電子の帝国

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第18章 外伝(北アフリカ戦線編)

18.2章 マルタの戦い

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 地中海での2月から3月にかけての激しい戦いの状況について、説明を受けたチャーチルは、すぐにパウンド海軍卿とシンクレア空軍大臣を呼んだ。

 招集したメンバーがそろうと、葉巻をくわえたままで、チャーチルは説明を始めた。
「枢軸軍からの攻撃により、マルタ島の航空基地が壊滅的な被害を受けた。最近では、毎日のようにドイツとイタリアの航空機が島のあちこちを爆撃している。このまま放置すれば、マルタ島が陥落するのも遠くないだろう。十分わかっていると思うが、マルタはジブラルタルとアレクサンドリアの中間に位置している。北アフリカだけでなく、地中海を我が国が支配するために極めて重要な要衝なのだ。我々は、マルタにドイツやイタリアが上陸してくるような事態を何としても避けなければならない」

 パウンド海軍卿が早口で話し始めた。彼は、首相から言われる前から、マルタの兵力を強化するための輸送作戦を検討していた。
「マルタ島の戦力を回復するために大量の物資輸送が必須です。しかし、輸送船を航行させても枢軸軍から必ず攻撃を受けます。そのため、強力な護衛をつけた輸送船団を編制して、ジブラルタルとアレクサンドリアの東西二方面から出発させます。どちらかの輸送船団が到着すれば、マルタが一息つけるだけの数を準備します。海上護衛に関しては、空母や戦艦、巡洋艦も出撃させる準備をしています」

 空軍もマルタへの兵力強化については、既に手を打っていた。シンクレア大臣もその作戦を知っていた。
「我々空軍もジブラルタルから航空機を飛ばして、海上の警戒を強化します。マルタ島への航空兵力の増強については、空母『アーガス』と『イーグル』にスピットファイアを搭載します。空母が戦闘機の行動範囲に入れば、空母から一気にスピットファイアを送り込みます。大丈夫ですマルタは必ず救えますよ」

 しかし、イギリス海軍と空軍が地中海沿岸で準備を始めると、暗号解読やジブラルタルのスパイからの情報で、ドイツ軍もその動きを察知した。近いうちにイギリス軍が地中海で大掛かりな作戦を意図していることをドイツも知ることになった。

 連合軍側の作戦目標については、現在の戦況から論理的に考えれば、輸送船団をマルタに送り込むことが最優先事項だとドイツ側も推定できる。しかし、正確な日時や船団の規模までは判明しなかった。しかも、二方面から同時に輸送作戦を実施するということまでは想定できていなかった。それでも、地中海のドイツ海軍潜水艦は、獲物を求めて行動を開始した。

 ……

 U-81はイタリアの長靴の付け根にあるラ・スペツィアを出港してからどんどん南下していた。ラ・スペツィアは、ドイツ軍潜水艦部隊が地中海において母港としていたイタリアの港町だ。

 地中海に出てしばらくすると、ジブラルタル方面から船団が出発したとの情報が、母港の司令部からもたらされた。しかも、推定情報としてイギリス海軍の空母と戦艦を含む艦隊が護衛していることも付け加えられていた。

 艦長のグッゲンベルガー大尉は、サルディーニャ島の南西海域まで進出して待ち構えることにした。船団がマルタに行くためには、チュニジアとサルディーニャ島の間の海域を通過しなければならない。しかも、ジブラルタルからは1,200km以上離れていて、長距離飛行可能なイギリス軍の哨戒機でも簡単に飛行できる範囲ではない。U-81は4月中旬には目的の海域に到着した。

「艦長、シチリアを発進したFw200がレーダーで東に進んでくるイギリスの艦隊を発見しました。我々の位置からは280度の方位、距離は既に100Km程度です。続いてU-73からもイギリス艦隊発見の暗号電が入っています」

 どうやら、U-73の艦長は電波発信に対しては、躊躇しなかったようだ。グッゲンベルガー大尉は、同僚としてU-73のローゼンバウム大尉が大胆な性格だと知っていた。しかし、決して無茶をするような男ではない。イギリス艦隊にとっては、チュニジアの北方海域でドイツ軍の潜水艦が待ち構えているのは予想される海域だから、無線封鎖は意味がないと判断したのだろう。それよりも、攻撃目標となる艦隊の位置を通報することを優先したわけだ。しかも、エニグマが計算機を利用した新型のエニグマⅡへ更新されてからは、解読される可能性はまずない。連合軍からは、解読不能の電波発信としか認識されないはずだ。

 短時間の通信により、グッゲンベルガー大尉は自分の作戦案をU-73に伝達できた。ローゼンバウム大尉からは、了承したとの反応があった。狭い地中海では本格的なウルフパックは編制できないが、アルジェリアの北側の海域で2隻の潜水艦により、南北から挟撃することになった。サルディーニャ島の北側海域がU-73で、南のアフリカ側がU-81だ。敵味方の位置関係から、攻撃は夜間になると想定されたが、空母の搭載機により発見されることを恐れるUボートにとってはむしろ好都合だ。

 日が暮れる直前に、シチリアから西方向を索敵していたFw200から追加の情報がもたらされた。U-81の航海長が索敵機からの通報を見ながら説明を始めた。
「イギリスの艦隊は南北の2群に分かれて航行しています。本艦は、少しばかり南寄りの位置になっています。北側を航行してくる艦隊を迎え撃つためには、現在位置から若干、北上した方が良いと思われます」

「わかった。北に移動しながら接近しよう。水雷長、すぐにも雷撃することになる、準備していてくれ」

「新型魚雷を使いますか?」

「母港に持ち帰っても仕方がないだろう。最初はウェークホーミングを有効にして撃つぞ。命中率が悪ければ、その後はホーミングを切って、通常魚雷として発射することになるな」

 1940年にドイツの技師がいささか違法な手段で日本から持ち帰ってきた実験部品や資料の中には、航跡誘導魚雷の設計書類も含まれていた。そもそも誘導魚雷の技術に関しては、日本よりもドイツの方が先行していた。しかも誘導に必要な計算機も開発が進んだ。このような理由で、1942年になって、ドイツ海軍は航跡誘導魚雷を保有できることになった。

 北西へと水上航行していると、しばらくして逆探が電波を受信した。波長からイギリス海軍艦艇のレーダーだとわかる。しかも電波強度が時間とともに増加してきた。

「護衛に空母が随伴しているはずだ。ソードフィッシュが飛んでくるかもしれん。これ以上は発見される恐れがある。潜水して攻撃する」

 U-81が待ち構えていると、縦列になった艦艇が西側から航行してきた。護衛の駆逐艦か巡洋艦だろう。その後方にも輸送船が続いているはずだが、前方の軍艦の騒音が邪魔して、聴音でも判定できなかった。

「やや遠いが、雷撃するぞ。ウェークホーミングが期待通りの性能を有するならば、命中するはずだ。雷数は4本とする。雷速は40ノット。艦隊の1番艦から3番艦までを狙う。扇型になるように発射方位を調整してくれ」

 G7a魚雷に、ウェークホーミング機能を追加したG7aw魚雷が連続して4本発射された。巡洋艦と駆逐艦が目標なので、高速でも回避できないように速度は40ノットの設定だ。この条件での航続距離は公称7,500mになるが、実際にはエンジンが止まるまでは、もっと長い距離を走り続けられる。

 1本は軽巡の艦首よりも前を通り過ぎた。航跡を探知することはできず、そのまま遠ざかって行った。次の1本が軽巡「カイロ」の後方を通過すると、すぐに回頭を開始した。再び「カイロ」の艦尾後方を通過すると再度変針してから、船体の右舷中央付近に命中した。

 更に、1本の魚雷が3番艦として航行していた駆逐艦「マーン」の航跡を横切った。170度に近い回頭すると駆逐艦の艦尾に命中した。次々と魚雷が命中したのを見て、まだ被害を受けていない駆逐艦がすぐにUボートからの攻撃だと気付いた。

 U-81は、魚雷の命中も確認せずに西方に位置を変えていた。本来の目的は、輸送船の撃沈なのだ。護衛の艦隊の後方には輸送船が航行しているはずだ。つまり西方に移動すれば輸送船に近づくことになるとの読みだ。

「ジークリンデを発射せよ」

 船体側面に格納されていたジークリンデと名付けられたおとりが、移動方向とは正反対の東に向けて射出された。ジークリンデは、電気モーターにより上昇と潜航を繰り返しながら水中を移動する最新のおとり装置だ。移動時に、潜水艦の疑似音響を発生することにより、ソナーを欺瞞できる。

 潜水艦に似せた音を発すると言っても、いずれおとりだとばれるだろう。グッゲンベルガー大尉も時間稼ぎの装備だと認識していた。それでも輸送船を攻撃するまでの時間稼ぎをしてくれるはずだ。

 ……

 U-73も西南西方向から接近してくる艦隊を発見していた。輸送船団の護衛のために別働隊としてやってきた戦艦と空母を含む大艦隊だった。

 ローゼンバウム大尉は、潜望鏡からの眺めに驚いていた。月夜の下を航行する空母と随伴している駆逐艦のシルエットが見えたからだ。
「西方から艦隊がやってくる。空母と駆逐艦が見えるぞ。その後方にも大型艦が続いているようだ」

 周りの乗組員たちが黙って次の言葉を待っている。これほどの大艦隊ならば、一度退避する選択もあり得るだろう。大尉は攻撃を判断した。もちろん乗組員の期待通りだ。

「空母を優先して攻撃する。水雷長、全門、ウェークホーミングで撃つぞ」

 艦載機を搭載した空母は、船団の強力な護衛戦力だ。夜が明けて、イタリアやドイツ空軍が爆撃することになれば、護衛の戦闘機は大変厄介な存在になるはずだ。加えて、哨戒機は潜水艦にとって、大きな脅威だ。

 もう一つの空母の役割を大尉は知っていた。艦隊がある程度マルタに近づいた時点で、これらの空母は、スピットファイアを発艦させるだろう。空母は、孤立した島嶼の航空戦力を短時間で増強できる有効な手段なのだ。

 大尉が、もう一度潜望鏡を上げると、特徴的な大型の艦橋を備えた空母が夜空を背景として見えていた。その後方には逆にほとんど艦橋のない小型の空母が航行しているのがかろうじてわかった。地中海で活動しているということも考え合わせると、大きな艦橋の空母は、「イーグル」だろう。後方のフラットな艦形は「アーガス」のはずだ。

 U-73は3本の魚雷を前方の空母を狙って発射した。次に艦首の1本を2番目の空母に向けて発射すると、180度回頭して、後部発射管から1本を発射した。

 3本の魚雷が、「イーグル」に向かっていった。2本が航跡を北から南に横切ってから、ターンして戻ってきた。そのまま左舷側の船体後半部に命中した。もともと戦艦だった空母の舷側防御は4.5インチ(114mm)もあって、砲撃に対してはそれなりの防御力を有していたが、船体下部の水雷防御は不十分だった。旧式戦艦を改造した船体は、船底近くで爆発した280kg弾頭の爆発力には耐えられなかった。機関部への浸水が始まると船体は徐々に左に傾斜していった。

 後方の「アーガス」に向かっていった2本の魚雷は、1本は完全に外れたが、1本は空母の航跡を捉えた。空母の艦尾の後方を越えてから、方向転換して戻ってきた魚雷は、艦尾近くの左舷側に命中した。船体の小さな旧式空母は、魚雷に対する防御構造を全く有していなかった。隔壁によりボイラー室への浸水は防いだものの、機械室への浸水により、完全に機関が停止した。

 水中爆発音が収まってしばらくすると、潜水艦での聴音が可能になった。
「駆逐艦が接近してきます。おそらく2隻!」

 聴音手からの報告を聞いて、ローゼンバウム大尉は、次々と命令を発した。
「デコイのボールドを3基射出せよ。続いて南東方向に向けてジークリンデを発射。本艦は7ノットで北北西に向かえ」

 ボールドとは、水素化カルシウムを水に反応させて、大量の水素ガスを発生させることにより、海中に偽のソナー反射を作り出すおとりである。バルブ制御で浮力を調整して、水面下30mあたりを20分ほど漂ってアクティブソナーに対する偽の目標を作り出す。一方、ジークリンデは水中を移動しながら、潜水艦を疑似した音響を発生した。

 2種類の最新型のおとりを駆使して、U-73は駆逐艦の追撃を振り切ることができた。

 夜間攻撃は、空母への攻撃で終わったわけではなかった。夜明けまでに、U-81は船団中央を航行していた貨物船団に接近して3隻を撃沈した。U-73は、空母の後方を航行していた戦艦「マレーヤ」に1本を命中させた。

 夜が明けると、サルディーニャ島を発進した攻撃機がやってきた。イタリア空軍のSM.79とドイツ空軍のHe111はいずれも魚雷を搭載していた。空母が損害を受けたので、イギリス艦隊を護衛する戦闘機はない。つまり爆撃機の天下だ。

 マルタに向けて航行していた5隻の輸送船が最初に攻撃された。続いて、傾斜して海上を漂流していた「イーグル」と「アーガス」も航空攻撃の目標になった。

 司令官のカーティス少将は輸送すべき貨物船が全て沈められてしまうと、ジブラルタルへの撤退を決断した。速度が落ちながらも航行できた「マレーヤ」は虎口を脱することができたが、機関が止まっている2隻の空母を救うことはできなかった。

 ……
 
 一方、夜が明けると、アレクサンドリアを出港してマルタに向かった艦隊も激しい攻撃を受けていた。船団の中心は、13隻の輸送船だった。その輸送船団を7隻の軽巡と16隻の駆逐艦に加えて、8隻コルベットと掃海艇が護衛していた。

 アレクサンドリアに配備されていた戦艦「クイーン・エリザベス」と「ヴァリアント」は、前年にイタリア軍の攻撃により被害を受けていたので護衛隊に参加できなかった。そのため護衛艦隊は、大規模な船団にもかかわらず、大型艦が含まれていなかった。それでもイギリス海軍は、これだけ多数の護衛艦艇が随伴していれば、十分だと考えていた。

 艦隊が出港したことは、偵察機にすぐに察知されて、枢軸側の空軍機から攻撃を受けた。艦隊が、クレタ島の沖合に達するまでに、SM.79とJu87スツーカによる爆撃のために駆逐艦2隻と貨物船3隻が撃沈されて、2隻が損傷した。

 しかも、イタリア本土を南下して、輸送船団の攻撃にやってきたのは、とんでもない大規模の艦隊だった。新鋭戦艦である「リットリオ」と「ヴィットリオ・ヴェネト」が出港してきたのだ。加えて、重巡洋艦「トレント」と「ゴリツィア」、軽巡2隻、駆逐艦12隻が続いていた。

 イタリアの大艦隊がイオニア海を南下してくると、イギリス空軍はエジプトからウェリントンの爆撃隊を発進させてイアキーノ提督の艦隊を攻撃した。大艦隊出現の報告を受けてアメリカ軍もエジプトの基地からB-24を出撃させてきた。

 これに対してドイツ空軍は、北アフリカの第26駆逐航空団(ZG26)に所属するBf110をイタリア艦隊上空に飛ばした。レーダー搭載のFw200が、攻撃してくる連合軍爆撃機に対して、ドイツ軍戦闘機を誘導した。Bf110は、海上の戦いでも爆撃機の近くまで誘導を受けたおかげで、目視確認したしたウェリントンを攻撃できた。さすがにB-24に対しては、簡単に撃墜できなかったが、爆撃態勢に入った機体にも攻撃を繰り返して、水平爆撃の照準を妨害するという艦隊護衛の目的は達成した。

 連合軍の航空攻撃を撃退して、大規模なイタリア艦隊が接近してくるとの知らせを受けて、イギリス艦隊は被害を軽減するために、マルタから遠ざかるのを承知で、一時的に東に戻っていった。それでも、30ノットの全速で追撃したイタリア艦隊は輸送船団に追いついた。輸送船団は、10ノット低度の貨物船の速度に合わせざるを得なかったのだ。

 イタリア艦隊を指揮していたイアキーノ提督は、今回の海戦では勇敢だった。偵察機からの報告で、天敵のアレクサンドリアのイギリス戦艦が出てこないことを知ったのだ。加えて、今までの自分の指揮が消極的だと批判する声も聞こえていた。

「相手の船団は低速だ。我が軍が全速で追っていけば、かならず追いつける。主砲の射程に入ったら、射撃開始だ」

 指揮官の命令に従って、「リットリオ」と「ヴィットリオ・ヴェネト」は、前方を逃げてゆく輸送船団を主砲射程内に捉えると、正面の敵艦隊に向けて、6門の主砲を撃ち始めた。

 しかし、遠距離では、イタリアの戦艦の照準は不正確で、緩慢に射撃する主砲弾の命中率もかなり悪かった。それでも、イタリア艦隊としての戦略的な目的は達成しつつあった。マルタから輸送船団を遠ざけて、アレクサンドリアの方向に押し戻すという役割だ。

 戦艦が脅しのような砲撃に終始したのに比べて、イタリアの巡洋艦と駆逐艦は、快足を生かして活躍した。重巡「トレント」に座乗していたエスポジト大佐は、1941年から続いていた地中海の攻撃作戦や枢軸側の貨物船護衛に何度も出撃していた。数々の実戦経験から、もっと距離を詰めることの必要性を痛感していた。
「司令官の戦艦部隊はいったい何をやっているんだ。我が軍の遠距離砲撃の成績は決して褒められたものじゃないぞ。もっと距離を縮めなければ、弾の無駄遣いになるだけだ。イギリス艦隊からの反撃を恐れるな。敵船団に全速でもっと接近しろ」

 エスポジト大佐の命令に従って、「トレント」と軽巡「ジュゼッペ・ガリバルディ」、後続の駆逐艦は、イギリス艦隊に全速で接近すると、激しい砲撃を開始した。イギリス海軍の駆逐艦は、果敢にもイタリア艦隊に向けて反転してきた。すぐに2隻の巡洋艦とイギリス軍の駆逐艦の間で激しい砲撃戦が始まった。巡洋艦を先頭としたエスポジト大佐の戦隊は、反撃を受けながらも、駆逐艦2隻を撃沈すると、逃げてゆく輸送船に迫って4隻を沈めた。

 イタリア海軍の果たしたもう一つの大きな役割が実りつつあった。「リットリオ」が通報したイギリス輸送船団の位置情報を受けて、SM.79とJu88の編隊が飛来してきたのだ。SM.79は雷撃装備で、北方から輸送船を雷撃した。一報、Ju88は急降下爆撃で軽巡とタンカーを攻撃した。しかもイタリア沿岸からドイツの魚雷艇(Sボート)までが出撃してきて、駆逐艦を雷撃した。

 海と空の多方面からの攻撃に耐えきれなくなって、イギリス艦隊指揮官のヴァイアン少将は撤退を決断した。作戦を中止してアレクサンドリアに戻るのだ。巡洋艦2隻、駆逐艦4隻が撃沈されると共に、貨物船8隻がアレクサンドリアにたどり着けなかった。

 他方、イタリア軍は「リットリオ」と「トレント」「ジュゼッペ・ガリバルディ」が小破の被害を受けて、駆逐艦2隻が沈んだ。しかし大型艦は全てイタリア本土に戻れた。

 1942年3月のマルタ島へのイギリスの輸送作戦は、完全に失敗した。既に繰り返し攻撃を受けていたマルタ島は、航空兵力がすり潰されて、基地の燃料と弾薬も不足していた。しかも、島民の食料さえも欠乏している状況にもかかわらず、補給の輸送船は入港してこなかった。ジブラルタルやエジプトから飛来可能な爆撃機や輸送機は補充できたが、戦闘機の増強は空母が接近しなければ不可能だ。しかも、大型機が着陸しても燃料や弾薬が不足していては、枢軸軍の輸送船への攻撃は満足にできなかった。
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