電子の帝国

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第17章 外伝(ドイツ本土防空編)

17.5章 海峡上空の戦い

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 夜間爆撃作戦とは別に、ドイツ軍が昼間戦闘でイギリス軍機を撃退した作戦があった。1942年2月11日に実行された「ケルベロス」作戦(連合国の呼び名はチャンネル・ダッシュ)である。戦艦「シャルンホルスト」と「グナイゼナウ」、重巡「プリンツ・オイゲン」と駆逐艦6隻から構成される艦隊をフランスのブレストからドイツ本国のキールへと回航した作戦である。

 ドイツ戦艦と巡洋艦が白昼堂々とドーバー海峡を突破しようとすれば、イギリス軍からの激しい攻撃が予想された。この作戦に対して、ドイツ空軍のガーランド大佐は、艦隊防空を任された。前年にメルダースの後任として、航空省の戦闘機隊査察総監に就任したガーランドは、本来ならば前線部隊を直接指揮する権限を有していなかった。しかし、この作戦に関しては、ゲーリングからドイツ空軍の指揮を一任されていた。

 ガーランドは、護衛戦闘機がいつも艦隊上空を飛行しているように、緻密な時間割を作成した。艦隊がイギリス本国に近い海域を航行している間は、いつ攻撃を受けてもおかしくない。彼は、常に護衛の戦闘機を艦隊上空に飛行させることにより、突発的な攻撃に対応させようと考えた。この護衛計画に基づいて、ガーランドはドイツ本土からオランダにかけて防空任務に就いていたJG2(第2戦闘航空団)とJG26(第26戦闘航空団)に艦隊の護衛を命じた。

 続いてFw200の大型レーダーを搭載した早期警戒機を、艦隊の移動に合わせて飛行させるように命令した。フランスからオランダまでの海岸沿いを蛇行しながら飛行すれば、イングランドから飛行してくる攻撃隊を早期に探知できるだろう。これもイギリス軍の奇襲を避けるための対策だ。

 この時期、イギリス空軍は昼間でもドイツ占領地域への嫌がらせのような攻撃を実行していた。戦闘機隊を中心としてフランスやオランダ上空に侵入して、ドイツ軍の施設や基地などを攻撃しつつ、要撃してきた戦闘機とも交戦するファイター・スイープと呼ばれる作戦だった。そのため、フランス上空では散発的にイギリスのスピットファイアⅤとドイツのBf109Fや就役したばかりのFw190Aとの空戦が生起していた。

 イギリスは偵察機によりドイツ海軍が作戦を開始しようと準備していることをつかんでいた。しかし、艦艇の準備がわかっても、正確な目的地を事前に推定することは困難だ。しかもドイツ艦隊は、キールの出港時に熱帯向けの物資を搭載するなど、大西洋の南側の作戦に見せかけた偽装を行った。港から出た後も妨害電波を放射して、イギリス本土沿岸のレーダーからも位置を隠そうとした。ドーバー沿岸のレーダーによる探知が遅れたために、ドイツ艦隊を最初に発見したのはイギリス本土の南方を哨戒飛行していた空軍機だった。

 北北東に航行しているドイツの戦艦と巡洋艦部隊を発見して、イギリス軍は大車輪で攻撃の準備を開始した。手持ちのあらゆる戦力を投入して、自国の庭先のような海峡を白昼堂々と通過してゆくドイツ艦隊を阻止しようとした。そのため、空軍も出撃可能な機体をかき集めて攻撃隊が急遽編制された。

 あわてて準備して出撃してきた艦隊攻撃隊の編制は、やや中途半端だった。14機の雷装したソードフィッシュを18機のスピットファイアが護衛していた。

 ……

 自分自身が戦闘機乗りのガーランドは、機体の性能差が空中戦に大きな影響を及ぼすことを十分理解していた。スピットファイアが飛来した場合は、まずは性能に優れるFw190Aが先に戦って、Bf109Fがそれを支援するように指示していた。もちろん、イギリス空軍戦闘機の数がドイツ軍のそれを上回っている場合には、全機が戦闘することになる。

 イギリスの攻撃隊のドーバーへの接近は、フランス海岸近くを飛行していたレーダー搭載のFw200によりすぐに探知された。探知報告はJG26(第26戦闘航空団)の司令部に通知されてから、戦闘機隊に伝えられた。

 この時点で艦隊上空を飛行していたのは、12機のBf109Fと10機のFw190Aだった。JG26への配備が進んでいたFw190Aを率いていたのは、中隊長のプリラー少佐だった。ドイツ空軍の大部分のエースが、東部戦線でソ連軍相手に驚異的な撃墜数を稼いでいたのに比べて、彼は西部戦線で戦果を伸ばして、既に50機以上を撃墜していた。プリラー少佐にJG26司令部から連絡が入ってきた。

「レーダー搭載機からの探知情報だ。北西12km、方位310度、2群の編隊だ。おそらく護衛の戦闘機と攻撃隊と推定」

 ヨーゼフ・プリラーは、短く返事をすると指示された方向に機首を向けた。すぐに、前方にゴマ粒のように編隊が見えてきた。司令部から注意が入ってきた。
「前方に注意してくれ。イギリス編隊が見える距離に近づいているはずだ」

 どうやらFw200からは、レーダーで敵編隊に加えて友軍機も捉えているようだ。
「イギリスの編隊を視認した。これから攻撃を開始する。誘導に感謝する」

 Fw190AがJG26に配備されてから、既に3カ月以上は操縦している。プリラー少佐は、この機体の特性をしっかりと把握していた。4,000m以下の高度ならば、スピットファイアよりも圧倒的に有利に戦えるはずだ。

 ……

 キングカム少佐は、スピットファイアの編隊を率いてドーバーへと飛行していた。彼の後方には20機弱の戦闘機が飛行していた。少佐は、眼下を飛行する複葉機の編隊の状況を確認していた。下方には、魚雷を搭載したソードフィッシュが飛行している。もちろんスピットファイアの任務は雷撃機を守ることだ。
(しかし、こんな複葉機をいまだに使っているのは、我が国だけだろうな。アメリカも日本も雷撃機は全て近代的な引き込み脚の単葉機に置き換わっているはずだ。一方、ドイツ空軍の戦闘機も、ドイツ海軍の対空砲もかなり強力になっている。相手を軽く見ていると痛い目にあうぞ)

 少佐は雷撃機の搭乗員達の勇気に畏敬の念を感じると共に、軍の上層部には不満を感じていた。ドイツ軍の防衛態勢を考えれば、ソードフィッシュの被害は馬鹿にならないだろう。それを承知で旧式機材を与えて出撃を命じたラムゼイ中将に怒りさえ感じていた。

 そんなことを考えていた少佐の心配を見透かしたように、東南東から接近する航空機が見えてきた。すぐに編隊に注意を促す。
「前方に注意。1時方向に未確認機の編隊だ。我々よりもやや上だ」

 すぐに、中隊で最も視力の良いボーモント軍曹が敵戦闘機の状況を通知してきた。
「頭の大きな空冷戦闘機が見えます。前方の編隊は、おそらくフォッケ(Fw190A)です。その後方は液冷のメッサー(Bf109F)です」

 少佐は、ドイツ軍が先に発見して接近してきたとわかった。
(既に、敵編隊は高度をとって攻撃態勢だぞ。フォッケが前方に出ているのも、奴らが事前に決めた作戦だろう)

 イギリス空軍が、フランスやオランダの上空で従来から戦ってきたのは、Bf109Fだった。スピットファイアⅤとドイツ軍のBf109Fは性能が拮抗しており、少佐も相手がメッサーであれば、なんとか雷撃隊を護衛できると考えていた。

 しかし、最近になってイギリス空軍は、スピットファイアⅤよりも格段に性能の優れた新型の空冷エンジン機に遭遇するようになった。キングカム少佐は、空冷戦闘機との対戦は未経験だったが、恐るべき機体だと聞いていた。この作戦では、Fw190Aが積極的に参戦してきたのはドイツ空軍も重視している証拠だ。

 ドイツ空軍の編隊は、ガーランドからのアドバイスも考慮して、最初に攻撃を仕掛けたのはFw190Aだった。Fw190Aは、戦闘が行われた10,000フィート(3,048m)付近の高度であれば、スピットファイアⅤを圧倒した。Fw190Aは、速度と上昇力に加えて加速力と降下速度でもスピットファイアより優れていた。唯一、水平面の旋回性能だけが、スピットファイアⅤの優れた点だった。しかし、水平面の旋回により、スピットファイアが後方につけても、Fw190Aは優れた横転性能を利用して、垂直面の機動に入ると、イギリス戦闘機はついて行けなかった。

 ドイツ空軍機が降下と上昇を多用して攻撃を仕掛けたのに対して、スピットファイアは水平面の旋回戦闘で対抗しようとした。しかし、全ての戦闘機が高速飛行するこのような場面では、急旋回は攻撃を回避する防御手段ではあっても、攻撃で優位となる機動ではない。それでも、退避して雷撃機の護衛任務を放棄するわけにはいかない。

 Bf109Fに支援されたFw190Aは、あっという間に7機のスピットファイアⅤを撃墜した。護衛戦闘機が劣勢になると、上空の護衛の傘に破れ目ができた。傘の隙間から、Bf109Fがソードフィッシュに降下攻撃を仕掛けてきた。

 スピットファイアをFw190Aが引き付けている間に、14機のソードフィッシュは全てがBf109Fに撃墜されてしまった。1トン近いMark XII魚雷を搭載して、よろよろと低速で飛行する複葉機は、ドイツ軍戦闘機にとっては射撃訓練のような目標だった。Bf109Fは失速を避けるために、フラップをおろして後方から機銃を撃ちまくった。それに対抗する、雷撃機の防御は、後部の1挺の7.7mm旋回機銃だけだった。

 キングカム少佐は、Fw190Aから激しく追い立てられていたが、墜落した数機のソードフィッシュが海上に漂っているのを確認した。
(ソードフィッシュが沈む前に、ゴムボートが膨らんだぞ。搭乗員が脱出できたんだ!)

「キングカムだ。ドイツ艦艇への雷撃は不可能になった。我々は任務に失敗した。これ以上この空域に留まる意味はない。基地に帰投する」

 Fw190Aの優れた性能は以前からイギリス軍にも認識されていたが、正面からスピットファイアⅤとFw190Aがぶつかったドーバー海峡上空の戦いで、ドイツの新型戦闘機に全く歯が立たないことが実証された。

 キングカム少佐は、帰投の途中でソートフィッシュの搭乗員が脱出した位置座標だけは連絡できた。彼には、任務に失敗したという事実が重くのしかかっていた。
(これは大変なことになったぞ。今後、フォッケウルフの配備が進めば、我々は戦闘で圧倒的に不利になるだろう。ドイツ軍の新型戦闘機に対抗できる戦闘機が、我々には絶対に必要だ)

 ……

 1941年のウェリントン爆撃機への高高度性能改善の要求をきっかけとして、ロールスロイスは、マーリンエンジンの高空性能向上に着手した。性能改善のアイデアを提供したのは、ロールスロイスに中途入社した流体力学専門家のフッカー博士だった。彼の理論を生かして、マーリンエンジンの後方に直列接続した2段の機械式駆動の過給器を追加した。

 圧縮率を高くすると、断熱圧縮された空気は高温になるので、シリンダが吸気する前にラジエターで冷却する必要がある。フッカー博士は、冷却のためにエンジンの上部にコンパクトな水冷式の直方体ラジエターを追加した。水冷式のアフタークーラーのおかげで、2段過給器になっても従来のマーリンエンジンから、わずかに23cm全長を長くするだけで実現できた。博士が主導した性能強化は成功して、1942年初旬からマーリン60の改良版エンジンの生産が始まった。しかも、アメリカから100オクタンガソリンの入手が可能になって、ブースト圧を増加できた。ハイオクガソリンにより、100馬力は出力を増加できたはずだ。

 急遽開発された性能向上したスピットファイアⅨが初飛行したのは1942年4月だった。スピットファイアはⅨ型になって、マーリン60型を搭載した効果で、従来のⅤ型からかなり飛行性能が改善した。スピットファイアの型番がⅤ型から飛んでいるのは、エンジンと共に機体にも変更を加えて開発中だったⅥ型やⅦ型を追い抜いたからだ。イギリス空軍は、エンジン以外の各部に変更を加えて完成までに時間を要する機体よりも、妥協して修正を最小としたⅨ型の完成を先行させた。それだけ、Fw190Aに対抗できる戦闘機の完成は急務だったのだ。

 マーリン60はスピットファイアⅤが搭載していたマーリン45から大幅な形状の変化がなかったことから、Ⅸ型の修正は限られた範囲に留めることが可能になった。エンジン回りの部分的な強度増加と冷却用ラジエターの拡大を除けば、機体のほとんどがスピットファイアⅤと共通だった。スピットファイアⅤの機体を大幅に利用したおかげで、スピットファイアⅨは短時間で開発が完了した。しかも、従来の生産ラインから大きな変更をせずとも、そのまま量産を開始できた。1942年6月初旬には、早くもスピットファイアⅨの部隊配備が始まった。

 イギリス空軍は「最善は常に間に合わない、次善は遅れる、三善を前線に送れ」という格言を言葉通りに実践したのだ。

 スピットファイアⅨは、Fw190Aの登場により劣勢となっていた空戦の主導権を取り戻した。

 Fw190AとスピットファイアⅨの比較では、高度2,000フィート(610m)の低空では、Fw190Aが10km/h程度優速だった。それが、高度5,000フィート(1,524m)ではほぼ互角になった。21,000フィート(6,401m)までは、スピットファイアⅨの速度がやや勝っていた。21,000フィート以上の高度ではスピットファイアⅨがどんどん優速になった。しかし、加速性能や横転性能だけは全ての高度でFw190Aが優れていた。一方、大きな主翼を生かした水平旋回はスピットファイアⅨが全高度で優位だった。つまり、戦闘高度を選べる状況では、スピットファイアⅨが有利に戦うことができた。

 ……

 ドイツへの攻撃を目的とするアメリカの第8航空軍の爆撃軍団が、1942年6月になってイギリス本土に続々と到着し始めた。大西洋を渡って飛行してきた主力爆撃機は、B-17とB-24だった。第8航空軍の司令官にはスパーツ少将が任命された。彼は、昼間に目標を正確に照準して爆撃することが、最も効果的な爆撃機の使い方だと主張した。彼の意見は、夜間爆撃を実施するイギリス空軍とは真っ向から対立していた。彼は、ノルデン爆撃照準器の性能を信じて昼間爆撃であれば、高空からも精密爆撃が可能だと信じていた。ピンポイントでの攻撃が可能になれば、イギリス空軍のように大量の爆撃機を出撃させなくても目標とした施設を破壊できる。

 第8航空軍は、イギリスの基地に展開すると、訓練も兼ねて小規模な爆撃作戦を開始した。イギリスから距離の近いフランスの目標に対して十数機程度の小規模な編隊で攻撃を繰り返した。もちろん、近距離の目標なので、全経路で戦闘機の護衛付きでの作戦だ。

 爆撃隊の活動とは独立して、イギリス空軍は、スピットファイアⅨや新鋭機のタイフーンを加えてファイタースイープを強化したので、北フランスやベルギー、オランダ上空では戦闘機同士の戦いが、しばしば生起するようになった。

 戦闘機の戦いでは、スピットファイアはⅨ型になって、期待通りFw190Aに対しても優位に戦えた。しかし、まだ配備数が不十分だったので、ドイツ軍戦闘機を圧倒するまでには至らなかった。加えて、戦闘隊に加わったばかりのホーカー・タイフーンは、後部胴体の強度が不足して尾部が折れるという致命的な欠点が露呈して、満足な空戦もできなかった。しかも分厚い主翼の影響で、低空の速度性能は全く期待外れで、戦闘機としては役に立たないことが証明されつつあった。

 1942年8月には、連合軍による北フランスのディエップへの上陸作戦が計画されていた。フランスの領土を連合軍が占領することが目的ではなく、上陸後はドイツ軍の新型兵器や電子機器を奪い、数時間程度で撤退する計画だった。しかし、イギリス空軍は夜間爆撃でも、昼間のフランス上空の戦闘機の戦いでも大きな被害を受けていた。総指揮官のモントゴメリー中将は、ドイツ空軍が強力な攻撃力を有していることを認めて、上陸作戦は時期尚早だと判断した。直前になって、中将自身がチャーチルに直訴して、作戦を無期延期した。

 ……

 1942年6月になって、イギリス本土に第8航空軍の爆撃機が到着し始めた。イングランド南部にはいくつもの爆撃機用の基地が準備されていた。スパーツ少将は、到着した爆撃機に対してドイツ占領下のオランダやベルギーなどの目標に対して10機以内爆撃機で、訓練を兼ねた作戦を開始した。もちろん最初の大規模な作戦なので、護衛戦闘機の行動範囲内での爆撃作戦だ。

 ドイツ空軍は少数機によるこれらの攻撃に対しても可能な限り迎撃した。しかし、爆撃により、受けた被害も小さかったが、規模の小さな攻撃隊に対して与えた戦果も大きくはなかった。

 苦労して、1機のB-17を撃墜した戦果が、わざわざ航空省のガーランドのところまで上がってきた。
「イギリスの爆撃機とは違って、アメリカのB-17は容易に撃墜できない。特に大口径機銃が1挺のBf109Fにとっては、容易ならざる相手だ。既存の戦闘機に武装の強化が必要だ」

 ガーランドは、今までの作戦で懇意になっていたJG2のエーザウ中佐に連絡を入れた。
「アメリカ爆撃機が本格的に活動を開始すれば、とんでもない大きな被害が出るぞ。戦闘機の攻撃力をもっと強化しなければ、B-17を撃墜できない。これからアメリカの爆撃隊は攻撃を本格化してくるだろう。アメリカ本土からの大規模な航空戦力がイギリス本土に集結している」

「十分、認識しています。攻撃力強化のために、メッサーシュミットには、飛行性能の低下を承知で、両主翼下のゴンドラに20mm銃を追加したR1仕様の改修を進めています。しかし、それだけでは全く不十分です。我々には、もっと強力な戦闘機の配備が必要です」

「新型機の配備は急がせる。現地部隊では、大型機への攻撃法についてよく研究してくれ。ドーバーの戦いで実行したような、もっぱらイギリス戦闘機と戦う部隊と四発機を攻撃する重武装の部隊を分けるなどの攻撃法がいいのではないか。B-17を撃墜した時の記録と分析結果は、そちらにも配布する。検討していると思うが、強力な防御機銃を避けて、攻撃しなければならない。当初は試行錯誤になるかもしれないが、有効な攻撃法を確立してくれ」

 ガーランド総監は、JG26司令官のシェプフェル中佐にも同様の連絡を行った。続いて、夜間戦闘部隊指揮官のカムフーバー中将には、別の依頼をした。
「アメリカ爆撃機の大規模な攻撃が近づいています。夜戦で活用しているヒンメルベットを昼間の戦闘でも利用したいのです」

 カムフーバー中将もドイツ防空のためなら協力を惜しまなかった。
「確実に友軍機を誘導できる我々のヒンメルベットは、昼間の闘いでも有効なはずだ。レーダーで爆撃隊の数もわかるので、無駄なく効率的な闘いが可能になるぞ。Fw200警戒機と合わせて、確実に爆撃隊を発見して友軍機を誘導できるはずだ」

 中将の了承により、第3航空艦隊司令部に設置していた計算機をヒンメルベットのオペラハウスの計算機と相互に接続可能なように通信回線を整備できた。昼間戦闘の司令部でも計算機の情報を参照して部隊の指揮が可能になった。また戦闘機がヒンメルベットの誘導を受けられるように機載無線の調整を進めた。

 レーダーの活用に加えて、ガーランドはドイツ空軍省総監の立場を生かして、フォッケウルフとメッサーシュミットで開発が完了していた新型戦闘機の配備を急がせた。イギリス戦闘機もどんどん進歩しているのだ。彼は、新型機の出現が遅れれば、それだけ空の戦いが不利になることを十分に認識していた。
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