月の綺麗な夜に終わりゆく君と

石原唯人

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日常

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翌朝はアラームを設定し忘れたせいで、いつもより少し遅めに学校に登校すると、下駄箱の近くで友達と一緒に歩いている彼女を見つける。
友達と楽しげに会話する彼女の様子は相変わらず元気そうで、大病を患っているように見えない。
そんな風に思って彼女を見ていると、視線を感じたのか後ろを振り返った彼女と一瞬だけ目が合った。
僕は咄嗟に目を逸らし、何事も無かった様に装って彼女の横を通り過ぎて教室へ向かった。
幸いにも他の生徒が彼女に声を掛けてきたので、横を通り過ぎる時もそのまま素知らぬ顔で教室へ行く事が出来た。
自分の席に座って一限目の準備をしていると、ポケットでメールの着信を知らせる振動が鳴った。
スマホを取り出し、開いてみると『おはよう。下駄箱で見かけたのに無視は酷いよ』とメールが届いていた。
朝からいきなり彼女に話しかけるのは、挨拶だけでも目立つので、昨日までの自分の普段通りにしたつもりだ。
それに無謀にも朝から彼女に話しかけようものなら、一部の男子からの羨望と嫉妬と殺意の籠った視線が僕に殺到する羽目になる。
もしも視線に物理的な攻撃力があるなら確実に全身が穴だらけになる。
僕としては彼女との約束を守っただけなので、彼女が居た事に気付かなかった事にして押し通す事にする。
『おはよう。ごめん君が居た事に気付かなかったよ』
人目を惹く容姿をした彼女に気付かなかったと言うのは、かなり無理があると思いつつ返信するとすぐに彼女からメールが返って来た。
『そうなの? なら良いけど次の病院の予定いつ?』
彼女が一応納得してくれた事に安心しつつ、病院の予定を確認してから返信する。
今度は少し間を置いてまたメールが届いた。
『少し先だね、病院が終わったら何処かに行かない?』
病院が終わって午後からでも学校に行く気は全く無いらしい。
僕も少し迷ってから『了解、診察が終わったら連絡する』とだけ返信しておく。
結局は僕も誘いに同意するので、彼女の事を言えなかった。
そんな朝の一幕を除けば、僕の日常はいつも通りだった。
誰ともかかわらず、目立たないように過ごし、授業を受けて帰る。
ここ数年の生活は概ねそんな事の繰り返しだ。
最初の頃は退屈に思う事も多かったが、もうすっかり慣れてしまっていた。
授業が終わると運動部と帰宅部で下駄箱が混み合うので、教室で少し時間を潰してから下校する。
それからの数週間は僕と彼女は学校では接点もなく他愛ないメールをするだけで、お互いいつも通りの日常を過ごした。
夜になって、スマホにメールが来ている事に気付く。
『明日、病院だけど約束忘れてないよね?』 
いつものように来たメールを開くと、彼女から明日の確認のメールが来ていた。
とりあえず送信時間が夕方なので取り急ぎ返信だけはしておくべきだろう。
『遅くなってごめん、約束の方も忘れてないから明日病院が終わったら連絡する』
メールをするとすぐに返信が届いた。
『オッケー、明日の病院の後何処か行きたい場所ある?』
行きたい場所と言われても土地勘がない僕にはすぐには思いつかないので、
『思いつかないからオススメの場所ある?』とだけ返信しておく。
今度もまたすぐ返信が届いた。
『そんな事だと思っていたよ、一応考えてあるから詳細はまた明日話すね』
そんな彼女からの返信を見て、わかっているのなら最初から聞かなくても良いのではとも思ったけど、これも彼女なりの気遣いかもしれない。
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