電子の帝国

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第20章 中部太平洋作戦

20.9章 マリアナ沖海戦6

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 一航艦が米軍との戦闘を終えた1時間後には、第一次攻撃隊がアメリカ機動部隊に接近していた。アメリカ艦隊が最初に探知したのは、南南東から接近してくる流星と天山、それを護衛している烈風改の編隊だった。

 艦隊の南東方向にやや離れて警戒していた駆逐艦「ブキャナン」が、レーダーで飛行してくる編隊を探知した。

 ピケット艦が編隊を探知しました。もちろん友軍ではありません。
「方位120度、70マイル(113km)で不明機の編隊を探知。高度1,600フィート(4,877m)」

 通報を聞いたゴームリーは疑問が先に口から出てしまった。
「西方からやってきたのではなく、南東方向なのか?」

 参謀長のベイカー少将がそれに答える。
「間違いありません。私も疑問に思って確認しましたが、敵編隊が南方から南東に迂回してきたようです」

「わかった。直ちに迎撃せよ。日本軍は誘導ミサイルと航跡誘導魚雷を使って攻撃してくるはずだ。遠方で排除しないと長い槍で攻撃されるぞ」

 ベイカー少将はミサイルによる攻撃を警戒していた。
「それだけではありません。日本軍の複座型サムは空対空ミサイルで航空機を攻撃してくるようです。夜間戦闘になれば、特にミサイル攻撃を警戒しなければなりません」

 ……

 ギブソン大尉の小隊は、母艦からの指示により、南東の目標に向かって飛行していた。彼の機体は右翼にスパイラルスキャンレーダーを搭載した夜戦型のF6Fだ。日が暮れて、徐々に東の空は闇に包まれつつあった。そろそろ、夜間戦闘機でなければ戦闘不能な時間に入りつつある。

 列機のボリス中尉が話してきた。
「日本の艦隊位置は西側なのに、わざわざ、南東方向に遠回りした理由はなんでしょうかね?」

(当然、西の方向よりも東の方が暗いからだろう。いや、わざわざ遠回りと中尉は言ったぞ。そうか、意図的に時間をかけて接近したということか)

「一つ目の理由は、東の空は西よりも暗いから発見されにくいということだ。夕日が沈んだが、まだ西の空には薄明かりが残っている。しかし、東はすっかり暗いだろう。二つ目の理由は、日が沈んでから我が艦隊に接近するように回り道で時間を調整したのだろう」

「そうですか、私は誰かと待ち合わせをした時に早く着くと、ぶらぶら回り道をして時間を調整するのです。この攻撃隊も待ち合わせをしたのかと思いましたよ」

(この中尉は、いろいろなことを聞いてくるが、実際は俺よりも頭の回転が速い。俺の気づかないことをわかっているのだ)

 伝えるべきことを思いついたギブソン大尉は、すぐに母艦のヨークタウンⅡを呼び出した。
「ギブソンだ。我々が向かっている目標とは別の編隊を探知していないか? 日本軍が時間を合わせて同時攻撃を仕掛けてくる可能性が高い。よく注意してくれ。ちなみに日本海軍のフランシス(銀河)はレーダーに映りにくい機体だと聞いているぞ」

 すぐに空母の通信士から応答があった。
「我々も複数の部隊による攻撃をかなり警戒している。ただし、現在のところ、他の目標は発見できていない」

 通話している間に、ボリス大尉は、自機のレーダーが前方で目標を探知したのを確認した。
「レーダーが目標を捉えた。これから攻撃を開始する」

 ……

 一航戦の戦闘機隊指揮官の白根大尉に天山から連絡が入ってきた。
「13時方向から編隊が近づいてくる。おそらく米軍の夜間戦闘機だ」

 やや後ろを見て、後席の川田一飛曹に確認する。
「電探に何か映っていないか? 天山は敵編隊を探知したとのことだ」

「我が機の電探は、大型機の天山とは出力に差があります。もう少し直進して下さい。近づけば反応が出ると思います」

 一飛曹の言葉通りしばらく飛行すると、烈風改の電探でも目標を探知できた。
「銀河の編隊が飛行してくる可能性がある。目標は敵機で間違いないな? 友軍機を攻撃したらシャレにならんぞ」

「はい、編隊にもかかわらず、味方識別の電波は全く出ていません。間違いなく米軍編隊です」

 白根大尉は黙ってうなずいた。
「攻撃を開始する。乙1番から乙4番は誘導弾を発射せよ」

 いくつかの母艦から混成されている攻撃隊に対して、指示をわかりやすくするために、大尉は単純な番号を割り当てていた。乙は複座型烈風を現わし、その1番機から4番機が誘導弾で攻撃するように命じたことになる。ちなみに甲と指示すれば単座型烈風を示す。

 夜目にまぶしい黄色い光を発しながら、4機が発射した8発の対空誘導弾が飛翔していった。

 ギブソン大尉がレーダーで日本軍機を発見するのと、前方で8つの光が輝くのが同時だった。彼は、すぐに強い光がなにを意味するのか察しがついた。
「急旋回しろ、日本のミサイルが飛んでくるぞ」

 翼を傾けながら、大声で命令したが、その言葉が終わらないうちに、編隊の中で5発が爆発した。10機編隊はあっという間に半減してしまった。ボリス中尉の機体も墜とされたようだ。

 川田一飛曹が電探で捉えている編隊の状況を白根大尉に報告した。
「数は減りましたが、電探は残った目標を探知しています。アメリカ軍はまだ飛行しています」

 白根大尉は、更に8発の誘導弾を発射するように命じた。
「乙5番から乙8番、誘導弾発射」

 先程と同じようにオレンジ色の光がアメリカ軍戦闘機に向かって伸びてゆくと、4発が爆発した。残っていた敵機は低空へと逃亡したようだ。川田一飛曹は、前方の電探反応が無くなったのを大尉に報告した。

 ……

 銀河攻撃隊長の高橋少佐は、夜間にもかかわらずアメリカ艦隊を発見できてほっとしていた。第一次攻撃隊の銀河は56機だったが、あまりに多数機が編隊で飛行すると電探に映る可能性があるので、7群の8機編隊に分離して飛行していた。

 銀河は電波反射を抑えるために、通常型は反射源となる電探アンテナを装備していない。つまり電探を装備していない。しかし、爆弾倉をつぶして電探や逆探の装置に加えてそれらのアンテナを装備した改修型が製作された。通常は、爆弾倉の扉を閉じてアンテナを全て胴体内に収容すれば電波反射を従来型同様に小さくできる。電探と逆探使用時には、爆弾倉の扉を開けるので電波反射は増加するが、短時間の使用にとどめることで影響を最小化しようという考えだった。もちろん、電子機器を搭載すれば、爆弾は搭載できず索敵型となる。

 銀河の場合、腹部の爆弾倉に完全に格納できる形状でアンテナを装備しているので、水平面よりも下方しか電波を送受信できない。従って、対空電探のような使い方は難しかったが、海上の艦艇を探知するには十分だった。

 高橋少佐の機体も電探搭載改修を実施していて、米艦隊を探知できたのだ。逆探でアメリカ製レーダーの電波を捉えると、少佐機はその方向に飛行していった。しばらくして電探を作動させると複数の艦船を探知できた。

 出力の小さい航空機搭載の電探に艦艇が映るということは、相手の艦艇も航空機からの電波反射を受信する可能性があるということだ。電波反射の少ない銀河であっても、これ以上接近すればアメリカ艦艇のレーダーに見つかる可能性がある。

 少佐は小隊系に無線を切り替えると、後続の7機に命令した。
「前方に大型艦を探知した。電波照射を開始する。誘導弾投下準備」

 少佐機の電探に大きく映っていた海上目標は、戦艦「ニュージャージー」だった。戦艦の電波反射を確認すると、高橋少佐は対艦誘導弾の投下を命じた。
「電波反射を確認。誘導弾を投下せよ。繰り返す。各機誘導弾発射。その後は自由に回避」

……

 艦長のホールデン大佐のところに突如出現した空中目標の報告が上がってきた。
「飛行中の目標を探知。方位160度、12マイル(19km)。かなり近いですが、友軍ではありません」

 ホールデン艦長は驚いたが、すぐに、日本軍の全翼機だと気がついた。
「レーダーに捕捉されないで接近できるのは、フランシス(銀河)だ。直ちに対空砲の射撃開始。全力だ」

「ニュージャージー」は、突如レーダーに現われた電波反射に向けて、左舷側の全火力で対空射撃を開始した。しかし、銀河の編隊は対空砲の射程ギリギリで誘導弾を投下した。

 爆弾倉の扉を閉じると銀河の電波反射は大きく減少する。レーダーに映りにくくなるのだ。しかも、発射した誘導弾が今度はレーダーに映った。

 レーダー手がすぐに状況の変化を報告する。
「日本軍機の電波反射が減少。いや、小さな反射の数が増えています。これ以降は、おそらくレーダー照準の誤差が大きくなります」

「不正確でもかまわん。日本軍機は、遠距離でもミサイル攻撃を仕掛けてくる。とにかく全力で対空射撃を開始せよ」

 対空砲が撃ち始める頃には、銀河の編隊は南方に向けて旋回して退避していた。ただし、距離を開けてはいるがレーダー搭載機だけは、誘導弾が命中するまでは低電波反射状態に戻せない。

 激しい対空砲火により、1発の誘導弾が撃墜された。それでも3発が、「ニュージャージー」の左舷側に次々と命中した。

 2発の三式対艦誘導弾の500kg弾頭は、1.5インチ(38mm)の最上甲板の装甲は突破できたが、4.75インチ(121mm)と1.25インチ(32mm)の合わせ鋼板で阻止された。残り1発は前部煙突に突入して基部に達して爆発したため、缶室の一つが破壊されて1軸のスクリューが停止した。加えて、左舷の3基の5インチ(127mm)両用砲と4基の40mm4連装機関砲が破壊された。それでも、「ニュージャージー」の主砲戦能力は健在だった。機関も1軸が停止したのみで、しばらくすれば、いまだに25ノットの発揮が可能だった。

 銀河の他の編隊も同時に攻撃を開始していた。銀河はレーダーでは発見しづらい。しかも視認でも正面からでは、夜空を飛行する暗い灰色の全翼機は見つけにくい。対空砲で撃たれることはあっても照準はかなり不正確だった。そのおかげで銀河の編隊は1機も被害を受けることなく誘導弾を投下できた。

「ホーネットⅡ」に対しても1群の銀河が攻撃を仕掛けた。7機の銀河が投弾して、4発の誘導弾を命中させた。ほとんどが、電波反射の大きな艦橋と煙突が一体化した上部構造付近に命中した。2発は艦橋脇の飛行甲板を貫通して、格納庫甲板下の2.5インチ(64mm)装甲板に斜めに命中して、貫通できずに格納庫内で爆発した。格納庫の装備が粉々に破壊されると共に、誘導弾の燃料と内部の可燃物に引火した。

 続いて、1発が艦橋基部の舷側に命中して、0.75インチ(19mm)の外壁を貫通して、1.5インチ(38mm)の下甲板装甲に斜めに命中して機関室内で爆発した。半数の機関が停止したために、格納庫の火災を鎮火しても20ノット程度に速度が落ちた。最後の1発は艦橋に命中して、煙突を含む上部構造を吹き飛ばした。艦橋後部のマストも爆圧を受けて倒壊した。最終的に、艦橋付近から格納庫内まで、広い範囲で火災が発生した。

 ほぼ同時期に別の銀河隊の1群は、「ヨークタウンⅡ」に3発の誘導弾を命中させた。「ヨークタウンⅡ」の格納庫下の合わせ鋼板が弾頭を阻止したために機関部には被害を受けなかったが、格納庫内の爆発により後部エレベータが吹き飛んで飛行甲板に大きな破孔が生じた。しかも閉じられた格納庫内では噴進弾の燃料に火がついた。

 輪形陣の後方の艦に向けて誘導弾を発射した部隊は、重巡「ボルチモア」に3発を命中させた。1発は左舷側の高射砲と機関砲を破壊した後に、2.5インチ(65mm) 水平装甲に突っ込んで貫通できずに爆発した。次の1発は、後部煙突に突入して、煙突と後部艦橋を破壊して、半数の機関にも被害を与えた。残り1発は主砲のバルクヘッドの4インチ(102mm)舷側装甲に命中して貫通できずに弾体が破壊された。

 後方の輪形陣に向けて3群の銀河編隊が突入した。小型空母の「カウペンス」に向けて7発の誘導弾を発射した。舷側から格納庫下に達した1発の弾体は2インチ(51mm)装甲板を貫通して前部機関室で爆発した。船体上の飛行甲板に命中した3発も水平装甲を突き破って缶室で爆発した。「カウペンス」は4発の誘導弾で缶室から機関まで完全に破壊されて、海上を漂流するだけになった。しかも、缶室の側壁に生じた亀裂から浸水が始まると、電力が停止してポンプで排水もできず、浸水がどんどん増大してゆく。

 後方の輪形陣内で、「カウペンス」の後方を航行していた「ベローウッド」には2発の誘導弾が命中して、2インチ装甲板を破って機関室で爆発した。動作している推進器はあっという間に半数になった。

「ベローウッド」の南方を航行していた重巡「ウィチタ」には4発が命中した。船体中央付近に突っ込んだ2発は下甲板の2.25インチ(57mm)装甲を貫通して、機関室と缶室で爆発した。更に1発が艦橋横で爆発して左側半分を吹き飛ばした。最後の1発は艦橋直前に命中して、下甲板を貫通して兵員室を破壊して舷側に亀裂を発生させた。船体中央部で大火災が発生すると共に、全機関が停止して速度がどんどん落ち始める。左舷から浸水も始まって船体が傾斜してゆく。

 銀河が誘導弾で攻撃している頃、第一次攻撃隊の12機の流星は、艦隊の東南東側から接近した。電波反射に対しては、通常の機体である流星は夜間でもレーダー照準の目標になった。しかも米海軍は、5インチ(127mm)砲弾に電波作動の近接信管を実用化していた。流星は、金属箔をばらまいてレーダーを妨害したにもかかわらず、高射砲で魚雷の投下前に3機が撃墜された。

 インディペンデンス級空母を主体とした後方の艦隊に向けて投下された魚雷は、3本が「ベローウッド」に向かっていった。半数の機関が停止していた空母に対して、2本が航跡を捉えた。艦尾を過ぎて戻ってきた魚雷は、右舷側の船体中央部と後部に命中した。軽巡洋艦を利用した細長い船体の舷側には、水雷防御区画は無きに等しい。船体内部に達する破孔が生じて、機関室や缶室に向けて激しい浸水が始まった。

 更に3本は「プリンストン」に向けて投下された。そのうちの1本が航跡を通過すると戻ってきて船体の中央部に命中した。30ノットを超える速度で航行していた空母は、機関部の損傷によりたちまち速度が低下してゆく。

 輪形陣の前方を狙った魚雷は、2本が「ボルチモア」に向かっていって1本が船体中央に命中した。水雷防御を破って機関室の中央で爆発した。浸水により、どんどん速度が低下すると共に喫水が増えてゆく。

 高橋少佐は、銀河に誘導弾を搭載したことは正解だったと考えていた。航跡誘導魚雷は命中させれば威力は大きいが、対空砲の射程内に踏み込んで投下する必要がある。銀河と言えども対空砲火の中を飛行すれば、被害を受けるはずだ。その点、誘導弾は魚雷よりもかなり遠い距離で発射できたので、撃墜された銀河はほとんどなかった。しかもほとんどの空母の飛行甲板に被害を与えたので、航空機の運用能力を間違いなく奪った。実質的に空母としての価値はなくなったはずだ。

 ……

 第一次攻撃隊が引き上げてから、1時間後には、アメリカ艦隊は混乱を収拾していた。第38.2任務群は、損傷を受けた「ニュージャージー」から無傷の「クリーブランド」に司令部を移していた。

 しばらくして、ゴームリー中将の司令部には損害の状況が報告されてきた。
「『カウペンス』と『ベローウッド』は沈没しました。『ボルチモア』はまだ浮かんでいますが、処分するしかありません。『ヨークタウンⅡ』の火災は消火しましたが、『ホーネットⅡ』は鎮火できていません。このまま消火できなければ、放棄して処分が必要です。『ニュージャージー』は左舷側をひどく損傷しましたが、20ノット以上で航行可能です。魚雷が命中した『プリンストン』は浸水を止めることに成功しました。10ノット程度で帰還できます。『ウィチタ』は火災も消火できず、機関部の損傷も大きいために、既に退艦が始まっています」

 その頃、艦隊の北北西方向で周囲を警戒していた駆逐艦「ウッドワース」が北西方向から接近してくる未確認編隊を探知した。

「長官、『ウッドワース』から未確認の編隊を探知したとのことです。80マイル(129km)艦隊の北西方向」

 ゴームリー中将は、日本軍の第二次攻撃隊がまもなくやってくると予想していた。攻撃法も第一攻撃隊の方法に近いだろうと想定できた。
「レーダーに探知されやすい編隊が最初に接近してくる。この編隊は、迎撃されることを前提として、厳重な戦闘機の護衛をつけているはずだ。しかし、それとは別にレーダーには見つからずに、フランシス(銀河)の編隊が攻撃を仕掛けてくるはずだ。間違いなく、攻撃の主力はフランシスだ。その編隊を全力で探し出すんだ」

 ベイカー少将が答えた。
「私も長官の見解に賛成です。前回の攻撃で我々は、日本軍の策にはめられたのです。同じ手を使ってくるはずです」

 しかし、やって来るとわかっていても電波反射の少ない機体を夜間に見つけるのは難しい。しかも、第38.2任務群の空母は飛行甲板に被害を受けて、発着艦が不可能になっていた。上空で燃料を節約しながら飛行している機体の数は、時間が経過するにしたがって減少していた。

 ……

 島崎少佐の部隊は、飛行途中に第一次攻撃隊から米軍艦隊の情報を受信していた。そのおかげで、目標とすべき艦隊の位置をかなり詳細に把握できていた。
「全機よく聞け。攻撃目標まで40海里(74km)だ。20海里(37km)まで接近したら誘導弾を投下する」

 北方から接近してきた銀河の編隊は5群に分かれていた。それぞれの編隊が探知した目標に狙いを定めると、対空砲火の射程外から誘導弾を投下した。

 最も電波反射の大きい「ニュージャージー」には8発の誘導弾が飛翔していった。既に上部構造に被害を受けていた戦艦は、右舷側の対空砲は健在だったが、レーダーが被害を受けて統一した対空射撃は不可能になっていた。たちまち5発が艦橋の周囲から第3砲塔の付近までまんべんなく命中した。「アイオワ」級戦艦は合計6インチ(152mm)の装甲板がバイタルパート内を防御していたが、右舷上部の非装甲の構造物はほとんどが破壊された。しかも、5インチ砲と40mm機関砲の弾薬が次々と誘爆して手がつけられなくなった。

「ホーネットⅡ」に向けて7発が発射された。この空母の右舷側には消火のために軽巡「デンバー」が接舷していた。空母の飛行甲板には2発が命中し、巡洋艦にも2発が突入した。空母内でまだ稼働していた左舷側の機関が損傷を受けて停止すると共に、鎮火しつつあった格納庫火災が再び拡大した。

 空母に横付けしていた「デンバー」は、艦橋下部と船体後部にそれぞれ1発を被弾した。艦橋の左舷半分と左舷高射砲が吹き飛んだ。爆炎を浴びて、左舷高射砲や機関銃の弾薬と次々と誘爆をはじめる。船体後部の命中弾は機関部に飛び込んで機関を破壊した。同時に、艦底にも破孔を開けて浸水が始まった。やがて「ホーネットⅡ」の火災が「デンバー」にも燃え移って、まるで一体になった巨大な松明のように燃え始めた。おそらく2時間もたてば、海水に浸かって火災も消えるだろう。もちろん、その頃には2隻の沈没を防ぐことは不可能になる。

「ヨークタウンⅡ」には8発の誘導弾が発射されて、5発が命中した。既に損傷を受けていた空母の2.5インチ装甲板は耐えられずに、2ヶ所が貫通された。機関部が被害を受けて、3軸が停止した。既に格納庫は大火災だ。開放型のハンガーデッキの側壁を開けて風を通すが、火勢は低下しない。

 後方の輪形陣内では、まだ浮かんでいた「プリンストン」が集中的に攻撃された。10発の誘導弾が発射されて、6発が命中した。格納庫の床に張られた2インチ(51mm)鋼板は、500kg弾頭を防げなかった。4発の弾頭は船体の機関室と缶室に突入した。全ての機関が停止して、飛行甲板も小山のように盛り上がった。船体前部に命中した2発の弾頭は船底に達して亀裂を発生させた。すぐに浸水が始まる。魚雷に加えて多数の誘導弾の命中は、小型の空母の息の根を完全に止めるには十分だった。

 重巡「チェスター」には4発が発射されて、2発が命中した。2インチ(51mm)の水平装甲を貫通して機関室と缶室で爆発した。舷側に発生した亀裂から浸水が始まって、右舷に傾斜しながら速度が落ちてゆく。

 銀河が誘導弾を発射した頃、北西から接近した烈風改と流星、偵察型天山の一隊は、夜戦型F6Fの迎撃を受けていた。

 指宿大尉は、ためらわずに攻撃を命じた。
「こちらは指宿だ。前方の編隊に誘導弾攻撃を行う」

 すぐに8機の烈風改が、16発の対空誘導弾を発射した。しばらくして、アメリカ戦闘機隊のあたりで、5個のオレンジ色の火球が広がった。
「10時方向、敵機が逃げてゆく。背後から攻撃」

 誘導弾の爆発から逃れたF6Fが右旋回を開始したが、複座型烈風改の電探は3機を捉えていた。後方から12機の複座烈風改が追撃して、あっという間に撃墜した。

 アメリカ艦隊に接近すると、10機の流星が、真北に回り込んで魚雷を投下した。

 6本が、3軸で航行している「ニュージャージー」に向かっていった。上部構造が破壊されて航跡誘導魚雷への対策はなにも実行できない。1本が左舷船体の中央部に命中した。4層の水中防御と舷側内部の傾斜装甲が内部への被害を防止した。続いて、2本が水雷防御構造の薄くなっている船尾付近に命中した。

 残っていた3軸の推進器が全て停止すると共に艦尾の発電機などを格納していた機械室に浸水が始まった。発電機の停止により、船内の電力が停止して消火のための放水が止まった。船体後方の浸水を排水しようとしても既に電動ポンプは使えなくなっていた。海上に停止して排水も消火もできない戦艦を救済するのは不可能になった。

「ヨークタウンⅡ」の北側を航行していた「クリーブランド」には、2本の魚雷が向かっていって、1本が命中した。「ニュージャージー」の東側を航行していた軽巡「サヴァンナ」にも2本が投下されて、1本が命中した。1万トン級の巡洋艦にとって、魚雷の被害は1本であっても影響は大きい。直ちに沈むことはないが処置を怠れば沈没につながりかねない。2隻の巡洋艦は海上に停止して、船体内への浸水を食い止める作業が最優先になった。たとえ、艦を救えても、もはや真珠湾にのろのろと帰投する以外にできることはないだろう。
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