-47は激しい空戦になった。高高度の烈風編隊が4機のP-47を撃墜した。P-47が高度を下げたところで、低高度の烈風編隊が5機を撃墜した。残りの15機のP-47を逃走させたが、烈風も7機を失った。
P-47の後方を飛行していたP-40は、攻撃隊に接近することさえできなかった。日本戦闘機の数が多いために、攻撃隊のかなり手前の空域で捕捉されてしまったのだ。烈風との空戦になればP-40は全く太刀打ちできない。急降下で逃げようとしても烈風の方が降下速度も速かった。
烈風隊の働きにより、彗星と天山の爆撃隊はウナラスカ島の南方から島が見えるところまで接近できた。
ウナラスカ島を中心として周辺を偵察していた偵察型天山は、ダッチハーバーのウナラスカ湾内に2隻の潜水艦と2隻の駆逐艦、それに加えて数隻の輸送船が停泊しているのを発見していた。輸送船はどうやら米大陸西岸の港からやってきて停泊しているようだ。さかんに積み荷を埠頭から降ろしていた。
日本攻撃隊が港湾に接近した時には、駆逐艦と潜水艦は北側のウナラスカ湾から北側出口へと脱出しようとしていた。港の北側からベーリング海に抜け出た後は、東北東に進んでウニマク海峡から北太平洋に進むつもりに違いない。
第二次攻撃隊長の岩井大尉は、彗星による艦艇の攻撃を命令した。
「あまり時間の猶予はないようだ。彗星隊が逃げようとしている艦艇を攻撃してくれ。残念ながら天山が搭載しているのは、地上攻撃用の爆弾だ。艦攻隊は予定通り東北東方向のコールドベイの米軍飛行場を攻撃する」
岩井大尉は、自身が搭乗する天山は艦艇攻撃を実施しないと判断したのだ。艦爆隊の木村大尉は、すぐに命令を了承した。
「木村です。駆逐艦と潜水艦、次に輸送船を攻撃します」
艦爆隊は小隊に分離して、湾内を北へと向かっている目標に向かった。北側に向けて進んでいたのは、駆逐艦「デール」と「モナガン」だった。更に駆逐艦の後方に潜水艦の「トライトン」と「グラニオン」が続いていた。まだ狭い湾内なので、速度を上げて自由に回避行動ができない。
港湾から移動していた駆逐艦と潜水艦を攻撃したのは、13機の彗星だった。彗星が接近すると、駆逐艦は38口径の5インチ(12.7cm)砲を激しく撃ち始めた。3機の彗星が対空砲火により撃墜された。
既に湾の出口近くに達していた駆逐艦「デール」には、4機が50番(500kg)爆弾を投弾して2発を命中させた。「モナガン」にも3機が攻撃して1発が命中した。3機が潜水艦の「トライトン」を爆撃して、1発が直撃した。最後尾の「グラニオン」には3機が投弾して2発が至近弾となった。
8機の彗星は、湾内の4隻の貨物船に攻撃を加えた。停泊して動かない貨物船に爆弾は確実に命中した。貨物船の船体内で爆発した50番は舷側に加えて、船底にも亀裂を発生させた。船体に生じた浸水から全艦が湾内に着底した。
……
彗星爆撃隊から分かれた、第二次攻撃隊の天山と半数の烈風の編隊は、残っている米軍の航空基地を攻撃するために、ウナラスカ島を左に見ながら海上をアリューシャン列島に沿って東北東に飛行していた。米航空機の活動を抑え込むためには、こちらも優先すべき目標だ。やがて、攻撃隊の北側を飛行していた、電探搭載の天山から連絡が入った。
「前方11時方向に編隊を探知。おそらく低高度を飛行している」
戦闘機との戦いの後も護衛を続けていた24機の烈風が反応した。戦闘機隊を率いていた小林中尉は、バンクで編隊の列機に注意を促した。
「一旦、前方に進んでから、降下して確認する」
烈風隊は速度を増しながら、高度を下げるために若干機首を下に向けた。
ダッチハーバーに向けて戦闘機を発進させた後も、フォートランダル基地では残った機体の発進準備を継続していた。その最中に基地のレーダーが接近してくる編隊を探知したのだ。できる限り多くの機体を離陸させることになった。
日本編隊が発見したのは、離陸した爆撃機が東へと飛行する編隊だった。ざっと20機くらいのB-25とB-17の混成編隊が高度2,000mあたりを飛行している。
「上空から攻撃するぞ。ここで見逃せば、艦隊を爆撃してくるかもしれん」
烈風が爆撃機に向けて降下を始めた。最初に狙われたのは後方を飛行していたB-25だ。3機の烈風が順次急降下攻撃を加えると海上へと墜落していった。ほぼ同時に、4機の烈風が攻撃していたB-17も機首を下げるとクルリとひっくり返って墜ちていった。
烈風の編隊は6機のB-25と5機のB-17を撃墜した。まだ飛行している爆撃機は残っていたが見逃された。機銃弾が無くなったのだ。小林中尉は気がつかなかったが、飛行していた機体は日本の機動部隊を攻撃するために準備していた機体だった。しかし、あまりに夜間爆撃の被害が大きかったので、昼間攻撃を中止してアラスカ方面に退避しようとしていた。
一方、30機の天山爆撃隊は、航空基地上空に達していた。さすがに米軍もこの基地が攻撃されることは想定しなかったらしく、対空砲火は数門の機銃だけで極めて低調だった。
天山隊の眼下に交差した2本の滑走路が見えてきた。案の定、ダッチハーバーに離接していたフォートグレン基地からこちらの飛行場に退避した機体も含めて、輸送機や爆撃機、戦闘機がまだ残っている。整備や補給中、故障などの都合で、退避が間に合わなかった機体も多数あったのだ。
天山の編隊は、各機が2発搭載した25番(250kg)爆弾を投下した。12機が24発の爆弾を滑走路や誘導路に向けて投下した。2本の滑走路の広い範囲で爆煙が発生した。
続いて、格納庫と駐機していた整備場あたりを狙って9機が爆撃した。地上の爆撃機がばらばらになる。機体内のガソリンに引火して、付近で火災が発生して激しく煙が立ち上る。残っていた9機はまだ破壊されていない建物や地上の機体を見つけて個別に爆撃した。格納庫脇の立方体の建物を爆撃すると激しく炎が立ち上った。内部に燃料タンクを格納していた建築物だったらしい。外側にも燃えさかるガソリンが漏れてきて、周囲にどんどん火災が広がってゆく。
岩井大尉は、自らが確認した結果を後席通信員の小山二飛層に指示していた。
「米軍基地の状況を旗艦に報告してくれ。退避していた米軍の十数機の爆撃機を撃墜した。更に、駐機していた約30機の航空機と滑走路に被害を与えた。しばらく2本の滑走路は使用不能になったはずだ。燃料タンクも破壊して、基地周辺では大火災が発生中だ。米軍の戦闘機や爆撃機は、当面の間はこの基地を利用できない。今後の作戦に大きな影響があると思う」
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