電子の帝国

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第20章 中部太平洋作戦

20.10章 マリアナ沖海戦7

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 一航艦と二航艦による空母の戦いが続いている間も硫黄島を飛び立った偵察装備の深山は、ウェーク島とビキニ環礁の間の扇型海域で索敵をしていた。連合艦隊司令部から、空母部隊の後方には、グアムに多くの物資を運び込むために、必ず輸送船団が続いているはずだと指摘されていたのだ。

 一航艦の攻撃隊が発進していたころ。既に東の空は暗くなっていたが、ウェーク島の南方を飛行していた近藤中尉が指揮する偵察型深山の電探が海上目標を捕捉した。
「電探に感あり! 南南等45海里(83km)。電波反射の大きさから複数の艦船です」

 明らかに目標とする米軍艦隊だ。一斉に、機内は緊張に包まれた。
「艦隊の規模と進行方向を確認したい。もっと接近するぞ」

 東の海上は既に暗くなっていた。灯火管制しながら航行している艦隊の規模は目視ではわからなかった。それでも接近すれば、電探に映る大型艦の数くらいは判別できる。接近して出た反応はとんでもなく大きなものだった。

「大型艦が多数航行中。前方の艦隊に5隻。後方に続く艦隊にもほぼ同数の大型艦」

 思わず近藤中尉も新井一飛曹の方を向いた。

「電探反射に間違いはありません。確かに、大型艦の反射波がでています。まさか、真珠湾からカリフォルニア級やニュー・メキシコ級が出てきたのでしょうか?」

「アメリカ海軍は、旧式戦艦を我が軍の『伊勢』型と同様に、空母に改修したという情報がある。せめて、戦艦なのか空母なのか判別できないか?」

 そんなことを話している間に、近藤機の対空電探は別の目標を探知した。

「対空電探が、飛行目標を探知。2時方向、20海里(37km)。おそらく編隊が艦隊上空を飛行中」

「間違いなく、夜間戦闘機だぞ。金属箔を投下。こうなったら、退避する前に目視により偵察任務を完遂する。続けて照明弾を投下しろ」

 副操縦士の小野一飛曹は思わず反論してしまった。
「照明弾は我々の姿も照らし出します。間違いなく攻撃されますよ」

「わかっている。それでも、敵艦隊の編制を確認しなけりゃならんのだ。通信士、大規模な敵艦隊発見と位置を今のうちに打電してくれ。その後に、具体的な艦隊が見えたら、それを続けて送信するのだ。時間がないので、平文で構わん」

 小野一飛曹は、それ以上の発言を止めた。艦隊発見を先に打電するのは、詳細な艦隊編制を通報中に攻撃される可能性を考えてのことだと、気付いたからだ。

 深山は爆弾倉を開いて、流線型の胴体に小さな尾翼をつけた容器を投下した。空中で後部に仕掛けた固体ロケットが点火すると前方に飛翔していった。やがて外板が空中で4つに割れると内部から多量の金属箔が空中に広がった。続いて、深山は右翼側に旋回しながら上昇すると、機体後部から照明弾を投下した。

 すぐに落下傘の下の6つの吊光弾が、空中で猛烈な光を放ち始めた。

 想像通り、旋回した深山から見て11時方向にアメリカ軍の艦隊が見えてきた。双眼鏡を覗きながら近藤中尉が叫んだ。
「大艦隊じゃないか。しかも大型空母が3隻も見えるぞ。艦隊の先頭は2本マストを備えた戦艦だ。後方も同じ型の旧式戦艦だな」

「それだけじゃありません。10時方向の後方にも、おそらく戦艦2と空母2が見えます。視界の範囲だけで戦艦4隻と空母5隻が航行しています」

 そこまで聞いて、近藤中尉は早口で命令した。
「西に向けて旋回。空母が多数ということは、護衛の戦闘機もそれだけ多いということだ。艦隊編成まで判明したのだ。これからは、全速で逃げるぞ。大至急、敵艦隊の位置と編制を打電しろ」

 深山は、エンジン全開で南東方向に旋回した。
「各銃座、米軍の夜間戦闘機に注意しろ」

 投下した照明弾は、海上だけでなく空も明るくしていた。深山もその位置を暴露されていたが、それは米軍戦闘機からも目視されるということだ。

「こちら後部銃座、後方から4機のグラマン戦闘機。射程に入り次第反撃します」

 しばらくして、後部から機銃を撃ち始めた音と振動が伝わってきた。胴体上部の銃座も射撃を開始したようだ。やがて、発射音とは別の、ガンガンという振動が伝わってきた。機体のどこかに機銃弾が命中している。

 小野一飛曹が、機銃の音に負けない声で叫んだ。
「左翼に被弾、漏れた燃料に火がつきました。直ちに消火剤を放出します」

 近藤中尉は、既に操縦桿を思い切り前に倒していた。急降下と同時に北に向けて急旋回してゆく。機体のあちこちからギシギシという不気味な音が聞こえてくる。急降下で機体の速度もどんどん増加してゆく。

 ほぼ同時に、照明弾が海上に落ちて空が暗くなった。今まで目視で攻撃してきた、夜戦型F6Fの追撃が一時的に中断した。今までは、明かりに頼って攻撃してきたが、突然暗くなったので、レーダーを使って目標の位置を再確認しようとしたのだ。幸いにも近藤機はその間に敵機との距離を開けることができた。

 しばらくして夜間戦闘機は艦隊の方向に戻ったようだ。
「左翼ガソリンタンクの消火を完了。5番タンクが使用不能になりましたが、エンジンは4基、全てが無事です」

「なんとか敵の攻撃を振り切ったようだな。このまま基地に帰投する」

 ……

 山口中将の一航艦は、米機動部隊との戦いが終わった後も東南東に進んでいた。第二次攻撃隊に続いて発進させた偵察機からは、方向転換して東のハワイ方面に向けてのろのろと進む米艦隊の情報が得られていた。

 参謀長の伊藤中佐が、偵察機からの情報を分析して報告していた。
「最終的に、北側のアメリカ艦隊は海上に停止していた2隻の空母を処分したようです。この結果、我々と戦った機動部隊の空母は全て姿を消したと判断します。今は、戦艦と巡洋艦からなる艦隊がハワイに向けて低速で進んでいます」

 山口中将が攻撃を考えていたところに、深山が発見した新たな艦隊の情報が飛び込んできた。硫黄島基地からの電文を一度読んでから、中将は顔をあげた。
「空母5、戦艦4以上の大艦隊が出現した。ちなみに戦艦は旧式らしいとのことだ。後方を航行していた新たな空母部隊の意味をどの様に考えるかね?」

 淵田参謀が口を開いた。
「我々が戦った艦隊とは異なる新たな部隊ですね。第3の機動部隊の存在は想定内です。アメリカの諜報情報から、14インチ(35.6cm)砲搭載の戦艦を空母に改修していたとの情報があります。グアムに向かう輸送船団の護衛を兼ねて後方を航行していたのでしょう」

「アメリカでも戦艦を空母に改造したとなると、第3の艦隊は、我が軍の『伊勢』や『日向』と同じ改造空母から編制されているということになるな」

「戦艦からの改修を前提とすると、大きな船体を利用して搭載機の数は『ヨークタウン』型を上回る可能性があります。時間を優先して機関の更新はしていないでしょうから、戦艦時代と速度は変わらず、約22ノットです。しかも、船体内部には戦艦時代の装甲板も残っているはずなので、空母としては重防御となっているでしょう。この点でも『伊勢』型と同様だと推定します」

 空母は艦載機の発艦時には、全速で風上に向かって航行する。海上の風と航走による合成風を得て艦上機は発艦できる。海上が無風で、艦の速度が遅ければ、重量級の機体は飛行甲板を目いっぱい使っても発艦できない可能性がある。

「それに加えて、この空母には油圧カタパルトを装備しているはずです。大型の雷撃機であっても、高性能なカタパルトで加速すれば、低速空母でも発艦が可能です」

 山口長官が伊藤中佐の方を向いた。
「この艦隊を見逃すつもりはないぞ。米艦隊までには、まだ距離があるが、有利に戦いを進めるための方策はあるかね?」

「小沢さんの艦隊はまだ戦闘中ですが、勝利するでしょう。それを前提とすると、まもなく米軍のグアム島作戦は中止になるはずです。我々が発見した戦艦と空母の部隊は、おそらく輸送船団の護衛を兼ねた後衛部隊です。作戦が中止されれば、間違いなく輸送船団とともにハワイに引き返すはずです。この艦隊が回れ右すれば、米艦隊の捕捉は困難だと考えます。それでも我々の作戦目的は達成されたことになります」

 淵田少佐が軽く手を上げた。
「我々には攻撃の機会がまだ残されています。輸送船団が後続しているとすると、この艦隊の速度は貨物船に合わさざるを得ません。それを前提とすれば、我が艦隊が全速で東へと進めば、距離を詰められる可能性は高いと考えます」

 山口長官も輸送船団の護衛だという見方に賛成だった。
「私もその意見に賛成だ。輸送船団が後方に続いていると私も考える。まずは、東南東に全速だ。米艦隊が回頭する前にできる限り距離を詰めたい。さすがに450海里(833km)では攻撃隊を発進するには遠すぎる」

「山口長官、夜間でも攻撃隊を発進させますか?」

「無論だ。小沢さんの艦隊も夜間でも戦っているのだ。電探装備の機体を保有している我々が躊躇する理由はない。先ずは、偵察機を発進させる。450海里ならば航続距離の長い艦偵で偵察可能だろう。輸送船団の存在も実際に確認するのだ」

 ……

 第34任務群(TF34)長官のマケイン中将のところに太平洋艦隊からの命令が届いた。中将はしばらく黙って、通信士が差し出した紙を見ていた。参謀長のカーニー大佐がやってくると、マケイン中将は顔を上げた。

「太平洋艦隊司令部のニミッツ大将の名前が入った作戦中止命令だ。前衛の2つの機動部隊が、日本軍に攻撃された。我が軍の被害はかなり大きいとのことだ」

 カーニー大佐は首を横に振った。
「とぎれとぎれ聞こえてくる無線の情報からは、我が軍が優勢に戦っているとは思いませんでしたが、作戦を中止するような負け戦だったのですね。すぐに作戦中止を各艦に伝えます。偵察型のリズ(深山)が我が艦隊に接触しました。既に日本軍に位置を通知されていると考えるべきです。今から、ハワイに向けてUターンしても攻撃される可能性があります」

「確かに攻撃される可能性は高いだろうな。まず、輸送船団を先に逃がすぞ。当然だが、第34任務群はしんがりだ。我々は6隻の空母を保有している。日本軍の航空艦隊も同程度の数の空母だと聞いているぞ。戦っても負けるつもりはない。西方に向けて偵察機を飛ばしてくれ。キンケイド中将の艦隊を攻撃した日本軍部隊の位置は、ある程度想定できるだろう」

 第34任務群は東に向けて艦隊を方向転換させた。ハワイに戻るのだ。しばらくしてからレーダーが目標を探知した。
「レーダーが敵味方不明機を探知。30マイル(48km)、北北東。電波反射から小型の単機と推定。もちろん友軍機ではありません」

 すぐにマケイン中将も、小型機が単機で飛行していることの意味に気がついた。
「日本人は仕事が早いな。こんな海上にまで単機で飛行してくる機体は、空母の偵察機だろう。リズの報告を聞いて空母搭載機がやってきたということだ。この次は大編隊が攻撃してくるぞ。我が艦隊の情報を垂れ流されてはたまらん。上空の戦闘機に迎撃させよ」

 それを聞いて、カーニー大佐は友軍機の想定位置を海図上で示した。
「我々の偵察機も北西に向かって、このあたりの海域に達しています。まもなく報告がくるはずです。決して、大きく出遅れているわけではありません」

「偵察機から日本艦隊の報告があれば、すぐにも攻撃隊を発進させたい。夜間攻撃の準備は進んでいるんだろうな?」

 カーニー大佐は強くうなずいた。

 ……

 伊藤中佐がメモをもってやってきた。
「『伊勢』を発進した天山から、米艦隊発見の報告が入ってきました。距離は360海里(667km)、既に方向転換してハワイ方面に戻りつつあります。なお、艦隊編制を打電している途中で天山の通信は途切れています」

 山口長官は黙って天井を見上げた後で、淵田少佐を見た。
「偵察機の搭乗員は二階級特進だな。ところで、この距離で攻撃隊は出せるか?」

「先手必勝で夜間攻撃隊を発進させましょう。やや遠いですが、銀河と流星の航続距離ならば攻撃可能です。夜間航法の不得意な単座機を外せば、深夜でも攻撃隊の編制は可能です」

「いいだろう。夜間攻撃隊を発進させる」

 長官の決断に従って、第三次攻撃隊の発進が始まった。二航艦にとっては二度目の戦いだ。
 六航戦第三次攻撃隊:銀河 31機
 四航戦第三次攻撃隊:烈風改 複座型 22機、流星 24機、偵察型天山 8機

 しばらくして第四次攻撃隊の発進が始まった。
 六航戦第四次攻撃隊:銀河 10機
 四航戦第四次攻撃隊:烈風改 複座型 8機、流星 18機、偵察型天山 6機

 山口長官が何も話さないのに、淵田航空参謀が説明を始めた。
「今回の攻撃隊の数が少ないのは、損害の影響です。しかも戻ってきた機体でも整備や修理を要する機体があります。これでも整備部隊が頑張ったおかげで、出撃できる機体が増えているのです」

「もちろん、搭乗員だけでなく、空母の乗組員全員が努力していることは承知している。この戦いだけでなく、今までもそうだった。言葉にできないほど、感謝しているよ」

 淵田少佐は、想像以上に優しい言葉に山口中将の意外な面を見たと思った。この将軍は、人殺し多聞丸などと呼ばれて部下から恐れられているが、内面は想像以上に優しい男なのだ。

 ……

 第34任務群が発進させたTBFアヴェンジャーも、全速で東進してくる日本艦隊をレーダーで発見していた。すぐに、タスクフォースの司令部に報告が上がった。

「マケイン長官、日本艦隊が我々に向かって来ています。距離、410マイル(660km)、偵察機は空母4隻を視認していますが、おそらくキンケイド中将の部隊と戦闘した艦隊です。第38.1任務群からは、大型空母5、小型空母2との情報を得ていますが、小型1隻を撃破したとの情報があります。しかも大型空母5と言っていますが、2隻は特徴的な煙突の形から、『ジュンヨウ』クラスだと判明しています。つまり、大型3、中型2、小型1の編制です」

「それが正しいとすると、我々と空母の勢力に大きな差はない。しかも航空機の数では、全く戦闘していないこちらの方が優勢だろう。この日本軍は夜間攻撃してくると思うか?」

「ゴームレー中将の艦隊は夜間攻撃により、ひどく痛めつけられています。夜間の戦いを日本軍は得意としているのです。間違いなく我々の艦隊に対しても、攻撃してくるでしょう」

「一方的にやられるわけにはいかない。ここで反撃する。輸送船団を守るという任務を果たすぞ。我々が日本艦隊を撃退しなければ、輸送船団が危険にさらされる」

 カーニー大佐にとっても、異論はなかった。
「夜間でも出撃可能な機体で、すぐに攻撃隊を準備します」

 第34任務群の空母「ミシシッピ」「ニュー・メキシコ」「アイダホ」と西方の「テネシー」「カリフォルニア」から、ほぼ同時に第一次攻撃隊が発進した。護衛の戦闘機が爆撃機に比べて相対的に少ないのは、レーダー搭載の夜間戦闘機の数に限りがあるからだ。

 第一次攻撃隊:F6Fヘルキャット 16機、F4Uコルセア 8機、SB2Cヘルダイバー 50機、TBFアベンジャー 48機

 続いて、第二次攻撃隊が発進を開始した。
 第二次攻撃隊:F6Fヘルキャット 18機、SB2Cヘルダイバー 44機、TBFアベンジャー 28機

 マケイン中将たちが西北西に飛行していった攻撃隊を見送っていると、艦隊の北西に離れて航行していた駆逐艦「ラフィー」から探知報告が入ってきた。

「艦隊の北北西、60マイル(97km)、未確認機の編隊を探知。友軍機ではありません」

 マケイン中将はすぐに反応した。
「すぐに迎撃せよ。艦隊上空の夜間戦闘機はどれだけ残っているか?」

 第34任務群には130機余りの戦闘機が配備されていたが、レーダーを搭載して夜間も戦闘可能な機体は50機程度だった。

 カーニー大佐が配備状況を確認してから説明した。
「既に30機以上の夜間戦闘機が攻撃隊の護衛で出撃したので、直衛機は約20機が上空を飛行しているだけです」

「戦闘機全てを迎撃に向かわせて良いか?」

「今までの戦闘では、日本軍機は2群に分かれて攻撃をしてきています。レーダーに映りにくいフランシス(銀河)が別行動で奇襲攻撃を仕掛けるのです。今回も、レーダーが発見したのはグレース(流星)を主体とする攻撃隊でしょう。探知した編隊が艦隊上空に達するまでに15分程度かかります。その間に別方向から、フランシスの編隊が現れると思われます」

 マケイン中将はしばらく考え込んでいた。
「16機は、北北西から接近して来る編隊を迎撃しろ。次の編隊が出現すれば、上空の夜間戦闘機だけでは数が不足する。10分以内に昼間型の戦闘機を上げてくれ。日本軍の編隊が接近したら、直ちに艦隊護衛の戦艦と巡洋艦から、探照灯を照射することにする」

「レーダーが登場する以前の夜間戦闘ですね」

「ああ、何もしないよりもましだろう、昼間戦闘機隊の夜間飛行経験のあるパイロットを発艦させてくれ。それと艦隊上空にウィンドウを散布する準備も必要だ。おそらく日本軍は誘導弾を使うだろう。電波妨害のためにウィンドウを使う」

 中将の命令に従って、レーダーを搭載しないF6FとF4Uが発艦を開始した。10機程度が発艦したところで、艦隊の最後尾を航行していた戦艦「アリゾナ」のレーダーが新たな目標を探知した。

 カーニー大佐の予想は正しかった。
「南南西方向、20マイル(32km)に敵編隊、レーダー反射の小さな機体がかなり接近してきています。すぐにやって来ます」

 後方を航行していた「アリゾナ」と「バーミンガム」「オーガスタ」が探知した方向に向けて探照灯を照射した。

 ……

 偵察仕様の天山艦攻から、銀河攻撃隊の江草少佐に報告が入ってきた。
「東西に航行している2群の艦隊を探知。2つの輪形陣内部には、大型艦5ないし4。距離20海里(37km)」

 マケイン中将の判断に基づいて、「アリゾナ」の上空を飛行していた4機のTBFアベンジャーが爆弾倉からウィンドウを散布した。

 江草少佐に、偵察型天山から再び報告があった。
「電探に雲のような反射が現れました。おそらく金属箔による妨害ですが、艦隊全体を隠しているわけではありません。海上の艦船はほぼ探知できています」

 少佐は短く返事をする。
「わかった。しかし、ここまで来たら、誘導弾の性能を信じて攻撃するしかないだろう」

 既に、目の前に米軍の大艦隊が航行しているのだ。少佐にとっては、計画していた通りに行動するしか選択肢はなかった。
「突撃開始。事前の指示通り二手に分かれて攻撃だ」

 31機の銀河は、2つの輪形陣に対応して16機と15機の編隊に分かれた。緩降下により、銀河の速度は330ノット(611km/h)に達する。これならば、1分もしないうちに誘導弾の射程に入るだろう。

 その時、突然前方の艦隊から激しい光が放たれた。銀河のうちの東側の編隊が探照灯に照らされた。照明のもとで発見されてしまえば、銀河も普通の機体と差がない。上空から逆ガル翼の戦闘機が急降下してきた。発艦したばかりの昼間戦闘機だ。江草少佐の視界内だけでも4機のコルセアが見えた。

 運悪く探照灯に照らされた銀河にF4Uの機銃弾が集中した。2機がオレンジ色の炎を噴き出して墜落してゆく。友軍機が撃墜されたのを見て、江草少佐は叫んでいた。

「誘導弾を発射せよ。探照灯を点灯している艦は狙うな。空母は暗い闇の中に隠れているぞ」

 誘導電波を照射する機体を除いて、西の艦隊には10発が向かっていった。東側の艦隊には12発の三式誘導弾が発射された。

 最初に誘導弾が命中したのは、西側の艦隊の最前部を航行していた戦艦「ペンシルベニア」だった。空母の直衛艦であるにもかかわらず、探照灯を点灯していなかったこの艦は、空母と誤認されて電波が照射された。3発の誘導弾が飛行していって、2発が船体に命中した。

 誘導弾は煙突基部に命中して、機関部を防御している中甲板の4.2インチ(107mm)の水平装甲の上で500kgの弾頭が爆発した。鋼板は機関の被害は防止したが、上甲板の高射砲2基と副砲2基が吹き飛んだ。高射砲の台座付近で5インチ砲弾が次々と誘爆した。続いて、1発の誘導弾が後部艦橋に命中した。艦橋構造が吹き飛んで、後部マストが倒壊した。

 戦艦「ペンシルベニア」の後方を航行していた改造空母の「テネシー」には、4発の誘導弾が飛翔していった。船体の前部と後部に2発が命中した。

 空母に改装された「テネシー」の飛行甲板には、日本海軍が多用した25番爆弾(250kg)への防御として、2インチ(50.8mm)鋼板が貼り付けられていた。アメリカ海軍の空母としては、飛行甲板の直接防御は珍しいが、戦艦の大きな排水量を生かした装備だった。

 それでも高速で突入した500kg弾頭の貫徹力が2インチ装甲に勝った。誘導弾の弾頭は、飛行甲板下の艦載機の格納庫床下のアーマーデッキ(装甲甲板)にまで達した。そこには、戦艦時代の4.2インチ(107mm)の装甲板が機関部の天井を防御していた。弾頭は装甲板の上で爆発すると格納庫を床下から吹き飛ばした。「テネシー」は、日本軍の攻撃隊の探知時点で米空母固有の開放型格納庫を全開にしていたが、爆発の衝撃は格納庫内に広がった。炸薬の爆発は超音速の衝撃波として半球状に拡散して、庫内の機体や装備を次々と破壊していった。

 格納庫には、夜間戦闘に出撃していない機体がまだ残っていた。弾頭の爆発により、格納庫に残っていた艦載機のガソリンと誘導弾の燃料に火がついて、あっという間に火災が広がった。この時は、開放型格納庫が裏目に出た。側面から流れ込んでくる風が短時間で火災を広げたのだ。「テネシー」は、風下に艦首を向けて10ノット程度で航走を始めたが、手遅れだった。空母の格納庫と飛行甲板が広い範囲で炎に包まれた。誘導弾で直接被害を受けていなかった船体下部の缶室や機関室にも熱気は上方から容赦なく伝わってゆく。やがて、半数の動力が停止した。

「テネシー」の後方で改造空母の「カリフォルニア」は、右舷側に回頭をしていた。誘導弾が飛来している南西に舷側を向けて、対空砲の射界を確保しようとしたのだ。しかし、電波反射源に向けて飛行する誘導弾にとっては、側面を向けたために反射面積を増加させてしまった。

「カリフォルニア」には3発の誘導弾が飛んでいった。5インチ対空砲と40mmボフォース機関砲が射撃を開始した。しかし、高速の誘導弾への命中は目標が小型なこともあって、至難の業だ。対空砲火の射撃開始が遅かったこともあって、一斉に射撃するが1発も撃墜できない。

 改造空母の艦橋周りは、建造期間短縮のために「エセックス」級とほぼ同一の図面を利用していた。従って、艦橋の前後に背負い式に5インチ(127mm)連装砲を搭載しているのも同一だった。その艦橋の中央部、煙突と一体化したあたりに1発が命中した。艦橋の真中が全て吹き飛んで、煙突側面にも破孔が生じた。煙路内の爆風から缶室にも被害が及んだ。推進器の1軸が停止した。艦橋は破壊されたが、幸いにも船体内のCICは無傷だったので防空指揮はそのまま続いた。しかし、被弾により、艦橋上部のアンテナが吹き飛んだのでレーダー矢通信機が使用不可になった。

 更に艦橋後方の5インチ連装砲塔のあたりにも1発が命中して2基の高射砲を粉々にすると同時に既に破壊されていた艦橋を更にバラバラにした。格納庫では、誘導弾の燃料により火災が発生したが、すぐに消火された。

 ……

 東側の艦隊に向けて発射された12発の誘導弾は、艦隊の先頭で探照灯を照射していた戦艦「オクラホマ」以外の大型艦に電波が照射された。最初に命中したのは空母に改修された「アイダホ」だった。この空母には、4発のうちの2発が命中した。

 右舷中央部で電波反射が大きかった艦橋付近に1発が突入した。爆発により煙突が倒壊して、後部の2基の連装高角砲塔も破壊された。

 更に船体前部に命中したもう1発は、斜めに飛行甲板に突入した。斜めの浅い角度で命中した弾頭は2インチ装甲ではじかれてそのまま飛行甲板表面で爆発した。甲板上での爆圧が飛行甲板脇の機関砲を破壊した。

 煙突で生じた爆圧は機関部にも影響を及ぼした。「アイダホ」の推進器のうちの半数の2基が停止した。

 後方の空母「ニュー・メキシコ」は、輪形陣のほぼ中央を航行していたおかげで、5発の誘導弾に狙われた。この空母は誘導弾から全速で遠ざかろうと、東南東に艦首を向けた。しかし、艦尾を向けても、戦艦の船体上に空母として新たに付け加えた長方形の格納庫を含む上部構造物は十分大きな電波反射源だった。

 1発が船尾近くの飛行甲板に命中した。弾頭は、飛行甲板を貫通すると装甲板のない部分を上から下に突き抜けて舵後方の船体内で爆発した。爆圧で船尾に亀裂が発生した。機械室への浸水により、船体内の半数の発電機が使用不能になった。船尾の喫水も増加してゆく。続いて、後部エレベータに1発が命中した。エレベータにも表面に2インチ(50.8mm)鋼板が貼り付けられていたが、上空から突入した弾頭は鋼板を貫通して格納庫を通過した後に、床下の4.2インチ(107mm)装甲の上で爆発した。格納庫で生じた爆発により、エレベータが空中に吹き飛ばされると同時に、格納庫で火災が発生した。

 更に1発が艦首近くの飛行甲板の装甲を貫通して、そのまま船体下部の兵員室や倉庫で爆発した。爆発により、船体側面にも破孔が生じたが二重の垂直隔壁に亀裂が発生して浸水が始まった。艦尾と前半部への浸水と火災により、「ニュー・メキシコ」は10ノット以下に速度が落ちていった。

 3隻の改修空母の最前方を航行していた「ミシシッピ」には2発の誘導弾が飛行していった。船体前部に命中した1発は、飛行甲板を貫通したが、格納庫下の4.2インチ(107mm)鋼板の上で爆発した。更に1発が後部に命中して、装甲鋼板上で爆発した。格納庫内で火災が発生したが、船体下部の機関や弾薬庫には被害がなかった。しかし、飛行甲板は格納庫から持ち上げるような爆圧を受けて大きく盛り上がった。しかも格納庫の火災が飛行甲板上にも広がった。空母としての機能は完全に失われた。
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1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

超量産艦隊

ypaaaaaaa
歴史・時代
海軍内では八八艦隊の議論が熱を帯びていた頃、ある一人の天才によって地味ではあるが大きく日本の未来を変えるシステムが考案された。そのシステムとは、軍艦を一種の”箱”と捉えそこに何を詰めるかによって艦種を変えるという物である。海軍首脳部は直ちにこのシステムの有用性を認め次から建造される軍艦からこのシステムを導入することとした。 そうして、日本海軍は他国を圧倒する量産性を確保し戦雲渦巻く世界に漕ぎ出していく… こういうの書く予定がある…程度に考えてもらうと幸いです!

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