月の綺麗な夜に終わりゆく君と

石原唯人

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同級生と後楽園

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病院からバスに乗り後楽園の最寄りのバス停で降車すると、道を曖昧にしか覚えていない僕は彼女の後について歩きはじめた。
河川敷に見える桜並木の周りでは、毎年行われているお祭りの影響で平日でもお花見客が見える。
途中でコンビニに寄ってから昼食と飲み物を買い、春の日差しで暑くなりはじめた道をのんびりと歩く。
正門の入園券売り場で、平日の昼間にもかかわらず堂々と学生証を出して入場券を買う彼女の豪胆さに驚きながら、僕も彼女に倣って学生証を提示すると、少しお得に入場券を買う事ができた。
「それにしても、平日の昼間なのに堂々と学生証を出すのには驚いたよ」
僕の呆れ半分関心半分の言葉に、彼女は得意げになって反論する。
「それを言うならさ、最初から制服を着ている時点で今更学生証を出しても関係ないでしょ? 制服なんて学生ですって言って歩いているようなものだし」
確かに制服を着ている時点で学生証の有無は関係なく、制服という記号で僕らが学生である事を周囲に示してしまっている。
彼女の言葉に納得しつつ、最初に彼女に抱いていた学校での優等生のイメージは僕の中で崩れ始めていた。
「そんな事より、篁君はこの辺りにほとんど遊びに来たことないの?」
そう言ってからスマホで写真を撮りながら、彼女は辺り一面の桜を見回す。
「そうだね。バスで近くを通る事があるくらいかな」

僕は返事をしてから彼女に倣って桜を眺める。

近場の観光名所は小学生の時に授業などで行く事がなければ、なかなか自分で行く機会は少ない。
それが通学経路の途中ともなればわざわざ途中下車してまで行く事の気分的なハードルが高い。

そんな訳で初めて後楽園に来たが、日本三大庭園と言われるだけあり、後楽園の桜や手入れされた庭の草木は綺麗だった。

僕らは適当に散策して、適当に座れそうな木陰を探して昼食を広げた。
思えば誰かと一緒に食事をしたのは久しぶりだった。食事の間の他愛もない会話も僕には新鮮で、食事が終わる頃には心地良い満足感に満たされていた。
「ねえ? なかなか良い場所だったでしょ?」
彼女が僕の顔を見て、少し得意げにそう聞いてきた。
その得意げな顔を見ると、素直に答えると負けた気がして、僕は結局天邪鬼に答える事しか出来なかった。
「そうだね、たまにはこういう場所で食べるのも悪くないね」
僕の天邪鬼な返事に彼女は少し呆れた様子で溜息をついた。
「案外と天邪鬼なんだね。君はもう少し素直になった方が良いよ?」
彼女はこちらの内心を見透かしたようにそう言うと、欠伸をして木に背を預けて木陰で目を瞑ってしまった。
それから程なくして、微かな寝息が聞こえてくる。
桜を背に眠る彼女は、まるで童話の中から出てきた眠り姫のようで、凄く神秘的だった。
僕は彼女に悪いと思いつつ、その絵画のような姿を一枚だけ写真を撮った。
そんな彼女を眺めていた僕も、食後だった事や病院で気疲れしていた事もあり、そのまま心地良い微睡みに身を任せた。
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