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第20章 中部太平洋作戦
20.5章 マリアナ沖海戦2
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アメリカ軍の第38.1任務群と日本の第二航空艦隊は、お互いの位置を確認してから攻撃隊を発進させた。相手艦隊に向かったのは、早期に発見した米軍の攻撃隊がやや先行した。アメリカ軍の大編隊が西へと飛行を開始した。攻撃隊は、機動部隊の索敵のために西側から飛行していた天山の電探の捜索範囲内を通過することになった。西へと進む大編隊を発見した天山は、直ちに司令部に通報した。
清水飛曹長の銀河は偵察任務でアメリカ艦隊を捜索していた。偵察任務の途中だったが、通信士の桑原一飛曹が二航艦司令部から受信した命令を伝えた。
「少し前に米艦隊から攻撃隊が発進したとのことです。我々にアメリカ攻撃隊を追尾するように二航艦から命令が出ました。飛行中の敵編隊の位置も通知されています」
「編隊の後方からばれないようについて行って、米軍がどの方向からどんな攻撃を仕掛けるつもりなのか、早めに教えろということか。敵艦隊は既に発見されているので、これから、索敵を続ける意味は確かに小さいな」
アメリカ海軍のTBFアベンジャーは電探を搭載していることが判明していたので、それに探知されないように尾行しなければならない。電波反射の小さな全翼機の銀河でなければ不可能な任務だ。
清水機は、距離をある程度開けてて、高度を下げて追跡を開始した。やがて、アメリカ軍の攻撃隊は、日本艦隊に接近していった。
「我が艦隊に近づいているようだ。迎撃の準備ができようように、早めに二航艦司令部に通知するぞ」
追跡している銀河からの通報は「衣笠」で受信された。
「方位83度、80海里(148km)、高度5,500m、大編隊が接近中」
山口長官は、早期に迎撃を開始するように命令した。
「銀河からの報告により、早めに米攻撃隊の位置が判明した。それを生かして、こちらが先手をうって遠方で迎撃する」
米軍の攻撃隊が飛行してきた時点で、二航艦を護衛していたのは約100機の戦闘機だった。もともと日本艦隊は艦載機の約半分を戦闘機とするように配備していた。二航艦全体では、350機余りの艦載機を有していたが、約半数が戦闘機とすると、攻撃隊の護衛を発進させた後も多くの戦闘機が艦隊に残っていたことになる。
そもそもの戦闘機の配備数に加えて、直衛戦闘機が多いのは、攻撃隊の護衛戦闘機としては、六航戦の銀河の直衛戦闘機をなくして、別働の戦闘機隊と四航戦攻撃隊の護衛戦闘機の出撃にとどめた効果だ。攻撃隊に加わる戦闘機を減らして、防御側を増やしたことになる。
米軍攻撃隊が接近してくることを予期して、四航戦と六航戦の艦隊の外周には、電探を搭載した天山が飛行していた。銀河からの報告を受けて、米軍編隊に向けて電探搭載の天山が飛行していった。大編隊の全容をつかんで、友軍戦闘機による効果的な迎撃戦をさせるためだ。
「方位88度、距離70海里(130km)、電探は2群を探知、70機を超えると推定」
銀河からの情報と天山の探知報告を入力すると計算機が米軍攻撃隊の全容を推定してきた。電子参謀の石黒少佐が結果を山口中将に報告にやってきた。
「計算機が、銀河と天山からの報告内容から推定結果を出してきました。艦隊の方位80度から90度の間に3群に分かれた編隊。距離はおおむね65海里(120km)から70海里(130km)。規模は80機から120機の間と推定しています。おそらく前方の編隊は、戦闘機が主体で、後方に2群の爆撃隊が続いています」
「わかった。米軍編隊は全体で100機超えていると想定して迎撃する。前方の戦闘機隊への攻撃を優先してくれ。我が軍の戦闘機隊は数で優勢だ。余裕があるならば、別働隊には爆撃機を攻撃させる」
……
東方から接近する米編隊に対して、まず攻撃を開始したのは、六航戦の戦闘機隊だった。その中でも先行して飛行していたのは、複座烈風改の32機の編隊だ。アメリカ側のF6FとF4Uの編隊が左右に大きく広がっているのに合わせて、日本側の戦闘機も編隊を広げて接近していた。事前に銀河と天山からの情報により、日本側はアメリカ軍の編隊構成の概要を知っていたのでそれに合わせていた。
植村一飛曹の小隊も戦闘機隊の一群として飛行していた。後席に搭乗した通信士の山口一飛曹が、電探の状況を報告してきた。
「本機の電探が米軍機を捕捉しました。12時方向、同高度、約10海里(18.5km)です」
植村一飛曹も正面の米編隊を確認していた。
「まだやや遠いな。5海里(9.3km)で発射だ」
日米の編隊は、正面から向かい合って飛行しているのであっという間に距離が詰まってきた。山口一飛曹が大きな声で叫ぶ。
「5海里を切りました。目標からの反射電波を受信中」
山口一飛曹に負けない大声で、植村一飛曹も叫んだ。同時に発射ハンドルを前に倒した。
「誘導弾発射!」
植村機の両翼下から発射された2発の誘導弾は、真っ白な煙の尾を引きながら米軍機の編隊に向けて飛行していった。他の複座烈風改もほぼ同時に誘導弾を発射していた。
複座型烈風改が発射したのは、三式空対空誘導弾だ。誘導方式は、艦載の対空誘導弾と同様に、電探の電波反射を受信して、目標に向かってゆく。複座型烈風ならば、電探を搭載していて電波を照射できるので、単機で目標を狙って誘導弾を発射できる。
64発の誘導弾が、一斉に米軍戦闘機隊に向かっていった。
……
「エセックス」戦闘機隊のオヘア少佐は、新たに配備されたばかりのF6Fの部隊を率いていた。前方に多数のサム(烈風)の編隊が見えてきたが、彼は自信をもって待ち構えていた。アリューシャンで鹵獲したサムの試験結果を中佐も読んでいた。試験飛行の結果、サムの速度はおおよそ400マイル/時(644km/h)だと判明していた。これでも艦載機としては十分すぎるほど高性能だ。
しかし、少佐のF6F-3は改良型のP&W社の18気筒エンジンを搭載して、430マイル/時(692km/h)で飛行可能だった。戦闘機隊に同行しているF4U-4は旋回戦ではやや劣るが速度に関しては更に高速だ。しかも、前方の日本軍機が30機程度に見えるのに比べて、友軍戦闘機は全機で48機なので数でも優勢だ。今まで、F4Fによる戦いでは散々苦杯をなめさせられてきたが、今回の戦いでは逆転可能なはずだ。
ところが、前方を真っすぐ接近してきたサムの編隊は、まだ空戦には遠すぎる5マイル(8.0km)以上の距離から未知の飛翔体を一斉に発射してきた。後方から白い煙を噴き出して飛行してくる物体を見て、オヘア少佐はその正体を想定できた。
「前方に注意。おそらくミサイルだ。誘導されている可能性があるぞ。直ちに急旋回と急降下で回避せよ」
彼は、アリューシャンやパナマの戦闘で日本の戦艦や巡洋艦が電波で誘導するミサイルを使って航空機を撃墜したとのレポートを読んでいた。それが、航空機搭載型のミサイルに進歩していても不思議ではない。
オヘア少佐は、ミサイルの誘導法を詳しく知っているわけではなかったが、高速の飛行体に対して、急旋回すれば命中率は低くなるだろうと咄嗟に考えたのだ。
少佐は、急降下しながら、左側に急旋回して周囲の友軍機を観察していた。飛翔してくる物体の危険性を認識しないで、緩やかな旋回をしている機体に対して、更に大声で命令した。
「ミサイルが追いかけてくるぞ。急旋回で逃げろ!」
しかし、電波を反射する目標に向けて飛行する誘導弾はグラマンが旋回しても、飛行方向を変えてF6Fに向かっていった。少佐の命令が終わる前にいくつもの爆発が編隊内で発生した。
戦闘機の至近を通過した誘導弾が、近接信管を作動させた。近距離で弾頭が爆発すれば、頑丈なアメリカ軍の戦闘機も致命的な被害をうけた。主翼が折れたり、エンジンが脱落した機体が次々と墜ちてゆく。
ミサイルの爆発はF6Fの編隊内に留まらなかった。左翼側を飛行していたF4Uの編隊でも同じようにミサイルが爆発している。
もともと、合計で48機の戦闘機隊が堂々たる編隊を組んでいたはずだ。それが、60発を超えるミサイルの射撃を受けて一瞬で半減した。
しかもミサイルを発射したサムとは別の多数の戦闘機が上空から急降下してきた。
……
「伊勢」の戦闘機隊に配属された笹井中尉は、複座型烈風改の後方を飛行していた。前方の編隊が誘導弾の射程内に入ったのを確認して上昇を命じた。
「全速で上昇せよ。誘導弾の攻撃後に、米戦闘機隊に上空から突入する」
下方で誘導弾が発射されたのを見ながら、30機余りの烈風改がぐんぐん上昇してゆく。やがて、下方で数十の火球が発生した。誘導弾の弾頭が爆発しているのだ。
「降下開始、降下攻撃せよ」
急降下を開始すると、目の前のアメリカ戦闘機隊は笹井中尉が想定していた以上に混乱していた。つい先ほどまできれいな編隊を組んでいた戦闘機隊は、バラバラになっていた。しかも、半数近くが誘導弾で撃墜されたように見える。
アメリカ軍の戦闘機が墜落した後には、のろしのような黒煙が幾筋も残っていた。既に、笹井中尉の烈風改の速度は、780km/hを超えていた。水色の下腹部を上に見せて反転降下しようとしている逆ガルの機体に狙いをつけた。
F4U-4は、最大速度が718km/hだったが、それは2段過給器の高空性能が活かせる高度8,000m付近での速度だ。戦闘が行われている高度5,500mから5,000mでは700km/h程度になった。それでも1段過給機で690km/hを発揮する烈風改よりもやや優速だったが、実質的な差はほとんどないに等しい。しかも、現状は、急降下の加速を生かした笹井隊の方が高速だった。簡単にコルセアに追いつくと短い一連射で20mm弾を命中させた。
中尉以上に経験の長いベテランぞろいの笹井中隊にとって、混乱する相手に対して降下攻撃で先手をとった戦いは、圧倒的に有利になった。F6FもF4Uも旋回と速度性能のバランスでは烈風改に劣る。長所を最大限生かした空戦に巻き込まれてアメリカ軍の戦闘機は次々と撃墜されていった。
オヘア少佐は、サムと対峙して自分の考えが間違っていたことに気づいていた。目の前の戦闘機は、アクタン島でアメリカ軍が鹵獲したサムではない。外見はほとんど同じだが、大幅に性能が向上している。考えてみれば、それも当然だ。アメリカ軍の戦闘機は、エンジンや機体の改良により性能をアップさせた。日本人も同じことが可能なはずだ。とにかくこの戦闘を生き延びて、戻って日本軍との闘いを報告しなければならない。
……
四航戦を発進した新郷隊長は、烈風改の編隊を一時的に北側に迂回させて、米軍爆撃機隊の側面へと向かっていた。爆撃機に接近する間にも、先頭の複座側烈風改が発射した誘導弾が飛行してゆく白色の噴射の光が見えていた。すぐにその光点は、多数の爆発炎に変わった。新郷隊長は、予定通り先行した烈風隊がアメリカ軍の戦闘機隊と闘っているのを認識した。想定通り戦闘が推移しているのを確認すると、バンクをしながら命令を発した。
「突撃せよ。全機、爆撃機の編隊に突撃せよ!」
36機の烈風改は北側からSB2Cの編隊に一気に突っ込んでいった。ところが、どういうわけか、東側の戦いをうまく抜け出て、数機のグラマン戦闘機が向かってきた。
「新型のグラマンのようだ。油断するな」
戦闘が行われた高度5,000m付近で烈風改は、373ノット(690km/h)を超えたが、F6F-3も緊急出力で時速428マイル(689km/h)を発揮できた。性能はほぼ同じだったが、4機のグラマンではどうすることもできない。たちまち、2倍の日本軍戦闘機に追われて撃墜されてゆく。
残りの烈風改は、北側のSB2Cヘルダイバーの編隊に取りついていた。SB2Cは後部に装備した2挺の0.3インチ(7.62mm)機銃で反撃したが、390ノット(722km/h)を超える速度で攻撃してきた烈風改を照準するのはほとんど不可能だった。30機を超える戦闘機に攻撃されて、あっという間に20機の爆撃機が撃墜された。もともと、28機で飛行していた編隊は、あっという間に10機以下に減ってしまった。残ったSB2C編隊は、完全に戦意を喪失して、爆弾や魚雷を投棄して母艦へと戻っていった。
北側の編隊が迎撃されている間に南側の爆撃機群も攻撃されていた。噴進弾を発射した複座型烈風改が戦闘機の間をすり抜けて、後方の爆撃隊への攻撃を開始したのだ。アメリカ軍の護衛戦闘機は、既にF4UやF6Fが大きな被害を受けていたので、複座型と言えども烈風改の天下だった。これらの機体は、複座化により性能は若干低下していたが、それでも365ノット(676km/h)を発揮できた。SB2CヘルダイバーもTBFアベンジャーも次々に撃墜されていった。
最後まで残っていた両手程度の数の攻撃機は何とか西方の日本艦隊に接近していった。しかし、清水飛曹長の報告を受けて東に進んでいたのは防空戦闘機だけではなかった。艦隊の東側を航行していた「金剛」と「霧島」が全速で東方の米編隊へと接近していたのだ。はるか彼方に編隊のシルエットが見えた時点で、防空戦艦は誘導弾を発射した。「金剛」と「霧島」が発射した16発の対空誘導弾により、残っていた米軍機はあっという間に撃墜された。
100機余りの第38.1任務部隊の攻撃隊は、日本の空母を見ることもなく、日本軍の戦闘機と防空戦艦の攻撃によって完全に消滅してしまった。
……
二航艦が防空戦闘を終えたころ、六航戦を発進した第一次攻撃隊がアメリカ艦隊に接近していた。銀河の攻撃隊とほぼ同時に発進した烈風改の遊撃隊は、戦闘機としての巡航速度の速さも手伝って、最も早くアメリカ艦隊に接近していた。天山偵察機からの情報からアメリカ機動部隊の空母は4隻で、西と東の2つの輪形陣に分かれて航行していることがわかっていた。
北西から飛行していた烈風隊は2群に分かれた。そのうちの1群は、西方からアメリカ艦隊に接近しようとしていた。輪形陣の更に50マイル(80km)ほど外側に早期警戒のために配置されていた駆逐艦が烈風改の編隊をレーダーで探知した。駆逐艦「オバノン」から日本軍発見の報告を受けて艦隊上空の戦闘機が向かってゆく。迎撃したのは38.1任務部隊の上空を警戒していたF4Uの編隊だった。
浅井大尉は、前方から特徴的な逆ガル翼の航空機が飛行してくるのを発見した。
「南南東から、コルセアが接近してくる。10機以上の編隊だ。計画通り行動する」
烈風改の編隊は、一旦東へと方向を変えて艦隊から遠ざかるように飛行を始めた。アメリカ艦隊の正確な位置を把握していないのか、あるいは航法を誤ったのだと解釈して、F4Uは遠ざかる編隊をわざわざ、深追いしてこなかった。
一方、北側に回り込んでアメリカ艦隊に接近した編隊は、警戒中の駆逐艦が海上に見える海域まで飛行してゆくと、翼下に搭載していた金属箔の筒を投下した。空中で格納筒が割れると、金属箔が空中に拡散した。
艦隊の北方で警戒していた「ラドフォード」のレーダースコープに多数の目標反射が現われた。レーダー手から報告を受けた艦長のマクドナルド少佐は、レーダーが多数の目標を捉えたことを艦隊司令部に直ちに報告した。
ほぼ同時に、東へ向きを変えた編隊もアメリカ艦隊を攻撃するようなそぶりで、西側から東に前進してきた。
ウィルソン大佐は、今までの経験から日本軍は複数の方向から攻撃してくる可能性を考えていた。ちょうどその時、西側の「オバノン」と北側の「ラドフォード」が不明機の探知ありとの報告をしてきた。
「司令官、西の目標探知に対して日本軍機は遠ざかったり、接近したりしているようです。一方、北側では大きなレーダー反射を受信しています。大編隊の可能性がありますが、目視では確認できていません。私は、行きつ戻りつしている西側の編隊が陽動だと考えます。西側の編隊が我々の戦闘機を引き付けている間に北側の大編隊が攻撃して来るのではないでしょうか」
キンケイド中将は、日本軍を発見した状況についてしばらくの間、考えていた。
「F6FとF4Uの編隊を北側に向かわせよう。西側は、少数でもよいからF4Uに確認させてくれ。万が一、他の方向から日本軍機が現れても、周囲に配置した駆逐艦が早期に発見するだろう」
そのころ、烈風隊よりも南寄りを飛行していた六航戦の銀河隊は、南からアメリカ機動部隊に接近していた。北と西側から飛行していた烈風隊が行動を開始したことが、聞こえてくる無線通信からわかった。しかも浅井大尉は、電波発信源として自分たちの位置をアメリカ側に探知させるために、無線を発信していた。発信情報の中にはアメリカ艦隊の座標が含まれていた。もちろん、無線を傍受している銀河隊に最新の艦隊位置を知らせるためだ。
銀河隊の江草少佐は、受信した米艦隊の位置情報に基づいて、進行方向を微調整した。烈風隊が行動を開始したことで、作戦がほぼ予定通り進捗していることは想定できたが、銀河隊は位置の暴露を避けるためにあえて電波を発信しなかった。
しばらくして、江草少佐はバンクで攻撃開始を知らせると共に、どんどん高度を下げていった。銀河の編隊は東西方向に分かれて広がってゆく。電探の電波反射を低減させるためだ。全翼形式の機体に、金属とフェライトの微粉を含む特殊塗料を塗っていても電波反射が完全に無くなるわけではない。反射の大きな編隊行動を避けて、単機になって低空へと降りることにより、アメリカ艦隊の電探に探知されるのを少しでも遅らせようと考えていた。
しかしアメリカ艦隊の南側の外縁で警戒していた駆逐艦「フィッチ」が低空を飛んで行く2機の漆黒の全翼機を目撃したのだ。「フィッチ」は艦尾方向を通り過ぎてゆく奇妙な機体に対して、慌てて後部の5インチ(127mm)砲で射撃したが、照準は全く不正確だった。艦長のウォルポール中佐は、パナマに出現したレーダーに探知されにくい全翼形式の攻撃機のことを聞いていた。
「あれは、新型攻撃機のフランシス(銀河)だ。レーダー探知を避けて艦隊に近づいてから、空母を攻撃するつもりだろう。すぐに司令部に通報だ」
通報を受けて、キンケイド中将は全艦に日本軍機を警戒するように通知した。日本軍機の探知はキンケイドの期待よりも近い位置だった。
「護衛の戦闘機を南方に向けろ。全艦に対空射撃準備を通知せよ。すぐにも、攻撃されてもおかしくないぞ」
ウィルソン大佐を含めた司令部の面々は、日本軍の作戦に引っかかって護衛戦闘機を北と西に移動させたのは間違いだったと気づいていたが、誰もそれを話題にしなかった。今更、何を言っても遅いのと、今の状況に対応するのに精一杯だったからだ。
「もともと艦隊の上空で待機していたF4Uの部隊を向かわせています。しかし、フランシスが侵攻してくる空域に飛行するまでには10分程度かかると思われます」
二航艦を発進した攻撃隊が本格的な戦闘を開始しようとしていた。
清水飛曹長の銀河は偵察任務でアメリカ艦隊を捜索していた。偵察任務の途中だったが、通信士の桑原一飛曹が二航艦司令部から受信した命令を伝えた。
「少し前に米艦隊から攻撃隊が発進したとのことです。我々にアメリカ攻撃隊を追尾するように二航艦から命令が出ました。飛行中の敵編隊の位置も通知されています」
「編隊の後方からばれないようについて行って、米軍がどの方向からどんな攻撃を仕掛けるつもりなのか、早めに教えろということか。敵艦隊は既に発見されているので、これから、索敵を続ける意味は確かに小さいな」
アメリカ海軍のTBFアベンジャーは電探を搭載していることが判明していたので、それに探知されないように尾行しなければならない。電波反射の小さな全翼機の銀河でなければ不可能な任務だ。
清水機は、距離をある程度開けてて、高度を下げて追跡を開始した。やがて、アメリカ軍の攻撃隊は、日本艦隊に接近していった。
「我が艦隊に近づいているようだ。迎撃の準備ができようように、早めに二航艦司令部に通知するぞ」
追跡している銀河からの通報は「衣笠」で受信された。
「方位83度、80海里(148km)、高度5,500m、大編隊が接近中」
山口長官は、早期に迎撃を開始するように命令した。
「銀河からの報告により、早めに米攻撃隊の位置が判明した。それを生かして、こちらが先手をうって遠方で迎撃する」
米軍の攻撃隊が飛行してきた時点で、二航艦を護衛していたのは約100機の戦闘機だった。もともと日本艦隊は艦載機の約半分を戦闘機とするように配備していた。二航艦全体では、350機余りの艦載機を有していたが、約半数が戦闘機とすると、攻撃隊の護衛を発進させた後も多くの戦闘機が艦隊に残っていたことになる。
そもそもの戦闘機の配備数に加えて、直衛戦闘機が多いのは、攻撃隊の護衛戦闘機としては、六航戦の銀河の直衛戦闘機をなくして、別働の戦闘機隊と四航戦攻撃隊の護衛戦闘機の出撃にとどめた効果だ。攻撃隊に加わる戦闘機を減らして、防御側を増やしたことになる。
米軍攻撃隊が接近してくることを予期して、四航戦と六航戦の艦隊の外周には、電探を搭載した天山が飛行していた。銀河からの報告を受けて、米軍編隊に向けて電探搭載の天山が飛行していった。大編隊の全容をつかんで、友軍戦闘機による効果的な迎撃戦をさせるためだ。
「方位88度、距離70海里(130km)、電探は2群を探知、70機を超えると推定」
銀河からの情報と天山の探知報告を入力すると計算機が米軍攻撃隊の全容を推定してきた。電子参謀の石黒少佐が結果を山口中将に報告にやってきた。
「計算機が、銀河と天山からの報告内容から推定結果を出してきました。艦隊の方位80度から90度の間に3群に分かれた編隊。距離はおおむね65海里(120km)から70海里(130km)。規模は80機から120機の間と推定しています。おそらく前方の編隊は、戦闘機が主体で、後方に2群の爆撃隊が続いています」
「わかった。米軍編隊は全体で100機超えていると想定して迎撃する。前方の戦闘機隊への攻撃を優先してくれ。我が軍の戦闘機隊は数で優勢だ。余裕があるならば、別働隊には爆撃機を攻撃させる」
……
東方から接近する米編隊に対して、まず攻撃を開始したのは、六航戦の戦闘機隊だった。その中でも先行して飛行していたのは、複座烈風改の32機の編隊だ。アメリカ側のF6FとF4Uの編隊が左右に大きく広がっているのに合わせて、日本側の戦闘機も編隊を広げて接近していた。事前に銀河と天山からの情報により、日本側はアメリカ軍の編隊構成の概要を知っていたのでそれに合わせていた。
植村一飛曹の小隊も戦闘機隊の一群として飛行していた。後席に搭乗した通信士の山口一飛曹が、電探の状況を報告してきた。
「本機の電探が米軍機を捕捉しました。12時方向、同高度、約10海里(18.5km)です」
植村一飛曹も正面の米編隊を確認していた。
「まだやや遠いな。5海里(9.3km)で発射だ」
日米の編隊は、正面から向かい合って飛行しているのであっという間に距離が詰まってきた。山口一飛曹が大きな声で叫ぶ。
「5海里を切りました。目標からの反射電波を受信中」
山口一飛曹に負けない大声で、植村一飛曹も叫んだ。同時に発射ハンドルを前に倒した。
「誘導弾発射!」
植村機の両翼下から発射された2発の誘導弾は、真っ白な煙の尾を引きながら米軍機の編隊に向けて飛行していった。他の複座烈風改もほぼ同時に誘導弾を発射していた。
複座型烈風改が発射したのは、三式空対空誘導弾だ。誘導方式は、艦載の対空誘導弾と同様に、電探の電波反射を受信して、目標に向かってゆく。複座型烈風ならば、電探を搭載していて電波を照射できるので、単機で目標を狙って誘導弾を発射できる。
64発の誘導弾が、一斉に米軍戦闘機隊に向かっていった。
……
「エセックス」戦闘機隊のオヘア少佐は、新たに配備されたばかりのF6Fの部隊を率いていた。前方に多数のサム(烈風)の編隊が見えてきたが、彼は自信をもって待ち構えていた。アリューシャンで鹵獲したサムの試験結果を中佐も読んでいた。試験飛行の結果、サムの速度はおおよそ400マイル/時(644km/h)だと判明していた。これでも艦載機としては十分すぎるほど高性能だ。
しかし、少佐のF6F-3は改良型のP&W社の18気筒エンジンを搭載して、430マイル/時(692km/h)で飛行可能だった。戦闘機隊に同行しているF4U-4は旋回戦ではやや劣るが速度に関しては更に高速だ。しかも、前方の日本軍機が30機程度に見えるのに比べて、友軍戦闘機は全機で48機なので数でも優勢だ。今まで、F4Fによる戦いでは散々苦杯をなめさせられてきたが、今回の戦いでは逆転可能なはずだ。
ところが、前方を真っすぐ接近してきたサムの編隊は、まだ空戦には遠すぎる5マイル(8.0km)以上の距離から未知の飛翔体を一斉に発射してきた。後方から白い煙を噴き出して飛行してくる物体を見て、オヘア少佐はその正体を想定できた。
「前方に注意。おそらくミサイルだ。誘導されている可能性があるぞ。直ちに急旋回と急降下で回避せよ」
彼は、アリューシャンやパナマの戦闘で日本の戦艦や巡洋艦が電波で誘導するミサイルを使って航空機を撃墜したとのレポートを読んでいた。それが、航空機搭載型のミサイルに進歩していても不思議ではない。
オヘア少佐は、ミサイルの誘導法を詳しく知っているわけではなかったが、高速の飛行体に対して、急旋回すれば命中率は低くなるだろうと咄嗟に考えたのだ。
少佐は、急降下しながら、左側に急旋回して周囲の友軍機を観察していた。飛翔してくる物体の危険性を認識しないで、緩やかな旋回をしている機体に対して、更に大声で命令した。
「ミサイルが追いかけてくるぞ。急旋回で逃げろ!」
しかし、電波を反射する目標に向けて飛行する誘導弾はグラマンが旋回しても、飛行方向を変えてF6Fに向かっていった。少佐の命令が終わる前にいくつもの爆発が編隊内で発生した。
戦闘機の至近を通過した誘導弾が、近接信管を作動させた。近距離で弾頭が爆発すれば、頑丈なアメリカ軍の戦闘機も致命的な被害をうけた。主翼が折れたり、エンジンが脱落した機体が次々と墜ちてゆく。
ミサイルの爆発はF6Fの編隊内に留まらなかった。左翼側を飛行していたF4Uの編隊でも同じようにミサイルが爆発している。
もともと、合計で48機の戦闘機隊が堂々たる編隊を組んでいたはずだ。それが、60発を超えるミサイルの射撃を受けて一瞬で半減した。
しかもミサイルを発射したサムとは別の多数の戦闘機が上空から急降下してきた。
……
「伊勢」の戦闘機隊に配属された笹井中尉は、複座型烈風改の後方を飛行していた。前方の編隊が誘導弾の射程内に入ったのを確認して上昇を命じた。
「全速で上昇せよ。誘導弾の攻撃後に、米戦闘機隊に上空から突入する」
下方で誘導弾が発射されたのを見ながら、30機余りの烈風改がぐんぐん上昇してゆく。やがて、下方で数十の火球が発生した。誘導弾の弾頭が爆発しているのだ。
「降下開始、降下攻撃せよ」
急降下を開始すると、目の前のアメリカ戦闘機隊は笹井中尉が想定していた以上に混乱していた。つい先ほどまできれいな編隊を組んでいた戦闘機隊は、バラバラになっていた。しかも、半数近くが誘導弾で撃墜されたように見える。
アメリカ軍の戦闘機が墜落した後には、のろしのような黒煙が幾筋も残っていた。既に、笹井中尉の烈風改の速度は、780km/hを超えていた。水色の下腹部を上に見せて反転降下しようとしている逆ガルの機体に狙いをつけた。
F4U-4は、最大速度が718km/hだったが、それは2段過給器の高空性能が活かせる高度8,000m付近での速度だ。戦闘が行われている高度5,500mから5,000mでは700km/h程度になった。それでも1段過給機で690km/hを発揮する烈風改よりもやや優速だったが、実質的な差はほとんどないに等しい。しかも、現状は、急降下の加速を生かした笹井隊の方が高速だった。簡単にコルセアに追いつくと短い一連射で20mm弾を命中させた。
中尉以上に経験の長いベテランぞろいの笹井中隊にとって、混乱する相手に対して降下攻撃で先手をとった戦いは、圧倒的に有利になった。F6FもF4Uも旋回と速度性能のバランスでは烈風改に劣る。長所を最大限生かした空戦に巻き込まれてアメリカ軍の戦闘機は次々と撃墜されていった。
オヘア少佐は、サムと対峙して自分の考えが間違っていたことに気づいていた。目の前の戦闘機は、アクタン島でアメリカ軍が鹵獲したサムではない。外見はほとんど同じだが、大幅に性能が向上している。考えてみれば、それも当然だ。アメリカ軍の戦闘機は、エンジンや機体の改良により性能をアップさせた。日本人も同じことが可能なはずだ。とにかくこの戦闘を生き延びて、戻って日本軍との闘いを報告しなければならない。
……
四航戦を発進した新郷隊長は、烈風改の編隊を一時的に北側に迂回させて、米軍爆撃機隊の側面へと向かっていた。爆撃機に接近する間にも、先頭の複座側烈風改が発射した誘導弾が飛行してゆく白色の噴射の光が見えていた。すぐにその光点は、多数の爆発炎に変わった。新郷隊長は、予定通り先行した烈風隊がアメリカ軍の戦闘機隊と闘っているのを認識した。想定通り戦闘が推移しているのを確認すると、バンクをしながら命令を発した。
「突撃せよ。全機、爆撃機の編隊に突撃せよ!」
36機の烈風改は北側からSB2Cの編隊に一気に突っ込んでいった。ところが、どういうわけか、東側の戦いをうまく抜け出て、数機のグラマン戦闘機が向かってきた。
「新型のグラマンのようだ。油断するな」
戦闘が行われた高度5,000m付近で烈風改は、373ノット(690km/h)を超えたが、F6F-3も緊急出力で時速428マイル(689km/h)を発揮できた。性能はほぼ同じだったが、4機のグラマンではどうすることもできない。たちまち、2倍の日本軍戦闘機に追われて撃墜されてゆく。
残りの烈風改は、北側のSB2Cヘルダイバーの編隊に取りついていた。SB2Cは後部に装備した2挺の0.3インチ(7.62mm)機銃で反撃したが、390ノット(722km/h)を超える速度で攻撃してきた烈風改を照準するのはほとんど不可能だった。30機を超える戦闘機に攻撃されて、あっという間に20機の爆撃機が撃墜された。もともと、28機で飛行していた編隊は、あっという間に10機以下に減ってしまった。残ったSB2C編隊は、完全に戦意を喪失して、爆弾や魚雷を投棄して母艦へと戻っていった。
北側の編隊が迎撃されている間に南側の爆撃機群も攻撃されていた。噴進弾を発射した複座型烈風改が戦闘機の間をすり抜けて、後方の爆撃隊への攻撃を開始したのだ。アメリカ軍の護衛戦闘機は、既にF4UやF6Fが大きな被害を受けていたので、複座型と言えども烈風改の天下だった。これらの機体は、複座化により性能は若干低下していたが、それでも365ノット(676km/h)を発揮できた。SB2CヘルダイバーもTBFアベンジャーも次々に撃墜されていった。
最後まで残っていた両手程度の数の攻撃機は何とか西方の日本艦隊に接近していった。しかし、清水飛曹長の報告を受けて東に進んでいたのは防空戦闘機だけではなかった。艦隊の東側を航行していた「金剛」と「霧島」が全速で東方の米編隊へと接近していたのだ。はるか彼方に編隊のシルエットが見えた時点で、防空戦艦は誘導弾を発射した。「金剛」と「霧島」が発射した16発の対空誘導弾により、残っていた米軍機はあっという間に撃墜された。
100機余りの第38.1任務部隊の攻撃隊は、日本の空母を見ることもなく、日本軍の戦闘機と防空戦艦の攻撃によって完全に消滅してしまった。
……
二航艦が防空戦闘を終えたころ、六航戦を発進した第一次攻撃隊がアメリカ艦隊に接近していた。銀河の攻撃隊とほぼ同時に発進した烈風改の遊撃隊は、戦闘機としての巡航速度の速さも手伝って、最も早くアメリカ艦隊に接近していた。天山偵察機からの情報からアメリカ機動部隊の空母は4隻で、西と東の2つの輪形陣に分かれて航行していることがわかっていた。
北西から飛行していた烈風隊は2群に分かれた。そのうちの1群は、西方からアメリカ艦隊に接近しようとしていた。輪形陣の更に50マイル(80km)ほど外側に早期警戒のために配置されていた駆逐艦が烈風改の編隊をレーダーで探知した。駆逐艦「オバノン」から日本軍発見の報告を受けて艦隊上空の戦闘機が向かってゆく。迎撃したのは38.1任務部隊の上空を警戒していたF4Uの編隊だった。
浅井大尉は、前方から特徴的な逆ガル翼の航空機が飛行してくるのを発見した。
「南南東から、コルセアが接近してくる。10機以上の編隊だ。計画通り行動する」
烈風改の編隊は、一旦東へと方向を変えて艦隊から遠ざかるように飛行を始めた。アメリカ艦隊の正確な位置を把握していないのか、あるいは航法を誤ったのだと解釈して、F4Uは遠ざかる編隊をわざわざ、深追いしてこなかった。
一方、北側に回り込んでアメリカ艦隊に接近した編隊は、警戒中の駆逐艦が海上に見える海域まで飛行してゆくと、翼下に搭載していた金属箔の筒を投下した。空中で格納筒が割れると、金属箔が空中に拡散した。
艦隊の北方で警戒していた「ラドフォード」のレーダースコープに多数の目標反射が現われた。レーダー手から報告を受けた艦長のマクドナルド少佐は、レーダーが多数の目標を捉えたことを艦隊司令部に直ちに報告した。
ほぼ同時に、東へ向きを変えた編隊もアメリカ艦隊を攻撃するようなそぶりで、西側から東に前進してきた。
ウィルソン大佐は、今までの経験から日本軍は複数の方向から攻撃してくる可能性を考えていた。ちょうどその時、西側の「オバノン」と北側の「ラドフォード」が不明機の探知ありとの報告をしてきた。
「司令官、西の目標探知に対して日本軍機は遠ざかったり、接近したりしているようです。一方、北側では大きなレーダー反射を受信しています。大編隊の可能性がありますが、目視では確認できていません。私は、行きつ戻りつしている西側の編隊が陽動だと考えます。西側の編隊が我々の戦闘機を引き付けている間に北側の大編隊が攻撃して来るのではないでしょうか」
キンケイド中将は、日本軍を発見した状況についてしばらくの間、考えていた。
「F6FとF4Uの編隊を北側に向かわせよう。西側は、少数でもよいからF4Uに確認させてくれ。万が一、他の方向から日本軍機が現れても、周囲に配置した駆逐艦が早期に発見するだろう」
そのころ、烈風隊よりも南寄りを飛行していた六航戦の銀河隊は、南からアメリカ機動部隊に接近していた。北と西側から飛行していた烈風隊が行動を開始したことが、聞こえてくる無線通信からわかった。しかも浅井大尉は、電波発信源として自分たちの位置をアメリカ側に探知させるために、無線を発信していた。発信情報の中にはアメリカ艦隊の座標が含まれていた。もちろん、無線を傍受している銀河隊に最新の艦隊位置を知らせるためだ。
銀河隊の江草少佐は、受信した米艦隊の位置情報に基づいて、進行方向を微調整した。烈風隊が行動を開始したことで、作戦がほぼ予定通り進捗していることは想定できたが、銀河隊は位置の暴露を避けるためにあえて電波を発信しなかった。
しばらくして、江草少佐はバンクで攻撃開始を知らせると共に、どんどん高度を下げていった。銀河の編隊は東西方向に分かれて広がってゆく。電探の電波反射を低減させるためだ。全翼形式の機体に、金属とフェライトの微粉を含む特殊塗料を塗っていても電波反射が完全に無くなるわけではない。反射の大きな編隊行動を避けて、単機になって低空へと降りることにより、アメリカ艦隊の電探に探知されるのを少しでも遅らせようと考えていた。
しかしアメリカ艦隊の南側の外縁で警戒していた駆逐艦「フィッチ」が低空を飛んで行く2機の漆黒の全翼機を目撃したのだ。「フィッチ」は艦尾方向を通り過ぎてゆく奇妙な機体に対して、慌てて後部の5インチ(127mm)砲で射撃したが、照準は全く不正確だった。艦長のウォルポール中佐は、パナマに出現したレーダーに探知されにくい全翼形式の攻撃機のことを聞いていた。
「あれは、新型攻撃機のフランシス(銀河)だ。レーダー探知を避けて艦隊に近づいてから、空母を攻撃するつもりだろう。すぐに司令部に通報だ」
通報を受けて、キンケイド中将は全艦に日本軍機を警戒するように通知した。日本軍機の探知はキンケイドの期待よりも近い位置だった。
「護衛の戦闘機を南方に向けろ。全艦に対空射撃準備を通知せよ。すぐにも、攻撃されてもおかしくないぞ」
ウィルソン大佐を含めた司令部の面々は、日本軍の作戦に引っかかって護衛戦闘機を北と西に移動させたのは間違いだったと気づいていたが、誰もそれを話題にしなかった。今更、何を言っても遅いのと、今の状況に対応するのに精一杯だったからだ。
「もともと艦隊の上空で待機していたF4Uの部隊を向かわせています。しかし、フランシスが侵攻してくる空域に飛行するまでには10分程度かかると思われます」
二航艦を発進した攻撃隊が本格的な戦闘を開始しようとしていた。
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